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少女漫画と小説の感想ブログです

魂の遠距離恋愛が終わって、実体でイチャラブしてたら当て馬が刺されたけど今は 幸せです★

あやかし緋扇(12) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
あやかし緋扇(あやかしひせん)
第12巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

時雨を追いつめた龍羽、だがその前に立ちはだかるのは時雨の忠実な僕・聖だった。2つめの神器も奪われた未来達に希望は残されているの!? 掲載時の最終回原稿に大幅加筆修正された真の最終回があなたを待っています! 未来達のその後がわかる完結編も収録した超感動の完結巻です!!

簡潔完結感想文

  • 恋愛も能力もカンストしている2人にはラスボスが弱く感じる。少々スケジュールがタイト。
  • 結婚の約束という死亡フラグを乗り越え、ハッピーエンド。千年ストーカーに引導を渡す。
  • ヒーローと並び立つ背丈、能力、精神力だったはずなのに、なぜか守られヒロインに転落!?

テモテヒロインが、モテなかった千年前の男女を鎮める 最終12巻。

少女漫画的には満点のハッピーエンドである。読者が読みたい その後の物語まで収録してくれて、誰もが幸せになる未来を確認できる。そして最後の最後まで登場人物の意外な一面が見られ、予想外の展開が用意されていた。何より安心したのは、陵(りょう)の背が伸びなかったっこと(笑) 中学・高校時代には背が低かった男性が将来の姿では背が伸びているのは少女漫画あるある だ(作者には「前科」があるし)。だが陵は最後まで それほど背が伸びず童顔キャラを貫いてくれた。

結婚式の慶びよりも、2年後も陵が大きくなってなくて安堵&歓喜した読者も多いのではないか。

ただ初読では あぁ面白かった と本を閉じたはずなのに、じっくりと再読すると最終巻には不満が多く目についた。

その大きな要因は ラスボス戦のショボさだろう。敵である時雨(しぐれ)が万全の状態でなく、歯が立たないピンチの演出も少ないまま、真打の陵が復活し、時雨を圧倒してしまった。作品側に立ってフォローするのであれば、もしかしたら これも敵側の人間かと思いきや、全ての無念を成仏させたかった聖(ひじり)の計画の一部とも思える。もし本当に聖が時雨の天下統一(ざっくりとした目的だなぁ…)を果たしたいのであれば、もっと時雨の復活に時間を かけただろう。3種の神器が揃った時点で雲隠れして、時雨が強い能力を制御できるようになってから、再び彼らと対決すれば いい勝負になったかもしれない。最終決戦の地が京都、その中でも あの地でなければ、時雨が形勢を逆転されることもなかったはずなのである。

全てが聖にコントロールされていたのも時雨がショボいと思う要因である。彼に思考力が見られないから、散発的な戦いが続き、そして詰めが甘くなる。特に陵の魂の問題などは時雨が直接 管理していれば、陵に反撃の機会は失われていただろう。それを部下任せにしている。陵の前世は千年前から時雨が憎く思っている相手であり、今度こそ宿願を果たす時なのに、その恨みの深さと行動が合っていない。


た最終決戦に関しては、仲間たち4人のチーム戦という共闘が見られなかったのが非常に残念。お話の主導権を未来(みく)と陵に戻す必要があるのは分かるが、さくら と龍(りゅう)が完全に時間稼ぎに使われており、前座でしかなかった。ここまでチームとして動いてきたのに、最後の最後で主役と脇役という明確な格差を見せつけられて少々 不快だ。

ピンチの演出もチームでの戦いも『5巻』の麟夜(りんや)戦の方が、チームの一体感があって見応えがあった。これは前述の通り、時雨がショボいという理由もあるが、どうも『3巻』の覚醒後から陵が強くなり過ぎたというパワーバランスの欠如も原因だろう。中盤の麟夜戦は未来が戦いの中で強くなる描写があり、それがカタルシスに繋がったが、最終戦は全員 時雨に負けない力を備えており、悪い意味で負ける気がしねぇ、という印象が強かった。陵がレベルアップし過ぎて「死闘」という言葉が消失してしまったように思う。

