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少女漫画と小説の感想ブログです

会社員と少女漫画家の二刀流をこなす作者の、仕事帰りの疲弊した自分が読みたい本?

三神先生の愛し方(1) (別冊フレンドコミックス)
相川 ヒロ(あいかわ ヒロ)
三神先生の愛し方(みかみせんせいのあいしかた)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

レンアイ経験0、彼氏いない歴16年のなつめ。…それもこれも、お隣さんで高校教師の三神先生が、ちょー過保護なせい!! 家でも学校でも、溺愛っぷりが過剰に異常で…どーしよう!?

簡潔完結感想文

  • 9歳年上のイケメン隣人から溺愛されて、まともに恋も出来ないよ~(自虐風自慢)。
  • 教師は一緒にいる時間を延ばすための手段で、先生モノ・教師モノとは一線を画す。
  • 隣の女児が16歳になったから手を出し始めるグルーミング目的の成人男性と思うと…。

8巻の物語だけど、物語は横に広がるだけなんだぞッ!の 1巻。

まず言っておきたいのは本書には「縦軸」が存在しない。そもそもが全3話の短期連載のために用意されたもので、早くも2話で主人公たちは両想いになる。そこからはラブコメとして振り切って、ただただヒロインがモテるドタバタの内容が繰り返されるだけである。

タイトルに「先生」とあるから先生モノ・教師モノの禁断感を味わえると勘違いする人もいるだろう(私だ)。しかし本書においての教師とは、ヒーロー・三神 惣介(みかみ そうすけ・25歳)がヒロインで隣人の16歳のJK・相原(あいはら)なつめ と1秒でも長く同じ空間にいるための手段でしかない。教師と生徒という前に2人は15年以上は幼なじみの関係で、心配性の兄だと思っていた惣介に どうやら本気で好意を抱かれていると知った なつめ が どういう答えを出すのかが物語の牽引力となる。ただ その答えが早くも2話で出てしまうが…。

溺愛なのか、ストーカーの偏執なのか、知性の劣る人間への洗脳なのか、それが問題だ。

女漫画としてはウルトラハイスペックな惣介から絶対の愛を与えられる幸福な日常が楽しめるのが売りだろう。だが反対に男性側の視点で考えた時、笑いになる惣介の変態性よりも触れてはいけない異常性が潜んでいるように思う。
9歳差という年齢もあって、惣介は なつめ のオムツ交換もしたことがあるという。そんな彼女に惣介が本格的に手を出し始めるのは彼女が高校生になってから。この時点でアウトである。
更に惣介は、それ以前からも なつめ が異性と近づくことを禁じている。こうして なつめ は恋という概念が いまいち理解できないまま育ち、そして惣介が自分から離れる危機感で彼への想いが恋だと思ってしまう。

そういえば惣介が なつめ に手を出し始めたのは16歳からだと思われるが、これは連載当時の民法では結婚可能年齢に達したからなのだろうか。惣介の危ない頭の中では いずれ結婚するのだから、相手がJKであろうと手を出しても罪には問えないと考えたのだろうか。ちゃんと責任を取る=結婚するからOKということなのか。でも2022年には民法が改正されたので、2023年現在から本書を読むと惣介は完全にOUTな人である。

果たしてこれが健全な恋愛なのか色々と微妙な所である。更に私が本書を読んだ2023年11月中旬には お笑い芸人が18歳年下の女性と結婚したという、猫ちゃんもビックリなニュースが飛び込んできて賛否両論を巻き起こすターンとなった。

ヒロイン・なつめ にとっては純愛かもしれないが、年齢も知能も上の惣介の手による支配や洗脳に見えてしまい楽しめなくなる。特に惣介が なつめ と距離を取るという動きの中に、彼の大人としてのズルさを感じてしまう。なつめ本人には見えていないが、惣介には なつめ の心の動きが手に取るように分かる。それを利用し、不安と安堵を繰り返させて自分から離れないようにしている。それを25歳の男性が16歳の未成年にしていると思うと やっぱり気持ちは穏やかじゃない。惣介の中で16歳がゴーサインになる理由も分からないし。

