《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

「告白するする詐欺」の次は「黒幕いういう詐欺」。更には「裏切り だれだれ疑惑」が発生。

あやかし緋扇(6) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
あやかし緋扇(あやかしひせん)
第06巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

未来(みく)は死んだ兄・青治(せいじ)の魂を救うため、前世の力を引き出す特訓を始めます。そんな折、未来の前に霊を操る少年・麟夜(りんや)が立ちはだかります。麟夜との戦いの前に陵(りょう)に告白した未来。両想いになった2人の絆は一層強く、その力で未来は麟夜に立ち向かうのですが!?大人気和風ファンタジーラブストーリー、第6巻!!

簡潔完結感想文

  • 圧勝できるはずの雑魚戦なのに、恋するナイーブな男心が大ピンチを もたらす。
  • 兄によって語られる千年前からの因縁。来世では愛する資格があるといいね…。
  • 未来は そろそろ陵の重すぎる想いを理解するべき。ストーカー思考だよ、その人。

切り者探しのために人間不信に陥る 6巻。

バトルの続きから始まる『6巻』。少女漫画らしいと思うのは、ヒロインも戦いの場にいるということだろう。少年漫画ならヒロインは離れた場所から主人公の帰りを待つというパターンが多いだろう。いや、最近の少年漫画はヒロイン役すら必要としていないことが多いか(もちろん全てではないが)。

ヒロインが一緒に戦うことでヒロインの強さが描かれるのだが、それによる弊害もある。それが戦いの最中にも恋愛が持ち込まれる、という点だろう。これがバトルのノイズになる。だから少年漫画ではヒロインを隔離して、彼女が危険に晒されることのないように しているのだろう。そうして恋愛を戦場に持ち込むんじゃねー、という非難を回避している。

だが本書では恋心による胸の痛みが隙を生む。ただし その原因はヒロインの心の乱れではなく男性キャラの方にある。本書は男性の方が繊細で、慎重に扱わないと暴走しかねない部分がある。今回の敵が弱く、圧勝しないように加えられた演出なのだろう。そして こういう役回りを与えられてしまうのが、当て馬・龍(りゅう)の悲しいところである。

これまではヒロイン・未来(みく)の浅慮によってピンチになることが多かったが、今回は未来の「戦うヒロイン」としての初舞台であり、彼女が間違えることは作品的に許されなかったと言える。だから愛する陵(りょう)がピンチになっても、いつものように迷って力が出せない ということもなかった。今回は任務を全うすることで彼女が戦力となり得ることを証明し、そして強い精神力を持ったことを示している。

今回の戦いの相手も雑魚だったが、修行したのに、相対的に龍は弱体化しているように見える。何だか「闇堕ち」の気配がプンプンするし、敵の発言で波紋を呼んだ「裏切り者」の筆頭候補にもなっている。

最後の最後まで明かされないであろう黒幕の前に、仲間から裏切り者を探す人狼ゲームが開幕!

裏切り者の存在を示唆され、本書は人狼ゲーム状態となる。この犯人捜しのサスペンス要素が面白い。黒幕かと目された人物の後ろにいる本当の黒幕、というエンドレスな黒幕探しに徒労感を憶えていたが、身内の中に裏切り者がいるとなると俄然 興味が湧く。そして未来の裏切り者探しの過程が一人一人と もう一度 絆を結び直すエピソードになっていて、仲間や恋人との結束が再確認されていく。本当に信じられる人が増えることで、彼らはまた強くなるだろう。

黒幕の存在だけでなく前世や子孫という ややこしくなりかけた設定がある中で、作者は ちゃんと読者を牽引する魅力ある謎を用意しており、読者は先へ先へと誘(いざな)われる。やはり物語が動き続けているという感覚を失わせないことが本書の魅力だと思う。


