《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

余命1日の呪いにかかった人の前で、その人の命より自分の顔のコンディションを気にするヒロイン。

あやかし緋扇(2) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
あやかし緋扇(あやかしひせん)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

あなたの恐怖も孤独もぜんぶ、僕にください! 不特定多数の霊に命を狙われるようになった未来。霊の殺意が未来に襲いかかる。そんな時、化学教師・聖の出現により、未来の兄の死の原因が陵にあったことを未来は知ってしまう。「僕の命を捨てても、未来さんをお護りいたします」。怨霊の正体を探り、未来をのろいから解き放つために、陵の緋扇が舞う!!

簡潔完結感想文

  • いきなり お泊り回。守るために男性教師と女子生徒(と男子生徒)が同室ですけど、何か?
  • 作品的には緩急をつけるためなのだろうが、未来のネガティブ思考が何回も繰り返されて辟易。
  • 未来に戦う力が宿り やっと守られヒロインから脱却。仲間を癒し 悪を呪う能力は まさに聖女。

世とか この恋には関係ないけど、読者は前世とか大好きです、の 2巻。

『1巻』では学校や自宅など狭い半径で起こる心霊現象に対処するオカルト物という印象だったが、この『2巻』から作品にファンタジー要素が導入される。それがヒロイン・未来(みく)とヒーロー・陵(りょう)には宿縁があるという設定だ。

そして この前世での未来=美桜(みおう)の能力により、これまで「守られヒロイン」だった未来が陵に並び立つことが可能となった。オカルト話もだが、前世の能力を継承するとか覚醒するとか、厨二心を絶妙に くすぐられる内容である。
しかも この能力は味方を癒し、敵を鎮めるという聖女っぽい能力で、まさにヒロインの特権。必殺技というよりも浄化技といった感じで、こんなに際してのカタルシスとなるような役割になるのか。今後の展開で、未来と陵がどのような立ち位置になるのかが楽しみだ。ヒロインはサポートに回るのか、それとも陵が攻撃している間に未来が力を溜め、彼女が能力を解放することが最終浄化になるのか。


の能力により、未来は ずっと悩んでいた「守られヒロイン」の苦悩から解放されるはずだ。というか そうであって欲しい。この『2巻』は、終盤まで未来がイジイジして、本当に腹立たしいと思うぐらいだった。
ちゃんと読めば、これは彼女の性格と立場がミスマッチしているからこその苦悩だというのは分かるし、未来が悩んでいる描写を挟まないと、物語が単調になってしまう恐れがあるのも理解する。

陵は未来のためなら命を差し出す覚悟を持っていて、だからこそ危険に躊躇しない。そんな陵が物語の主導権を握ったら、イケイケの展開になるだけで、物語に緩急が生まれないだろう。そんな彼を案じるのが未来の愛であって、ブレーキ役の彼女がいるからこそ物語が暴走しない。同じ「好き」という気持ちを持っていても その表出の仕方は それぞれに違う。そんな根本は同じだけど相容れない部分もある2つの視点があるから切なさが生まれる。

いや、それにしても この時点の未来は酷いけど。一番 酷いのは、今回のタイトルにもした、陵にかかった呪いの真相を知るための前世の記憶へのダイブを中断する理由だろう。陵の命が あと1日で、前世では その呪いを解けなかったから愛する人は死んだ。それなのに前世の自分の顔が醜く歪む所を陵に見られたくないという理由で、未来は記憶の再現を拒絶する。こういう幼稚で自分本位なところには かなり辟易とさせられる。いや、恋する乙女心が ちゃんと表現されている良い場面なんですけどね。

陵から見られることを意識するようになった未来。その変化は分かるが、今じゃないでしょ!

しかも これが1回ではない。陵が少しでも傷つくと未来は そこで いちいち立ち止まって同じ問答を繰り返す。1人でも大局を見られない人がいると全体の足を引っ張る。どこかの国の元首相の失言ではないが「女性がたくさん入っている会議は時間かかる」状態である。未来が一刻も早く陵の呪いを解くことが、彼の命を救い、苦しみを最小限にする、という事実に気づいていないのが痛々しい。

ただし これは、これからの未来の変化の違いを表すためかもしれない。こんなに幼稚だった未来が、目的のために最短距離を走れるようになった、という変化の描写があれば、今回の描写が幼稚さを際立たせるために必要だと分かる。成長しなかった時が怖いが…。