少女漫画では9歳の年齢差は珍しくないし、私も先生と生徒という間柄の作品を根本から否定したりしない。だが本書はやはり「教師モノ」ではない。
これが なつめ が ずっと惣介を好きで、どうにか彼を振り向かせたいという内容だったら健全で、そして読者も応援できる恋だっただろう。だが本書の場合は、惣介の溺愛が最初からあり、問題は なつめ が それに応えるかどうかだけである。そして その選択を惣介が誘導しているから不快感が発生してしまうのだ。
私の読み方は なつめ の人格を無視しているという指摘もあるだろうが、本書においてヒロインには知性がない。なつめ が十分に思考が発達していないように幼稚に描かれていることもグルーミング感を増長させる一因となっている。

あまり真面目に論じるような作品ではないのは分かるが、少女漫画としても なつめ が多くの選択肢(他の生徒など)の中から惣介を選んだという自主性が感じられないのは大きな欠点であることは間違いない。そういうプロセスを飛ばしてシチュエーションを最重視するのは掲載誌「別冊フレンド」らしいのだが…。


頭で言った通り、本書には縦軸がない。ただただ溺愛されるだけ。読者も頭を使わずに作品世界に寄り添える。これを物足りないと感じる人もいるだろうが、頭を使わずに読める溺愛系が流行しているのは紛れもない事実である。

確かに肉体的・精神的疲労を感じている時、寝る前など必要以上に頭を使いたくない場面はある。実際、私も眠る前に読む本は重すぎない内容を選んでいる。少女漫画においては溺愛系が それで、登場人物も少ないし、内容も予想外なことが起きない。眠る前に読むには適当と言えよう。

「あとがき…」によると作者は珍しい兼業作家らしい。会社員として働きながら、その後の時間を漫画家として活動している。そのバイタリティには恐れ入るばかりである。そして そんな作者だからこそ、疲れている人が読みたい内容を追求できるのではないか、と考える。こういう少女漫画があったらいいな、という想像を形にしているのだろう。


ういう需要と供給のもと、溺愛系が描かれるのは分かる。だが感想文を書くように真面目に読もうとすると、その内容の虚無が気になるばかりだ。

特に中盤からのヒロインモテモテ展開は、宮城理子さん『花になれっ!』に匹敵するぐらいの虚無感があった。あちらは主人公が男性を魅了してしまうフェロモンを発するという設定があったが、本書は ただただヒロインが主に幼なじみ一家からモテるだけで、作品世界が横にしか広がっていない。
掲載誌「別冊フレンド」は、シチュエーション特化が特色で「設定」が当たれば、内容の薄さは問題視しないのだろう。読者人気があり続ける限り、連載は延長していく。

てっきり当初は掲載誌が「なかよし」なのかな と勘違いしたほどヒロインの精神年齢が低い。本書でヒロイン・なつめ がしていることと言えば、近づく三神先生に素直になれないで反省するか、殴ったり蹴ったりして彼を遠ざけるかの2択である。だから彼女に深い思考など必要ない。ヒロインの深い悩みの描写など読者のストレスになるからだ。でも そんな一定の行動しかしないロボットみたいな反応を読んで何が楽しいのか、と私は思った。


み返すと実は この『1巻』が一番イレギュラーで一番 内容があるのではないか、と思った。

まず1コマだけであるが、なつめ の母親が登場していることに驚いた。なつめ の両親は仕事で多忙で ほぼ家におらず、娘が隣の家に出入りしようが寝泊まりしようが、温泉旅行に行こうが何も言ってこない。それは惣介の家も同じ。後から わらわらと湧いて出てくる家族たちは最初はおらず、二軒の家を彼らは自由に使える。

そして女性ライバルが登場するのも『1巻』の特徴。母親やライバルなど本書においてはレアキャラ中のレアキャラだ。
また これによって惣介は幼なじみの なつめ以外の女性という選択肢を与えられ、それでも なつめ を選ぶという比較対象がある。これによって惣介からの愛は確定する(なつめ は最後まで信用しない馬鹿者だが)。しかし上述の通り、なつめ の方は比較対象すら与えられず惣介に手玉に取られる。この不均衡と不健全は ちょっと頂けない。

再読すると『1巻』の まともさに驚くばかりである。ここからは母親・女性ライバルなど一切の女性は排除され、なつめ がモテモテになるという似通った展開が続くことになる。溺愛系としては それが正解のだろうが、やぱり虚無である。