レベルアップと言えば龍は結局、能力の向上がないまま、強いんだか弱いんだか中途半端な描写が多かった。彼も一段階 術の規模が大きくなるなどの成長過程が欲しかったところ。さくら は3種の神器を使ってブーストすることで能力の向上があった(実際の活躍場面は少ないが)。だからこそ この状態で未来と並び立って2人の舞いでの共演が見たかった。それは時雨を倒した後でもいい。歴史的な土地で、色々な悪霊が生まれやすい京都という土地全体を平定するために最後に2人で舞って欲しかった。前述の通り、未来たちを目立たせるために、さくら たち姉弟が脇役に降格したかのような描写になったのが残念でならない。

本書はノベライズやファンブックなど派生作品も多いので、そこで補完されていることもあるかもしれないが、本書だけの読者としては、結局、さくら たち桜咲(さくらざき)家の能力の減退についての解決策が示されないまま。エピローグで未来が能力を封印するなら、未来の能力を さくら に移すということは出来なかったのだろうか。未来の能力は、彼女の前世の未桜(みおう)に由来するものだから適合しにくいかもしれないが、遺伝子的には さくら の方が親和性が高いはず(千年 経ってるけど)。未来を襲った時の龍の豹変(『3巻』)など桜咲家には謎が多いままである。


して本書最大の私の不満は、最後の最後で学校を休んだことだろうか(笑)

これまで本書は祇夕(ぎゆう)編では週末の京都決戦だったり、麟夜戦は春休み中、聖の暗躍も修学旅行中で行われ、学校生活を基本にしてきた。だが最終決戦は どう考えても平日に行われている。京都滞在中に一夜が明けているので、日帰りという言い訳も出来ない。そして最終回でも学校に戻らなかったのも残念。私が固執し過ぎというのも分かっているが、最後に日常を放り出した感じがした。せめて龍の式神コピーロボット)に学校生活を頼むなどの描写が欲しかった。最後の最後で惜しい。


た巻末に収録された「エピローグ」も2人の2回の結婚式、更には初夜の様子や将来まで描かれていて大団円のはずなのだが、結果的ではあるものの、処女を失うと女性は特殊な能力を失う という構図にも取れるのが大いに不満である。未来の葛藤があるのは分かるが、まるで処女信仰のような旧態依然とした価値観だ。前世の美桜は結婚・出産しても能力 保ってたんだし、未来が能力を失うことのメリットが分かりにくい。
作品としては ただの普通の人間だった未来が陵と出会うことで怪異に遭遇し、自分の前世を知り、能力に目覚める。ただ目的を果たした今は、前世に由来する能力は必要なく、未桜の転生先としてではなく、ただの1人の女性として陵を愛することを選んだ、ということなのだろう。こうして普通の人間に戻り、未来は ありふれた、けれど かけがえのない人生を歩み出すという描写だと思われる。

でも そうすると陵の前世を嶺羽(りょうは)に戻した意味が無いように思えてしまう。それなら いっそ時雨が前世という衝撃を残して、それでも現世では添い遂げることを選ぶ、でも良かったではないか(嶺羽の前世での無念が果たされないが)。

それに こうすると未来=女性は男性に扶養されるべき、という考えにも繋がってしまう。未来は正義をサポートし、悪を成敗する戦う万能ヒロインとしてヒーローである陵と対等だったはずなのだが、こうなることで守られヒロインに逆戻りしてはいまいか。もう未来が戦う必要はないが、陵は現状維持で、未来だけが能力を封印するというのが不公平な気がしてならない。

また結婚式から5年後、夫婦の間には2人の子供がいる。名前は美羽(みう)と優(ゆう)。美羽が第一子である。てっきり優が第一子だと思っていたので意外な家族構成だ。
でも陵の両親からすれば、孫に死んだ我が子の名前を付けられるのは複雑ではないだろうか。多少は転生とか前世とかの知識がある夫婦だろうが、短命に終わってしまった、僅かな時間しか愛することが出来なかった子の名前ってのは、受け入れ難いと思うのが自然ではないか。

自分たちの子供が優の転生先ということは夫婦2人が理解していればよく、名前まで一緒にする必要は無い。読者に分かりやすく、という狙いもあるのは分かるが、我が子と前世を不必要に結び付けていて、決して2人の子である子のためになっていない気がしてならない。

あとは成仏してしまったから登場が難しいだろうが、未来の兄・青治(せいじ)の活躍を もう一度 見たかった。生前の彼の活躍が、この最良の結末をもたらした、というような描写があれば なお良かっただろう。聖との関係も もう少し深く描けたのではないか。最終回付近は色々とページが足りていないように思った。


