《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

鈍感ヒロインは、年下ヒーローを「妹」扱いするのは止めましたが「弟」扱いは するよ☆

ヴィーナス綺想曲 3 (花とゆめコミックス)
西形 まい(にしかた まい)
ヴィーナス綺想曲(ヴィーナスカプリチオ)
第03巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

白の突然の告白&キス☆ 幼なじみの関係が変わり始めた2人。合唱部の助っ人を務めたり、写真家のモデルをするなど、イベントづくしで楽しい毎日☆ そんな中、プチ家出をして来た宇海。無防備な宇海の姿に、白がついに…!! 2人の行方に目が離せない!!

簡潔完結感想文

  • ヒロイン・タカミが どれだけ心清らかな人間なのかをお届けする日常回の連続。
  • 『1巻』1話の続きが『3巻』17話で やっと読める。その間の15話は虚無ってこと!?
  • 妹扱いがダメなら弟にすれば よろしいのに、というフランス王妃みたいな発想。

果的にヒロインの評価がプラスマイナスゼロになる徒労の 3巻。

『3巻』は これまで以上に日常回が多かった印象を受ける。それはつまり恋愛方面が少しも進まないということを意味する。そして『2巻』ではヒーロー・白(アキラ)の重いトラウマが明かされていたが、日常回連発の『3巻』では作品内が暗くならないような宇海(タカミ)とアキラの それぞれのプライベートが見える。

例えばアキラと4人の兄がいるタカミの兄妹との交流が描かれたり(1人欠員)、アキラの学校に友人と呼べる人が出来たりと暗くなり過ぎた作品を修正するような話が収録されている。

また日常回ではタカミが どれだけ良い人なのかも描かれている。ガサツだけれど人のためを思って行動できるタカミを描くことで、彼女が 容姿も才能も この世界の頂点に君臨するアキラに選ばれるべくして選ばれたことを演出しているのだろう。

だが前半で上がったはずのタカミの評価、または作品の評価は終盤で元に戻る。タカミがアキラの気持ちを少しも考えていなかったことが判明するからだ。

1話でキスして伝えた想いを無視して生きるゴリラヒロイン。知性が ないのかもしれない…。

『1巻』1話でタカミはアキラが自分の「妹」じゃないことに気づいたと思ったら、なんと今では「弟」だと思っていたという衝撃の事実が判明する。
本書ではヒロインが彼からの好意を感じたのは自分の勘違いだと思い込む、白泉社特有のリセット機能が発揮されないと思っていましたが、それには こんな訳があったみたいだ。たはー、弟なんて抜け道が存在したなんて。こりゃ一本 取られましたわ…!ってバカ。タカミはアキラからの好意を少なからず意識しているのかと思ったら、全く考えてなかったなんて これまでの連載分は虚無だったと自白しているようなものだ。
せっかくタカミの優しさを描いても、こんなデリカシーのなさを見させられたら幻滅するばかりだ。1話以降もアキラは そこそこ頑張っていたのに、彼女には何も響いていなかったのか。白泉社らしいと言えば あまりにも らしい展開ではあるが、真面目に読んでいた分、徒労を覚える。

3回の短期連載、2~3か月の救済、3回の短期連載を繰り返す本書のことだ、次巻から始まる新たな短期連載で この設定が活きているのか、それともリセットされるのか非常に気になるところ。そういう興味を持つことは作者の術中にハマっているということなのだろうか…。


校の合唱部からピアノの伴奏を頼まれたタカミ。定期演奏会の客足が遠退いているため、人気回復のために文化祭で「プリ・コン」(『1巻』)で優勝したタカミとアキラペアに白羽の矢が立った。合唱部で「演奏会」という言葉は大きく間違ってはいないんだろうけど ちょっと引っ掛かる。あとバイトといい(『2巻』)、アキラとタカミをニコイチで行動させるためにアキラを引っ張り出すのは無理がある。タカミが正義感に強い女性なら、他力本願せず独力だけで最後まで頑張れ、と言いそうなところなのに。

2人を客寄せパンダにした結果、前評判は上々。だが部員の一人がピアノ演奏の技術があると知ったタカミは、その生徒が本当は合唱部の伴奏担当だということを知る。
そこでタカミは当日になって怪我をしたと嘘をつき、本来の伴奏者に席を譲る。タカミ目当ての客も少なからずいて、客は落胆を隠せないが、アキラが部員を鼓舞することで合唱部は本来の実力を出す。演奏会は成功裏に終わる。

