《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

本当にコールドスリープされているのは、7年前の男性キャラたちのヒロインへの過失。

君は春に目を醒ます 4 (花とゆめコミックス)
縞 あさと(しま あさと)
君は春に目を醒ます(きみははるにめをさます)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

人工冬眠(コールドスリープ)で7歳上から同級生になった千遥を、兄ではなく同級生として好きになった絃。文化祭後から様子のおかしかった千遥が風邪で休んだため、お見舞いに行くことに。熱で朦朧とする千遥から本音がこぼれて……?一方、絃を好きな弥太郎は、過去の自分の行動を思い出し苦悩。だけど成長するべく勇気を出して……!?3人の想いが交錯し、目が離せない第4巻!

簡潔完結感想文

  • ジンクス成立失敗。千遥は逃げ出してしまったが、絃から離れられないジレンマ。
  • 本書の男性キャラはナイーブで千遥は知恵熱を出し、弥太郎は隕石に当たりたい。
  • 君を悲しませないために いい兄になることを誓ったが それが君を悲しませるなら…。

2人のヒーロー候補それぞれが7年前にトラウマを持つ 4巻。

きっと千遥(ちはる)と弥太郎(やたろう)は どちらも真面目すぎるのだと思う。
そして2人の共通点は、7年前のヒロイン・絃(いと)への過失である。

千遥は自分が病気の治療法確立までの時間稼ぎを目的とした人工冬眠(コールドスリープ)をする際に、自分を慕ってくれていた妹のような絃に その話をする勇気が持てなかった。それが原因で眠りにつく前に絃と対面して別れを告げられなかったことが千遥にとっての一種のトラウマになる。
だから自分が小学生の絃を傷つけてしまったと痛感した千遥は、目覚めたら彼女にとっての いい兄になることを誓う。それが自分の絃への贖罪方法だと考えたからで、絃を誰よりも大切にすることが彼の目標となる。

自分に勇気がなくて絃を傷つけたことが千遥の心残り。だからこそ目覚めて以降「兄」に固執してしまう。

ただ千遥にとって誤算だったのは、2~3年で目覚められるという目算が大きく外れたこと。結局、7年後に絃と同学年になるタイミングで目覚めた千遥は 絃の「兄」では なくなっていた。6年後までに目覚めたら単純に兄で居続けられたし、もし10年後に目覚めていたら眠る前の近いは果たされることはなかっただろう。

絃の同級生という想定外の事態が、一晩で7年間の時間を超越した千遥の混乱を大きくしたのではないか。年齢的に兄ではないのに、精神的には兄でいようとするから絃への接し方に戸惑う結果になった。

千遥は人工冬眠を経て、絃とは新たな関係を模索すべきだったのだが、眠る前の強い誓いが呪いのように作用しているため、どんな状況になっても兄という立場を堅持したいのだろう。絃の気持ちに気づいても、弥太郎の怒りを買っても、兄として接するのは彼にとっては絃への過失を償いなのである。

そういう意味では千遥も弥太郎同様に十分 不器用なのだ。自分の生き方を簡単には変えられないし、それ故に現実に対応できずに思い悩んで寝込んでしまう。ただ『2巻』うたた寝した後に千遥が絃への認識を変えたように、千遥が眠ることは彼の意識を現在・現実に対応することのように思う。現に 絃のことで無意識に熱を発するほど寝込んだ後は、兄という立場をやめる決意をしている。千遥が どう成長していくのか楽しみである。


して弥太郎である。彼は7年前まで好きだからゆえ絃に嫌がらせをしていた。そんな自分の幼稚さが許せない。千遥が人工冬眠に入り3年経過するまで絃が弥太郎と口をきいてくれなかったことも彼の罪悪感を増幅した。

その意味では やはり弥太郎にとって千遥の人工冬眠は彼の人生に大きな影響を与えている。
もし千遥が眠りに入らなければ絃は強くならなかった。そのまま弥太郎の前で震え続け、やがて弥太郎が大人になるにつれ嫌がらせは減る。その頃には20歳前後になった千遥に恋人が出来たりで、絃も現実に打ちのめされ、千遥への憧れを苦い初恋として消化するのだろう。そこから絃は弥太郎を異性・恋愛対象と意識してモジモジと喋るようになっていったかもしれない。

