《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

生徒に楽しんでもらおうと修学旅行で先生が企画した 死のスタンプラリーで仲間割れ。

あやかし緋扇(8) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
あやかし緋扇(あやかしひせん)
第08巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

前世からの絆で繋がった唐沢未来(からさわみく)と神山陵(かみやまりょう)。そして時雨の復活のため未来の力を手に入れようとする未来達の担任・聖(ひじり)。前世と現世が交錯するあやかしワールド、いよいよ核心の京都修学旅行編に突入!

簡潔完結感想文

  • 旅先あるある。ヒロインに近寄る者をヒーローが眼光で相手を射すくめる描写。相手 霊だけど。
  • 旅先あるある。友達たちに見つからない2人だけの場所でキス。術を使って空 飛んでますけど。
  • 旅先あるある。生徒が教師に刃向かう。短刀で殺そうとしますけど。そして三角関係 悪化しがち。

て馬・龍(りゅう)が、暴れ馬になる 8巻。

京都への修学旅行回では龍が大活躍。教師を刃物で刺したり、仲間に刃を向けたり、京都が地元だからか なかなか粋った行動を見せている。修旅の日程1日ごとに立場が変化していて、龍のメンタルは安定しない。この不安定さが物語の面白さに大いに貢献している。

何より闇堕ちのミスリードで龍が果たした役割は大きい。陵(りょう)に恋していた双子の姉・さくら が、彼の未来(みく)への気持ちの大きさを知って、その恋心を自然消滅させたのとは反対に、龍は自分の未来への大きすぎる気持ちの行き場がなく悶々としていた。陵と未来のイチャラブを見ると闇堕ち寸前になっていた龍。その 持て余した恋心を化学教師・聖(ひじり)に見抜かれ、龍は聖に闇堕ちを勧められていた。恋愛の不安や焦燥は いつだって仲間をピンチに陥れるのが少女漫画のバトル物の宿命。未来と陵の結束が強くなって、未来が失敗しない代わりに龍が危ういメンタルになっている。

一度は聖の勧誘と決別しようと彼に刃向かう。それは文字通り、聖を短刀で刺そうとすることだった。龍も悩んだ末の行動だったのだろうが、事情を知らない者から見れば、修学旅行中に学校の先生を いきなり刺す危ないヤツである。物静かで、普段は少しくらい生徒が修学旅行先で教師を刺した、というニュースは大々的に報道されそうだ。

彼女が、自分のために他の生徒の犠牲するのを望まないと信じる陵と、未来のことしか考えない龍。

だが聖から とある話を聞いて、龍は一時的とはいえ聖側に付く。そこで明かされる本当に闇堕ちする人の名前には心から驚いた。龍と思わせて…、という意外な真相で、今後の展開が怖くもあり楽しみでもある。まぁ龍の活躍的に考えれば、闇堕ちのミスリードも真犯人の噛ませ犬であって、この辺も当て馬と言う立場でしかないのが可哀想なところ。こうなったからと言って未来が龍に乗りかえる訳がない。いや、そうなったら少女漫画的に かなり意外な展開で面白いけど。ヒロインの心変わりや浮気は、作者が闇堕ちする覚悟がないと出来ないだろうなぁ…。


『8巻』の龍はサポート役としても優秀である。龍と言うか式神が万能すぎる。ドラえもんの秘密道具ばりに、通信機能があって無限に使えるミサンガ(言葉の伝達の式神)や、本人とそっくりで軽い受け答えが出来る身代わり人形を用意する(これも式神)。

そして この身代わり人形の お陰で未来たち4人は学校の集団行動から離れ、目的のため自由に京都中を動き回れる。その目的の一つが、敵の黒幕・時雨(しぐれ)の亡骸(なきがら)の発見である。なんと亡骸の発見機能も龍にはあるようで、ある程度 絞り込んだ範囲であれば その人の墓を発見できるらしい。便利過ぎる。
更には その墓の前でなら特定の相手の魂と その墓の記憶を融合させることまで出来るらしい。閻魔(えんま)の式神らしいが、そんなのを使役できるほど龍は強いのだろうか。

