《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

男女6人の お出掛けで3組3様のカップル模様を描く。主役たちはマイペースに現状維持☆

理想的ボーイフレンド 7 (マーガレットコミックスDIGITAL)
綾瀬 羽美(あやせ うみ)
理想的ボーイフレンド(りそうてきぼーいふれんど)
第07巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

誰より愛しい、私だけの恋人。春休み、遊園地へ遊びに来た結沙たち一同。そんな中、一緒の部屋にお泊まりすることになった結沙と楓くんは――? 世界をキュンキュンさせ続けたマイペース・ラブストーリー、ついに完結です!

簡潔完結感想文

  • 参加しなさそうな人も参加させて、普段は描けないカップルの内情を描く。
  • お出掛け回が お泊り回に。他2組が幸せになる中、ヒロインだけが眠れぬ夜。
  • 欲望はあるけど それを上回る理性で自制を選ぶ圧巻のマイペースヒーロー。

後まで一般的なヒーローとの差別化が図られる 最終7巻。

私の中での作品の評価基準の一つに、同じことを繰り返さない、というものがある。例えば当て馬は1人で良い。2人目の当て馬を出せば、それだけ連載は続くかもしれないが、全体を見返した時に内容の重複が生まれる。

この最終巻で作者が内容の重複を回避していたことが私の好感に繋がった。もちろん作者が選んだ選択が、一部の読者にとって不満足である可能性もあるのは分かるが、ヒーローの春田(はるた)が そういう道を選ぶのも彼のマイペースさを よく表現していたと思う。

ネタバレになるが、春田が選んだ道は恋人・結沙(ゆさ)との潔癖な関係の維持を選んだ。つまりは性行為の お話である。この『7巻』で お泊り回が発生し、2人は そういう関係になりかける。そこで春田は「雄(オス)」になりかけた。だが彼は これからの結沙と その家族の関係において問題を発生させないために そんな自分を自制する。その過程において言葉が足らず、結沙を傷つけたことは問題だが、彼もまた16歳の青少年として自分をコントロールするのに精一杯だったのだろう。

一般的な少女漫画とは性欲や性知識が男女逆転している。でも勉強熱心なのが春田だから将来は…。

性行為は少女漫画においての「最終地点」である。そこに到達したこと、結ばれたことで幸福感は生まれるだろう。だが本書は それを選ばない。それよりも春田が ずっと誠実で、いつまでも結沙の隣にいられる自分であることを選んだ。そういう大きな愛の描き方は、マイペースで風変わりな春田と よくマッチしていると思う。卒業まで そういうことをしない と話し合いによって決めた2人なら、それまでの2年間も楽しみながら過ごすことが出来るだろう。

さて、ここで冒頭の重複の話に戻る。今回、結沙たちが関係性を進めないのは、同じ日、同じホテル内で友人の奈々未(ななみ)カップルが そういう関係になっているからでもある。男女の関係における自然な行為をしたカップルは他にいる。ならば その先に進んだカップルは奈々未たちに任せることが出来、結沙たちが先に進む必要性はなくなる。「する」ことを選んだカップルが一方でいて、他方で「しない」ことを選ぶカップルもいる。そうして重複は回避され、代わりに選択に幅が生まれる。

結沙たちカップルに動きがなければ、他の友人カップルを利用する。そうすることで常に物語が動き続けていた。最後の最後にも新しい恋を予感させ、主に春田の心中が穏やかではなくなるような未来が待っている。そういう心から安心できる幸せな結末を迎えるのも、春田が常に誠実だったからではないだろうか。
ヒーローが女性読者からモテるために同じような見た目と同じような性格(俺様)になっていく中、春田が ずっとマイペースだったから連載も延長し作品の人気も続いた。結沙ではないけれど、少女漫画ヒーローの理想は1つではないと多様性を見せて欲しいが、商売を考えると難しいのだろうか。俺様も その次の溺愛も乱発し過ぎである。


休みに3組の男女でトリプルデートをする結沙。参加者は結沙と春田、奈々未(ななみ)と先輩、八重(やえ)と谷(たに・片想い中)の3組。
先輩は他の人との面識がないので早々に別行動を取る。結沙に興味津々に見られることを嫌う奈々未も先輩も よく参加してくれたものだ。この2人には参加のメリットが何もないように思うが、彼らの登場は他2組の同級生カップルでは出来ない、学年差の話が出来るなど彼らにしか描けないことがあるからだろう。目前に迫る来年度から先輩は高校3年生の受験生になり、残りの時間は短くなる一方なのに一緒に過ごせないジレンマが待っている。こういう普段は見られない2人の会話や交際の様子が描くために同じ日の同じ空間にいるのだろう。

八重も本来なら一緒に遊ばないところだが、結沙という初めての同性の友達と遊んでみたいという気持ちが湧き上がったようだ。そして八重は小学校からずっと一緒の春田から、今回の谷は彼が初めて見せる一途さだと知らされて頬を赤らめる。
別行動をしたい結沙たちの計画に乗り、八重は谷と一緒にアトラクションを楽しむ。そこで自分の手の繋ぎ方をレクチャーしたり(繋がないけど)、点数稼ぎではない谷の優しさに触れる。

春田は絶叫系が苦手で、結沙の膝枕を借りる。左を下にしないと眠れない春田は、結沙にとって恥ずかしい体制を取る。これは後の伏線である。絶叫系でダウンというと どうしても女性の方を考えてしまう無意識のバイアスがあるが、春田はジェンダーレスというか弱くても春田だからね、と思えてしまう懐の深さ(?)がある。