だが千遥の存在/不在が彼らの関係を大きく変えた。そのことで絃の人生は常に千遥と在ることになる。そして弥太郎にとって7歳年上の千遥は大人のように大きく見え、そして7年前から自分の愚かな行為と密かな好意を見抜いていた人間である。千遥に身体的にも精神的にも圧倒されていたからこそ、同級生になった今も彼が近くにいることは弥太郎を委縮させる。

普通の人なら成長とともに幼かった頃の自分の愚行を忘れる。家族や友人も いちいち その事を口に出したりしない。変わっていく関係の中で生きているからだ。だが人工冬眠者の千遥だけは違う。千遥こそ弥太郎の過失を、本当に昨日のことのように覚えている者でいるから、弥太郎にとってトラウマの象徴になる。継続的な人間関係なら昔のことを蒸し返したりするのは不毛だが、断続的であれば ある瞬間だけが鮮明に思い出される。弥太郎にとって千遥は 昔のことを鮮明に覚えている親戚のオジサンみたいなものか。

ただでさえ弥太郎は絃を見るだけで自分が過去に彼女にした愚行を思い出すのに、千遥まで学校では自分の前の席に座っているから弥太郎は過去から解放されない。そのうち弥太郎は胃が悪くなって血を吐くんじゃなかろうか。こうして自分の罪を一瞬たりとも忘れられなくなり、真面目な弥太郎は頭を抱える。

2人の男性が自分の罪から精製したトラウマ。まずは それがなくならないと恋愛は進展しないだろうか。


遥が逃亡したため後夜祭のジンクスを弥太郎と果たしてしまった絃。

弥太郎は後夜祭のジンクスを知っていることを告げるが、自分の行為が故意ではないことを弁明する。本当は その場には千遥もいたのだが、後夜祭から千遥が居なくなったことに彼の意図を感じた弥太郎は黙っている。そしてジンクスは廃れており、成立しなかったからと言って気に病むな、と絃を励ます。だが この時の弥太郎が無理に笑っていることは絃にも感じられた。

弥太郎は千遥を探す。弓道場にいた千遥は自分が推理した絃の好きな人を弥太郎に伝える。そのことから弥太郎は千遥が意思をもって消えたことを知る。絃を気遣い、気持ちに応えるつもりがないなら真相に辿り着いたことも何もかも絃に気取られないようにと弥太郎は千遥に念を押す。

弥太郎が どんなに望んでも手に入らない立場ながら千遥は その立場を不快に思う。それが弥太郎の怒りの源泉。

だが再度 独りになった千遥は、自分のかつての言動が絃を泣かせ、そして今回の逃避が絃を傷つけたことに気がつく。自分の都合よりも絃の悲しみを優先する千遥は、必死に駆け、絃を探す。

合流した絃は断りもなく行方をくらました 千遥を叱るが、その中に自分の気持ちを極力滲ませないようにしていることを千遥は感じ取る。これまでは見えてなかった そんな彼女の努力が千遥にも見えるようになった。


一大イベントが終わり風邪回という名の日常回になる。

千遥は絃を意識して考えるあまり、体調にも影響したらしい。

絃は千遥の家に お見舞いに向かうが、千遥の母親が買い物に行くというので、千遥の部屋に入って彼の監視を任される。千遥は動き回る癖があるためで、そして絃は護身用に麺棒を持たされる。

絃は千遥の部屋は初めて。絃の来訪に千遥は動揺し、熱のため意識も まとまらない。
以前、千遥は母親から夜に自宅で女性と2人きりになるんじゃない(『2巻』のこと)と たしなめられており、そのことを謝罪する。

千遥は熱で本音が出てくる。彼は絃が自分の見えないところで泣いていたことに罪悪感を覚えている。それは7年前の自分の過失に端を発する千遥の切なる願い。絃も彼を安心させるために、千遥のいないところで泣かないことを約束する…。


うやら意図的に千遥視点の過去回想などは挟まれないみたいだが、弥太郎の回想は何回目か、というぐらいに繰り返される。もう この辺から作者のウエイトが弥太郎に偏っている気がしてならない。

この回想の中の絃が学校を休んだのは、7年前の千遥が人工冬眠をすると知った時で、絃と会えなかった千遥と弥太郎が遭遇しているという新情報が描かれる。

回想の中の千遥は大きく見え、そして少し不気味だ。たしかに小学生の弥太郎が こんな高校生の千遥を見ていたら、7年後に再登場しても委縮してしまう。千遥は、自分の人工冬眠で絃を泣かせてしまったから、今度 目覚めたら いい兄になると誓っていた。これが自分にかけた呪いとなる。