確か さくら と龍の姉弟は、一家に受け継がれた能力が減衰していて、家の再興のために未来の能力、ひいては未来の子供を欲していた。にもかかわらず、龍の力は使いようによっては無敵にも見える。龍も陵同様に、麟夜(りんや)と戦うための春休みの合宿以降、自分を磨くことを継続していたから、その成果としてのレベルアップなのだろうか。陵のように力を覚醒させた場面がないので、龍の意外なサポート能力には驚かされるばかりだった。まぁサポート役として優秀でも、恋でもバトルでも相手に とどめを刺せないのが龍の損な役回りなのだが…。


の本拠地ともいえる京都への修学旅行回。

その出発前から不穏な描写がある。未来が陵の実家である神社から連れ帰った黒猫がベランダから飛び出し、マンション前の道で待っていた聖の腕に舞い降りる。聖は前回、敵の術師であることが発覚した男。そして未来の担任であるから修旅にも一緒に行く。その聖が わざわざ待っていたということは この黒猫も京都に行くのか…⁉

そして京都で別行動をする時に備えて、龍の術で身代わりを用意する。
ここで思ったのが、本書は未来たちに学校生活を絶対に送らせる、という強い意志を感じるということ。これまでも祇夕(ぎゆう)編では週末を利用して京都で死闘を繰り広げ、その休み明けから すぐに普通に学校に行っていた。次の麟夜との戦いは春休み中に合宿とバトルをしており、ここも学校を一日も休んでいない。そして今回は修学旅行を使っての戦い。本書は どれだけ学業優先なのか。自分が死ぬかもしれない、それどころか天下を取られる国の存亡の危機であるのに、親に心配させない程度の日常生活を乱さない。若い読者層に向けた学校 行きな、というメッセージなのだろうか…(笑) っていうか、式神で自分のコピーが作れるなら、もう平日バトルを解禁しても いい気もするけど。

冒頭の黒猫、各種式神で京都に到着する前に今後の展開の準備を整えている感じである。

しかし どうでもいいけど、この新幹線の中の1コマ、龍が めちゃめちゃデカくて笑いが こみ上げてくる。未来たちが160cm前後という設定に対し、この龍は2mを超えているのではないか(公式発表では184cmなのに)。子供の中に1人だけ大人が混じっている という印象でもなく もはや異生物のようだ。進撃の巨人感があるなぁ。

右ページ(右下)のコマが惜しい。身長差50cmの恋愛を描いた雪丸もえ さん『ひよ恋』を思い出す比率だ。

幹線内の会議で4人は京都で時雨の転生先の覚醒があるという推論に達する。祇夕の時のように、埋葬された墓の場所が分かれば打つ手段もあるのだが、時雨の墓は不明のまま。聖よりも早い その発見が彼らの勝機か。

京都は かつての都だけあって、人の死にまつわる場所が多く、渡る世間は霊ばかり状態。そこに戸惑う未来に陵が手を差し伸べ、眼力だけで霊を委縮する。それぐらい陵は強い存在らしい。

縁結びの神社での占いの結果が悪く、ネガティブになりそうな未来を察し、陵は人目につかない場所で彼女にキスをして気分を立て直させる。その場所が物陰などではなく、陵が術で空中に舞い上がる、というのが本書らしい奇抜な所。それに陵が こうやって早めに未来の機嫌を直させないと、肝心な時に恋愛問題が足を引っ張るのは目に見えているから、良い選択だ。


のところ闇堕ちフラグが立ちまくっている龍だが、聖の勧誘に対して拒絶する。その拒絶を示す方法として聖をいきなり短刀で刺そうとするのは物騒だ。誰かに見られたら学校の生徒が教師を逆恨みしての犯行などと誤解されかねない。

だが他の3人と違って聖を殺すことに迷いがない黒い龍の感情を聖は気に入る。自分たちの仲間になれば陵から未来を奪える。そして それこそが嫡男として この家を建て直すための目的を果たすことだと聖は龍に囁く。

その夜、さくら から龍の具合が悪そうという話を聞いた未来は彼の様子を見に行こうとするが、その行動を女子生徒たちに問い詰められる。そこで女子が男子部屋に行くという普通の修学旅行の夜となる。
王様ゲームをしたり、隠れて部屋でキスをしたり、普通の男女の高校生がするようなことをした初日が終わり、そして普通ではない1日が始まる…。


