春木 さき（はるき さき）
ちっちゃいときから好きだけど（ちっちゃいときからすきだけど）
第10巻評価：★★（4点）
総合評価：★★（4点）
東京の美大を受験するか悩む翔に戸惑いながらも応援すると伝えたつばさ。「翔にはがんばってほしいけど、本当は行ってほしくない…」そんな気持ちを抱えるつばさに兼城くんがついに本気告白をして!? クライマックス目前★ キュートにもどかしい、幼なじみラブ第10巻!!
簡潔完結感想文
- 少女漫画の終盤は遠距離恋愛問題。夢のないヒロインは置いてけぼり。
- 当て馬最後の告白も返事も1回目の遣り取りと変わらなくてガッカリ。
- 当て馬の撤退直後に新しい男性を補充するイケメン保存の法則発動。
恋愛的クライマックスのはずが結局 再放送、の 10巻。
無駄に、本当に無駄に長く続いた つばさ を巡る、翔（しょう）と兼城（かねしろ）の三角関係も今回で終止符を打たれる。私が最も残念に思ったのは翔と兼城の直接対決は演出されていたものの、つばさ の兼城への返事は1回目の「お断り」から何も変わっていない点。長らく時間をかけた兼城側に悔いはないのかもしれないが、つばさ の返答は もう少し深みが欲しかった。こういう部分で言葉に重みを与えられないから本書は軽くなってしまう。つばさ にとって兼城は恋愛対象ではないが、長らく一緒の時間を過ごしたことで彼の良い部分を一つ一つ挙げられるようになったなど、1回目の告白とは違う兼城の見方が提示され、それが彼の救いになるという展開などが用意できたのではないか。言葉が軽いことは兼城の扱いが軽いということで、長らく付き合わされた読者の徒労感が増幅する結果となった。ここは作者が語彙力と想像力を駆使して どれだけ兼城に感謝を伝えられるか、という場面でもあると思うが、作者の兼城に込めた思いも こんなものなのか、と落胆する場面になってしまった。
そして今更だけど遠距離恋愛の危機に際して、つばさ と翔も幼なじみという感じが全く出ていないのが気になる。これでは高校で出会ったカップルと変わらない。もう少し この2人にとって離れることが どれだけ辛いかを しっかりと描けていれば感動できたのに、ここでも作者の未熟さが足を引っ張っている。それには つばさ だけじゃなくて、これまで2人が一緒に育っていく所を見てきた彼女の両親や弟、周囲の人の反応で つばさ の喪失感の大きさが表現するという手法もあるだろう。しかし ここまで双方の家族を ほぼ無視してきたため、そういう描写が描けないのだろう。紆余曲折のあった恋愛を見守ってきた親友の存在もない。というか兼城が一番 彼らの純愛を見守ってきたのではないか。もうちょっと使える駒が多ければ良かったのだが、作者の想像力で動かせたのはメインの3人が限界だったようだ。クライマックスがスカスカに感じるのは、これまでの積み重ねがないからである。
意外だったのは つばさ の進路。『10巻』から急に翔のお弁当を作りだしたので、てっきり料理関係に進むのだと思った。これまでもケーキを自作したり何かと手料理をしてきた。少女漫画は数少ない手掛かりからヒロインの進路を考えるので、調理師や栄養士など料理関係への進路が かなり多い。頭も決して良くないし、これといって特技のない つばさ も料理関係に進ませられるのだと思っていた（バイト先も飲食店だし）。だが作者は思いもよらぬ方向から彼女の進路を提示する。本書が あまり好きではない私は料理関係に進んでもベタだと批判しただろうけれど、この場当たり的な展開も あまり評価できない。もうちょっと丁寧に、きめ細かい進路指導の先生のように つばさ のことを考えてあげて欲しかった。
その内 データで出せればいいと思っているのですが、少女漫画ヒロインは大学進学率が低い印象を受ける。年々 大学進学率が上がり続けている現状をあまり反映していないように見える。おそらく その原因はヒロインの造形で、勉強が苦手な設定が多いから、大学に進学させるのに無理が出てきたり、恋愛ばかりして勉強をしている描写がないから説得力に欠けるのだろう。そこで学力が必要ない逃避場所として専門学校が進路先に選ばれがち。専門学校は短大や4年制大学と違って漫然と進学するのではなくヒロインに「夢」を持たせられる便利な場所でもあるのだろう。
