《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼女との初クリスマス。内緒でバイトしてプレゼントも準備万端☆ #彼女誘えてません

恋わずらいのエリー(4) (デザートコミックス)
藤もも(ふじもも)
恋わずらいのエリー(こいわずらいのエリー)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

地味で目立たない市村恵莉子は、爽やかなイケメン・近江章の素のクソガキな部分を知るうち、どんどん惹かれていく。一方のオミくんも、エリーの変態パワーに振り回されながらも好きになっていき、ついに2人は両想いに。でもエリーを守るためにオミくんが素っ気ない態度をとっちゃって、2人はすれ違ってしまう! けど、球技大会の後で気持ちを確かめ合った2人…!!

簡潔完結感想文

  • トラウマも好意も さらけ出してるから、性欲を隠しませんが、何か問題でも?
  • 断られるのが怖くて彼女をクリスマスデートに誘えませんが、何か? 問題だろ!
  • 男ヒロインの涙のクリスマス危機に 女ヒーローが参上して、もう何も問題はない。

リスマスは終わらない、の 4巻。

冬の一大イベント・クリスマス周辺の2人を描く『4巻』。
『3巻』から交際編が始まったが『3巻』は学校一の人気者・近江(おうみ)と交際することの影響の大きさを描いており、どちらかというと困難ばかりを描いていた。なので『4巻』からが本当の交際編と言えるかもしれない。しかも時期的にクリスマス直前で、初めてのデートを前に あたふたする恋愛初心者たちの騒動が描かれている。

全体的に近江が夢見るクリスマスを実現できるか、という男ヒロインの本領が発揮されている。男ヒロイン・近江ちゃんが、夢が叶えられないと うつむいているところに、女ヒーローの恵莉子(えりこ)が彼の頭上から舞い降りるという構図が良かった。近江の夢 ≒ 恵莉子の妄想と考えれば、彼らは互いに相手の秘めていたことを一つ一つ実現していっているのか。そして それが読者の満足感と幸福感に繋がっていく。

そしてクリスマス回は ここからが本番というところで『4巻』は終わる。いよいよ この『4巻』から2人とも性欲を隠さなくなってきたので、読者の妄想も加速するばかり。恵莉子の妄想は作品内で映像化されているけれど、近江の妄想や欲望も是非 映像化して欲しいところである。一体、夢の中の彼には恵莉子が どう見えているのだろうか(笑)

恵莉子は天然で 近江もヘタレポンコツ。上手に約束できないまま迎えるクリスマスの結末は…?

『4巻』では恵莉子がクラスメイトから正しく名前を呼ばれ、そして会話を交わして自分の世界の広がりを感じているが、それ以外にも作品の世界の広がりを感じた。紗羅(さら)とレオ先輩の両片想いの幼なじみカップルの動きも本格始動しているし、新キャラ・要(かなめ)は初登場時から強烈な印象を残していて、気になる伏線もあるが、彼はまだ本格始動していない。レオも要も、先行して顔出しさせて、その次の巻以降に物語に関わってくる、という構成が本当に好き。
特に好きなのは同じ時間の流れの中で、全員が動いているという感覚である。これは作者の脳の容量の大きさと処理速度の速さがあるからだろう。まだまだ新人作家さんで初の長期連載なのに、こういうことが出来ているのが凄い。不慣れな人だと、メインの2人編、友人の恋編、当て馬編と完全にパートが別れてしまい、それ故に新キャラが唐突に登場して与えられた役目を果たしていく、という印象になる。しかし本書は同時多発的に色々なことが起こっていて、世界が幾つもの層で構成されている。メインの2人の動きの後ろで色々なことが起きているから、集中力を維持したまま他のキャラの動きを追える。私などは分かりやすく友人の恋編が独立していると、早く終わらないかなぁと思ってしまうので大変 助かる。複数の登場人物が学校や この作品世界でワイワイと走り回っている感覚は同じ掲載誌「デザート」の作品、ろびこ さん『僕と君の大切な話』を連想した。


