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少女漫画と小説の感想ブログです

庶民が 組織のトップ オブ トップを射止める白泉社作品だが、いよいよ帝に手を出す。

帝の至宝 1 (花とゆめコミックス)
仲野 えみこ(なかの えみこ)
帝の至宝(みかどのしほう)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

国民が飢え苦しむ晶王朝。税が払えない村のため、宝を盗み出そうと王宮に忍び込んだ香蘭は、美しい青年・志季に出会う! 一夜明け、皇子を殺した暗殺者が逃亡中という報せが国中に広まる中、香蘭は志季に再会! 志季を暗殺者だと疑う香蘭だが、優しい素顔に戸惑って!?

簡潔完結感想文

  • 庶民が上流階級と仲良くなる白泉社作品だが、今回は平民と帝でスケールが大きい。
  • 他者のために私欲を捨てて健気に行動すると大きな見返りがあるという昔話的な お話。
  • ファンタジーにも強い白泉社だが、本書はカタカナ語が飛び交うぐらい世界観は適当。

物のシンデレラストーリーが開幕する 1巻。

非常に白泉社らしい作品で、庶民ヒロインが上流階級の人間と知り合い、ヒロインは上流階級の人とは違う異質さが組織の お偉いさんの目を惹き、やがて恋愛へと発展するという定番の流れである。

何と言っても本書の最大の特徴は、庶民が射止めるのが一国の王・帝である点だろう。若くして国の頂点に立った帝との交流が、やがてヒロインを本物のシンデレラにする。恋愛に至るまでの流れも白泉社流で、ヒロインの恋が成就するのは後半戦になってから。やや珍しいのはヒロインから恋心を自覚し、彼女の方が長い片想いをしている点だろうか。この辺は鈍感無自覚最強ヒロインが多数を占める白泉社ヒロインとは一線を画している。

これまでも生徒会長やら御曹司やらに手を出してきた白泉社ヒロインだが、いよいよ一国の王その人に手を出してきた。それが許されるのは中華風の世界観だからだろうか。古代日本のような国が舞台であった『遙かなる時空の中で』では、主上(おかみ)=天皇は登場したが、さすがに恋愛攻略対象外で、最大限譲歩した結果が主上の弟だったのではないか。

白泉社作品でも直接的な言動で権力に ひれ伏せさせるのは少ない。ここは陛下が出しゃばり過ぎでは⁉

して もう1つの特徴がヒロインの外見と実年齢だろう。どう見ても子供にしか見えない彼女の実年齢が1話の最後で明かされ、これによって皇帝陛下・志季(しき)が犯罪者じゃなくなるという安全装置になっている(笑)

見た目は子供、中身は大人のヒロイン・香蘭(こうらん)が平民代表として陛下に接することで、陛下は市井の人々の暮らしに目を向け、この国をより良くするための方策を練っていくという過程が彼女が「帝の宝」たる所以(ゆえん)だろう。

本書は身分の違う2人の交流によって、香蘭は上流階級に接する機会を得て、志季は庶民の暮らしを目の当たりにするという両方向からの社会の格差が描かれる。そして香蘭は偏見の多い上流階級の人々に正論をぶつけることで その偏見を払拭させ、そして志季は身分差による不利益の多い庶民たちの生活をより良くするために新しい施策を講じる。こうして この国は格差が縮小し、誰もが幸福を実感できる幸せの国になっていくのだろう。


のように本書は非常に読みやすい心温まる作品なのだが、帝を主役級に持ち出した割に世界観が非常に甘い。本格ファンタジー作品もある白泉社で一番ゆるい空想の国ではないだろうか。1話から香蘭は誰にも見つからず王宮内に入れるという ゆるゆる設定だし、作中でもカナカナが連発している。私は特に後者が気になった。ツッコミとかで現代風の言葉遣いをするのはまだしも、漢文を読んでいるような学校で「文箱(ふばこ)」と「バッグ」という言葉が使われていることで この世界への違和感が広がった。作者の中で言葉の線引きを しっかりと設けて欲しかったところ。

話も良い話だが、どこか既視感を覚えるものばかりで、どこを好きになればいいのか分からないまま、特に展開のない日常回が続くから中盤までは何度も挫折しかけた。
香蘭は優しいヒロインで例え自分に悪意を向ける人であっても助けるし、自己犠牲の上にも誰かのために動ける人だ。だが その香蘭の性格設定こそがファンタジーに見えてしまう。

そして権謀術数が渦巻いていた王宮内を香蘭も志季も こんなに自由に出入りできるのか、とも思うし、理想ばかりで国が治められたら苦労はないだろうとも思う。香蘭の外見に引っ張られているのかもしれないが、どうしても低年齢向けの作品に思えてしまう。

水戸黄門的な お決まりの展開は安心感があるが、結局、彼らが(特に香蘭が)権力を笠に着て守られている感じが、やや苦手に感じられる。正しいヒロイン!、しかも国の最高権力者の お墨付きという一方的な話にも思えてしまう部分があった。


