《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

連載の人気が出ないことをキャラのせいにして存在を否定し、次の子に期待する毒親の末路。

声優かっ! 12 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ マキ)
声優かっ!(せいゆうかっ!)
第12巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

主役を演じる「桜色の焔」を最後に引退するシロ(姫)。憧れの青山さくらに加え千里の出演も判明☆ 恋心は胸に隠して仕事に向き合う最中、さくらとの役作りで緊急事態に陥る!! そしてとうとう千里がシロの正体に…!? みんなの夢がきらめく完結巻☆

簡潔完結感想文

  • 演技合宿という名の洗脳支配。宗教施設前で繰り広げられる信者と家族の修羅場?
  • 無自覚鈍感ヒロインは男装に責任を負わない。そんなことにページ 割けねぇのよ。
  • 一流の夢も 最初の夢も雑に叶えてハッピーエンド。姫の成長を描かず打ち切りかっ!

のおかしい母親に人生を狂わされた者たちのメリーバッドエンド、の 最終12巻。

大事な話が音速で進んでいくものの、表面上 良い話のように終わった本書。だが この苦みは何だろう、と考えた時、やはり姫の不遇で胸がつかえていた。姫(ひめ)は本書で幸せだったのだろうか、と その不遇に思いを馳せずには いられない。

不遇と言えば、本来はメイン級の活躍が約束されていた学校組の仲間たちだろう。彼らの扱いは酷く、最終回では将来が1コマずつ描かれるだけ。そして学校の仲間で声優になったのは月乃(つきの)1人だけ…。プロへの近道だが狭き門の声優科とは一体 何だったのか。
ただ これは作中で声優科の中で月乃しか成長を描けなかったからだと思われる。梅(うめ)が順調にアニメーターになっているのも同様で、彼女たちは作中でトラウマを克服し、成長したから、その道に進めた。反対に高柳(たかやなぎ)とミッチーは個人回すら与えられなかったから、声優として成長描写が皆無となり、欠点を克服できていないまま放置された。だから声優とは別の道に進まざるを得なかったと思われる。その意味では作者は誠実な対応をした、とも言える。
姫だけでなく彼らの不遇も、作者が「シロ」という架空の存在に依存し続けた弊害である。全編を通じて作者が生みの親としてキャラを大事にしない/出来なかった印象が漂っている。読者は明確な言葉には出来なくても、そういう部分を敏感に感じ取っており、これが原因で作者の期待ほど人気の上がらない作品なったのではないか。

夢を託した子は期待ほど成長しないから次の子を担ぎ出す。最初の子は否定して…という母親と作者の精神的虐待。

者は そんなつもりは全くなかったのだろうけれど、最終巻を読む限り作者=ヒロインの毒親(母)説が補強されてしまったように思う。
この『12巻』でヒロイン・姫が母親から冷遇される理由が明かされる。かつてアイドルになりたかった母親が我が子を芸能界で活躍させようと姫を必死にオーディションに送り込んだ。だが結果が出ないだけでなく、オーディション中にトラブルを起こした姫のせいで母は大恥をかいた。これは姫が妹の茜(あかね)を いじめている子を懲らしめた結果なのだが、母は姫に理由も聞かず、失望する。幼稚な母親は そんな自分の失望を姫への冷淡な態度に変える。そして茜が子役として大成し始めると、姫と茜の対応にあからさまに差をつけ精神的虐待を始める。ここで問題なのは母は自分のしていることを虐待だなんて少しも思っていない点だろう。この母親は子供に対して神のように罰する権利があると思っているのだろう。姫は実子ながら まるでシンデレラに辛く当たる継母のような態度である。だからこそ姫は姫(プリンセス)になり、自分の力でシンデレラストーリーの幕を上げるのだろうけど。


て そんな母親と同様なのが作者である。作者もまた自分の仕打ちに無自覚だろうが、作中で姫に辛い人生を歩ませる。何と言っても姫の人格の否定である。全ては私の想像で、何の根拠もなく、誹謗中傷にもなりかねないが、そうも読めることを根拠に話を進める。

