《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

立場的には一国の王太子夫婦なのに やってることはパシリ。ガキの使いや あらへんで。

黎明のアルカナ(7) (フラワーコミックス)
藤間 麗(とうま れい)
黎明のアルカナ(れいめいのアルカナ)
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

プリンセス・ナカバを守るため、ベルクートの第1王子・カインを斬りすてた従者・ロキ。しかしこのことで、王子・シーザは、兄殺しの汚名をきせられ、一行はナカバの母国・セナンへ逃れることに。けれど、セナンはシーザにとって敵国。そこに待っていたのは、冷酷なナカバのイトコ、セナンの第1王子・アデル!ナカバを「赤毛」とバカにしつつも、シーザとの結婚で変わったナカバに嫉妬にも似た感情抱くアデルは…?「いつからそんな表情をするようになった!俺がなにを言ってもなにをしてもなにも反応を見せなかったくせに…!」「私の妻です。気安く触れないでいただきたい!」

簡潔完結感想文

  • 自分一人なら どんな恥辱にも耐えられたが、その恥辱を彼にだけは見られたくない。
  • シーザが旅に同行する意味が失われているような…。仲間たちも特に必要ないよね。
  • 私欲と要望でアルカナ中毒者となるナカバ。夫に震えを見られても直後にトリップ。

役が脇役すぎる 7巻。

主人公・ナカバと夫・シーザと共に互いの国で起こる/起こす 虐殺や戦争の阻止のために動いている、のは何となく分かるのだが、果たして彼らの行動が本当に その目的に合致しているのかが よく分からなくなってきた。
シーザの国の第一王子・カイン殺害の容疑から逃れるために隣国に身を寄せ、そこで人質がいることで渡航を命じられて、次は その国で取引を持ち掛けられ その国の内政のために働く。序盤は王子夫婦の物語だったはずなのに、戦争の阻止というテーマが作中で繰り返し喚起されないから、何だか権力者に たらい回しにされる下請け業者の話のようになっている。しかも二次請け・三次請け と どんどん彼らの身分が低くなっているような気がしてならない…。

なぜ ある国の王子夫婦が、その敵国の代表として遣わされるのか、を相手が理解できるか。

元々いたシーザの国から逃亡者のように逃れる意味も段々 分からなくなってくる。考えてみればシーザは内政を牛耳る者たちに厚遇されてきた。父である国王は青治に無関心・無気力で後継者が誰でも構わないだろう。だからシーザは王城に帰還しても身分と安全は保障されるのではないか。王城の権力闘争の様子を探らないまま、自分の非を認めるような逃亡者生活には疑問がある。特に海を渡ってしまって、有事の際に すぐに出向けなくなるリスクは採らない方がいいと思うが…。
そしてハッキリ言ってシーザはナカバと両想いになった時点で もう役目は終わっている。ナカバは「アルカナ」という自分の異能力を彼にカミングアウトする選択肢を持たないからシーザは真の協力者には ならない。シーザ自身はアルカナを持たない一般人(王子だが)だから、戦いの中でナカバの従者・ロキよりも役に立つ訳でもないし。完全に添え物状態なのが気になる。さっさと国に帰った方がシーザの役割はあると思う。

一緒に旅をする仲間たちの役割も希薄だ。特に亜人・レオは一言も発さずパーティーにいるだけ。戦闘以外では いる意味がない。パーティーに人が増えたら、その人をフィーチャーするようなエピソードを作ってあげればいいのに。レオとメンバー間での会話もなく、存在感が生まれない。

結局、本書にはナカバとロキさえ いればよく、シーザすら おまけ状態になってきた。

特に今回は お話としても連載人気を得たから急遽 追加された横道のエピソードのようになっており、本筋と あまり関連がない。だからこそ一層 ナカバたちは何を目的として動いているのかが分からなくなる。シーザが国に戻って、新兵器の生産を遅延させたり、進軍の阻止へ働きかけた方が、遠回りするより よっぽど効率的に思えてくる。舞台となる国を移すと、その国のことしか描かれず、複数の事柄が同時進行するような歴史のダイナミズムみたいなものが一切 感じられない。


カバの国の王位継承者・アデルが登場。これでアデルとシーザ、2人の次世代の王が揃った。でもアデルはナカバに毒舌を吐くが、シーザには興味がない様子。仮にも敵国の王子なのだから、少しぐらい敵意を見せて欲しいものだ。この辺も個人が私怨でしか動いておらず、国同士の争いに無関心に見える部分である。この話でシーザに危機感がないのも気になる。この国は川の下流に位置する相手国に毒を流すような国なのである。毒殺や暗殺の危機にあるのはシーザなのに、それほど剣呑さがない。

一行は王子殺害の容疑がかかっていることを秘匿して、ロキの機転によって新婚旅行でナカバの母国に寄ったと言い繕う。そして アデルと出会って この国の王城に行く口実が出来たことで彼らは隣国からの介入(暗殺や拘束か?)を阻止できると考えた。

ナカバにとっては予想外の帰省となった。
そしてナカバは祖父である国王と面会するが、これまでの経緯もあり彼らの会話は弾まない。アデルはナカバが隣国に嫁いでから変わってしまったのが気にくわない様子。意地悪な幼なじみが、都会に行って色づいた彼女に怒っている と考えれば いいのかな。

