相川 ヒロ（あいかわ ヒロ）
三神先生の愛し方（みかみせんせいのあいしかた）
第04巻評価：★★（4点）
総合評価：★★（4点）
三神先生から溺愛されているなつめ。2人は、誰にもナイショのいちゃあまカップル。文化祭で「ロミオとジュリエット」を演じることになった三神先生となつめ。…だけど、2人の間を引き裂くイケメン理事長が現れて…!? 大人げない大人たちによる、溺愛頂上決戦がはじまる…!!? 「別冊フレンド」にて超人気連載中☆ 溺愛系・年の差ラブ！
簡潔完結感想文
- イケメンを増やせば、溺愛させとけば読者はバカだから満足するだろう的な内容…。
- 文化祭回なのに出しゃばる先生と理事長。クラスメイトの男子は絶対 面白くない。
- 少女漫画のドキドキシーンは、大人の映像の特殊シチュエーションと発想的には同じ。
人数を増やしても内容は一緒、という虚無、の 4巻。
『2巻』ではヒーロー・惣介（そうすけ）の弟・響（きょう）が、そして この『4巻』では兄の宗一（しゅういち）が登場する。ということは法則的に『6巻』では三神（みかみ）家の関係者が現れるのではと考えるのが当然であろう。そして それは本当になる…。
しかし兄・宗一が登場して新展開が起きる訳でもなく、結果的には響と同じ展開が起こっただけ。結局、宗一も興味がない振りをして裏では なつめ を溺愛していたというオチまで同じで、作者の工夫のなさに呆れるばかり。兄まで後付けで用意するなら宗一は最初から全力で溺愛するとか違うパターンを用意するべきなのに、完全な再放送。会社員と漫画家の生活をこなしていることは本当に尊敬するが、二足の草鞋を履いても毎日同じ道を歩いているだけというのは、漫画家として どうなんだろう。収入面の心配など現実的な問題はあるのだろうが、漫画に時間を割けないことが作品の質を落としているのなら残念だ。もっと想像力を駆使した作品が読みたい。
なんなら作中に1ページだけ登場した6歳の なつめ と お隣の三神家の三兄弟との交流を描いた『よつばと！』のパクリ作品が始まってもいい。ちょうど年齢差も『よつばと！』に登場する隣の三姉妹と同じようなもんだし。まぁ完璧なロリコン漫画になってしまうが、妹にも似た感覚で愛情を降り注ぐ、かなり大人げない三兄弟の様子は笑えるかもしれない。
結局、最初から関係性が固定されている作品なので、作中で一時的な すれ違いを起こすぐらいしか取れる手段がないのだろう。
その すれ違いも大別すれば3パターンしかなく飽きる。
1つ目は『3巻』で見られた なつめ が自分勝手に惣介と距離を取るというもの。
2つ目は今回のように出張だったり、なつめ側の誤解で惣介から距離を取ったように見えるもの。
3つ目が、第三者の登場によって事情が出来て距離を取るというもの。
1つ目のように なつめ は自分の事情で惣介と距離を取ることがあるが、その場合は なつめ から事情を彼に説明することがなかったりする。その割に2つ目のパターンで惣介から距離を取られた、と思うと簡単に落ち込むのが なつめ である。
私は掲載誌「別冊フレンド」は胸キュン至上主義だと思っている。ヒロインの気分を一度 下げてから上げると そこに胸キュンが発生する。幼稚な なつめ は すぐに落ち込むから少女漫画的には展開が作りやすいのだろう。
たとえ人数が増えても、惣介との距離感が どう変わるか、というだけの問題で、しかも基本的に1話完結型（長くても2話）なので すぐに仲直りしてしまう。当初は斬新だったオチや展開も似たようなものが多く、ラブコメとしての寿命もそろそろ。そう思われているのに ここまでの倍の8巻まで続くのが本書の すごい所である…。
13話は文化祭回。女子生徒たちの圧倒的な指示で惣介がロミオをやることになり、なつめ がジュリエット役になる。どこまでも2人の世界しかない。
今でこそ知性・精神年齢の低さが目立つ なつめ だが、昔は厳しく育てられていた。それは親ではなく、惣介の兄の教育だった。こうして「弟がいるなら兄もいるものです、わ」、と弟・響に引き続いて、どこからか兄という存在が湧いてくる。
体調不良で入院することになった理事長の代理として宗一（29歳）が登場する。弟・響に負けないスペックにするためなのか、おっきい会社の役員もしている、金持ちでイケメンのハイスペック。もはやインフレを起こしていて価値があるんだかないんだか。
なつめ と宗一は5年ぶりの再会。ようやく なつめ に厳しく接する人が現れたと思いきや、いつもの展開である。兄弟喧嘩も依然と同様の内容。惣介が宗一には弱い、という欠点や兄弟の順番の宿命などが盛り込まれていたら良かったが、惣介が負けるわけには いかないか。