当初、本書は特殊な学校を舞台にして始まった。その学校の中にある少数先鋭の声優科の生徒たちの活躍を描く。だが学校の授業だけでは人気がでなかったのか、作者は主人公の姫に もう一つの顔を用意する。それが男装の「シロ」というキャラクタだ。作者はシロにプロの現場に立つ舞台を用意し、芸能界のイケメンたちに接する機会を設ける。こうして多少の努力はするものの、シロの華やかな日々が始まった。男装のシロは白泉社読者の受けも良い。

それがまさに姫と茜の関係そのものである。姫は実力で狭き門を突破したにも関わらず、周囲は落ちこぼればかりの地味な学校生活。そんな姫に入れ替わるように活躍するのが第2主人公・シロであった。姫に失望した作者が生んだシロという第2子。姫の母親も作者も万人に愛される その子を大事にしていく。

そんな贔屓が当然 描かれるはずの姫の姫としての成長の場面を奪う。こうして特殊な学校という舞台も、築き上げた友情も全て無意味になる。姫の頑張りなんて、華やかな芸能界のイケメンに囲まれるシロに比べれば塵芥同然。姫が認めて欲しくても活躍、それ以前に存在を全否定してくる母親同様に、作者も姫を期待しなくなったように見える。

作者が悔いるべきは母親同様、姫の声にしっかりと耳を傾けられなかったことではないか。作者は最初から姫をダメな子として認識していた。それならば彼女が輝ける場所を作者が用意しなければならなかった。声優になるための地味な訓練、学校での制作を もっともっと頭を悩ませて地味だけど思わず引き込まれるような、読者が姫を応援したくなるような展開を用意するべきだった。それなのに自分の力量不足を棚に上げて、人気が出ないのを姫に全部 押し付けるような構図を用意した。本当に子供を思っているのなら、姫が一人前になるまで見捨てずに一緒に歩いていくべきではなかったか。


んなシロだが、物語の終幕のために その消滅は必然となる。だがシロの消滅は作品が もうすぐ終わるから、必要に迫られてシロを消滅させたのか、それともシロの退場後に姫の活躍を描く用意はあったが その前に物語が終わってしまったのか。
順番はどうであれ、姫は最後までシロの割りを食って、成長の場面も与えられない。一応は姫も幸せになりました、という結末を用意するが、姫に愛情が注がれていないことは明白だ。姫が姫として自分の夢を叶える その過程は割愛される。ダミ声ヒロインが自分が望むヒロイン声を努力して掴み取るまでが本来の連載の形だったはずなのに。

ほとんどシロの経験が姫にフィードバックされた描写もなく、姫は最初の夢を叶える。努力のヒロインのはずが、年月と最終回の魔法で悪い意味でのシンデレラになってしまった。
シロという姫の人格否定装置を用意するなら、せめてシロから姫に主人公が再交代する際の道すじぐらい用意して欲しかった。結局、友情にナイーブな千里(せんり)を騙す形となったシロの罪深さも なあなあ で終わらせて、シロは全ての責任を負わずに綺麗に消えていく。

恋愛成就が あっという間なのは白泉社作品だから仕方ないと割り切れるが、姫がヒロイン声を獲得する理由と過程ぐらいは描いて欲しかった。
その点も母親の態度と作者が被る部分である。姫の母親は娘の成長を認めつつも、結局 自分の手元には置かない。姫は実家に帰ることなく、新しい地で姫の人生を再出発する。最終的に、姫たち母子は千里と さくら の母子以上に深い溝を残したままなのだ。優しい山田P(やまだプロデューサー)が姫の面倒を見るから、彼女は大成できた。それと同様に作者も姫の成長を放棄する。ここから姫が変わったのは千里がいたからだろう。でも その過程は描かず、姫は勝手に成長しました、で終わる。毒親による子育ての放棄が本書の結論である。

姫が望んでも得られなかったもの、と掛けまして、姫のラブリー♡ブレザーへの道と説く、その心は どちらもカテイ(家庭・過程)がないでしょう。


の読解力もあるだろうが、シロが千里の母・青山(あおやま)さくら と共演する この映画作品が実写なのかアニメなのかが分からず混乱した。
説明される作品内容からアニメでないと難しい部分があるので、普通なら そこで理解するのだろう。それに『声優かっ!』なんだからアニメであることは当然なんだろう。でも一言ぐらい ちゃんと明言して欲しかった。
そう思うのは青山さくら は もう女優としての地位を確立しているから声優業をする必要がないと思ったからでもある。またシロもPVで顔出しして表立った活動もしているので実写だと思ってしまった。
アニメを下に見ている訳ではないけれど、アフレコのために何日も役作りして、共同生活を送らないと役を掴めないって、青山さくら は とんでもなく不器用なんじゃないだろうかと思った。

