《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作者は長編1作目から、男性キャラに風呂で謎の腰バスタオルを巻かせたりしない。

GET LOVE!!(5) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
GET LOVE!! ~フィールドの王子さま~
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

穂高にむりやりキスされた美樹。よりにもよって、それを相楽に見られてしまった!「相楽にカオあわせらんない」と泣く美樹に相楽は…?相楽の情熱あふれる××にクギヅケ!他、女装喫茶の文化祭編、絶叫合宿編等収録。●収録作品/「GETLOVE!!~フィールドの王子さま~」/GAME17~21

簡潔完結感想文

  • やさぐれた男子生徒を救うのは聖母なヒロインではなくヒーロー⁉
  • 少女漫画あるある。性的な関係を匂わす作品ほど その達成は遠い。
  • 作中の時間経過により文化祭・夏合宿など2年目となるイベント多し。

女漫画のヒロイン=性暴力の被害者、の 5巻。

ヒロインの美樹(みき)がサッカー部の「マドンナ」として もてはやされる本書。
それに少女たちが自分を重ねて恍惚となるのも理解できる。

だが、考えてみると美樹は男性たちから ずっとセクハラを受ける被害者でもある。

部員全員から好意・好感を持たれる代わりに、
スキンシップやコスプレを強要され、常に性的な目で見られているといっても過言ではない。

更には この学校のサッカー部以外の男性から興味を持たれると、
キスを強要されたり、実際に強引なキスという性暴力を受けたり、
胸は揉まれるし、服をめくられるしで、性被害に遭い続けている。

こういう美樹のハプニングにメイン読者の小中学生は息を呑んだりドキドキしたりするのだろうが、
この時代と、少年漫画で育った作者側のオヤジな感性が ちょっと目に余る。

連載の2004年後は今(2022年)から約20年も前であり、
掲載誌である当時の「少女コミック」の中では まだ穏当な作品だったのかもしれないが、
ヒロインに与える苦難の多くが、男性たちによるセクハラや性暴力なのは もう許されない時代でしょう。
作者の悪い意味での性にオープンなところも相まって下品に思える箇所もある。

展開の面白さなど、売れるべくして売れた作品だとは思うが、
時代の流れに耐えうるだけの名作かと言われたら、答えは否、だろう。

驚くことに2022年現在も同誌で活躍している作者が、
時代とどう向き合ってきたのか、作品を追い続けたいと思う。


人・相楽(さがら)に、同級生・穂高(ほだか)からキスされているところを見られて混乱する美樹。
穂高はこの時点ではサッカー部員じゃないので性暴力を振るう側なのである。

自分が汚れたように思えてならない美樹だが、相楽の愛で落ち着きを取り戻す。

この場面、完全に性暴力を受けた時の反応ですよね。
もちろんキスだって性暴力の一種な訳で、穂高は許されない存在である。

ただ、当時の「少女コミック」だったら もっと過激なシーンが展開されるところだが、
本書は品位を保って、キスが最大の凌辱。
ここはメイン読者への配慮を忘れていないからだろう。

それに女性が傷つくことを決定づけるのは、される内容の程度ではない。
自分にとって不本意な事だからこそ性暴力なのである。


方、穂高が こんなにも荒れているのは、
以前いたサッカー名門校で、彼が1年生ながらエースであることを快く思わない先輩から暴力を受け、
練習中の「不幸な事故」によって全治数か月の怪我を負ったからである。
暴力が暴力を呼ぶ負の連鎖が起きている。

このことから分かるのは、穂高は いわば相楽の影、であるということ。
相楽は理解あるチームメイトに囲まれて、1年生からレギュラーとして伸び伸びプレーできたが、
穂高は その才能を妬まれ、チームメイトが牙をむいた。
相楽がどれだけ幸運な環境にいたのか、先輩たちの度量が大きかったかが分かる。

光の王子・相楽と、闇の王子・穂高。やがて2人が手を組む時、この学校は最強になる!

