《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

どうしても描きたい場面に 作者が物語を誘導する「神のアルカナ」が あるのかな?

黎明のアルカナ(6) (フラワーコミックス)
藤間 麗(とうま れい)
黎明のアルカナ(れいめいのアルカナ)
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

この力で、初めてできた友達を守りたい。表向きは和平の証、実際は人質同然の立場で敵国ベルクートのシーザ王子に嫁いだ、セナン国の姫・ナカバ。初めは反発しあっていたが、2人は愛し合うようになる。その様子をもどかしく見守る従者・ロキ。無益な戦いを止めるため、赴いた亜人の村で、義兄・カイン王子の捕虜になってしまったナカバ。大切な友達・レミリアを守るため、ナカバは過去と未来を視る”刻のアルカナ”の力を使う。だが、ナカバが変えてしまった未来とは…?「この力はなんのためにあるの?」緊迫の第6巻!!

簡潔完結感想文

  • いよいよアルカナが見せた未来が目前に迫る。だが助けた命と助けられない命があった…。
  • 幽閉された王女、高慢だった王子にとって この旅は自分の見識と覚悟を醸成する修行の旅。
  • 1つの村・町で起こる1つの騒動。RPGにおける中盤の単調さと似た 作業感が拭えない。

生最大の障害より目の上のたんこぶ から始末する謎の優先順位 の 6巻。

神は細部に宿る。けれど本書は細部が甘い。1つ1つのエピソードは決して悪いものではないのに、どうして そうなるの?という登場人物たちの思考が理解できない部分が読書のノイズになってしまう。どうしても作者が描きたい場面があって、そこにキャラを誘導させようとするから不自然さが生まれているように思える。その不自然さを軽減できれば もっと作品の評価は高くなるだろう。『6巻』だけでなく全体的に言えることだが、悲劇や報われない人生みたいな悲劇のヒロイン・ヒーロー譚が お好きなようで そこに焦点を当てようと必死になっているように感じられる。そして それは一種のナルシシズムにも繋がっていて、物語は作者が考える最高の憐憫の連続のように見えてしまう。もうちょっと大局的に2つの国の歴史の転換点を語るような広く、高い視座であって欲しい。

今回の一番の見所はカイン王子だろう。彼の不器用で冷徹になり切れない優しい性格と悲しみが伝わって来た。

だが一番の疑問は、ネタバレになるがカイン王子の死の直前の行動である。
これによって悲劇の王子であるはずのカインが どうにも間抜けに見えてしまった。作者自身がカインの誇りを汚していると思えた。ナカバが自分がカインを殺したと思う罪悪感を抱えているが、作者には自分がカインの名誉を傷つけたことを自覚できているだろうか。

死の直前、カインは異母弟であり、人生で一番 恨みを募らせていた第二王子・シーザと剣を交えていた。シーザは妻であるナカバやレミリアといった女性を逃がすために多勢に無勢の中で自分を盾にして戦っていた。シーザという比較対象がいなければ人生が順風満帆だったはずのカインにとって、シーザを討ち取れる千載一遇の機会である。どんな卑怯な手を使ってでも、兵に命じてシーザの動きを止めれば それで彼の人生は安泰だった。

しかしカインは なぜかシーザの相手を部下に任せ、自分は単独で女性陣を追う。そこでレミリアを追い詰め、自分を見る目が気に入らないと難癖をつけた後に彼は刺される。カインの死という物語の大きなターニングポイントを前にして、謎の行動選択が気になって仕方がない。
これは単純に作者がカインを死なせたかっただけだろう。そういう意図が透けている。そして考えてみれば王子を単独行動させる部下なんて この世に あってはならないだろう。以前も書いたが、こういうザルな設定や行動が本書には多すぎる。10代の少女たちの知性を お舐めになってるの?という ご都合主義には呆れるばかり。

1巻につき1回は「冷めるわー」という部分が目につくのが残念だ。今回のように それが大事な場面だったりすると特に。

悲劇性は持たせたいけど正ヒーローのシーザよりは下衆でいて欲しい、そんな折衷案なのだろうか。

カバ・シーザ・レミリアの3人は再び国軍とカインに囲まれる。それにしてもナカバはレミリアの命の危機を救いたいのなら、彼女を昏倒させるとか軟禁・捕縛など手段を選ばないことは出来ないのだろうか。能力を隠したまま、レミリアを現場から遠ざけるにはナカバは頭が回らなすぎるから危機が再発している。

シーザが盾になりナカバたちは逃げるが、カインは執拗にレミリアを追う。上述の通り、このカインの選択は支離滅裂で意味不明。こんなミスが最期なんてカインが可哀想である。