この映画には千里も出演する。自分を洗脳するように育てた母親に対して良い感情を持たない彼の動機は そこにシロがいるから。共演でしか一緒にいられないから苦手を克服しようとした。ただしシロとは最後の共演となってしまうが…。


が千里はシロが さくらと演技合宿をすることを知り、シロが さくら に支配されてしまうのではないかと危惧する。シロが さくら の才能に振り回されて壊れて欲しくない千里は、久々の母子対面で母に釘を刺す。

始まった さくら との共同生活では、やはりシロは彼女の演技に喰われていく。そして かつて千里が陥ったように洗脳状態が始まり、自分を見失う。さくら にシロが本当は女性であることが発覚しないよう、夜には一度 帰宅しようとするシロだったが、さくら の催眠によって彼女のプラン通りに全てが進む。さくら は進んで役になり切っているが、一緒に演技する相手は役に侵食され自我が崩壊していくイメージか。そう考えると さくら は声優業を始める前の若い頃と、周囲と強調出来ないという欠点は同じなのではないだろうか。


ロが心配でたまらない千里は、合宿地からのシロの奪還を試みる。本当、宗教施設前の信者と親族の問答みたいである。

どうにかシロを連れ出した千里は2人で川辺に座る。シロは さくら の能力に心酔している。だから千里が自分のようにカラッポになる と忠告しても、千里と同じならカラッポでもいいと答える。これは さくら への尊敬だけでなく、千里への好意も含まれた言葉である。

そんな自分の言葉が恥ずかしく、伏せて千里に見られないように顔を隠すシロ。どうにか眠たくなったと誤魔化すが、本当に寝てしまう。シロを置いてコンビニに買い物に行った千里が戻ってきた際に見たのは、河原から転げ落ちて眠るシロだった。そんなシロの上体を起こそうとすると、カツラが取れてしまう!

そうして全ての真実を知った千里。だが彼はシロが気づかない内にカツラを戻し、起きたシロとは ぎこちないながらも秘密を知ったことを秘密にしたまま別れる。ここで千里のトラウマが爆発しないのは、彼が少なからず姫への好意を持っているからだろう。自分が好ましく思う2つの人格が1人の人間なのは都合の良い展開なのかもしれない。漫画作品としては一騒動 欲しいところだが、そんなことをする残りページはないので割愛、というのも現実的な解釈だろう。

家に戻ったシロが千里と会っていたというと、さくら は母親の表情を浮かべながら安堵していた。それは この場所でさくらが演技をせずに出た本当の彼女の表情。これは千里との和解の伏線になるが、考えてみれば、千里との亀裂も さくら側の身勝手さが原因だった。これで許されると思うなよ、という部分も少なからずあることを肝に銘じなければ。


ロは さくら との共演も望むが、千里との共演も望むと さくら に告げる。それは彼が一流だから。シロとして彼の凄さを間近で見なければ、そういう気持ちになるまで時間がかかっただろう。プロとしての千里に接する、という意味ではシロにも ちゃんと意義がある。

そして千里は、遠ざけてきた さくら との対談に臨む。その心境の変化はシロ(姫)の母子関係を見たからだった。姫は何度も存在を否定されながらも、それでも一途に母親に認めてもらうために努力をしている。そんな切実さに触れて、自分も変わろうと千里は一歩を踏み出した。

母子での対談中、千里は母から共演したい役者について問われる。千里の答えはシロ。一流の千里に指名されたことでシロは一流になったと言えよう。そして千里は母からシロも そう答えていたと聞かされ嬉しく赤面する。お互いの存在を認め合う、この場面は疑似告白と言っても良いだろう。ハッピーエンドは間もなくである。