中は再びテスト前となる(前回は実力テスト。今回は2学期の期末テスト)。
恵莉子の成績ために(自分の欲望ために)過去問を欲する近江。すると紗羅が1学年上の幼なじみのレオから入手ルートの当てがあると話す。何とレオの成績は学年1位。金髪ピアスのレオが学校側から何も言われないのは その実力があってのこと。本書は男性側の方がハイスペックで、そして愛情もストレートに表現している。

球技大会の活躍もあり恵莉子はクラスメイトたちから名前を覚えられ、そして話すようになる。彼女たちからすると恵莉子は いつもスマホを見ていて(妄想ツイート中)、恵莉子の方がクラスに関心がないと思っていた。つまり八方美人の近江とは逆で、恵莉子は「八方ブス」を決め込んでいるように見えていた。実際 恵莉子もそうやって逃避と思われる。周囲から避けられているのではなく恵莉子の方が排他的だったのだろう。そして やはり恵莉子と近江は自分の心を守るために違う手段を選んだ、同じ種類の人間だということが分かる。

放課後、恵莉子は担任の汐田先生からポスター貼りを頼まれる。今回は協力者がいて、そのペアとなるのがクラスメイトの要という男子生徒だった。だが彼は恵莉子に何も予定がないと分かると恵莉子に仕事を押しつけて帰ってしまう。強烈なインパクトを残し、かつ要という人の性格が分かるエピソードとなっている。

近江も恵莉子も意識的に人との摩擦を避けているが、要は無意識で人との摩擦を生んでしまう人。

要の言動に呆然とする恵莉子だったが、その後 孤軍奮闘する。そこに当然 近江が助けてくれて結果オーライ。まだ学校内に人は残っているが、事務仕事を頼まれた2人という言い訳が立つので2人は一緒に行動する。『3巻』と違い近江が恵莉子を遠ざけないのは、彼の中で女子生徒の注目や悪意に対して気にし過ぎないという意識が芽生えたからだろう。

こうして色々とイチャラブするのは少女漫画の基本展開だが、本書は その先に行く。ここで近江が恵莉子に対してハッキリと性的興味があることを告げたのだ。近江を妄想の「おかず」にしていた恵莉子が、自分もまた彼にとっては おかずなのである。両想いって相手公認の おかず になるってことだよね☆


オ先輩に過去問の件を伝え、恵莉子が近江と紗羅を騙して招集し、4人で勉強することになる。前回は3人だったのでテスト毎に参加者が増えていくのだろうか。そして前回は図書館での勉強会で、そこで紗羅との噂が立ってしまったが、今回は安全な国語科準備室で開催される。

紗羅はレオの前だと素直になれず、彼に冷たい。険悪な雰囲気になるのを助けるのは近江。彼の気遣いで どうにか勉強が進められる。近江の八方美人スキルは中学卒業後から短期で習得したものだが、それが様になるのは やはりセンスの良さが光っているのか。

前回の勉強回とは違うのは、恵莉子と近江が両想いになっている点。なので2人は紗羅たちに見られない机の下で秘密の接触をする。恵莉子がムラムラしたり、仕掛けた側の近江が赤面したりと2人は発情を促し合う。そもそも恵莉子は自分が近江にエロい目で見られることを意識して勉強どころではない。


江と紗羅が席を立った時、窓の外から紗羅の話題をする2年生の男子生徒の声が聞こえてくる。1人の男子生徒が紗羅に執着しているのだが、彼女は完全に無視するため、適当な画像で紗羅の熱愛を捏造しているという。その実例が、『3巻』でスキャンダルになった近江の画像だった。てっきり犯人は近江のファンの女子生徒だと思ったが、紗羅に興味のある人による撮影だった。どうりで近江とイチャつく女性が誰なのかを追求しないはずだ。

