《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

新章突入。黒幕や新キャラ投入で新しい局面を迎えるが、ヒロインの幼稚さは不変です★

あやかし緋扇(3) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
あやかし緋扇(あやかしひせん)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

白拍子の怨霊・祇夕に呪いをかけられてしまった陵。呪いを解くためには,未来の中に眠った能力を呼び覚まさなくてはならない。それには未来の前世の未桜の協力が必要で!? ついに今、未来が覚醒! 未桜の力が未来の中に宿る! ついに未来と陵が祇夕を封印する…!? そして、祇夕の悲しい過去が明らかに! 祇夕戦は序章にしか過ぎなかった。3巻では新たな敵が未来を狙う!陵は?未来は?聖は? さらにパワーアップした3巻、是非ご覧くださいませ。

簡潔完結感想文

  • 聖女の力で悪霊と化した人の心まで癒す。前世での恨みも消え大団円だと思いきや…。
  • 聖女の力を失って、物語は全てリセット。黒幕の存在、新しいキャラ、性的描写の予感。
  • 呪いに続き、傷を負い余命が3日となる男性ヒロイン・陵。未来の行動原理は変わらず…。

トル少女漫画であっても、3巻は三角関係の始まり、の 3巻。

本書の前の連載は3作連続で全2巻で終わったようだが、作者は その2巻の呪いを本書で打ち破ることに成功したようだ。どうやら小学館では2巻の壁は相当 厚いらしい。本書も もし人気が出なかったら2巻で終わっても不自然さはない内容になっているが、雑誌の顔になりつつある本書では その次が用意され長期連載を視野に入れる。

少女漫画誌の連載ながら本書は少年誌のバトル漫画と同じような印象を受ける。少年誌では最初の敵を倒した後、2つの道が用意される。1つは全く新しい敵の出現で 物語をリスタートさせる手法。そして もう1つが最初の敵が実は大きな組織の四天王の内 最弱であった というようなボスの後ろに大ボスを用意する手法である。本書は後者の手法を採る。最初の敵・祇夕(ぎゆう)は黒幕に操られていた存在に過ぎない、とすることで作品世界を地続きにしながら広げていく。

若い読者に合わせたのか再び短期間のタイムリミットを用意したり、過酷な修行シーンではなく本人に眠れる才能を引き出してレベルアップを図る。2011年連載開始の作品だが、この頃からタイパ・コスパを重視するような風潮が見える気がする。この究極系が転生モノなのだろうか。

ただし今回レベルアップするのはヒーローの陵(りょう)だけ。ヒロインの未来(みく)は むしろ『2巻』から弱体化していると言える。味方を癒し、敵を懲らしめるというヒロインらしい能力を手にしたと思った未来だが、それは彼女の前世・未桜(みおう)の力であって未来のではないらしい。未桜が未来の身体から出ていったら能力も消えてしまったらしい。ただし、その未桜の力は未来の中に眠っており、その絶大な能力を新しいキャラに狙われる、という実にヒロインらしい立ち位置を手にしている。未来には特別な力はあるけれど、同時に守られヒロインでもある。そんな読者の理想の立場を未来は手に入れる。

だが能力はあっても精神性は変わらない。彼女の悩みも変わらず、新章になっても同じ悩みを抱え、同じ暴走を繰り返し、同じ失敗をする。ピンチにならないとヒーローの救出劇が際立たないのは分かるが、あっという間に暴走する未来には辟易とさせられる。未来が能力をコントロール出来るようになったら、この旧態依然とした男女の役割分担も変わるといいのだけど…。

未来のような単純な人間がヒーローだったら、彼女の純潔を奪われる前に奪おうと暴走しそうだ。

して一層 少女漫画らしいのが三角関係の成立である。この『3巻』から2人の新キャラが投入され、その内の1人・龍(りゅう)と陵とで未来を巡って争うという少女漫画読者 待望の構図が見える。まぁ これによって当初は当て馬かと思われた聖(ひじり)が ほぼ「要らない子」状態になるのが悲哀を誘うが…。元々 祇夕編からサポート役・壁役ぐらいにしかなっていなかったし。新章では問題に関与することすら少なくなる予感がする。龍は まず聖と当て馬王決定戦を繰り広げて、その勝者が陵と対決して欲しいぐらいだ。当て馬っぽい立ち位置が被る龍と聖の関係性にも注目したい。

そして誠実な陵とは違い、目的のためなら手段を選ばない龍の登場によって少し過激なシーン・性的暴行が解禁された。いよいよ小学館漫画の悪癖が出てきたか。ただし結局は性欲でしか動かない一般の過激なヒーローとは違い本書はファンタジーならではの理由が用意されている。龍自身の性欲というよりは大きな目的のために そうしてしまう、というキャラの擁護が一応は されているが、結局こうなるのか、という失望も隠せない。
ただし誠実だからこそ奥手にもなりがちな陵と対照的な龍の存在は確かに物語を面白くしているとは思う。


