《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

身勝手な人間を制裁する松永と、慰撫する詩春の(未来の)夫婦の 飴と鞭の連係プレイ。

LOVE SO LIFE 16 (花とゆめコミックス)
こうち 楓(こうち かえで)
LOVE SO LIFE(ラブ ソー ライフ)
第16巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

双子のパパ・耕一が帰ってきた!松永さんとの言い合いで、家を出てしまった耕一だけど、追いかけた詩春と話して…!?双子とパパは仲良くなれるのか!?そして静岡へ引っ越す日も近づいてきて…。 お別れも近づき切ないハートフルデイズ、16巻!

簡潔完結感想文

  • 大切な人を亡くした人にしか分からない痛みなら同じ立場の人が意見を述べる。
  • 父親の帰還でも計画は当初の予定通り進む。公私ともに頭を下げるのが彼の罰。
  • 松永は双子との約束を果たし、そして詩春と双子へ最後に特別な計画を用意。

拳制裁は代表者 一名限り、の 16巻。

いよいよ松永家の中では引っ越しの準備が進むようになるが、物語は その随分前から彼らの出発のために準備を整えてきた。少女漫画の目玉ともいえる三角関係が早めに清算されたのも飽くまでメインは双子との別れ、この疑似家族の終焉のためだからだろう。
そこから物語は松永(まつなが)や詩春(しはる)、そして彼らの視線を通して読者に安心して貰うために双子の引っ越し先での生活を整えてきた。一緒に暮らす祖父母が本当に愛情深く、そして優しいことを繰り返し描いてきたし、新しい土地での友達や親戚を先に用意してあげて、詩春や読者が見届けられない部分でも明るい未来を予感させてくれる。

今回、失踪していた松永の兄・耕一(こういち)が双子の父親の立場に戻り、そして無責任だった分、責任を果たそうとする努力を見せる。そして新生活に彼も合流することが発表され、将来的には本来あるべき形に戻ることになった。
実は私は、祖父母だけでの子育てに不安を感じていたので、耕一の子育て参戦は安心材料となった。何と言っても祖父母は それなりに高齢だし、その上 祖母はリハビリを終えたばかり。エネルギーの塊である3歳児との新生活に彼ら自体が疲れ果ててしまう可能性もあった。そして これまでは若い詩春が出来る限り双子を外に連れ出してくれて、心ゆくまで一緒に遊んでくれた。そんな生活がグレードダウンすることは双子の同居への不満になると思っていた。しかし そこをフォローするためにも、というか耕一が中核になって子育てが出来るのなら3世代の同居は楽しいものになる。詩春を手本にするのは大変だろうが、罪の意識が働く分、耕一は双子が楽しい毎日を提供するよう努めるだろう。
耕一が最初から在宅ワーク設定だったのは(『11巻』回想)、彼がフットワーク軽く、どこでも暮らしていけるためだったのだろう。読者が意識する前から作者は色々と引っ越しの準備している。

別れは悲しいけれど、客観的に見て次の生活に不安はない。だから詩春も読者も笑って双子と別れられる。彼らが心残りのない別れになるように作者は作品序盤での約束を最後に果たす。まさか作者自身も あの約束が こんなにもロングパスになって果たされるとは考えていなかっただろうが、前半部分も ちゃんと掬ってくれる作品への集中力に感謝したい。物語後半は構成が丁寧だなぁと感心するばかりである。


想外だったのは、『15巻』の感想文で いよいよ詩春がヒロインとして動くよう全てがセッティングされている と大騒ぎした割に、彼女のヒロインとしての場面は予想よりも少なかった。まぁ 詩春が松永兄の事情にあまり首を突っ込み過ぎてもウザったく見えるので、このぐらいの塩梅が丁度いいのではとは思うが。
ただ松永の兄・耕一が あんまりにも簡単に立ち直りすぎているかな とは思う。2年という長い月日を費やした割に、彼の悩みは浅く見えた。元々子供っぽい理論に固執しているとはいえ、身内に不幸があった人の言葉しか受け入れられない耕一の性格も難があるし、詩春だけが その資格があるというのも、不幸を特権化しているみたいで あまり好きではない。