今回の物語の決着は勿論、そういう未来の成長・変化が どう描かれるのか、続きが気になる所である。


来の部屋に集まった複数の霊の除霊に陵は成功する。
だが その際の音に未来の母親が気づき、未来を心配する。ここで起こるのが修学旅行の見回りの先生が来た時の恒例、一つの布団に2人で入るというイベント。『1巻』で あまり意図が分からなった陵を母に無断で潜入させる意味は、こういうドキドキなイベントを起こしたかったからだろう。本書は真面目すぎても暗くなりすぎる内容だものね。

部屋にまで霊が集まってきたように、現在の未来は不特定多数の霊に命を狙われている。だが それは未来にとって好きになった陵を危険に曝(さら)すことでもあった。だから それを上手く受け入れられない。この辺りは思考が堂々巡りしている。

そこで陵は自分がなぜ未来の兄を死なせてしまった原因になるのかを話す。11年前、陵は霊に導かれ車道に出た未来を助けたが、助けた油断から自分も霊に掴まってしまった。その2人の子供を助けたのが未来の兄だった。
その時から陵は未来のためなら命を捨てられる。それが大好きな人(未来)の大好きな人(兄)を奪ってしまった自分の使命だと彼は思っている。そんな陵の悲壮な覚悟を知って、未来は陵に護られることにする。ただし死ぬことは許さない。一生 一緒にいるために、生きるために戦うことを願う。


来が霊に狙われることについて、化学教師・聖(ひじり)には一つ当てがあった。そこで生前の未来の兄から聞いていた場所に3人で向かう。幼い頃の未来の様子が おかしくなったという その宿には1本の梅の木があった。陵は扇を通して梅の木の記憶を辿るが、その記憶を見終わった途端、霊に襲撃されてしまう。

その霊は陵に呪いをかけた。早くも陵を危険に曝してしまい混乱した未来は、昔のように様子が おかしくなる。「1日以内に呪い かけた奴を倒さなきゃ陵が死んじゃう」と その呪いを知っているかのような口ぶりとなり、その直後に意識を失う。

その呪いについて説明をするのは陵本人。陵は自分にかけられた呪いの知識を持っていた。混乱した未来が言った通り、自分の命が1日であることも把握している。そしてこの宿の梅の木から伝えられた記憶は未来と陵、2人の前世にまつわる話だった。呪いをかけた霊は前世で因縁のあった相手。その人が悪霊となり今生でも命を狙う。


は一瞬 見えた その霊の服装を「白拍子」だと見抜いた。白拍子とは平安時代末期から鎌倉時代にかけて流行した歌舞の一種で、それを演じる人も指す言葉らしい。

悪霊もそうだが、未来の前世・未桜(みおう)もまた白拍子だった。陵は前世では嶺羽(りょうは)といい、悪霊は祇夕(ぎゆう)という。

前世では祇夕の居場所が分からず呪いを解けなく死んでしまったが、今の陵は未来の前世の記憶を通して祇夕の居場所を知ることが出来る。こうして梅の木の前で2人は前世の記憶を共有する。
だが前世の未来・未桜は、愛する人を呪い殺され鬼の形相をしていた。未来は そんな醜い顔を好きな陵に見られたくない=自分が嫌われたくないので陵が知り得ないからこそ知りたい、彼の前世・嶺羽の死後を見ることを拒む。
陵は未来が自分を好きな人と言ったことに驚いているが、目の前で人が死ぬかもしれない事態に自分の体面を気にする未来は いかがなものか。この時点では まだ一方的に護られる側であるから、その幼稚さが陵を何度も危険に曝していることに苛立ってくる。

更には自分が陵を好きと口走ったことを指摘されても、未来は好きになるわけないでしょ!?と裏腹な気持ちを告げ、陵を傷つけ、自分を守る。そんな未来に対しても陵は優しい。前世と現世は必ずしも関連しない。来世で愛し合おうと前世の自分たちが約束していても、しばられる必要はないというのが陵の見解。それは未来に未来として自由に生きて欲しいという彼の願いだろう。そして陵も、未桜ではなく未来を好きになった。この気持ちは本物であると未来に愛を告げる。

そして その深い愛は、前世での醜い顔を見ただけで揺らぐものではない、と未来を説得する。改めて未来は陵の器の大きさを感じる。そして その強さに並べるように、無事に帰った後は ちゃんと告白しようと心に決めた。

陵の この考え方は好きですね。前世からの運命は少女漫画読者は大好きな設定だが、それは今生の恋愛の軽視になりかねない。その危険性を陵は早めに払拭してくれていると言える。陵は前世の無念を晴らすためではなく、未来その人のために動いているという信念は絶対に揺るがないのが良い。