当然、アキラもタカミの嘘を見抜いており、そんな彼女の心根の優しさに好意を表す。

でもタカミが本番当日に嘘をついて、動揺の中、演奏会を迎える意味が あまりない。「プリ・コン」の時も、ピアノ講師の結婚式のブーケトス(『1巻』2話)でも、タカミが女性に見せる優しさって中途半端で、カタルシスを覚えるものではない。今回も最初にタカミが正当な伴奏者がいることに頭が回らないまま依頼を安請け合いしたのが混乱の原因だし。ヒロインらしさを出したいのだろうが、かえって粗が目立つ。


カミの家の焼肉大会に お呼ばれしたアキラ(とピアノ講師の織田・おだ)。兄弟のいないアキラは賑やかな食事風景に憧憬を抱く、という内容。

日常回で楽しい内容だが、そんなことよりマンションで平均年齢20歳ぐらいの6人が騒ぎすぎだ、ということばかり気になった。焼肉の煙も、ピアノの音も近隣の住人から迷惑な一家だと思われているのではないか。
そして三男とアキラを差別化するためなのか、三男の髪型がマイナーチェンジしている気がする。

母も排除してタカミは紅一点の姫ポジション。まるで乙女ゲーム世界に迷い込んだような夢設定。

カミとアキラが2人でピアノ教室に向かう道中、アキラの学校の生徒・畔上(あぜがみ)ケイ が声を掛けてきた。彼は昔、同じピアノ教室に通っており、アキラをいじめていた人間だった。

しかしタカミは畔上がピアノ教室に未練があるように見え、彼にもう一度ピアノを弾かせるために婉曲的な手段を取る。それが休日に畔上とアキラと一緒に遊ぶことで彼らの心の垣根を取り払うことだった。これも合唱部に続いてタカミのお節介シリーズといったところか。この回も日常回で楽しいが、それほど内容がない。ビリヤードシーンが長すぎるような。

畔上は三角関係の一角になっても おかしくないキャラだが、どちらかというとアキラ大好き人間。ピアノの腕が明らかに下だからライバルではなく友人に なれるのかもしれない。


アノ教室の新しいパンフレットを作成するために写真撮影が行われる。そこで見目麗しいアキラとタカミがカメラマンから個展の写真モデルを頼まれる。他にもアキラに負けじとピアノ教室のイケメンたちが大集合。

こんな普段着で写真を撮って、意味があるのだろうかと思っていたら、ラストにアトリエの中にある白いピアノと女性らしく変身したタカミ、そしてアキラで特別な1枚が撮影される。

これも日常回で大きなイベントや重いトラウマだらけだった『2巻』に比べて内容がない。


ぐ上の兄(四男)と喧嘩をしたタカミがアキラの家に泣きつく。そこでタカミはアキラと姉弟が良かったと愚痴る。

タカミがアキラを妹扱いしなくなったと思ったら、弟扱いして驚いた。これまでアキラは自分には恋愛感情があることを伝えたかったのに、白泉社名物「無自覚ヒロイン」をキャラにしているタカミは同じ過ちを繰り返す。ちょっとデリカシーに欠ける。

『2巻』の感想文でも書いたが、本書では白泉社特有のリセット機能が発動している訳でもないのに、タカミがアキラの想いを無かったことにしているのが気になる。こんな内容にするのなら、彼女がアキラの気持ちは勘違いだったのかと納得する場面がなければ、タカミが kなり配慮に欠ける人間に見えてしまう。

今更、1話の再放送みたいな内容を読まされても困る。あそこから1歩も進んでないことが判明しただけだ。


うして2人の間に恋愛問題が持ち上がる。だがタカミはアキラを避けることしか出来ない。

お互いに次の一手が打てない2人。タカミは講師の織田、アキラは親友(?)になった畔上に恋愛相談をすることになる。織田のセクハラでタカミはようやく自分の中でアキラだけが特別であることに気づき、アキラは畔上との会話によって自分の苛立ちをタカミにぶつけたことを謝罪する余裕を持つ。

タカミは初めてアキラが妹でも弟でもないことを認める。こうして1話以来、初めて関係性が進んだと言えるのか。ただアキラの気持ちを了解したからと言って、タカミが彼の気持ちを受け入れ、交際するということでもない。

これ以降、タカミがアキラと交際できない理由が発表されればいいが、特に理由もなく宙ぶらりんになりそうで怖い。『1巻』でも書いたが、本書は徹底的に白泉社の お約束を守ることで成立している作品である。この作品ではトラウマが恋愛の障害になっていないのに、アキラのトラウマが解消されるまで交際は お預けなのだろう。作者が歴代作品の表面を模倣しているだけなのが大いに気になる。