が途中から豪雨に見舞われる。そして電車も止まる。少女漫画の電車会社は現実よりも非力である(笑)。
奈々未たちは当初から近くのホテルに泊まる予定だった。その話を聞いて他の2組も泊まることにする。ちょっぴり大人の先輩がいるのは こういう展開に誘導するためであろう。

そして始まる お泊り回。ただし奈々未たち以外は2人ずつ男女別部屋。

奈々未たちカップルは昼間に生じた すれ違いを解消するために話し合う。奈々未の言う通り、これからの2年間は順番に受験が来て、環境が同じではなくなる2年間で試練の時だろう。作品は結沙たちの受験期を描かないが、先輩に その期間のことを語らせ、想像させている。だが先輩は奈々未が思うよりも奈々未のことを考えてくれていたことが分かる。
そうして2人は そういう関係になる。これも結沙では描けない少し先を行く関係だ。

一緒(の空間)に行動させることで これまで描けなかった このカップルの関係性や直面する問題を描く。

一方、男子部屋では八重とのデートに緊張した上、八重を雨から守るために濡れた谷は風邪を引いていた。谷は春田に このことを八重には内緒にしてもらおうとするが、フロントから毛布や体温計を持ってきた春田と八重が会い、谷の体調不良はバレてしまう。

彼の体調不良に責任を感じる八重は春田に代わって看病を始める。そこで一時的に3部屋に3カップルの部屋割りになる。

途中、飲み物を買いに行った八重だが、その容姿から今日2度目のナンパをホテルの酔客から受ける。昼間の遊園地とは違って酔っているため気が大きくなり しつこい男。そんな八重のピンチを救うのは いつも谷。自分が高熱であっても最後の力で八重を助けてくれる。
そんな献身的な谷の姿に、彼の想いが本物だと理解できた八重。初恋の相手である谷が、好きだった幼稚園生の頃から根幹は変わっていないことを知り、谷のことを認め、その証拠としてキスをする。

こうして八重は結沙に谷との交際を報告し、自分が朝まで谷の看病をすることを決めた。それは必然的に結沙と春田は朝まで同じ部屋になるということだった…。


テルで一夜を過ごすことになった2人。春田が結沙と同じベッドで寝ようとする理由が やや弱いように思うが、展開重視なので仕方ないか。隣に春田がいることに結沙は緊張するが、春田は あまり邪気がない。どうやら妹と一緒に眠る感覚なのでは、というのが結沙の推論。

遊園地での言及通り、春田は左を下にして眠る習性があるため、彼の左で眠る結沙は ずっと見つめ続けられる。だが春田は結沙のことを妹と思っていない。1つのキスが何か彼にスイッチを入れさせ、2人は身体を重ねてキスをする。
しかし春田は我に返ったように中断する。結沙のためにムードを重視する傾向のある春田だから またそれを気にしているのかと結沙は思い、今日 そうなってもいい、と春田との関係を進めようとする。

だが春田は それを拒否。今度は右を下にして結沙に背を向けて眠ってしまう。結沙は恥をかかされ、そして傷つけられた。


して朝を迎える。結沙以外の2組のカップルは それぞれに進展があった。なのに結沙だけが傷ついた旅行となってしまった。

気まずい関係になったけれど春田は結沙を家まで送ってくれる。だが そこに娘を溺愛する結沙の父親が顔を出し、朝帰りを非難する。それには事情があるし、部屋割りについても誤魔化すことが出来たが、春田は同衾したことを告白してしまう。母の登場によって、その場は収まるが、結沙は春田と話し合いの場を持つために、彼を部屋に入ってもらう。

そこで2人は それぞれの気持ちを伝える。結沙は自分が傷ついたことを話し、そして春田は自分に性欲が芽生えたことに対しての戸惑いがあって、以前にした健全な交際という結沙の父親との約束を守るために自制した。そして彼は卒業まで この清い関係を続けると宣言する。結沙は再び親を騙してでも関係を進めようとするが、春田は飽くまで実直。後ろめたいことを作るのが嫌だという。それは春田が この先も結沙と その家族との関係を考えているからである。改めて春田から そういう姿勢を見せられ、結沙は満たされる。上述の通り、身体の関係を「最終地点」にしなくても、積み重なっていく好きや関係性は描けるのである。


して新年度が始まる。でも基本的に何も変わらない2人。

一番 変わったのは この春から中学校に上がった春田の妹だろうか。彼女が道で転んだところを、同じ学校の先輩となった結沙の弟に助けられ、彼の家で手当てをしてもらう。そこに結沙が帰宅し、一緒に帰ってきた春田は、人見知りの妹が結沙の弟と すぐに親しくなっていることに危機感を覚える。割と嫉妬深い春田は、その2人を引き剥がそうとする。

こうして春田は妹の心が早くも兄から離れようとする事態に直面してしまう。春田一家は彼が高校に上がる直前に結沙の家の近所に引っ越してきた という設定。なので2歳差の春田妹と結沙弟は これまで一度も学校が同じになることはなかったが、でも中学は学区が同じになる。この出会いを演出するための引っ越しだったのだろうか。続編があるとしたら、春田が兄として放置される悲しい未来が見たい(笑)

最終話では春田を待つ間に結沙が先輩の部活を見に行く。原点である1話に戻ると これまで流れてきた時間の長さを感じる。そしてクラスで名前ぐらいしか春田との この1年を振り返って物語は終わる。人は変わり続けていくから毎日 新しい結沙が見られる、と春田は言っていたが、誰も見ていないと思って教室でキスをするとか春田は段々と行動が大胆になっているように思う。もしかしたら卒業までの2年は1年生の彼が想定していたよりも苦しい2年間になるかもしれない…。どんどん「雄」になるばかりの春田はマッチョ化し、髭も生えてくるかもしれない。卒業式が楽しみだ。