それに この中断は、前世の記憶を一気に見せないための手法でもあるのだろう。一気に記憶だけ見せられても読者は前世の彼らに思い入れが生まれない。2人は前世とは切り離して物事を考えられているが、物語的には この前世との繋がりがドラマ性を増幅させる。だから きちんと読者に それを届けなくてはならない。冒頭の2人のベッドイン同様に、描き方によっては暗くなってしまう内容をどうにか中和しようという試みでもあるのだろう。前世を知って欲しいが、彼らに物語の主導権を奪われてはならない、という絶妙なコントロールにも思える。


世で未来=未桜は、悲しみの絶望の中、祇夕のいる場所を突き止める。祇夕は嶺羽を慕っていたが、未桜に奪われた。その屈辱が彼女を変えてしまった。妖(あやかし)に魂を売り、そして来世でも彼らに呪いをかけると予言する。
未来から陵たちが覗いていることを、記憶の中の祇夕は気づく。そこで前世の追体験は終わり、未来は フラフラと どこかへ歩き出す。陵は それを追い、聖は事態を解決する「もの」を取りに行き、後から合流することになる。

覗きがバレたことで未来は祇夕の支配下に置かれる。祇夕の前で陵の首を絞める未来。今生でも2人が死で別たれることが祇夕の気持ちを満たすのだろう。途中で自我を回復し、自分が何をしでかしているのか未来は理解する。身体の自由は奪われたままだが、どうにか自分の手を傷つけることで陵を守ることに成功する。呪いもあって陵が万全でない中、未来は自分の足で立ち上がる。

だが勇敢に祇夕に立ち向かっても敵わない。絶体絶命の中、未来は祇夕から取引を提案される。祇夕の本命は、陵ではなく恋の邪魔者である未来の命。だから陵を助ける代わりに未来の命を差し出せ、という。更に祇夕の精神攻撃は続き、未来がいることで兄や陵が不幸になることを指摘する。そして そうして彼女を苦しめているのが祇夕だということも判明する。


うして存在価値を失った未来は、自分の死を受け入れる。祇夕の術が未来に襲い掛かる瞬間、遅れて到着した聖が姿を現し、術から未来を救う。この時の聖は どうやって未来たちがいる場所を把握していたのだろうか。謎である。

そして聖は どこから取り出したのか、呪いを一時的に和らげる薬、という都合の良い便利なアイテムを陵に飲ませる。こうして祇夕に対抗しうる戦力が整う。聖が取ってきたのは祇夕を封印するための2つのキーアイテムだった。聖は自分が盾になり、2人に反撃の準備を整えさせる。こんなの絶対に死亡フラグだよね…。

一時避難した未来は、まだネガティブ。陵の頑張りを無駄にするような言葉を吐く。そんな幼稚な態度を陵は しっかりと叱る。顔を叩(はた)かれて未来は再度 自分が自分のことしか考えていないことを思い知らされる。この同じようなラリーは延々と続くなぁ…。

無力な自分が嫌だから自分の存在を軽視する未来に、陵は力ならある、と告げる。陵は聖からのキーアイテムの1つ、扇を取り出す。陵のとは違う その扇は未来専用。前世で祇夕を封印した未桜の力を引き出して、未来は戦うことになる。陵と並び立てること、その力があることが未来には嬉しい。

いよいよヒロイン覚醒。これまでの守られポジも この時のため。ヒロイン専用扇、欲しい。

の防衛も破られそうになり、時間がない中、陵は、なぜか一緒に眠る未桜と祇夕の墓の前で、その未来に美桜の記憶を引き出す。

未桜として覚醒した彼女は、嶺羽と同じ姿をした陵に抱きつき、そして くちづけを交わそうとする。ドキドキしながらも それを拒否する誠実な陵。そんなところも嶺羽に似ているらしい。少女漫画として前世の記憶を宿した未来とキスするのはタブーだろう。こういう線引きがしっかりしているのも本書が好きなところ。

そして未桜は白拍子を舞う。扇を手に舞う美桜の白拍子は傷を癒す力を持っている。そして あやかし には それが呪いの詩(うた)となるらしい。これまで苦しめられてきた祇夕が初めて苦しむ。そこに もう一つのキーアイテム・弓矢を持った陵が立ち、祇夕の封印を宣言する!

1・2巻同時発売で、ある程度 話が見えたところで決着は以下、次巻。商売上手である。