池山田剛(いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第15巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
輝・爽歌・忍・ちひろ、4人は高校3年生に!ついに恋が実った4人だけど、両想いの先にもいろんな問題が待ち構えていて…。付き合っているからこそ、不安になる…爽歌の中で芽生えた不安の種は徐々に大きくなって!?
簡潔完結感想文
- 初恋の成就が終わったら爽歌の芸能人属性が発動して すれ違い発生。
- 性行為に前のめりな恋人は、自他の都合を考えないから すれ違い発生。
- 爽歌が過去の言葉を覚えていないので、一度 解決した問題を再放送。
初恋成就の その先の未来を描く 15巻。
『14巻』の第2部終了で物語が完結しても良かった所を、編集部の商業的目論見と作者と希望で第3部が始まる。確か過去作『萌えカレ!!』の時は編集部の延長要請を断った作者だが、今回は描きたいシーンが まだあるため第3部の開始を決めた。
第3部は爽歌(さやか)の芸能活動に重心が偏っていて、これまで意識されなかった この作品の「芸能界モノ」としての側面に焦点が当たっている。それによって彼らの初恋がスキャンダラスに報じられる危機であったり、同じ年の女優・エリカと肩を並べての演技対決があったり作品世界の拡張方法は無理のないものだった。いかにも延長戦で蛇足になってしまうのではなく、まだまだ描きたいことがあって楽しみながら描いているのは さすがの力量だ。
また18歳という年齢もあり、それぞれが大人としての自覚を持ち始め、中学時代の恋愛観とは違う、性愛を含めた関係性に発展しているのも最終章である第3部に相応しい。15歳での性行為未遂(『7巻』)は早熟に思えたが、3年が経過し18歳となった彼らには自然な欲求に思える。
個人的な意見としては、この第3部は なくてもいいかな という感じですが。作者が構成的に狙っていたことは描き切っていたし、私は そちらに興味があったので、伏線や仕掛けが回収され尽くした後の物語に いまいち惹かれなかった。上述の通り、主役の4人が並列というよりは爽歌ばかりが目立っていて、彼女のための物語になってしまった気がする。
そして この『15巻』は爽歌が過去と同じことを繰り返しているだけで辟易した。
どうも爽歌は記憶喪失中の2年間で成長していないように思える。記憶喪失の前と途中の人格が統合されたからこそ、演技の面では完全体になったのに精神的な弱さは以前のまんま。彼女一人だけ中学レベルで子供っぽく映った。
輝(ひかる)は記憶喪失中のことを不問にして、爽歌との交際を受け入れたのに、それを蒸し返していて作品として初めて重複があるように感じた。女心として気になるのは分かるのだが、彼女が輝との性行為を望むのは過去を忘れたい自分の都合という一面が色濃い。以前にもあったが爽歌は視野が狭く、相手の立場になって考えることが出来ない。それは とても少女漫画ヒロイン的で、ヒロインが思い悩み、泣き叫べば物語は進んでいくが、最終盤になろうとしている時に この幼さは失望する。
そして中学時代から無敵のヒーローだった輝が どう対処するかも想定内で、爽歌が輝に許されるという変わらない構図が展開されるだけだった。大事な問題だけど『15巻』の大半を使って描くには冗長過ぎた。基本的に再放送だし。
ドラマチックな構成は よく考えられているが、作中で何年経過しても2人の基本的なスタンスが変わらないので既視感が多い。ようやく訪れた高校時代の平和な交際編だけど、何も問題の無かった中学生編の焼き直しになっている。ここから予想される苦難の展開に期待したい。
Wデートは忍の高熱により、それぞれのカップルに分かれる。輝は爽歌が両親を亡くした記憶を取り戻したばかりで揺れていることを知り、ちひろ は忍が両親との接点が少なかったために屈折したことを知る。その話を聞いて ちひろ は忍を愛おしく思うし、輝は爽歌と家族を作るという夢が出来た。
そして18歳を迎える高校3年生となる。