ナカバは過去14年間の自分の扱いをシーザに知られたくないと思い始めていた。1人で生きていた頃は耐えられたことが今は耐えられない。シーザに嫌われたくない、失望して欲しくない。その人に良く思われたいという気持ちは恋と呼ぶ感情である。その自分の懊悩をナカバは素直にシーザに伝える。


持ちを吐き出したからか眠るナカバをシーザは見守る。
そこへ国王から呼び出しがあり、ナカバの母親を間接的に殺害したのは自分の父親であることを知ることになる。駆け落ちした娘だが、ナカバの祖父である国王は、その復讐を考えようとしていた。

だがシーザは父親の愛情の無さから自分が復讐の道具の価値がないことを伝える。そして返す刀で祖父の孫=ナカバへの愛情の無さを責める。ナカバが言えなかったことをシーザが代弁する。祖父はそこに愛を確認した。政略結婚の2人が本当に愛を育んでいることを祖父が知り、少しは味方になってくれると良いのだが。


かし祖父のシーザとの対話の本題は そこではなかった。隣国の第一王子の死と新兵器の話を、ナカバの従者である亜人男児・リトから伝え聞いていたからだった。それは母親を人質に取られたリトが課せられた役割だった。

そして彼らには新たに新兵器の原料である鉱石が出る、海を渡ったリトアネルへの派遣が命じられる。そこで鉱石の輸入と新兵器の開発手段を獲得するのが彼らの任務となる。それを二国間の戦争の抑止力とするのが祖父の目的。それに対しシーザは いずれ自分が国王になること、その際の真の和平を約束させる。この派遣を成功裏に収めることで この密約は初めて効力をことになるのだろう。

出立前にナカバはリトの母親に会いに、かつて自分が幽閉状態だった部屋への潜入を試みる。ロキのアシストで成功するが、この場面、なぜナカバはリトを連れて行かないのだろう。里心がついて彼の精神は不安定になってしまうかもしれないが、ナカバが単独で会いに行くのは自己満足でしかない。リトの母親が久々に再会したナカバの変化を語るという目的にリトが いても問題ないはず。本書は作者が何を考えているのか、私には分からない場面が多すぎる。


発前、ナカバにアルカナが発動する。これはレミリアの時と同じく、中短期的な未来を示し、それを読者の牽引力とするためだろう。

ナカバがアルカナで視たのは、ロキが誰か血を倒れている人間の傍に立っている場面。そこからロキとナカバの特別な関係が再びクローズアップされる。ロキにはナカバに言えない「秘密」があるらしい。だが その詮索をしないでくれ というのがロキの切実な願いだった。こうして2人の間に微妙な空気が流れる。

ナカバとロキの微妙な関係が気にくわないのがシーザは夫としてナカバに優しくする。そういえば北国で寒かったナカバの母国の時もそうだったが、シーザはナカバへの愛情を自分のマント(?)を貸すことで表現しているように見える。彼女を守りたい、そして彼女は他の男ではなく自分の妻だという愛情と独占欲の象徴なのだろう。


キが何か「秘密」を抱えていることを知ったナカバは、本人の拒絶を無視して、アルカナで覗き見ようとする。デリカシーのない人である。その詮索をロキに知られ、自分の浅はかさを思い知らされるナカバ。これはカイン王子の時と同じですね。本来は知る由もない彼の過去や心情を知ってしまい、彼の欺瞞を見抜いてしまった。秘密を知ること、情報を握ることは強みになるが、人権を無視してプライバシーの侵害する越権行為でもある。ナカバが反省せず同じ失敗をしてるのが気になる。

ナカバは自分の行為に羞恥するが、ロキはアルカナの乱発は命を削ることを心配していた。強大な力は身体に負担がかかるらしい。だが身体が震えるようになってもナカバはアルカナを止められない。完全にジャンキーである(笑)


アーキルの国・リトアネルでも王位継承問題に関わるナカバたち。アーキルが推す第二王子の王への道を確立することが、国交を結ぶため手助けをする条件となる。そこで国を悩ませる盗賊団退治を第二王子の手柄にするべくナカバたちは動く。だが物語的には完全に脇道なので感想が浮かばない。地球ならば中東地域のイケメンであろう登場人物が増えたなぁ、と思うだけである。

行く先々で厄介ごとに巻き込まれるRPG風の たらい回し。この国に興味ないんだよねぇ…。

ナカバは、彼女の能力を知るアーキルからアルカナで盗賊団の手掛かりを視るように言われる。そこで宮廷の中庭のような所でアルカナを発動させるが、途中でシーザから声を掛けられ中断。アルカナ発動で身体に負担がかかり震えていることを指摘されるが、真実を言えないナカバは苦しむ。本当にお酒や薬物中毒みたいだ。ってか、倒れる可能性があるのに自室や人目のつかない所ではなく、公共の場所でトランス状態になろうとするナカバは変。シーザからの愛を確認した後も、同じ場所でリトライするのも なんだかなぁ…。

繰り返しアルカナを使って少しずつ盗賊団の出現場所のヒントと手法を視るナカバ。そしてナカバが視た三日月の夜、盗賊団は姿を現す…。