クドクドと話の長い宗一に交際の事実を受け入れると面倒臭くなるので、2人の交際は秘密とする。こうして2人に距離が生まれるが惣介が我慢できずに秘密の密会をしたり、セクハラをしたりした後、惣介は自分の交際を宗一に伝えてしまう…。
14話では理事長代理として養護教諭・三神惣介の辞職を決定する宗一。生徒と教師の不適切な関係など学校の汚点でしかない。
なつめ は惣介の職を守るため、別れることを勝手に決める。上述のパターンの1つ目が適用されたと言える。惣介は自宅待機となり、文化祭の劇は宗一がロミオ役となる（なんで？？）。
会えなくなった2人こそ、まるでロミオとジュリエット。互いの家の窓越しに2人は久しぶりに会話する。気になるのは この時の なつめ の家の窓の開き方と小さいベランダ（?）の植物の位置関係。外開きの窓の下辺に植物が当たっていて、開けにくい上に、植物を傷つける変な構造である。
これまでは24時間一緒にいるような2人だから、会えない日々が数日でも長く感じられる。
この回のクライマックスは、何と言っても文化祭。劇のラストで宗一は なつめ の顔に近づきキスを試みるが、それを惣介が阻止。劇自体を眠り姫に改編。更に響が白雪姫を演じようとして、兄弟3人の争いが始まる。
この争いに最初に脱落したのは響。未経験を指摘され、落ち込む。残る2人の争いになったが、その時、セットが崩壊する。大惨事だし、学校的には大問題であろう。
その時、惣介だけが なつめ を庇っているのを見て、宗一は2人を認める。こうして反対勢力に許され、2人は元通り。そして宗一もまたロリコンであることが発覚し、オチとなる。
そして文化祭が終了すると宗一は理事長代理を終える。こんな短い間で代理を立てる必要があったのかが謎だ。彼は響とは違い学校には残らないが、どうせ再来するのは目に見えている。
この話で気になるのは、惣介の恋愛遍歴。ピュアな響とは違って女性と性行為をしたことがあると自白した惣介だが、いつまで他の女性と関係を持ち、いつから なつめ だけを愛しているのかは気になるところ。だが作品は現在のドタバタラブコメに特化して、惣介のそういう心の動きなどは全く描かれない。元カノが登場したりしないのは安心設計である。
あと文化祭回なのに、高校生らしい青春っぽさが ないのが残念。ひたすら三神兄弟のための舞台で、セットや台本、衣装を作ったであろう周囲の生徒たちの存在と労力を無視している。私が このクラスの生徒だったら文句を言っていることだろう。こういう溺愛を成立させるために周囲の存在や彼らへの配慮が皆無な世界観があるから心から楽しめない。生徒同士によるアドリブ恋愛劇なら面白いだろうが、彼らのは大人の悪ふざけでしかない。
15話は初のデート回。変装デートならば気兼ねなく距離が縮められるので、なつめ は いつも以上にドキドキする。
だが服屋で惣介が試着中に、同じ学校の生徒（なぜか休日に制服で）が店内にいることに気づき、2人は試着室でイチャイチャする。
カーテンのフックが壊れてて押さえてないと開いちゃうということで、なつめ が惣介の着替えを手伝う。さっきまでフックが壊れていた様子はないし、着替える必要は無いし、ドキドキシチュエーションのためで展開に必要性がない。しかも他作品で使い回されたアイデアである。
しかも生徒の存在を忘れ2人は試着室から出てきて、結局 発見される。そして惣介が嘘で対応し、自分の存在を消されたことで なつめ は落ち込む。
そんな一瞬の心理的距離を生んでから胸キュンシーンとなる。初デート記念でネックレスと甘い言葉を貰って なつめ の機嫌は直る。彼女の精神が濁ると世界が崩壊してしまうかのような扱い方にゲンナリする。こういう苦みを毎回リセットしてしまうから同じ問題が繰り返される。
16話のサブタイトルは「なつめちゃんの抱きマクラ」でしょうか。
惣介が出張で会えない夜。これは惣介側の事情なのでパターン2ですね。
不在で自分の中の彼の存在に気づく なつめ。それはそれで甘い話なのだが、孤独な夜を描かれると なつめ が親に放置されていることがクローズアップされてしまう気がした。一応『1巻』では なつめ の母親らしき女性が登場しているが、本当は彼女が幼い頃に事故死しているのではないかと思うほどである。だから三神三兄弟は なつめ に無限の愛情を捧げている、と思うと納得できる。
惣介は帰りの新幹線が動かず、会えない時間が長くなる。だが惣介は何とか1秒でも早く帰れるように努力してくれた。そんな彼にご褒美を与える なつめ。それでも幸せになり切れないのが惣介が三枚目な部分である。結婚しても同じベッドには眠れないかもしれない。