そういう理由があるのは分かるが、これだけ長期連載をして つばさ に じっくり考えた進路を用意できない作者は、彼女に対する思い入れも薄いのかなと思ってしまう。最終盤なのに その場しのぎのような展開になっているのが残念である。もっと これを描きたかったという思い入れが溢れているぐらいの場面が見たかったなぁ…。
翔から東京進学の話を聞き戸惑う つばさ。バイト先でも様子のおかしい つばさ を兼城が気にかける。彼は翔の進学の話を職員室で聞いており、つばさ が その事で悩んでいることは察しがついていた。そして兼城もまた翔の絵画の才能を認めているから、つばさ が引き止められない気持ちも理解できる。
翔の絵画に懸ける情熱を目の当たりにした つばさ は彼の背中を押してあげる。何だか半分以上、兼城にアシストされているような気がしてならない。そして つばさ は応援を口にしながら悩んでいる。これは当然の悩みだろう。つばさ も行かないでと言ってしまうほど もう子供じゃないのである。
3年生に進級した つばさ。この学校では3年生もクラス替えがあるらしく兼城とは別クラスになる。これは兼城を つばさ が彼を振っても気まずくならないようにする作者の先回りの配慮か。相変わらずヒロインに甘いなぁ。
つばさ は自分の東京行きを考えるが、家計の問題で親に拒否される。この時点で つばさ の親は翔との交際を知っているような雰囲気だけど、どうして そのような話を1話でも作ってくれなかったのだろうか。大いなるマンネリになるぐらいなら2人の家庭に交際が発覚して、互いの親との関係が こそばゆくなるような話を描けばいいのに。ここで母親が娘に詫びるとか、翔と離れることに共感したりしたら一気に感動できるのだけれど、そういうことを作者はしない。
親に提案を拒否されたことも加わり、つばさ は自分が本当にやりたいことが見つからないことに悩む。しかも そんな時、翔は東京行きを決断し、つばさ は引きつった笑顔で彼を応援する。
そんな つばさ の心の隙を兼城は見逃さない。そして何巻ぶりかに「友達」から「当て馬」に自分のポジションを変える。その結果は…。
翔のスケジュールが空いたため、2人はデートをする。幸せだけれど、この時間は長く続かないという不安と、翔には言えていないことで つばさ は心から楽しめない（そして それに全く気づかない翔 ← 後の回でフォローしてるけど）。
つばさ の悩みが深くなる頃、翔のクラスと兼城のクラスが合同で体育の授業をし、2人はバスケで対決する。そして これは つばさ を賭けた男同士の最終決戦となる。翔は これまで運動シーンはなかったが、バスケも上手らしく兼城と互角の勝負を繰り広げる。そして最終的に翔のシュートで試合は翔のクラスの勝利となる。死力を尽くした翔は倒れ込むほど体力を奪われるが、それほど つばさ を取られたくなかったのだろう。
倒れ込む翔に兼城はバイト先での つばさ への告白の顛末を翔に語る。つばさ の返答は初回と全く同じだった。完全に敗者になった兼城は翔に つばさ が翔の進学で心が弱っていることを伝え、悲しませたら奪うと宣言。兼城というライバルには勝気な翔は それをさせまいと動く。
同時刻、つばさ も翔を捜していた。卒業までの学校生活で、つばさ は翔にお弁当を作り始めたのだった。その彼女の尽力が、今の翔には強がりに思える。だから彼女を抱きしめ、言えずにいる言葉を聞くと伝える。そうして つばさ は胸に秘めていた寂しさを涙ながらに語る。離れるのは嫌、でも夢を追って欲しい、その2つの気持ちは つばさ の胸の中で共存している。
そんな つばさ に対し、翔も自分の思いを全部 伝える。翔が絵を頑張るのは自分の絵を つばさ が好きだと言ってくれるからでもある。こうして2人は進路問題をクリアにする。
視界が晴れた つばさ にも夢が舞い込む。それが美容師。お弁当を作り出した時点で、少女漫画ヒロインの夢No.1の調理師や栄養士を目指すのかと思ったが、街中でヘアショーへの出演を頼まれ、その道への興味が湧く。
ショーで つばさ を担当するのは男性美容師。兼城がいなくなったら、長髪の兼城かと思うような男性が登場。1人去ったら1人補充される少女漫画の「イケメン保存の法則」である。つばさ を迎えに行った翔は早速 その男性美容師と会い、ライバル視しているような気がする…。