変わらず時雨自体は弱い。しかしノーマークだったこともあり聖からの攻撃で、龍も猫の陵も負傷する。こうして聖に2つ目の神器を強奪されてしまうが、龍の与えた傷で時雨の回復にも時間がかかる様子。一方、負傷して実家に帰宅した龍だが、その傷の手当てを さくら と未来にさせようとする家の者を制止させる。彼女たちには使命があるから自分の手当ては後回しでいいと訴える。それは陵も同じ。しかし この黒猫さんは、何度も傷つけられて痛々しい。

夜が明けた頃、ようやく女性たちが手当てに かかる。それだけ「特訓」が厳しいものだったのだろう。未来の舞いは久しぶりである。自分の舞いが、人を苦しめかねない、それどころか人を殺めるほどの力を持っていると知って以降、委縮していたが、特訓後 さくら と一緒なら舞えることを証明できた。トラウマを乗り越えたという感じか。


して4人は3つ目の神器を死守するために家を出る。場所は祇夕のお墓の中にあることを未来は前世の記憶で知っていた。だが取り出した瞬間に幻術を掛けられ、それは時雨の手に渡る。神器が揃い、ようやく時雨が本気を出す。これまでは使えなかった火の神の力も使え、無双状態。

そして時雨は陵の命を握ることで、未来を従わせることに成功。治癒の舞いを舞わせるはずだったが、未来は闇の今様(うた)を詠(うた)い、時雨にダメージを与える。さくら との「特訓」で未来は この2つの舞いの使い分けを意識的に出来るようになっていたのだ。この前世での自分の命を奪った舞いは、トラウマと肉体的苦痛が重なり時雨を陵の身体から出させるはずだった。

だが彼は その苦痛に耐え、未来の舞いを中断させる。未来が裏切った罰として さくら たち姉弟を殺すことを決める。そのピンチに現れるのは墓に眠る祇夕。祇夕編での詫びが ここで果たされた。祇夕編のラスト付近では連載延長が決定していたので、そこで伏線を張ったということなのだろうか。祇夕がすぐに成仏できないという設定だったのも再登場が約束されていたからだろう。


勢となった聖は時雨に霊体になり陵の身体から出ることを具申するが、時雨は拒絶。そんなに健康な10代男子の身体が良いのか。頑固な時雨に対し、聖は かつて祇夕を悪霊・妖(あやかし)化した術を使い、強制的に時雨を霊体にする。

その独断は時雨の怒りを買い、聖は負傷。事態の悪化を恐れ、未来は さくら と舞おうとするが(目的は聖の治癒ではなく2人での闇の舞いだろうか?)、時雨は麟夜の能力を使い2人を拘束する。しかし時雨は力の制御が出来ていないらしく、龍に傷をつけられる。結局、弱いのかいっ!

こうして自由になった未来に龍は陵の傷の治癒をするよう訴える。傷の回復によって陵の魂は自分の身体に勝手に戻るらしい。それを邪魔しようとする聖を未来は一蹴し、陵の身体を運ぶ。以前も未来が陵の身体を運んだ描写があったが、こういう時に戦うヒロインは便利ですね。
退避の前に未来は さくら と龍に この場を託す。力の不足を訴える さくら に未来は時雨から奪取した3種の神器を渡す。これによって さくら も、自分たちの先祖である未桜なみの力を発揮できるのだろう。


来は安全な場所で治癒の舞いを舞おうとするが、自分の舞いの失敗=陵の死を意識してしまい身体が固くなる。だが ここで1人で立ち直るのが未来の成長。こうして未来によって久方ぶりに陵は自分の身体に戻る。考えてみれば2巻近くも留守にしていたのか。そして一種の遠距離恋愛状態も これで終止符が打たれる。

最終決戦中だというのに、2人は相手の存在を確かめるかのように抱擁し、お互いに触れる。陵は未来に高校卒業後の結婚を申し込み、この戦いが終わったら結婚するんだ、と死亡フラグを立てる。高校卒業後すぐ、というのは陵のビジュアルが崩れない内に、ということだろうか(笑) ショタキャラの彼の賞味期限は短いよね…。

