《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

枯れてるように見える高校1年生男子が時折 見せる嫉妬や見栄、欲望のバランスが妙味。

理想的ボーイフレンド 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
綾瀬 羽美(あやせ うみ)
理想的ボーイフレンド(りそうてきぼーいふれんど)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

はじめてのこと、キミとひとつずつ。ようやく楓くんと気持ちが通じ合い、晴れて恋人同士になれた結沙。“カップル初心者”のふたりの恋はどきどきの未体験ゾーンに突入!デート、家族へのあいさつ、そして……その先のことも!?

簡潔完結感想文

  • 交際編スタート。これまでの関係者に挨拶回りをして どの関係性も良好にする。
  • 初デートはクリスマス。飲食店の予約はしないが、最初から手土産は用意している。
  • 奥手の彼を動かすにはハプニング。だがコンプライアンス的には この度数が限界。

れから続く、一緒に過ごす日々の最初の1日、の 3巻。

『3巻』から正式に交際がスタートする。長期連載が初めての作者にとっても初めて自分のキャラたちを交際させられた幸せいっぱいの巻である。短期連載から本誌連載になり、それも当初は3巻ぐらいを目途に連載が終了する予定だったが、それが再延長されたようだ。

今回のMVPは何と言っても春田(はるた)だろう。これまで好きという感情が分からなくてヒロイン・結沙(ゆさ)をはじめとした女性たちを混乱・困惑させる存在だったが、好きを自覚した途端、とても誠実で一途な彼氏に大変身した。これまでは結沙の方が好きという気持ちが強かったが、今回は春田も きちんと結沙のことを想い、時には結沙以上に将来のことを見据えて行動してくれている。
そして私としては落ち着いている春田が時折 見せる感情にニヤニヤしてしまった。例えば その一つが同性に対する対抗心である。鈍感ヒーローであった頃から実は結沙に近づく男性(主に友人・谷(たに))に対して やきもち を焼いている場面が見られたが、今回も結沙の元・好きな人である先輩に対して同様の感情を抱いている。

男性としては やや淡白な部分が彼氏としては不満になりそうなところだが、実は春田は結沙の彼氏として相応しくありたいという思いがあったり、普段は欲望を自制していることが分かったり、彼の新しい面が いっぱい見られる。そんな年相応の春田に安心したり、萌えたり出来る。もしかしたら春田自身も恋をした自分の新しい面に驚いているのではないか。

それは交際を通じて、彼の聞いている音楽を知ったり、自分の不安を和らげてくれる頼もしい部分を知ったりする結沙と同じ発見の連続である。最初のインパクトは暴君である俺様の方が絶対に強いが、春田のような男性は噛めば噛むほど味が出てくるような気がした。静かに、でも確かに愛されているという感覚が楽しめる作品だということが分かった。


田から告白された翌日、彼は結沙の通学路で結沙を待ってくれていた。そのことに結沙は春田との交際が現実になったと実感する。

そのことを、これまで自分たちの恋愛を見守ってきてくれた友達の奈々未(ななみ)と、これまで協力してくれた春田の幼なじみ・谷に報告する。結沙が本当に幸せになってくれたことを奈々未は確認して、奪略愛のようにも なってしまった過去を謝罪する。これで奈々未の贖罪も終わったということか。恋愛成就までのゴタゴタは もう蒸し返されないだろう。

交際翌日からのテスト期間が終わり、2人はファストフードで放課後デート。と思いきや、春田からの「付き合う」という概念の擦り合わせが行われる。結沙の理想を詰め込まれた少女漫画を参考資料にしながら、2人は初めて連絡先を交換したり、NG行動を確認したり、相手のことをもっと知ろうとしたりと心の距離を縮めようとする。

だが交際はゴールではなく、スタートであり、交際後に相手に失望し嫌われるかもしれないという恐れが結沙の中に湧き上がる。交際後の1話目で これか、と思わなくもない展開だが、自分に自信のない心配性の人なら、自分が相手を好きでいればいるほど、同じぐらい不安も湧き上がるのも分からなくはない。そして結沙にとって交際は未知の世界で、先の見えない、自分たちで道を作らなくてはならないことの不安も加算されていくのだろう。

だが春田は2人とも「交際初心者」であることに安心してくれる。一緒に ゆっくり、恋人としての2人の関係性を築けばいいと結沙は考え直す。それが春田と交際する意味であり意義であると結沙は伝える。こうして偽装交際の時以来に手を繋いで帰る2人。その時とは違う幸福の実感に結沙の心は本当に温かくなる。