新年度は新キャラ登場のタイミング。1年生に かつて ちひろ と爽歌を足して割ったような幼なじみの歌手志望の千沙(ちさ)と、忍と輝を足して割ったような背の低めの礼央(れお)が登場する。正直、いなくてもいいかな、というキャラクタなのですが、おそらく作者の当初の爽歌の設定だった歌手を取り入れたかったのでしょう。そして まだ有名ではない千沙と彼女を純粋に想う礼央の関係は、輝たちが失ったものの象徴のように眩しく感じられる。元ヤンの蝶子(ちょうこ)もいるが、こちらも いなくても大丈夫。大長編の新キャラは思い入れを持つことが難しい。
爽歌は放送が1年間の大河ドラマに出演していて多忙。そんな中でも爽歌は輝の18歳の誕生日を お祝いする。再交際が始まって4か月、多忙の中、爽歌は輝との時間を作り、この2年間の空白を埋めようとしていた。そして爽歌は輝に身も心も捧げる覚悟があることを自分から伝える。
しかし少女漫画で10巻以上続いた作品は、最初から完遂される訳ではないのが お約束。この日も女性マネージャーが途中で乱入して中断。
マネージャーは輝をホテルの部屋から強制退室させ、そのまま彼を家まで送る。その車内でマネージャーは爽歌にとって輝の存在がどれだけ大きかったか理解を示す一方で、新人女優・サヤカにとって熱愛スキャンダルで彼女がバッシングを受けるリスクがあることを話す。注目を集め、CM契約など大型の仕事が増えている今だからこそ、スキャンあるは命取りになる。芸能事務所社長の息子だった巧(たくみ)とは違い、輝はスキャンダルに対して無力。だから輝は爽歌に不用意に近づくことを慎んで欲しいと言われる。
爽歌を星野爽歌として考えている輝は、この2年での爽歌の「サヤカ」としての一面を考慮していなかった。第2部までは苦難の多い初恋成就に焦点が当たっていたが、第3部は「芸能界モノ」としての側面にもクローズアップする。
一方、爽歌は輝と身体を重ねることで過去の恋愛を払拭し、輝が自分を求めている事実確認をしようとしていた。爽歌を大事にしようとする輝と、輝と早く結ばれたい爽歌の考え方の違いが すれ違いを生んでいく。
マネージャーからの忠告もあり、折角の爽歌からの(性行為の)誘いに輝は嘘をついて断ったのだが、その嘘が爽歌にバレてしまう。それを爽歌は自分の過去の交際が問題だと勝手に思い込み、輝に本音を爆発させ、泣きわめく。
ここで気になるのは輝がスキャンダル問題の情報を2人で共有しないこと。輝なら嘘をついたり彼女の勇気を無駄にするようなことよりも、率直な話し合いをするような気がするが、あまり輝らしくない嘘をついている(まるで浮気の準備のようだ)。ここは すれ違うターンなんだろうけど、輝らしくない言動は納得しかねない。
初登場から何でもネガティブに、そして不満を溜め込むタイプの爽歌だったが、何年経っても同じで、それを輝の大きな心がフォローするという展開は既視感だらけ。爽歌の視野が狭くて身勝手に思えてしまう。
そこからの作為的なピンチと、輝のヒーロー行動も以前と同じ展開。中学時代の爽歌のラブシーンに悩んでいた時と同じように、性行為についても輝は、(記憶喪失や演技中など)爽歌が爽歌でない間なら それを我慢できるし、爽歌が経験したキスや性行為の10倍で それを帳消しにするという考え方を示す。それは5年前の自分たちが乗り越えてきたこと。爽歌は記憶喪失になって、それも忘れてしまったらしい。
記憶喪失中の対応など、どんなことも中学時代の輝の言葉が二重映しになる構造は とても好きだが、爽歌に学習能力がないのが残念だ。
そして輝は爽歌の巧への性行為への罪悪感を薄めるために、絶望のどん底にいた時に ちひろ に少し心が揺れたことを正直に話す。だが爽歌は その話を聞いても輝を愛する気持ちを持ち続ける。そうやって2人は心の問題に それぞれ決着をつけることで すれ違いを解消する。
しかし この日の出来事はサヤカのスクープを狙う週刊誌にスキャンダルとして報じられてしまう…。
そんな輝たちとは反対で、男性側が性行為に積極的で、女性側が羞恥心と恐怖心によって消極的。そんな忍と ちひろ。彼らもまた「初めて」を迎えるまでに乗り越えるべき心の問題があるようだ。