る夜、国の圧政に耐え兼ね王宮に忍び込んだ香蘭は1人の美青年と出会う。追手から逃げるように姿を消した男だが、香蘭は追手に彼の存在を話さなかった。

忍び込んだ王宮での非日常的な出会いが全ての始まり。上流階級世界に庶民が紛れ込んで白泉社作品は開幕する。

後日、香蘭は その男が第一王子を殺して逃げた暗殺者と知る。暗殺者を捕まえた者には帝から宝が与えられると聞き、暗殺者の顔を知る香蘭は税に苦しむ村を救うために暗殺者を探す。

すると間もなく裏山で暗殺者が傷だらけで倒れているのを発見する。香蘭は捨て子として拾われたが、現在の家族である じいさん が村医者だったこともあり、苦しむ患者には平等に接する姿勢が身についており、まずは傷の手当てを最優先にする。足首の怪我が酷いため逃亡の恐れはないと踏み、香蘭は彼を裏山で治療し続ける。

目を覚ました暗殺者は自分を志季と名乗る。志季の容姿や言動は悪い人に見えない。その直感を信じるか、王宮からの お達しを信じるか。香蘭は葛藤する。

それから香蘭は志季を捕縛しようとするが、なかなか上手くいかない。夜中に志季を襲った時は、彼に言いくるめられ、同じ布団の中で眠ることになる。この時、香蘭は志季を完全に捕えようとしているのだが、後々に この行動は無かったかのように扱われるのが気になる。香蘭は徹頭徹尾 志季を匿うつもりじゃなかったのに、なぜか志季は彼女を全面的に信用する。香蘭も自分の手柄だけを引き受けているのがズルい気がしてならない。

やるか やられるか のギリギリの攻防のはずだが、この2人だと ほのぼの してしまう。そこが良い!

がて この国は第二皇子が実権を握り、敵国との戦の準備のため税と兵士が搾取され始める。今こそ志季を差し出す時なのだが、差し出せば彼の命は絶対に奪われる。このジレンマに頭を抱えていた香蘭は崖に落ちそうになる。それを助けるのは志季であった。こうして彼らは お互いの命を助け合った。

だが遂に第二皇子が直接、税を滞納する香蘭の住む村を襲い、罰を与えに来た。火を点けられた村の異変を察した志季も消火に当たるが、村は荒廃してしまった。

人並の幸せも守られない理不尽に涙する香蘭に、志季は あの暗殺のあった日に自分と香蘭が会ったことを認識していると彼女に初めて伝える。志季は香蘭が看護しながら、恐怖や葛藤を抱えても、志季に素性を訪ねなかったことを称える。

香蘭の勇気が、志季にも立ち上がらる勇気をもたらした。そして彼は香蘭の前から姿を消す…。


の後、香蘭は第一皇子の暗殺で一番得をするのが第二皇子だということを知り、即位式に乗り込む(大事な日には警備がガバガバになる王宮…)。

第二皇子の面前で彼を暗殺者だと名指しする香蘭。当然、第二皇子から この世界からの退去を命ぜられる香蘭だったが、そのピンチを志季が救う。
彼こそ死んだはずの第一皇子・宗雲(そううん)だったのだ!

こうして現在 実権を握る皇太后によって第二皇子の即位は中止となる。暗殺者と目されていた志季こそが暗殺の対象で、代理の死体も用意され、第一皇子の存在を消そうとしたらしい。
あの夜、香蘭が会ったのは、暗殺から逃げる志季で、追手こそが暗殺者であった。香蘭がもし あの時、不審な人物を見たと志季の行方を告げていれば志季は殺されてしまったかもしれない。香蘭は少なくとも二度 皇子の命を救っていた。

やがて志季が帝となり、香蘭は友人として自由に王宮の出入りを許されることになった。素性や真実など どんでん返しが続く1話だが、最後に香蘭の年齢が18であることが明かされ、さすがの帝も目を白黒させるのであった…。


2話から帝の側近・円夏(えんか)と雨帖(うちょう)の2人も加わりレギュラーメンバーが増えていく。

ここでは志季は身分を隠して最近、お金持ちの家を狙った強盗事件の調査に向かう。だが奪われた物は庶民へと再配分されており、犯行動機は義賊である可能性が高くなる。

香蘭は1人で聞き込みをしている最中に、香蘭の動きを良く思わない盗賊の一味に捕らわれてしまう。運ばれた先には なんと先に捕らえられた志季がいた。志季は役人だと思われており、彼ら盗賊団からしてみれば憎しみの対象で暴行を加えられてしまう。そのピンチを救おうと香蘭は止めに入る。まずヒロインの勇気が示される。

志季に肩入れしている香蘭は ついつい権力側の立場で物を言い、彼女は理想主義を唱えるが、生意気だと暴行の危機に陥る。そこで本当は強い志季が本気を出し、現場を制圧し、この場は治められる。ピンチを助けるのは いつもヒーローだ。

そして志季は帝として、低金利で庶民を助ける金融業を、この盗賊団に委託しようとする。香蘭のお陰で志季は市井の人々の暮らしに足を踏み込み、そして問題点を浮かび上がらせた。まずは庶民の生活を安定させるのが現皇帝の方針のようだ。