耕一に言葉が届くのは詩春がヒロインだからではなく、彼女が耕一と同じ痛みを抱えるから。

好きな部分は、耕一への怒りは松永に集約している点。詩春はともかく、祖父母には義理の息子に言いたいことは たくさんあるはずだ。特に娘の葬儀の際、松永は葬儀の手配や参列をしない兄の非礼を詫びていたが、葬儀の際に祖父母は周囲から行方不明になっている娘婿のことを色々と聞かれても おかしくはなく、彼らは恥ずかしい思いをしたのではないか。

だが作品は祖父母に義理の息子に対して思う部分を滲ませつつも、彼らに耕一への直接的な不満を口に出させないように配慮されている。これは彼らが耕一を悪し様に言うと、今後の彼らの関係性、そして同居が濁ってしまうからだろう。ギスギスした関係になって新生活が始まるのではなく、祖父母が大きな度量を見せて、耕一の罪を咎めないことで、耕一は彼らに対して一層の恩を感じただろう。そして彼らのためにも子供たちの良き父親になれるように邁進するはずだ。
耕一への制裁は松永だけに止めたことで作品の品格が維持できたように思う。こういう配慮とバランス感覚が私は好きだ。


しい兄弟喧嘩の末、頭を冷やしてくると出て行った松永兄・耕一(こういち)を追って、詩春は彼を捜索する。公園で発見した彼は、自分の子供たちの2年間での成長に驚き、そして この2年ずっと同じ場所に留まる自分にうんざりしていた。耕一が松永家に戻って来たのは漠然とした衝動で、具体的に自分や子供と向き合う覚悟が出来たからではなかった。
彼にとって双子に接することは、そこにいるはずの妻の不在を痛感すること。その痛みに向き合うことは まだ出来ない。この日、ずっと黙っていたのは双子と接すると血が噴き出す痛みを感じるから、それを避けてのことだった。

詩春は耕一に、自分が身内を亡くした経験を話す。『15巻』で耕一は弟に対して、お前は経験したことないから分からない、と松永を拒絶していたが、となると詩春には松永兄と対等に話す権利があるということになる。詩春は自分の経験から、大切な人と別れても、その人が ずっと自分の中で生きていることを伝える。そして限りある生だからこそその間に子供たちに接しないと いつか後悔すると耕一に伝える。
出過ぎた真似をしたと詩春は一足先に松永家に帰るが、耕一は詩春、そして弟の言葉を咀嚼して、亡き妻に謝るのだった。


永家に帰る途中で詩春は松永と双子に遭遇する。携帯電話を置いたまま彼らは出て行った詩春を心配して探しに出てくれたようだ。兄弟だけでは ぶつかり合うだけだったが、詩春の存在が助けになったと松永は感謝をする。最終巻を前にして いよいよ詩春がヒロインとしての役目を果たした。松永家では両親は別の場所にいて、兄嫁は亡くなっており、茜(あかね)を除き唯一の女性であることが彼女のヒロイン性を高めているように思う。ヒロインの特別性のためなら容赦なく人を排除(死去)させるのが白泉社である(この作品は そんな悲劇のヒロインからは完全に脱しているが)。

それから耕一は双子が寝る時間まで家に帰って来なかったが、やがてインターホンを鳴らして家に入ってくる。この時点では まだ他人行儀なのだが、松永が頭が冷えた兄に「おかえり」と声を掛けると彼は「ただいま」と初めて応え、この家に上がる。
そして怪我をした自分に絆創膏を渡そうとしてくれた茜(あかね)の優しさに、自分を松永から守ってくれた葵(あおい)の勇気に彼は感謝を示し、そして初めて自分の子供たちに謝罪する。こうして この家に2年ぶりに双子の父親が戻って来た。この日は双子は父親と一緒に布団の上で話しながら眠りについただろう。祖母も含め、一緒に寝てくれる人がいることは子供にとって幸せなことであろう。


日、耕一は双子の祖父母で亡き妻の両親に挨拶に向かう。祖母に驚かれながらも招き入れられた彼は初めて亡き妻の仏壇の前で手を合わせる。彼は妻の死を受け入れ、歩き出そうとしている。