名大学の大学院を卒業した惣介は なつめ を小さい頃から溺愛しており、なつめ が16歳になって、いよいよ本気で手を出そうとする。なつめ が彼を邪険にしても時に暴力を加えようとも、それが惣介の悦楽となる。

惣介の選んだ仕事は なつめ が通う高校の養護教諭。惣介は なつめ を四六時中監視するための手段として教師を選んだ。そして作者は養護教諭を学校内をフリーに行き来できる存在として考えているようだ。惣介は容姿端麗・頭脳明晰、おまけに お家は お金持ち というハイスペックという名の少女漫画の平凡設定である。

なつめ にとっては惣介は自分の恋愛を阻止し続けた人。なつめ が男子と喋れば「妊娠したらどーするんですか」と その妨害に入る。なので なつめ は惣介に人生を左右されたくなくてカレシを作ることを宣言。こういう不純な動機で恋をしようとするのが少女漫画ヒロインである。

友人から男友達を紹介してもらい、学校内で一緒に お昼ご飯を食べようとしても、それを聞いていた惣介が先回りしている。こうして高校生たちの会話の中に、9歳年上の25歳の男性がずっといる という男子生徒にとっては気まずい空気が流れ、なつめ を恋愛対象にする者はいなくなる。


が惣介は雨が降れば自分のワイシャツを脱いで、自分が街中で半裸になろうとも なつめ を優先する。その行動には なつめ も自分が確かに愛されていることを感じずにはいられない。
そして惣介が本気で自分を異性として好きであることを なつめ は知ってしまい、その気持ちに戸惑う。

だが その翌日から惣介は なつめ へのアタックを止める。もはや日常となっていた惣介からの溺愛がなくなり、胸にポッカリ穴が開いたのは なつめ の方。惣介の態度に腹を立て無茶な行動をして失敗する というのが幼稚な なつめ の定番パターンとなる。今回は水泳の授業中に惣介の怒りを泳力に変えていたら、身体がついていかず足が つってしまう。それを助けに来たのはヒーロー・惣介。だが彼は泳げない。結局、なつめ は自分と惣介の2人を自力で助けるが、惣介は自分の危険を顧みず なつめ を助けたかった。

恋愛テクニックを年齢差のある関係で年上側が使うのは、大人げないルール違反ではないのか。

しかも惣介が素っ気なくなったのは、なつめ の気を引くためだと知らされる。そうして改めて惣介から告白され、なつめ は自分の気持ちに気づかずにはいられなくなる。
こうして なつめ は年長の惣介に手玉に取られている。この1話のパターンは今後 何回も見ることになる。なつめが空回りして、勝手に落ち込めば、そこで話の起伏が生まれる。だから なつめ は作中で バカであり続ける。


2話は惣介の誕生回。ここから両親の存在が作品から排除され、2人っきりのイベントが続いていく。

1話で なつめ の母親がレアキャラとして存在したように、2話では女性ライバルが登場する。おそらく これ以降、「大人の女性」という概念としての女性以外では なつめ にとってのライバルが固有キャラは登場しない。ここで女性ライバルが登場するのは、おそらく惣介が他の女性と比べることで なつめが選ばれた、という選択と優位性を描くためだろう。それに必要な最小人数が今回の1人なのだろう。

教育実習生の女性・田辺(たなべ)が登場する。そして田辺は惣介の後輩だという。このパターン、香純裕子さん『古屋先生は杏ちゃんのモノ』でもありましたね(あちらが後発)。当然、田辺は惣介を好きという設定で、しかも惣介の運命の相手は自分だったはずだと田辺は なつめ を挑発する。

惣介は田辺よりも なつめ が100倍素敵だと言ってくれるが、田辺の言っていることが正しいことが証明されてしまう。以前、惣介がカゼで倒れた時、一晩中そばにいてくれたのは惣介の中では なつめ になっているが、それは田辺だという。膝枕をして看病したのは自分であると田辺が名乗り出て、惣介がフリーズする。
だから なつめ は自分から引き下がり、惣介の誕生日を田辺に譲る。しかも惣介が追っては来ないことに なつめ は涙する。

