《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

なぜかヴァニラの香りがヒロインの体臭になる、『花になれっ!』酷似のモテモテ虚無漫画。

制服でヴァニラ・キス(3) (フラワーコミックス)
夜神 里奈(やがみ りな)
制服でヴァニラ・キス(せいふくでヴァニラ・キス)
第03巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

万里の空手仲間たちに対して無防備すぎる心愛に怒った万里。けれど、7人のイケメンたちはますます心愛がお気に入りに♪ 万里はやきもき、心愛はハラハラ…。そんな中、みんなで行った夏祭りで本気で恋した四谷がある「行動」を起こして…!? Sho-Comi本誌連載分に加えて、心愛が男子校に潜入するドキドキの番外編も特別収録です!

簡潔完結感想文

  • 作品は性の匂いで読者を誘い、ヒロインは わざと露出の多い服装で男性たちを誘う。
  • 当て馬に唇を舐められる前に事故チュー、舌挿入の前にキスを済ます最低限の安全装置。
  • 番外編は男装で男子校潜入のイケメンパラダイス&体臭で男を狂わせる『花になれっ!』。

定を改変してでも連載を継続させたい 3巻。

『2巻』でいきなり男性の新キャラを7人も一気に登場させイケメンパラダイス状態にした本書ですが、この『3巻』では そんな花ざかりな漫画よりも とある作品に設定が酷似していった。それが宮城理子さん『花になれっ!』である。2014年連載開始の本書からさかのぼること17年、1997年から連載していたという『花になれっ!』との共通点が幾つも見い出せる。17年前の作品は本書の読者層の10代は生まれてないので当然 知らないだろう。もしかしたら『花になれっ!』は作者がリアルな読者だった頃の作品ではないのか。

2つの作品に生まれた共通点は、ヒロインの体臭が男を誘惑させるということ。『花になれっ!』ではヒロインから花の香りがして、男性は その匂いに抗えない。それ故にヒロインは巻き込まれたくない恋愛トラブルに巻き込まれ、時には ちょっぴりHな体験もしちゃうぞ☆というのが『花になれっ!』の主な内容である(というか男を変えて同じ展開の繰り返し)。

さて 本書のヒロイン・心愛(ここあ)には体臭設定は無かったはず。お菓子作りの際ついたヴァニラの香りが彼女の服から漂うという設定だった。しかし今回 人からわずかの間だけ借りた服からもヴァニラの香りが漂っている(「番外編」)。心愛は その香りを男性たちに嗅がせ、皆を誘惑したのか、女性が1人、男性が9人という大所帯の逆ハーレム王国を築き上げた。この中で彼女を本気に好きになるのは2人で、基本的に三角関係で終わるから『花になれっ!』よりは健全で中身のある漫画ではある。
しかし この設定によって、一層 心愛がただの「愛されヒロイン」になってしまい、黙っていても男に助けられる つまらないヒロインになってしまった。折角 難攻不落の万里(ばんり)を攻略するために努力を重ねる漫画だったのに、この路線変更は許しがたいものがある。

借りた服からヴァニラの香りがする問題のシーン。そして脱いだ服がなぜか四谷の手にある衝撃のシーン。

そして『花になれっ!』と同じように性の匂いを漂わせて、読者の下世話な興味を誘うという方針が見え隠れするのも残念。特に『2巻』で性的な行為を匂わせて、『3巻』が開始してすぐに撤回するのは あくどい商法だと思った。心愛は精神的に幼いのに、性への興味や欲望はあり、段々と淫らになっていくように思える。好きでもない男でも身体が反応してしまう的な誰が喜ぶのか分からない場面が増えていく。そういえば『花になれっ!』も どんどんヒロインが精神的に幼くなり、顔までロリ顔になっていったが、本書の似たような傾向が見える。

少女漫画ヒロインに おバカ設定が多いのは誰もが共感しやすくするための間口を広くとるためだと推察されるが、もしかしたらエロ描写の多い少女漫画のヒロインが、幼児体型だったり、アニメ顔だったりするのは、より低年齢の人まで共感できるようにするための手法なのかもしれない。自分を綺麗だと思える人は少ないが、可愛いという範囲の広い曖昧な言葉なら自分にも適用されると思う人は多いのではないか。