この日、祖父は不在。もしいたら また殴られていたかもしれない。祖母もまた義理の息子の身勝手さに苦言を呈するつもりだったが、彼の顔に殴られた痕があることを認め、それが松永によるものだと分かると自分の中の怒りの拳を静かに下げた。松永が怒ったのならば、自分が重複して耕一を叱ることはないと思えるのが祖母の聡明さである。

それでも松永が語らないであろう彼の苦労を義理の息子に聞かせる。松永と、そして詩春は愛情深く、双子たちに接してきた。それに負けないぐらいの愛情を注げるか、耕一に覚悟と意思があるかを祖母は確かめる。それに対し耕一は自分の行動で その覚悟を証明することを誓う。そして親としての責務を全うしたいので子供たちの側に居させて欲しいと頭を下げるのであった。

松永の怒りが痕に残ってるから 祖母の怒りは消える。罰を受けたのなら更生するだけ。

会時に兄弟喧嘩をしたものの、松永兄弟の関係性は良好。子供の頃は年齢差を感じられた兄弟だが、今では お互い良き話し相手として対等な関係のように見える。

兄が この家に戻ってきても、双子の祖父母宅での暮らしは決定事項らしい。松永は正式に保育所の方にも引っ越しの話を伝え、そして残りの双子の送り迎えが自分から兄に委ねられることを伝え、その手続きをする。周辺の家にも挨拶をして、兄の帰還を伝えるのだった。こうして関係各位に頭を下げるのも迷惑をかけ、そして双子を見守ってくれた人への耕一の父親としての務めであろう。

詩春は2年生が終わり春休みを迎える。ということは双子との日々も本当に残り僅かとなる。

梨生(りお)は双子の父親の帰還を知り、このまま この地での暮らしが継続できないか疑問に思う。それは詩春の望むことでもあるが、現実的には詩春は高校3年生になり受験、そして彼女には施設を出る準備があり、これまでのように双子と関われない。松永も仕事を工面して双子との時間を作っている状況で、兄の帰還した今 その継続をする必要性は低い。そもそも兄一家が本当に実家暮らしをするなら、松永は間もなく出て行って、彼は これまでのように子育てに参加しなくなるのが当然である。詩春のベビーシッターのアルバイトは松永に雇用されているから、彼がいなければ契約も終了なのかな。今の耕一に詩春に これまで通りのバイト代が払えるとも思えないし、彼らの母親も孫への援助を打ち切るかもしれない。

そして何より祖父母は双子を迎える準備を整えており、彼らから双子を取り上げるようなことは誰も出来ない。実際、祖父母宅に双子は慣れ始めており、彼らからの愛情を確かに感じ、彼らが嬉しいのなら この家に来ることへの心理的なハードルは もはや無いように見える。ただし それが暮らしとなると別の話なのだろうが。


父母宅から帰った2人は詩春にベッタリ。それが原因で松永は詩春と話が出来ないのだが、そこに第3の男である耕一が登場し、父子の交流をすることで詩春を解放する。

父親には罪滅ぼしの意識もあって彼らに とことん優しい。耕一のやったことは許されることではないけれど、実際 彼が失踪せず親子3人の暮らしが継続したら、周囲に協力を仰ぐことも出来ないまま息苦しい生活になったのではないか。耕一は妻の不在に苛まれ、子育ては空回りし、子育てに関わった初期の松永のように、生活が何もかも破綻しかけたかもしれない。そして最悪、その苛立ちや行き場のない悲しみが双子たちに向かったかもしれない。現実を逃避したい耕一の前に、どうにもならない現実=子供たちが存在し、彼は妻のいない現実を壊したいために双子に手を上げたりしたかもしれない。その意味では父親が冷静になる期間が必要で、耕一に明らかな弱みが出来たことは双子にとって父親との良好な関係の獲得になるのではないか。


永は詩春に、耕一が戻っても全体的な流れは変わらないことを話す。引き続き双子の養育は祖父母に任される。父親としての責務を果たすため、耕一はウェブデザイナーに復帰し収入を安定させることを目標とする。そのためには私生活同様、仕事でも迷惑をかけた人々に頭を下げる日々が続くだろう。そして住居は祖父母宅の近くに住み、そして毎日 子供たちに会うことを誓う。
収入が安定し、父親として胸を張れる時が来たら、2人が大人になるまで祖父母と一緒に住まわせて欲しいと頭を下げる。耕一の覚悟を見届け、彼らはそれを了承する。