のライバル的立ち位置にいた八重(やえ)への交際報告は春田から行われる。これは春田が自主的にしたこと。そして春田が八重に話そうとしたのは、自分が誰かを好きになって初めて、これまで自分に告白してくれた人の切実な想いを理解したから。だから改めて八重に感謝がしたくなった。
ただ八重の中の公式歴史では、春田に告白した過去など無いのだけど。それでも八重は自分の気持ちにまで嘘をつくことなく、春田をちゃんと好きだったこと、そして結沙との恋を応援することを伝える。八重とも後腐れがなくなったということだろう。

ずっと暖簾に腕押しだった春田が、自分の想いに対して初めて反応してくれた。これで前へ進める。

ただし八重は これまで自分に協力してくれた利害関係の一致したクラスメイトたちとの関係が悪化する。本気じゃなかったと強がる八重に、クラスメイトたちは協力したことへの徒労感を隠さない。そうして女同士の連帯は崩れ、八重は偽りの関係を解消する。この辺の かりそめ の関係は、作者がアシスタントをしていた咲坂伊緒さん『アオハライド』の『1巻』のようである。


リスマスに初デートを迎える2人。春田は来年のクリスマスのことを考えてくれたり、プレゼントをくれたり、そういう一つ一つが結沙は嬉しい。

このデートで結沙は奈々未と先輩カップルに遭遇する。これは結沙が彼らを見ても全く傷つかない状態になったから起こるイベントだろう。ここでは上述の春田の嫉妬が見え隠れする。
そして春田は、結沙が失恋を次の出会いのための大切な出来事として認識していることを知り、八重にとっての自分も そうなればいいと思えるようになった。

春田は結沙に対する恋心は自分にとって特別なもので、0だったものを1にしてくれた結沙への気持ちは特別だと言ってくれる。結沙にとって その言葉が1番うれしいクリスマスプレゼントであった。


がクリスマスデートは まだ終わらない。春田が結沙の両親に挨拶したいと言ってきたのだ。

両親から愛を ちゃんと与えられて育った結沙は どうして俺様キャラを好きになったのか。謎だ。

こうして春田は結沙の実家に行く。母親とは何度か顔を合わせているが、父親とは初対面(なぜなら初登場だから)。娘を溺愛する父親は娘の彼氏を認められない。その姿は春田が妹を溺愛するのと同じであった。それを想像して自分が しでかしたことの大きさを痛感する春田だったが、母親が何とか この場を収める。

和菓子職人(?)の父親は春田、というか一般的な男性が苦手そうなケーキ作りを春田にさせるが、妹とケーキ作りの経験がある春田は そつなく作る。その作業の中で男同士の会話が始まり、そして春田は父親の嫌味に対しても常に誠実な態度と気持ちで接する。ただし春田には少し見栄を張った部分もある。でも体力がないのに苦手なことはないと自分を大きく見せたのは、それだけ父親に結沙の申し分のない彼氏として認めて欲しかったからだろう。最後に結沙の弟も帰宅し、春田は結沙の家族全員と顔を合わせた。少女漫画的には婚約の成立である。


いては初詣デート。
クリスマスデートの最後で結沙はキスをされるかとドキドキしていたが、春田からは そういう欲求や欲望の匂いが一切しない。それがきっと春田の清潔感に繋がっているのだろう。八重は一般男子との反応の違いに春田の特別性を見い出していたし。

ただ そういう春田の淡白さは やがて2人の気持ちの不一致にもなる。自分だけドキドキしていたり、キスを望んでいたりと、その不均衡な想いは結沙に自分が女性として愛されているのか分からなくさせる。

そんな進まない関係性を進ませるのがハプニングである。神社で甘酒を飲んだ春田は酔ってしまう。甘酒の中の微量なアルコール成分に反応したらしい。
そして春田は壊れる。意味不明な言動も多く、また自制心も失くす。それは彼の中で思い止まっていた結沙とのキスをさせた。結沙自身は春田からの具体的な愛情表現に喜ぶのだが、春田にとってはキスがスイッチになり夢から覚めた眠り王子様はキスを大反省してしまう…。

奥手の春田を前に進めさせるための飲酒だが、もはや少女漫画では甘酒ぐらいでしか飲酒は出来ないのだろうか。高熱や泥酔は簡単にハプニングを起こせる便利なイベントだったのに、もう後者はコンプライアンス的に許されないのだろう。飲酒イベントは誤飲か甘酒か ぐらいしかセーフにならないのかな。