1人で舞う大役に加えて、絶対に失敗が出来ないというプレッシャーを感じる未来。そんな彼女の力みを見抜くのは陵で、未来は彼の気遣いにドキドキしてしまう。

龍の能力によって、麟夜(りんや)は未来たちの姿を認識しない。その条件があることで発動まで時間がかかる舞いも可能になる。そうして未来は陵と両想いになれた喜びを今様(うた)に込める。だが その戦場でのイチャイチャが思わぬ波紋を呼ぶ。今様(うた)の意味に気づいた龍が心を乱し、幻を見せる術が解けてしまった。
そして未来が見つかり捕縛されかけるが、それを陵が護り、彼の命は麟夜に握られてしまった。ここで未来が精神を乱さず、兄の霊を解放できるだけの舞いを続けられたのは未来の精神的な成長だ。これまでの未来なら取り乱して、事態を一層 悪化させただろう。

こうして人質となっていた兄の霊を保護し、麟夜へフルパワーでの攻撃が可能となった。陵は彼の力を吸い尽くす術を施し、麟夜を抜け殻同然にする。

無抵抗となった麟夜を陵が尋問するが、彼は愉快犯だと主張する。未来の能力にも興味はないと言う。麟夜もまた黒幕の手下である可能性に陵は思い当たるが、麟夜は彼らが仲間だと思っているメンバーの中に裏切り者がいることを示唆する。麟夜が黒幕の名前を言う前に、彼は何者かに魂を抜かれてしまう。これは麟夜に上位存在=本当の黒幕がいる証拠となる。

最終決戦のように覚悟を持って挑んだ戦いだったが、黒幕がいると分かり徒労感を覚える未来。そして裏切り者がいるという言葉に心を乱されるが、陵は未来の兄の霊を保護できただけでも前進だと彼女を慰撫する。そうして再度2人だけの世界に入る彼らを見る龍の目は黒い…。


うやら この合宿の期間は春休みと重なっていたらしい。学校を休んだりはしていないようだが、未来の家族への言い訳が どうなっているのかは心配だ。

未来と陵は、陵の家で未来の兄・青治(せいじ)の霊と最期の対話をする。兄との永遠の別れを前に、未来は笑って別れられるよう自分を強く保とうと努める。青治は彼の前世の姿をしていた。なぜなら彼の前世が、陵を この神山(かみやま)家に転生させ、未来を救い出すための千年前からの計画を練った張本人だったからだ。

千年前、陵の前世・嶺羽に仕えていた青治の前世は、黒幕の術者との闘争に負け亡くなる。それもあって嶺羽まで呪いにかけられ命を落とすこととなる。そのことを謝罪する青治の前世を許す陵だったが、その黒幕と術者が今の世に転生していることを告げる。千年前の、黒幕の前世の名は時雨(しぐれ)。嶺羽の異母兄弟であるらしい。

青治の前世は、自分の子孫が神山家だという。未来の前世・未桜(みおう)と嶺羽(りょうは)の子孫は さくら たち桜咲(さくらざき)家の姉弟。前世の転生と子孫という2つの系統があって混乱するなぁ…。


して神山家の現当主である陵の父によると、現世での兄は陵が誕生する前、10歳の時に「転生の儀」を神山家で行ったらしい。その直前に自分の前世の記憶が甦り、そして予知夢を見た。それは転生の儀に関する知識だけでなく、妹の未来が未桜の転生として生まれてくること、その後の自分の人生(その死と守護霊としての役割)まで見たらしい。10歳にして あと6年の命だと悟る彼の心境は いかばかりか。兄が重度のシスコンだったのは、まさに命を懸けて守る対象だったからでもあるのだろう。そして茶化してはいたが、前世の彼は未桜が好きだったから、ここまでやれたのだろう。来世こそ彼は恋愛できる立場で未桜の来々世の女性と巡り合って欲しいものだ。未来は陵と龍の2人との三角関係かと思っていたが、変則的ではあるが、青治にもしっかり愛されている。彼女には守られヒロインだけでなく愛されヒロインの称号も与えよう。

兄が見た予知夢は、今 この時点まで。これから先は兄の護りはなく、2人が仲間たちと共に紡ぐ未知の世界となる。こうして全ての役目を終えた兄は成仏する。会えないことは辛いが、死後 誰かに操られたりするリスクも無くなった。彼のためにも未来たちは黒幕に打ち勝たねばならない。

今世は未来の兄という立場で、しかも前世で仕えていた嶺羽(陵)がいたが、来世では恋愛バトルに参戦する!?