そして この松永家でも兄の居場所が確保される。子供の様子を見に戻って以降 兄が利用していたらしいカプセルホテルから この家での暮らしが松永によって許可された。というか、てっきり もう一緒に暮らし始めているのかと思ってた。
この夜、松永は癖で双子と一緒に寝てしまうが、その反対側には兄も寝ていた。まるで男性同士(カップル)の子育てのような絵面である。


々と別れの準備は進み、残りは5日。この日、松永は双子の子育てに際して詩春に大変 世話になった感謝を この施設の園長に伝えに来たところに詩春と遭遇している。

そして松永家では引っ越しの準備が進んでいた。その作業の中、松永は詩春が双子のために作ってくれたアルバムを見返していた。そこで松永は双子との ある約束を思い出す。それが『2巻』の今回は見られなかったライオンを いつか4人で見に行くという約束。

詩春は急に動物園行きの提案を受けて戸惑うが、今回は大きな準備をしないでライオンだけサクッと見て帰る予定らしい。耕一は早速 仕事をしているらしく同行せず、約束通り 4人での天気の良い日の お出掛けとなった(お弁当はないけど)。実は耕一は詩春に遠慮して、自分は同行しなかった。詩春と双子が一緒に出掛けられる最後の機会だから、この疑似家族の絆を優先させてくれた。

動物園で彼らは約束のライオンを見る。だが本来 夜行性のライオンは寝ていた。茜は無邪気に 今度は夜に来ようと言うのだが、その約束は なかなか果たせないことを詩春は知っている。茜が分かっていないことが読者は辛い。


物園からの帰り道、松永は引っ越しの前日に詩春を松永家の お泊り会に招待する。実は これは松永が前々から計画していた話で、松永が施設の園長と顔を合わせて話していたのは、この計画を詰めるためであったのだ。もちろん万が一のことがないように園長は松永を威圧し、リスクを確認した上で松永に念書(?)を書かせていた。

松永の計画では この日は双子と詩春が一緒に寝て、成人男性は2階で就寝するという。最後の日に詩春が彼らとずっと一緒に居られるように手配をしてくれた松永に詩春は心から感謝する。

耕一は引っ越し作業を進め、その途中で子供たちに自分も祖父母宅の近くに引っ越すことを伝える。茜は父親の存在を無邪気に喜ぶが、葵は やはり詩春と松永を含めた全員で一緒にいたいと願っているようだ。それは松永と詩春が どれだけ彼らに愛情を注いできたかという証拠で、そしてまた本来なら そんな願いを持つこと自体が なかったはずなのである。耕一は自分の行動で子供の人生を歪めることを謝罪する。


して保育所最後の日。双子の引っ越しに対する意識はバラバラで、茜は引っ越しに対する楽しいことばかりを考え、葵は この生活が終わる悲嘆に暮れている。この日も約束通り耕一が保育所の送迎をして、詩春は保育所に留まる。

耕一と一緒に、ご近所の人々に挨拶をしながら帰り道を歩く葵だが、やはり詩春の不在が心に影響しているらしく浮かない顔をする。そんな息子を元気づけようと耕一は明日 詩春が松永家にお泊りすることを彼に伝える。すると葵は文字通り爆発的に喜ぶ。彼の性格と詩春への依存を熟知して教えると面倒なことになると言っていた松永は正解だった。これも2年間 彼らを見守ってきた松永だからこそ獲得した親のような視点だろう。

そして引っ越しの前日、詩春は双子の家への最後の訪問となる。詩春の登場に双子は大歓迎。引っ越し作業もほぼ完了していて部屋はがらんとしている。

その中で返却し忘れている図書館の本を見つけ、3人は外に出る。いつも通りの図書館だが、茜は やはり引っ越しの意味が分かっておらず、結局また本を借りて帰る。途中のスーパーで松永と合流し、4人が勢揃い。このスーパーは『1巻』1話で松永が詩春を助けてくれた場所。思い返すと詩春は その頃から松永に惹かれていたようだ。2人とも長い長い片想いをしていたなぁ。というか松永に至っては今も彼女の気持ちを知らないままだし。

まるで家族のように夕食の話をしながら歩く帰り道だが、そんな日常は もう二度とやってこないのだ…。