姫の母子関係は救われないが 千里は救われる。ヒーローのトラウマのためのヒロインの自己犠牲か。

がてアフレコ当日がやって来る。
この日、山田Pは姫の実家を訪ね、母親に姫=シロの収録現場を見て欲しいと告げていた。姫を否定するばかりの母親に その成長を見て欲しいと願った。そこで母が何を姫に望んでいるのか、どうして姫に失望したのかが唐突に語られる。そんな失意の中で出会ったのが、さくら が演じるラブリー♡ブレザーだった。ダメな自分から困ってる人を助ける自分になる、そんな姫の変身願望が込められているのがラブリー♡ブレザーという存在なのだろう。

この作品での音響監督は特撮物で大変お世話になった人(『3巻』)。彼に少なからず認めてもらうことはシロの成長の実感となる。

作品内でシロが演じる役は年齢が変わるという設定。そして老人役を演じる際に、シロはメガネを外す。それはシロにとって王子声を出すための魔法のアイテムだった。最後の最後で変身を解いた姿で演じる。それは もはやシロではなく姫なのだろう。個性的な弱点は武器にすることも出来る、という視点は姫の今後の成長にとっても重要な要素となるのか。
それにダミ声で演じることは母から強制された「可愛い」や「姫」からの脱却とも言える。このアフレコでは姫は姫らしく生きている。ブースの中で楽しく演じる娘の姿を母親は見る。それが母親の心を打ったらしく、この母子問題は雑に片づけられる。変身解除とか、姫のままの声という道具立ては良いが、早送りなのが惜しい。もっともっと大切に描くことも出来ただろうに。


うしてアフレコは終わる。若い2人に対し、さくら は再共演を望む。それこそが姫が望んでいた一流の証。そして山田Pの願いの達成でもあるのだろう(濁されているので推測だけど)。これは声優・シロの目標達成であり、そしてシロの成仏の準備が整ったと言えよう。最後にシロが望むのは、千里のオムライスだった。

こうしてシロは引退する。姫は新たに姫のまま事務所の寮に入るという。もちろん新人声優なので仕事は白紙。学校生活との兼ね合いとか友達へのカミングアウトとか そんなもの宇宙へポーイ!

引っ越し作業をするシロを助けに瑞希たちが やって来る。瑞希とは「お断り」以来の再会となる。そんな気まずい状況でも瑞希は「シロ」に お別れを言うためにやって来てくれた。やや腹黒いところも見え隠れした瑞希だが本当に良い人の部分もあるのだろう。
シロは千里との お別れとしてオムライスを食べに行く予定だが、姫は千里と どうこう なろうとは思わない。一流になるまでは恋愛禁止は姫でも継続している。だが瑞希は そんな姫の頑固さを紐解いていく。それにシロとして一流声優に認められたことは恋愛解禁の合図でもあるだろう。シロと別れた瑞希も今後の成長を誓う。未練を残したままで、前向きな当て馬ポジションは不変らしい。


里はシロのためにオムライス作りを上達した。そんな彼の気持ちに接してシロは胸が詰まる。だが別れの時は来る。

こうしてシロは意を決して別れを告げる。だが千里はもうシロのことを気にしていない。シロよりも食べさせたい人がいるから。その人の名は木野 姫(きの ひめ)。これまでは友情の崩壊は千里の心の崩壊だったが、今は千里は恋愛を解禁している。シロがカラッポな千里を救ったから、千里が恋愛に前向きになった。シロは成仏したが、きちんと姫のために置き土産を用意している。シロもまた最後まで良い子だった。ただし、シロが人を騙して近付いた罰を全く受けずに、綺麗に成仏していくのは いくら最終回間際であっても違和感が残る。一度は心から謝罪して欲しかったなぁ。
その後、各人の将来が見られる駆け足のフィナーレでは姫と千里がオムライスを食べている姿が描かれている。

そして近い未来、姫はラブリー♡ブレザーになれましたとさ、というシーンで物語は終わる。登場する姫と千里の左手の薬指には指輪が光って勝ち組アピールである。

だが姫がラブリー♡ブレザーになれる要素は本書の中では全く描かれなかった。そして未来の千里が「監督」であるのも伏線がないので謎のまま。伏線が残されたままの部分もあれば、描かれなかった部分もある。こういう点は もう少し連載が長ければ 少しは解消されたのだろうか。

ラストで姫がラブリー♡ブレザーの台詞を どのような声を出して発しているのかは漫画では分からない。そこへ繋がる道は読者が考えてくれ、というのが本書の余韻、なのだろうか…??