同性ライバルを撃退できるほどの能力は なつめ にはない。ヒロインには知力も努力も必要ない。

生日当日に惣介から待ち合わせの場所と時間を連絡されても、なつめ は それを田辺に教えてしまう。

こうして1人で家に帰った なつめ だったが、そのテーブルには誕生日会の準備が完了していた。自分の誕生日なのに なつめ の好物を並べてくれた惣介の心を知り、なつめ は他の人をスキになんてなって欲しくない自分の本音を やっと吐露する。
それを聞いて現れるのが惣介。なつめ を後ろから抱きしめ、田辺を寄越した彼女への怒りを表し、なつめ が望むなら彼女と結ばれるとまで言い出す。それを止めるのは素直になった なつめ。これもまた行動を誘導しているように見えてしまう…。

こうして熱い抱擁をしている2人を田辺が見つける。田辺は記憶の改ざんを持ち出すが、その相手が なつめ ではない事実があっても彼女への好意は変わらないと惣介は言う。こうして田辺は惣介が真正のロリコンだと知り幻滅して帰って行く。

謎なのは惣介の行動である。家でパーティーの準備をしながら、外で待ち合わせる。ただ単にコスプレ衣装を取りに行く目的だったのだろうか。


来なら短期連載の最終話であった3話目は早くも お泊り回となる。

当初は お泊り回に消極的だった なつめ だが、雑誌での性体験レポを読み込む中で、ガマンしてくれることが男の愛だいう情報を鵜呑みにして、惣介の愛を試す目的で温泉旅行を了承する。
それにしても なつめ は こうやって自分から惣介を試し、そして勝手に傷つくというパターンが多すぎる。1回なら我慢できるが、何回も彼女は学習能力のなさ、幼稚さ、リセット機能を発揮するから辟易とするばかりである。

こうして謎の惣介に指一本触れさせない旅が始まるが、ドキドキするのは なつめ の方だったりする。そして指一本触れさせないのに、自分の履いてる下着を話題にしたり支離滅裂。そうして頭を悩ましながら温泉につかったため倒れてしまう。

なつめ を介抱し、浴衣を着せたのは惣介。だが惣介は なつめ が起きた後の赤面やうなじ、浴衣の胸元に興奮する。こうして惣介が手を出すと肉体目的だと思い、彼を拒絶。そんな なつめ の自分勝手に惣介もさすがに なつめ の方がヒドイと言い残し、部屋を出てしまう。

彼を怒らしたこと、そして どれだけ彼が この旅を楽しみにしていたかを痛感し、なつめ は反省する。そして温泉に入る彼のもとに突撃し、彼との肉体関係を結ぼうとする。

だが惣介はガマンする。今の なつめ の裸とオムツ交換の時の裸を同列に語るのは、惣介が なつめ をフォローするための言葉だろう(と信じたい)。もし3話で連載終了ならば ここで結ばれてハッピーエンドだったのだろうか。3話とも惣介が冷たい態度を取ると(そう なつめ が感じると)彼女は惣介のもとに駆けよって、彼の愛を受け入れるというのがパターンとなっている。このワンパターンも頭が痛いが、繰り返しになるが結局、なつめ の行動選択が惣介の思いのままという展開が不愉快である。惣介は溺愛していると見せかけて、結局、自分の不機嫌さをまき散らして、なつめ が追い縋って来るのを待っている。気持ち悪い男だ。


4話は惣介が「1日生徒」になるというもの。ネタバレになるが、このネタは再利用される…。

席も隣で授業中にイチャイチャする2人。ここまで来ると もはやコントである。それに この時の2人の会話に誰もツッコまないのが不自然すぎる。もしやクラスメイトにとっては公然の秘密で、皆、彼らより大人だから知らないふりをしてくれているのではないか、とさえ思えてくる。

この回では、本書ではレアな他の生徒に2人のイチャイチャが目撃され、言い逃れが出来ないピンチが描かれている。だが それもギャグで回避してしまうのが本書なのである。これ以降もピンチはあるが絶対にバレたりしない。

最後に惣介が1日生徒になったのは、なつめ が惣介と交際をしたことで痛感してしまう、2人の年齢差・立場、高校生同士の恋愛なら普通にできることをさせてあよう、という惣介の深い思慮であることが明かされる。おちゃらけているようで深い思慮を持っている格好良さが惣介には確かにあるだろう。でも やっぱり惣介の手法を受け入れることは出来ない。