は祇夕を弓矢で鎮める。そうして力を失った祇夕に、共に時代を生きた未桜は、なぜ自分が きちんと弔った祇夕が苦しんでいるのか、問う。反対に祇夕は自分が眠る墓に未桜が入ってきたことが、彼女が死文を憎み苦しめるためだと思い込んでいたのだった。けれど未桜が そうしたのは祇夕への親愛の情からだった。未桜に白拍子への道を示してくれたのも、嶺羽に出会わせてくれたのも祇夕だったのだ。

だが祇夕は未桜と嶺羽が愛し合う姿を見て、自分の嶺羽への気持ちを理解した。その嫉妬の心に支配されてしまった祇夕は、自暴自棄になり、舞いで心を浄化する未桜ではなく、病弱で力を持たない嶺羽を殺めた。その時 既に祇夕は妖(あやかし)となっていた。
嶺羽が祇夕を恨んでいないことは彼の生まれ変わりである陵の口から語られる。生前、甲斐甲斐しく看病してくれた祇夕を孤独にしてしまったことを悔いていた。そのことを陵の口から感謝される祇夕。満たされた彼女は そうして墓に戻っていく。しかし妖になった霊は魂の浄化には長い年月がかかるため、すぐには成仏できないらしい。
こうして聖を含めた3人の長い1日は終わる…。


夕編が終わり、未来が悩まされた日常生活の中の霊からの攻撃も収束する。ここで完結しても問題はないだろう。本来の決意通り、戦いを終え、未来が陵に告白すれば少女漫画的にはハッピーエンドだ。むしろ新章突入で未来の決意が無かったことになっている方が問題だろう。素直になれず、成長しない未来は しばらく続くようである…。

新章の前に、夢の中で ここ最近になって未来が霊に狙われる理由が、未来が陵を愛し始めたからだと語られる。呪いは思い合えば合うほど強くなる。未来の兄の守護霊としての力が弱くなっただけでなく、未来と陵の恋愛が進むほどリスクも増す、という新章の波乱を予感させる内容になっている。これは呪いがある限り、恋愛感情を持つ2人はトラブルに巻き込まれ続ける、という終わった物語を継続させる良い言い訳となる。

そんな夢から目を覚ました未来が初めて目にしたのは、陵ではなく彼の弟・優(ゆう)だった。陵の家庭の事情は語られていないが弟がいるという事実には驚いた。兄を呼びに行く優と入れ替わるように陵たちが姿を現す。未来は陵と聖に護ってくれた感謝を述べ、自宅に帰ろうとする。そんな未来を陵が呼び止め、京都で未来が使った未桜の扇を渡す。それは未来の兄が生前 調べ、入手し、陵に託していたものだった。

その話について兄本人に聞くため、『1巻』のように ぬいぐるみ への降霊を試みる。だが前回と違い反応は悪い。それは兄の力が ますます弱まっていることを意味していた。何とか語り出した兄は 未桜の力を狙ってる奴がいると警告する。それは つまり未来の危機は終わってはいないことを意味していた。


が何者かの力で ぬいぐるみ は爆散する。陵は この力は祇夕を操っていた者の力であると伝える。人が妖になるのは本来、術者との魂の契約が必要。祇夕が言っていたように気がついたら妖になる、というのは あり得ないという。最初で最大の敵は誰かの手下。その裏には黒幕がいるらしい。兄の魂は黒幕に封じ込められている現状ということもあり、3人は再度 力を合わせることを誓う。

黒幕の発覚と間を置かず、未来たちの学校に転校生が2人やって来る。怪しい。1人は未来たちのクラスになる桜咲(さくらざき)さくら。彼女は転校早々 陵に接近する。守られヒロインが初めて接する女性ライバルと言ったところか。

唯一ヒロインの座を脅かす女性の新キャラ。ますます未来が焦燥から幼稚な選択をしそうで怖い。

陵は さくらが自分に接近するのは裏があると踏んでいて、未来を自分たちから遠ざけたが、さくら に その真意を聞く前に もう1人の転校生で さくら の弟・龍(りゅう)が、意識のない未来を抱えて登場する。

彼ら2人は未来の持つ強い力が欲しいと言う。そして「種をつけ」て「子を産んでもらう」のが彼らの目的。こういうファンタジー作品は現代的な恋愛観やマナーが通用しない価値観で動く人がいて、ヒロインが性的にピンチ!という展開にさせやすい。いよいよ小学館の本領発揮、という感じでもある。
ただし本書では性暴力は極力 控えるようだ。種をつける、という表現までしているが、無理強いはせず、未来を手なずける、という。

これは つまりは陵のライバルとして龍が動くという一種の宣戦布告である。身勝手な龍の言い分に早速 陵は激怒して反応する。龍に掴みかかる陵だが、これは命を懸けた戦いらしい。龍は術で陵の命を狙う。


識を回復した未来が見たのは血だらけで倒れる陵の姿だった。
これは龍から陵への先制であり、そして未来の精神を切り裂くための作業でもあるのだろう。こうして未来に無力さを植えつけることで、精神的な抵抗を止めさせ、龍を受け入れてしまう心理状態を作り出そうとしているのだろう。新章でも変わらず2人は互いの存在が弁慶の泣き所になっている節がある。