それにしても作者はサッカー漫画で、
大体の嫌な奴に プレー中に故意に怪我をさせようとしますね。
試合中にキャラの善悪を決めるのはプレイスタイルしかないのだろうが、ワンパターンといえばワンパターン。


んな穂高が学校を1週間休んでいることから、
美樹は、担任教師から一人暮らしの穂高の自宅に見舞いに行くよう頼まれる。
そこで相楽を同行して穂高の家に向かうのだが…。

それにしても穂高はなぜ一人暮らしなのか。
転校するにしても、自宅から通える範囲で良い気がするが。
そして高校生1人暮らしの定番のアパートではなく、広めのマンションであることも気になる。
もしかして彼は お坊っちゃんなのか。
この設定に対する説明は特にない。

そして一人暮らしの理由は多分、この後の展開のためだろう。
穂高は自宅で急性アルコール中毒で倒れていた。
またも飲酒である…。

自分を助けようとする相楽たちに反発する穂高だが、やがて相楽の自分を見捨てない精神に心が揺れ動かされる。

ここ、てっきり作品の「聖母」である美樹が穂高を動かすのかと思ったら、
相楽が彼の以前の学校でのトラウマを払拭するような行動を取っているのが面白い。
自分が傷つけられた相手でも、その人に怒っていても、目の前で困っていたら見捨てられない。
そんなお人好しの2人が穂高の心を変えていく。

一応、次の回で飲酒で学校側から謹慎処分が下されているが、一連の行動の罰としては弱い。
美樹にも謝罪もしているが、その後の告白で全部持っていかれた。
ここから正式な三角関係の始まりである。

サッカー部を補強しつつ、公私にわたる相楽のライバルを生み出す手腕に恐れ入る。
何だかんだで、穂高がサッカー部に入ることを今から楽しみにしている。


高の正式加入まではイベントが続く。
まずは作品2回目の文化祭回。
サッカー部は『1巻』に続いて、文化祭では女装喫茶をする。

この回は、総集編みたいな感じを受ける。
穂高の件の後日談が描かれていたり、文化祭における部員たちの個人活動の様子、
読者人気の高い相楽の弟・ヒカリに顔を出させるとか、
それぞれの特徴を押し出した、まさに文化祭のような出し物を巡るような印象を受けた。

そして これからの2人の関係の(性的)発展を予感させていく。
中盤からは、するしない、で話を引っ張るのも少女漫画のセオリーである。

次の話は、そんな2人の一触即発な様子を集中的に描いた話。

あれから「H」を意識してしまう2人。
その上、相楽は先輩たちから媚薬を飲まされて、という読者が読みたい話を展開させていく。

この話は単に過激な内容にするためにあるのではない。
媚薬という欲望を強引に引き立てる物を出すことで、
情動よりも理性を優先し、美樹を心で愛する相楽が明確にさせていく。
性的描写ではなく、それを回避することでヒーローを魅力的に描く手法に感心する。

これは脳と下半身が直結している他の「少女コミック」のヒーローと つい比較して、相楽を好きになる。
この内容は、もしや作者なりの掲載誌の過激な内容への抗議だったりして。


休みの合宿を前に、相楽にはクリアしなければならない問題があった。
それがテストの成績。
全教科平均点以上とらなかったら夏休み返上で補習と言われてしまい勉強回が始まる。

四六時中一緒にいたい美樹は、何としても相楽に良い成績を取ってもらわなければならない。
穂高の件に続き、今回もまた私利私欲を丸出しにしている美樹に苦笑するばかり。

だが先輩たちのあおりもあり、美樹のために相楽は燃える。
相楽の自室で現役・OBたちが連日、彼の勉強を見る。
こうやって自然と結構な人数のキャラの名前と特徴を自然に覚えてしまう。

これだけでも面白いのに、ラストがまたとんでもない展開で工夫が見える。
こういう自転車の使い方、『こち亀』で見たなぁ。


うした騒動を経て、こちらも2回目の夏合宿。

作者の男性の入浴シーンにはタオルがないことが多い。
しかも下品にも下半身番付まで発表している。
『うわさの翠くん!!』でも似たようなことやってたけど、恥じらいがなくて苦手です。

こういう「設定」を描くところがオタクというか腐女子というか。眼鏡くんは作者の分身か。

内容はホラーテイストを取り入れた作風だが、
真相を知って改めて考えると、恐怖体験が2日間に亘る必要性が薄いかなぁ、と思う。

そういえば『5巻』では今回の騒動のメインとなる女性・アケミの年齢が、
「アケミ(28)(文化祭回)」とあるのだが、
最終『7巻』のキャラクターファイルだと女子大学4年となっている。

これは10歳以上年下の高校生彼氏は倫理的に問題になったのだろうか。
まぁ、大学4年の28歳もいてもおかしくはないが。

アケミは色々とサバを読んでいてもおかしくない肉食女子に見える。