そこから3年間、絃に無視し続けられた弥太郎。それでも絃を好き、という弥太郎の一途さよ。

絃は、文字通り振り上げた拳の下ろし方が分からなかったのではないか。その証拠に冷戦状態であっても、弥太郎が転んだら手を差し伸べてくれる優しさは変わっていなかった。そんな絃の優しさに触れて、弥太郎は素直に これまでの愚行を謝罪する。また絃の方も弥太郎を引っ叩いたことを謝る。絃は千遥の不在中に強くなるとは言ったものの、暴力で弥太郎を制したことは間違いだったと思っていたのかもしれない。

そして中1のこの日から、2人の交流は再び始まる。
だが高校2年生になった今も、関係性は変わらない。弥太郎は良い人なのだろうけど、潔癖な気質なんか自分を厳しくしすぎて、割り切れないから、自分を褒められない。自己肯定感が低い。

その距離を少しでも縮めるため弥太郎は、彼女のことを初めて絃と呼ぶ。そんな歩み寄りは絃にも好意的に受け入れられる。中学時代に彼女が自分を呼び捨てで呼んだことも、今日 彼女を呼び捨てにすることも どちらも弥太郎には忘れられない思い出だろう。


の時、絃は少しだけ弥太郎が自分に好意を持っているのではと疑うのだが、直後の千遥の登場によって、そんな思考はすっかりと消え去る。こういう所が、弥太郎にとって千遥が邪魔だと思わざるを得ない点であろう。もし千遥によって思考が中断されてなかったら、絃は弥太郎を異性として意識し始め、彼に興味を持つようになったかもしれない。

千遥は、絃の家の前に現れ、電話を通して、お見舞いのお礼と朦朧としていた自分の言動を聞く。そして明日は一緒に登校しようと告げて、会話を切り上げる。何かと理由をつけて彼女の家に出かけ その姿を確かめるが、反面 直接は話さない。これは千遥の気遣いなのか、それとも ちょっとズルい所なのか。熱が引いた彼が どのような行動理念で動くのか見ものである。


いては もう1組の人工冬眠者カップルである、高1の杏(あん)と中1の澪(みお)という元同級生の男女が登場。彼らの仲を接近させるべくWデート回となる。杏をサポートする振りをして千遥を自分のパートナーにしようとする絃は恐ろしい子ッ…!

千遥にとっても同じ人工冬眠者の澪が、年齢差を飛び越えて、幼なじみが恋愛対象なった彼らのパターンは気になる。彼らの話をする中で、まだまだ恋愛に疎い千遥に、絃は「友達」の話として実例を交えて恋をレクチャーする。しかし今なら その言葉の一つ一つが、絃が秘めていた気持ちだということが千遥は分かる。

だがWデート当日、澪は杏の計略を見抜いて、千遥とばかり動く。そこで絃は千遥に自分といるように勧め、自分も一緒に乗り物に乗りたい、と甘えて千遥の行動をコントロールしようとする。私利私欲かよ。

だが澪は、少女漫画で一番大事な乗り物・観覧車も千遥と乗ってしまう。しかも一日の終わりではなく中盤で。

しかし密室という状況は同性であっても本音を引き出す。澪は千遥にはベラベラと周囲に話す杏が腹立たしい。だが千遥は、杏に そうさせてるのは彼女を不必要に遠ざけている子供っぽい澪の方だと論破する。

そして千遥は人の振り見て我が振り直す。絃の気持ちには応えないのに、彼女の好意は嬉しくて中途半端な態度を取ってしまう。それならば、と絃から離れようとするのだが、それを考えただけで千遥は体調を崩してしまう。これは彼の中のジレンマが影響しているのか。「兄」の呪いがあるから離れたいのだが、離れようとすると身体が拒絶する。絃は それだけ千遥にとって大事なのだろう。

この体調不良によって、杏・澪組と絃・千遥組という本来目指す形が達成される。そして千遥は今度はクリスマスに2人だけで出かけることを提案する。更には弥太郎に絃を「妹」と思うのをやめると宣言する。
本音が見えにくい男・千遥は今度こそ本当に その意識を改めたのか…!?