未来は それを受け入れ、2人は婚約者となる。その後、キスしてイチャイチャする2人を現実に戻すのは、猫の目覚め。どうやら猫の魂は ちゃんと この猫の中に固定されていたらしく、猫はただ眠らされていただけだった。それは陵の魂も同じ。その術を施したのは聖だという。気になるのは この猫、死んでいるような描写がなかったか、ということ。神社の境内で優が それを冷たく眺めているような場面があったはずだが、復活したのか、そもそも死んでなかったのか。


2人がイチャイチャしている中でも さくら たちは戦い続けている。だが長期戦になればなるほど時雨は力を制御を学び、彼らは不利になってしまう。

そんな2人のピンチに駆けつけるのは陵。だが2人に無駄な傷を負わせたのも陵ではないか…? 特に刺された龍には謝罪するべきである。その描写がないのも残念でならない。このメンバーには治癒の力があるので、死ぬこと以外は かすり傷なのだが、それにしても無駄な傷であった。全体的に龍に対して作品が薄情な気がする。

戦いの最中に イチャラブとは ずいぶんと悠長な奴だな、陵…。それが龍の遺言だという(苦笑)

復活した陵は時雨を圧倒。陵が陵として活躍すると対決が秒で終わってしまうから時雨は陵を猫にしたのかもしれない。
そこで時雨は自らを妖に変化させ、陵に襲い掛かる。それでも陵は その状態の時雨の弱点を的確に見抜き、未来の舞いと力を合わせ、時雨を鎮める。ラスボス戦が一番 簡単に終わる。

時雨の怨念を完全に消し去るのは未来の役目となる。前世からの因縁を断ち切るためにも、ここは彼女が相応しいのだろう。前世で記憶から受け取った、時雨の気持ちに応えられない未桜の葛藤を時雨に伝え、彼を破魔矢で射る。人の気持ちに応えられない済まなさ、というのは祇夕に対する嶺羽と ほぼ同じである。本書の最初と最後は、モテない男女が逆恨みをした、という話なのだろうか。そう考えると龍は早く幸せにならないと来世まで追いかけるような人になりかねない…。

時雨の浄化の後に現れたのは、4歳当時の優。彼が短命だったのは彼の前世である時雨の罪が降りかかっていたからだと聖は説明する。その不幸な連鎖を断ち切るために聖は、時雨が納得して浄化するように仕向けていたのだった。聖も未来の兄・青治との出会いがなければ、前世の記憶に蝕まれ闇堕ちしていたかもしれなかったという。ここで聖のことに余りツッコまないのはページの不足もあるだろうが、詳細に説明してボロが出ないようにするためかもしれない。

ようやく自分の人格を取り戻した優だが、すぐに成仏する。だが陵は優との再会、彼の転生はすぐだと直感しているようだ。それは2人の子供として生を授かった時だという。


「あやかし緋扇 エピローグ」…
約束通り、高校卒業後すぐに結婚した2人。お祝いの席では さくら が舞い、龍が琴を奏でている。この神前式には聖は面倒くさがって参列していない。

未来は結婚後は神山家で同居している。その結婚式から1週間後、卒業旅行で4人で京都に来た(龍が運転手)。修学旅行よりも落ち着いた旅行になる。ちなみに本編は わずか3か月間の出来事らしい。

旅行中、未来は治癒の力を不用意に使ったことで、その力を欲する人に縋られてしまう。そのピンチを陵が救う。本編の修学旅行の時と同じく、術で宙を舞っている。未来は能力で誰かを助けられる一方、自分が助ける人の選別をしなければならない。それが辛いなら力を封印するという選択肢もあると陵は提案する。特に この京都では前世の未桜の墓があるので未桜の力を封印するのは割と容易らしい。

空中散歩を楽しんで舞い降りたのは教会の前。そこにはドレスアップした さくら・龍と聖がいた。彼らは打ち合わせ済みで、これは彼らからのサプライズプレゼントだという。ちなみに良いホテルの一室を予約済みというアフターサービス付き。その情報を知り、赤面して固まる2人の様子を見て、さくら は2人が まだ「致していない」ことを知る。交際から2年、そして結婚までしているのに清い関係のまま。

2人が交わる前、未来は力の封印を決意する。それは陵が未来も、そして これから生まれる子供も護るという誓いを語ってくれたことで決断できたことだった。陵は それだけ頼りがいがある人だということだろう。

ただ上述の通り、狙いも分かるが納得がいかない部分も多い。色々と詰め込み過ぎて説明不足が目立っている気がする。