2日目は式神を使って、4人は学校の生徒たちとは別行動を取る。
目下 最大の敵である聖は、身体の持つ力は ほぼないと推測される。それを補うために道具を駆使しているらしい。『1巻』の試験管投げも、聖と化学教師の関連グッズだけでなく彼の能力の欠如を埋めるために使っていたのか。

どうやら聖も未来同様に、前世の墓の前で魂を同調させると力が復活するという。時雨と聖の前世の お墓探しが京都ですべきことのようだ。

だが、彼らが動く前に聖の術中に はまってしまう。
聖は学校の生徒たちがスタンプラリーをすることを逆手に取り、スタンプを押した者の魂を紙の中に閉じ込める術を施していた。未来が不用意にスタンプを押したところで術を発動し、未来と学校生徒たちの魂を人質に取る。特に未来の魂の入った紙は聖の体内に呑み込まれる。30分以内に市内6か所から、生徒たちの魂の入った紙を揃えて聖のもとへ持ってくれば、未来を解放するという。いきなり時間制限付きの「死のスタンプラリー」の始まりである。

残された3人は手分けするが、残り1か所で5分前を迎える。聖のもとに行かなければならないが、陵は他の生徒の人命を優先する。それは未来の願いでもあると彼は信じているから。聖は未来の命を奪わないという楽観的な観測も陵にはあった。


が そんな陵に龍は激怒し、彼は聖のもとに向かう。聖は陵も揃わなければ未来は助けないと言う。だが龍の力で、この一帯のどこかに眠る時雨と聖の前世の亡骸を見つけることを条件とする。

緊張感を漂わすために30分の時間制限と死のスタンプラリーが行われているのは分かるが、これが聖にとって何のメリットになるのかは不明
だ。未来の命を手中に握っている時点で陵たちとの取引は成立するだろう。そうして龍の能力を使わせれば良かっただけなのに。お人好しの陵の性格を使って、彼と龍を引き離すという意味では成功しているけど。30分後に死ぬ術というのも よく分からない。未来の魂を助ける際には 胃から再びスタンプラリーの台紙を取り出すのだろうか…。

陵は最後の1か所で雷の神様の力までも借り、どうにか他の生徒全員を助け出す。その後、陵は龍の式神に導かれ、関係者は全員集合する。

だが目を覚ました未来が見たのは、陵に刀を向ける龍の姿だった。なぜ彼が そうするのか、そして さくら がなぜ そんな弟の蛮行を許すのか。それは聖から聞いた時雨の生まれかわりの話が原因だった。
なんと時雨の生まれかわりは陵だという。陵が持つ前世の記憶は、祇夕編で泊まった梅の木の記憶に過ぎないと言う。その証拠に陵は前世の記憶を限定的にしか持たない。それは陵自身も否定できない事実のようだ。


は陵が時雨の前世なのか確かめるために一時的に聖に手を貸している。時雨の墓を探したのも彼だろう。その動機は未来のため。彼女が笑っていられる人生を送れないのであれば、陵を排除することも厭わないのだろう。聖を殺しにかかったり、龍は なかなか過激派である。

陵は、龍の術によって時雨と魂を結びつけられる。これで本当に陵が時雨であるならば、彼は時雨として目覚めると言う。やっぱり龍の術、万能すぎないか?

結果が出るのは翌日になるらしく、陵は眠り続ける。聖や龍の行動を受け入れられない未来は、陵の身体を自分で宿まで運ぶ。そんな2人の姿を、未来の家の飼い猫が見守る…。

それから陵は1日以上 眠り続ける。だが目を覚ました陵は未来の首に手をかけ、時雨の恨みを口にしながら彼女を殺そうとする。未来の呼びかけに正気に返る陵だったが、時雨である前世を思い出し苦悩し、未来を遠ざける…。

もう揺るがないと思った2人の関係だったが、運命が彼らに牙を剥く。前世からの宿命の恋、という前提が崩れた2人は、この問題に どう対処するのだろうか。続きが気になる。