それを聞いたレオは男子生徒に謝罪を求める。レオに手法がダサいと指摘された生徒は逆ギレでレオに殴りかかろうとするが自滅。そこに教師が介入し、男子生徒がレオに殴られたと事実を改変する。その見た目から教師に有罪判定されたレオ先輩。これで紗羅がレオに失望するかと思いきや、紗羅は教師にレオの開放を求める。そして現場を見てはいないが無実だと胸を張って言い切る。なぜならレオはヘタレだから。だから彼は人など殴らない。それが幼なじみとして彼を見てきた自分が知っているレオという人間像。そこに第三者の目撃者の証言が加わり、レオは無罪となる。この事件でレオを拒絶してばかりの紗羅が ちゃんと彼のことを見続けていたことが分かる。学校では話しかけないで、という紗羅だが、逆に言えば学校以外の自宅ではレオの接近や接触を許していることになる。学校外の2人の様子も見てみたい。


江が恵莉子に しきりに勉強を促すのは、彼女に補習を回避させるためだった。なぜなら補習になると2人で過ごす初めてのクリスマスが潰れてしまうからだった。だから彼女の頑張りに期待する。

頑張ったが、恵莉子は補習になる。その補習で再会するのが要。ただし彼は恵莉子と同類ではない。要は本来、成績が良いが体調不良でテストを受けられなかっただけだという。やっぱり男子はスペックが高いのか。

補習初日、教師のミスで枚数が足りず、恵莉子にプリントが回ってこなかった。だが それを教師が恵莉子の存在感の無さを嘲笑して自分のミスではないような雰囲気に持っていく。それに物申したのが要。強烈な毒舌で教師に赤っ恥をかかせる。ただし要は恵莉子を庇うために言ったのではない。どうやら彼は空気の読めない人間らしい。そして恵莉子とは違って非現実世界(主にゲーム)で生きることを決めていることが分かる。その割に、成績が良い要が補習を全部 受けている。合理的な彼なら最終テストだけ受けることを選んだりしそうだが、出席するのは真面目だからなのか、それとも出席が義務付けられているからなのか。まぁ補習中にゲームをし出しているから、座っているだけなのかもしれないが。

そして この後、要が恵莉子のTwitterのフォロワーであることが判明する!


る時、恵莉子は近江と女子生徒との会話の中で、彼にクリスマスの予定が入っているのを知り落ち込む。ネガティブになった恵莉子は目が合った近江から逃げ、そして情けなくなる。原因は容姿の面ではない。それは以前 やった問題。今回は近江とのクリスマスが叶いそうだったのを自分が棒に振ったと言う状況が情けなくなったのだ。

逃げる恵莉子を近江が追ってきて、彼女を肯定する。近江の言う通り、1つ間違ったり、1つダメなところがあったからといって、それで関係が終わる訳ではない。完璧ではない自分たちだから、努力もする。近江が「努力の人」だから説得力が増している。

ただし仲直りの後、彼らはすぐに関係をこじらす。近江は今年、恵莉子とのクリスマスを過ごしたかった。だから彼女に参考書を届けようとしたり、どうにか一緒のクリスマスを画策するが、恵莉子の方は今年のクリスマスに気合いが入っていない。そんな温度差が近江の前のめりな姿勢を浮き立たせ、彼はそれを恥ずかしく思う。そして未熟な彼は恵莉子に当たってしまう。


悪になってしまった2人だが、恵莉子は自分のすべきことを頑張ることに決めた。

一方、近江はガソリンスタンドで仕事をしていた。サプライズでプレゼントを恵莉子に買ってあげたいからバイトをしているが、肝心の約束を取り付けられない。恵莉子をちゃんと誘えない自分への怒りと情けなさがあるから つい恵莉子に当たってしまったのだろう。クソガキ部分が消えていない。

クリスマス当日、恵莉子は担任であり近江の叔父である汐田(しおた)経由で近江がバイトをしていることを知る。こうして恵莉子は補習後、彼のもとに走る。バイト終わりの近江の前にサンタとなって現れ、そして彼の欲しいものをプレゼントしようとする。近江の願いはキスで、恵莉子は それを受け入れる。キスした後の2人の高揚感や達成感、そして悶々とする擬音が本書らしい描写。

だが まだまだクリスマスは終わらない…⁉