レミリア、そして彼女を守ろうと間に入ったナカバに剣を振り上げるカインだったが、その彼をロキが討つ。しかしナカバはカインに自分たちを本当に殺す意思がなかったことを見てとっていただけに望まぬ結末に涙する。

カインの遺体はシーザによって兵の前に置かれる。王子を殺した者がロキだとは秘匿された形だろう。


の後継者の逝去に関わった一行は村を離れ、安全な場所で身を潜める。
だが その際、ナカバは自分の選択がカインの命を奪ったように思っていた。そして耐えきれない罪悪感は下手人であるロキに責任の転嫁をしてしまう寸前だった。ロキは運命を変えるには それに見合う代償が必要だという。ナカバはカインが婚約者・ルイスとの間に子を設ける未来を視たが、それは レミリアの命との天秤だったんだろう。彼女は どちらの命を選ぶか迫られていた。万能のような力だが、1つの未来を避けると、別の予想外の未来が到来する。それが何なのかは「刻(とき)のアルカナ」でも見られない。

ちなみに愛し合っているという実感のないカインとルイスだが、彼らには肉体関係があった。これは いつまでも純潔を守るナカバ・シーザとは対照的である。ナカバたちを いつまでも清らかにしておく必要性を私には感じられない。特に この後の湖の場面の後では もう いつ致してもいいだろう。処女性がアルカナの保持に必要という訳でもないだろうに。

塞ぐ気持ちから散歩に出たナカバは、アルカナが見せる過去、そして子供の頃からのカインの心の動きに囚われる。その不注意から湖に落ちるが、そのピンチを救ったのはシーザだった。
ここで1対1で彼と向き合うことで、ナカバは彼が異母兄を亡くしたことに初めて思い当たる。そこでナカバは自分がアルカナで得たカインの心の動きをシーザに伝えることによってシーザの心を少しでも軽く出来た。彼を「救えた」という充実感がナカバも救う。そして そんな風に自分に勇気をくれるシーザに対し、初めて「好きよ」という言葉を伝える。


イン死去の剣について、一行が王城で どのような扱いをされているか不明なので、そこへ戻る訳には行かない。逃亡者のような生活が始まる。

そこで軍師・ベリナスはナカバの母国である隣国入りを画策する。隣国への案内役は、助けた村の村人が担う。そして この旅から「炎のアルカナ」の能力者であるレオが仲間に加わる。この辺はRPGのようである。だが仲間が加わっても それほどドラマに厚みが加わらないのが本書の残念なところ。特にレオはいてもいなくても…という感じである。

ちなみに人間嫌いのレオが ついていくのは、ナカバという存在が大きい。これはカリスマ性なのか、乙女ゲームのヒロイン状態だからなのか…。


オの住んでいた亜人の村への入境の際にも亜人に変装した彼らだが、今回 隣国入りの前には旅芸人一座になる。越境するとコスプレ大会が開かれる仕組みなのか?

権力者は色を好むようで、この土地の権力者の前で露出の多い格好をしたナカバとレミリア枕営業をさせられそうになる。それをナカバは自分の力だけで切り抜けるのは彼女の強さを示すシーンになっている。ヒロインのピンチには男性が駆けつけるのが少女漫画の定番だが、ナカバは もう自分で強さを身につけている。これは逆に いよいよシーザの存在意義が薄くなっていくことを意味するような気がするが…。

これまで母国で幽閉状態だったナカバと、第二王子だから自覚も覚悟もないまま無為に王城で過ごしていたシーザ。王女と王子である2人は、こうやって2つの国を実際に見て、そこで学び、そして強さを確立することなる。亜人の虐殺を阻止しようと自分の意思で動いたことで彼らは見たことのない景色と感情、そして自分に出会うことになる。

いつの間にかに高い志を持っているシーザ。ロキが入り口なんだろうけど、豹変してない!?

にシーザはカインという後継者がいなくなり、国の行く末は彼が握る状態である。そして彼は新兵器による蹂躙と迫害の意思を見せる父親の王座を簒奪することを意識し始めていた。

そんなシーザの意識の変容は、宿泊のために立ち寄った村での亜人迫害を助けることに見て取れる。最初は かりそめ の夫婦であった2人だが、2人は同じ意志のもと、亜人を迫害する人間を糾弾する。夫婦の初めての共同作業といったところか。

その騒動の後に姿を現すのが、ナカバの国の王位継承者で、ナカバの縁戚でもあるアデル王子だった…。