陵を助けようと駆け寄る未来だったが、龍に手を掴まれ彼らの家に来るように指示される。未来が激しく抵抗するため、龍も手荒な真似に出ようとするが、それを さくら が制止。そして未来に、今から病院に運んでも処置が遅く死んでしまう陵を、彼らの力で治す代わりに、龍の子を産む約束するという取引を持ち掛ける。

陵のために未来が自分を犠牲にする、という構図は祇夕編と変わらない。子供を宿す、という問題もあり すぐには返事を出来ない未来。そんな彼女の逡巡を察知した2人は術によって陵の傷を表面上 治す。これは回復の術ではなく、幻術。その効果は3日間。それまでに未来が彼らの家に赴けば、陵の命は救うと約束する。
呪いで1日で死にそうになったと思ったら、今度は3日間の余命宣告。まるで陵が悲劇のヒロインのようだ。そして こういう短い期間での区切りが物語に緊張感を与え続ける要因となっている。


ち上がれるようになった陵は 早速 修行を始めようとする。前回に続いて自分が未来を危険に曝す材料になっていることが彼には許せない。この辺も祇夕編と同じ悩みである。

しかも今回は幻術によって傷や血は見えないが、痛みは残る中での修行となる。それでも陵は未来のために前進を止めない。そんな強さが陵の魅力。だけど同時に未来のために暴走してしまうのが欠点でもある。目の前の大好きな陵が死ぬほど痛い思いをしているのを解放させてあげる手段が未来にはある。そうして互いに相手を想うがゆえに間違え続けたのが祇夕編。今回は その二の舞にならなきゃいいけど…。

陵は神社である実家に戻り父にレベルアップの相談をする。すると父親は陵がまだ扇の持つ力を活かしきれていないことを指摘する。父は3か月の地道な修行の末に力を手に入れたが、陵は それを3日で終えなくてはならない。
ちなみに少女漫画的には絶対タブーな方法だろうが、父親が こんなに強いのなら、初手は父親に任すというのはダメなのだろうか。まず桜咲家の真意を知って、そこから万全の状態で修行を開始する。ここでは父親が現場に出ていけない理由が欲しかったところ。

陵の修行は強硬手段で行われる。父親の力を叩き込み、それに同調することで力を制御するらしい。少年・少女を問わず、短時間で修行する際は 大体 こんな感じである。死までのタイムリミットが短かったり、修行も短時間だったりするのは それが緊張感を生み、手っ取り早さが若者のニーズに合っているのだろう。


だし この同調には凄まじい苦痛が伴うという。本来の傷の痛みあって、陵は苦痛に顔を歪めながら眠り続ける。
このシーンは修行だけど風邪回のようになり、未来が一生懸命 看護する。そして意識朦朧の中で起こるのが熱を出す側は記憶が忘却するキスである。命の危機で本能で動いているのだろうか。でも胸キュン場面という以外は特に意味のないキスである。もしかしたらファーストキスを体験させることによって、未来が望まぬキスが2回目以降になるというヒロインの心の傷の軽減のためかもしれない。つまりは ここから未来は誰かに強引に唇を奪われかねないということでもある。しかも その「誰か」の筆頭格の新キャラも存在するし…。

2日目の夕方、優と一緒に陵の顔を覗き込んだ未来は陵の顔が青ざめていることに気づく。その異常事態に未来の悪い部分が顔を出す。それが陵を助けるために自分を犠牲にする、という既視感たっぷりの行動である。陵が頑張っているから未来も頑張る、ということなのだろうが、挑戦と同じ数だけ失敗していることを学ばない所に未来の頭の悪さを感じる。


然、飛んで火にいる夏の虫。未来は秒で閉じ込められる。その場所には龍もいて、陵の命の危機を囁かれ、未来は龍の思い通りになるしかなかった。

龍は未来をベッドに誘うが、乱暴なことをせず、龍が少し触れただけで未来は涙を流す。そんな彼女を龍は どうにか慰めようとする。どうやら本当に時間をかけて未来と合意のもとに結ばれたい純情な青年らしい素顔が見える。泣かせてしまった罪滅ぼしとして龍はアクセサリーを未来に あげようとしたり、不器用さが半端ない。
しかも龍が渡そうとしたのは この家の家宝の首飾りらしい。そんな不器用な弟を姉の さくら は叱りつけ、目的のために動けと命じる。そうして洗脳状態になったかのように、龍は未来に強引に迫る。

いよいよ純潔が奪われそうになった時に現れるのが、覚醒した陵であった。当然 未来の独断専行に彼は怒っているが、その前に龍とのリベンジマッチが始まる…。

最初の龍が不器用な森のくまさん状態なのは、彼の本質は本当は こちらであるということを示し、読者への緩衝材になっているのだろう。最初から強引な性暴力に及ぼうとすると読者に嫌われかねないが、こうして不本意ながらの性暴力とすることで彼の名誉を辛うじて守っている。