そのお礼として香蘭は志季から髪飾りをもらう。友人としてのお礼だが、香蘭は徐々に志季を男性として意識し始めているように思う。なんと言っても少女漫画における アクセサリは愛の結晶なのだ。今回は贈る方ではなく贈られた方の恋愛スイッチを入れたようだ。


季が立案した老若男女 身分を問わず通える制度の学校。だが貴族ばかり集まる現状を打破するために側近・円夏の進言によって香蘭も学校に通うことになる。そこで前の話に続いて、志季も現場を歩き社会科見学をすることに。

だが貴族ばかりの学校では、平民である香蘭は悪目立ちする。特に小姑のように意地悪を言ってくるのが、夸白(こはく)と夸紅(ここう)の双子の姉妹。そして この学校から眺める帝の志季は遠く感じられた。

そんな寂しさを埋めるように、隠れた志季が香蘭を抱きしめ、束の間の逢瀬となる。帝って暇なの、ってほど志季は色々な所に顔を出しているなぁ。

しかし学校で優秀な香蘭は、夸白たちの反感を買う。だが彼女たちが香蘭に意地悪を計画している途中で、夸白自身が川に落ちてしまう。貴族たちが救出を躊躇する中、香蘭だけが動き救出する。人工呼吸をし、彼女の命を助けるが、目を覚ました夸白は まるで香蘭をバイキン扱いする。

そうして容赦のない差別を浴びる香蘭を助けるのが、その場に現れた志季。彼は香蘭を抱き上げ、その頬にキスをして、香蘭が汚らわしい存在でないことを証明する。

この一件で、身分によるイジメは激減し、平民にも入学に前向きな者たちが現れた。夸白たちも香蘭に挨拶をするようになり、楽しい学園生活が 改めて始まろうとしている。

分かりやすい話なのだが、上述の通り、香蘭がいつも正しく、そして最高権力者も彼女の絶対的な味方という分かりやすすぎる構図に やや胃もたれする。香蘭は この話で学校で絶対にイジメられない立場を手にした。それが香蘭の力ではなく、帝の威光というのが ちょっと残念な構図である。読者の承認欲求は満たされるけど、帝と切り離すべきところは切り離さないと、香蘭が ただの虎の威を借りる狐に見えてしまう。


の日に香蘭が出会ったのは インチキ占い師の吏元(りげん)。12歳の彼は自分の占いで香蘭の運命の人が自分だという結果を信じ、香蘭と付き合うと言い出す。

こうして恋愛事情に話が及んで香蘭は自分が志季を好きであることを自覚し始める。だが好きを意識すればするほど、身分差を痛いほど感じる。だから ずっと この気持ちは自分の小さな胸に秘匿するものと思っている。

そんな中、円夏が高熱で倒れ、薬を取りに香蘭が雨の中、山に向かう。そこへ無理矢理 同行する志季。通常なら あり得ない展開だが、香蘭は志季を帝にしてくれた人なので周囲も甘い。

だが少女漫画の山は遭難するために存在するので、案の定 彼らも洞窟内で土砂崩れに遭遇し、閉じ込められる。こうして2人で救助を待つが、身体が冷えるのを防ぐために寄り添う。非常事態だから仕方ないが、志季は香蘭の実年齢を知ってからも彼女を異性として意識していない。この辺は後々に別の悩みを香蘭に もたらしそう。ネタには困らないですね。

こうして足止めを食らっても、円夏は薬がなくても「だいぶ良くなってる」みたいで、閉じ込められるイベントがメインであることが判明。

最後に吏元が香蘭に本気になりかけるが、それを志季が無意識に阻止しているのも見逃せない。彼らが互いに自分の気持ちを伝えるのは いつになるやら。本書が ばっちり白泉社的展開なのであるなら、それは随分と先のことになるだろう…。


「魔女にうさぎの人形を」…
公爵・カルロは怪しい旅人に騙され、うさぎ の ぬいぐるみ に精神が入ってしまった。その治療法を求め、魔女・マチルダに助けを乞うが…。

この世界での魔女は当時 異端とされ迫害を受ける存在。だがカルロは背に腹は代えられないため魔女に救いを求めた。だがマチルダが村の人々の病気を治す様子を見てカルロは考えを改めざるを得ない。

この話でもヒロインは人のために自分の危険を顧みない勇気ある存在で、領主である公爵の助けになることで国を変革していく。ということで基本的な構造は本編と変わらないことが分かる。作者がこういう話の作りが好みなのだろう。

ただ自分の描きたいもの/描きたくないものを優先して話を作っているのが残念なところ。本編では服優先で香蘭の見た目が子供になっているし、この短編でも 男の人を描きたくないから ぬいぐるみ にして登場を最小限にしている。そこから作者のイマジネーションが発動しているのだから悪いことでもないように思えるが、自分の私情や事情が作品を歪ませているようにも思える。

この話は世界観が濃くて、内容が充実している。ここから話を広げるのは難しそうだが、この短編が長編化しても おかしくない。もし選べるのなら私は本編よりも こちらの続編を希望しただろう。