の日の帰り、未来は神社の敷地内で陵の弟・優(ゆう)と黒猫を見かける。優が家族に内緒で猫の面倒を見ていることを知った未来は、自分が飼うことを提案する。猫の存在は2人の秘密、ということになるのだが、この後、陵に家まで送り届けられた未来が どうやって猫を隠したのかは謎である。

まだまだ戦いは終わらないが、新年度となり学校生活が再開する。だが2年生では陵と別のクラスになってしまう。一緒に戦った4人は女性組と男性組に2クラスに分かれてしまう。ちなみに久しぶりの出番となる化学教師・聖(ひじり)は未来のクラスの担任となる。だが陵は聖に、彼の かつての親友である未来の兄が成仏したことを話していなかった。その話を聞いた聖は激怒。陵は聖に連絡をしたと嘘をついていたのだ。

未来は陵の真意が分からないところに、聖から陵が黒幕ではないかと推理を聞かされ彼への疑念が湧く。そこへ恋愛問題が絡み、事態はややこしくなる。
未来は黒幕ではないと証明しようと陵に駆け寄ろうとするが、陵が同級生に未来との交際について聞かれている場面に遭遇する。凶暴な未来を揶揄する彼らに陵は怒るが、一方で、未来は「彼女ではない」「そういう対象として見たことがない」と断言する。それを聞いて陵は自分を好きじゃないと勘違いする未来。そんなわけ あるかい!という話なのだが、それを信じてしまうのが未来という少女漫画ヒロインである…。


うして誰かの攻撃とかではなく、未来は今にも魂が抜けそうな状態になる。そんな状態で学校イベント・1泊2日のオリエンテーションが始まる。

だが今の未来には自分を心配してくれる人がいる。さくら という同性で同じ能力を持つ仲間がいることが未来の助けになる。未来は陵 黒幕説を隠しながら、陵の気持ちが分からないことを さくら に相談する。さくら は今更な未来の誤解に激怒する。
そこで さくら は合宿中に自分が実行した夜這い と その顛末について未来に正直に話す。夜這いで陵を襲った さくら だが、返り討ちにされ、そして その行動の真意まで陵に見抜かれてしまった。さくら は陵に好意を持っておらず、自己承認欲求のために男性から愛されたかっただけ。夜這いも その一環。まったく龍といい、この姉弟は性的欲求を満たすことで自分の不足を埋めようとしているのか。

そして陵は性的な誘惑にも一切 動じなかった。なぜなら未来に自分の全存在を捧げているから。

こうして未来の恋愛的な心配は消えていく。そして率直に自分の心配事を話し、それに さくら が誠実に答えてくれたことで、ライバルだと思っていた彼女と真の友人に なれた。このエピソードは良いですね。さくら の恋心を傷つけないために、彼女の恋心の存在自体を消してしまうのは ちょっと可哀想な気もするが、女性同士をフラットな関係にすることで、真の仲間となる。これで さくら は裏切り者から除外されたかな?


の夜、肝試し大会が開催される。万が一に備え、聖が徹夜で決壊を張っておいたはずなのだが、旧校舎の中には霊が うごめいていた。美玖を助けに来た陵によると、霊たちは人為的に集められているらしい。そして それが裏切り者の仕業であると陵は見当をつける。怪しいのは龍か聖か。ミスリードを狙うという点では さくら も、直前に仲良しになり安心させた怪しいか。

陵が穏やかに霊たちを成仏させた後、2人きりであることを利用して未来は陵に自分が見聞きした「彼女じゃない」発言について陵を問い質す。その真相は陵にとって「彼女」という表現で未来を指すのは あまりにも軽いというものだった。つまり陵は未来を婚約者、将来の妻として考えているからだった。未来のファーストキスの相手に思い悩んだり、陵の想いは いちいち重い。もう少しライトになって、戦いの際には多少 割り切って未来が傷つくことを受け入れてくれるといいのだが。

だが早くも未来にピンチが到来し…。