んな設定や路線の変更が多い本書の中で面白いと思えるのは、三角関係の作り方。新キャラの四谷(よつや)が2人の間に割って入るのだが、まだ2人が偽装交際中とお互いが認識している頃なので、まだまだ入り込む余地があるのが展開を面白くする。2人が交際してから四谷が登場したら あからさまな連載延命策に鼻白んだと思うが、四谷はギリギリ、ギリギリ滑り込んでおり、恋のバトルが面白く見られる。
基本的には万里が四谷の存在で心愛への想いを嫉妬によって明確にしていく、という展開は好きではないのだが、自発的な動きを見せない無感情の万里に、思わぬ行動をさせる、という点では四谷の存在にも意味があると思える。心愛の言葉をバッサリと切り捨てちゃう万里だから2人ではなかなか仲が進展しないところだが、万里が四谷に対抗すことで彼が物語の中を動くようになった。ただ四谷が心愛にエロエロに迫るのは、やっぱり作風の変化を悲しいほど感じるので好きにはなれないが。


社の敷地内で心愛を押し倒し、性衝動に支配されたかに見えた万里だったが、心愛の夜間外出や浮気性を非難するだけで、何事もなく終わる。エロで読者が釣ることが目的なのです。

心愛は1時間、万里に男に気安く近づくなと説教されたにもかかわらず、お風呂上がりに万里の義母・アキから貰ったからという理由で肌の露出が多いパジャマで男性の前に出てくる。駄目だコイツ。こうして心愛は空手部の7人+月見里(やまなし)にチヤホヤされる逆ハーレム状態。

四谷からのセクハラ三昧になりそうなピンチに万里が現れ、彼女を一晩中監視するために万里の部屋で寝かせる。万里は外で見張りをするという。心愛は露出度高めの服装を理解して、その隣に座り、万里を悩殺しようとする。精神的に幼稚だが彼女は計算高い人間であることを忘れてはならない。あっという間に寝て彼に膝枕をしてもらい、わざとらしい寝言を言うのも計算し尽された行動に違いない。

翌朝、パジャマが乱れた心愛を起こそうとした万里。だがそれをアキと祖父に見られてしまう。その誤解を敢えて受け入れようとする万里だが、心愛が1時間かけて弁解する。これは心愛なりの万里の名誉のための行動だったのだが、万里には心愛は自分と誤解をされたくないという拒絶に思われてしまった。お互いに好きだと言わない偽装交際は面倒事も多い。大事に思っていても互いに傷つけあってしまっている。


宿の最終日の夜は夏祭りに行くのが恒例らしい。
パジャマに続いて今度は、浴衣を着た心愛はイケメン8人に囲まれる。そんな学習しない心愛を見た万里は「ちやほやされて お姫様気取りか」と彼女を傷つけるような言葉を告げる。いや、その通り。ヒロインが姫ポジションに収まる漫画に成り果てたんです、この漫画。

だが、これも万里の嫉妬ゆえ。それを理解しない心愛は「……もう…いいです…! 万里君とは一緒に お祭り行きませんから!!」と涙目で立ち去る。

心愛を傷つけたことを四谷は万里を殴って叱責する。こうして残った男性たちは、心愛を探しに夏祭りに行く。結局、ちやほや漫画なのだ…。


祭りと言えばナンパ男からの救出が少女漫画の定番。それを助けるのは空手部員の皆さん。だが、心愛はお礼もせずに逃亡する。なぜなら本当に助けられたいのは、あんなモブの空手部員たちではなく、万里だから。計算高い女だわ、ほんまに(嘘ですよ…)。

人混みの中、心愛を見つけるのは、心愛のことが本気で好きな四谷。だが彼からも逃亡する心愛。なぜなら四谷も万里じゃないから。

万里から逃げ回るが、同時に万里に見つけて欲しい。複雑な乙女心か、狡猾な計算高さか…。

こうして走り回って、鼻緒が切れ、土手から転がり落ちて、ようやく万里に巡り会う。アキが手作りしてくれた浴衣が汚れるのも厭わず、彼は心愛の足を拭う。もう万里の中で 心愛 > アキという表現だろうか。

彼は自分の下駄を心愛に履かせて、手を繋いで歩き出す。ここは おんぶ しても良い場面だが、それをしないのは、おんぶは『1巻』の林間学校でやっているからネタ被り回避なのだろう。

万里は心愛を花火の見られる場所まで連れていく。万里自身は花火に興味がないが、心愛が好きだと思って連れて来てくれたのだ。
そんな彼の優しい心に触れ、そして彼に自分をスキになって欲しいという気持ちが、心愛の目に涙を流させる。それを見た万里は動揺し、そして彼女にキスをする。慰める、という意味もあるのだろうが、どちらかというと万里が欲情しただけに思える、その証拠に その後も彼は何度も理性を失うから。もはや身体から匂いたつ心愛のヴァニラの香りが男を狂わせるのだろう…。

万里にキスの意味を問い質さないまま、心愛は四谷の声に反応し、彼や空手部のメンバーに お礼を言おうと戻ろうとする。えっ、さっきまでは彼らから逃げ回っていたのに??と思わずにはいられない。本命の万里に会えれば、モブたちにも挨拶する余裕が生まれるということか。

しかし そんな心愛の聖母的な優しさを、万里は寛容に理解する。でも万里は誰彼構わず嫉妬するし、心愛は男たちから逃げ回り、追ってくるのを待つばかり。迷惑なカップルである。

そうして皆仲良く夏祭りを楽しむ。


うして心愛は男性たちと連絡先を交換して、ハーレム夏合宿は終わる。だが心愛に本気になった四谷だけは、友達ごっこではなく、本気で心愛に迫ろうとしていた。

そうして始まる新学期。恥ずかしくて直接 万里に聴けないからキスの意味も分からないまま1か月以上経過していた。きっと話を伸ばすために決着はつけられないという理由も大きいだろう。

新学期に転校生として舞台となる学校に現れるのは四谷。彼は転校早々、心愛にキスをし、彼女にセクハラ三昧の日々を始める。『2巻』で四谷は心愛の唇を舐めたが、その前に『1巻』で万里と事故チューをしているからセーフ。そして今回も夏祭りでキスをしているから、四谷にキスされても それほどショックを受けないように設計されている(完全なる性暴力だが)。しかも心愛が明確な拒絶をしているのに、彼はディープキスまでする始末。

この時点で四谷への恐怖と嫌悪に染まるのが通常の反応だと思うが、それでも心愛は四谷が「友達」の範疇で、いたずらでキスをしていると思っている お花畑ちゃん。四谷に対しても「冗談でも こんなことしちゃダメです!!」と、お優しい言葉を掛ける。一生 心に傷を負う人もいるだろうに、ある意味でメンタルが強すぎる。


が四谷は本気で心愛に告白する。それに対し「トクン」と心が動かされてしまう心愛。まぁ 彼女にとっては初めて告白されたから仕方がない。相手が性暴力を振るおうが、万里が言ってくれない言葉を言ってくる男子に胸がときめいてしまっても誰も彼女を責められまい。

更に四谷は心愛にキスマークをつけて心愛を所有しようとする。キスは万里が早かったが、告白は四谷に初めてされた。それが四谷の唯一のアドバンテージか。でも せめて性暴力の前に告白をしてくれれば誠実さが見えたのに、乱暴した後に何を言っても無意味になっているのが残念。万里といい四谷といい言葉を尽くさないで行動に出るから心愛が傷つく。まぁ それが少女漫画ヒロインの役目なんでしょうが…。

キスマークをつけられて初めて心愛は四谷から逃亡する。なぜか締め切られていたはずの教室の扉が、2回目は簡単に開くのが謎すぎる。前後の文脈とか どうなってんだ この漫画は。


里が心愛に対して積極的に動かないのは、一度でもしたら我慢がきかなくなる、からであった。その事実を知らない心愛にとっては、万里は自分に興味がないと思ってしまうのだ。どちらかが素直に好きと言えば全てが解決するのに。

四谷は万里の前に現れ、宣戦布告。ここから公式に三角関係が始まる! やっぱり少女漫画の3巻は三角関係の始まりなのです。


「番外編」…
万里が中学まで通っていた男子校で空手部の稽古を頼まれたことを知った心愛は、男装して男子校に潜入する。ハイ、完全にイケメンパラダイスですね。

早速、男装がバレた心愛を助けるのは、この時点では男子校の生徒だった四谷。
その後、万里を見つけるも、彼は心愛のことを知らないと言い、うろちょろしてると目障りだから帰れという。これは いつもの万里の言葉足らず。本当は心愛が女性だと分からない内に彼女を遠ざけるための言葉であった。

更には心愛が他の男から借りた制服にまで嫉妬し、自分の服を着させる。そんな2人のイチャラブを教室外から四谷は見つめるのだが、その手にはいつの間にかに心愛が脱いだ服がある。2人に気づかれずに教室に出入りしたというのか⁉ こういう謎の描写に作者は自分で疑問に思わないのでしょうか。敢えて無視しているのか、それとも物語の流れを考えられない人なのか作者は微妙な所である。なんか後者の可能性が高そうで怖い(この時の万里も着ていた制服のシャツを脱いで、Tシャツに着替えた描写の後に、もう一度 着る場面があったりする。話の隅々までイメージできているか信用ならない。)

そして四谷に借りたばかりの服にもヴァニラの香りがするということは、もはや心愛の体臭そのものが男を誘惑するらしい。これでは ますます『花になれっ!』である。