《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ハリネズミの悩みはジレンマ。つまりは板挟み・膠着状態なので恋愛面は なかなか進まない。

恋するハリネズミ(2) (フラワーコミックス)
ヒナチ なお
恋するハリネズミ(こいするはりねずみ)
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

2年生になった紀衣と帆月。オリエンテーション合宿で彼にもっと近づきたい紀衣だけど、帆月を狙う女子&紀衣に急接近してくる男子が現れ、もう大変!! “ちょっとチクチク、でも誰より優しい。”そんなキミの、隣にいたいんです。

簡潔完結感想文

  • 正直者であれば最後に望みが叶えられるという童話のような話だが周囲に悪意が多すぎ。
  • ただ最後まで自分の意見を言わない正直者ヒロインも なかなか面倒くさい人格である。
  • 女性ライバルの次は当て馬が登場し、彼らに主導権が奪われそうになるピンチの連続。

リネズミのジレンマってツンデレの繰り返しってこと!? の 2巻。

続々と現れる邪魔者に恋路を妨害されるだけでなく、ヒーローの帆月(ほづき)が なかなか面倒くさい性格をしている。なので本来はヒロイン・紀衣(きい)を守るナイトの立場であるはずの帆月が紀衣を傷つける側にも回ってしまう。そういう時の帆月の心理状態こそ本書のモチーフである「ハリネズミのジレンマ」で、彼は紀衣を守りたいから遠ざけるという論理に支配されてしまう。ライバルたちによって どん底に突き落とされたヒロインを救って甘い言葉を吐くデレデレ期と、自分が紀衣にとって不必要であるとまで考え 彼女にツンツンしてしまう二面性を持つヒーローとして帆月は描かれる。

ということでヒロイン・紀衣にはライバルだけでなく帆月さえも加害者になる。こうして本書は究極の巻き込まれヒロインを誕生させ、紀衣は何度も傷つくことになる。ただし その傷つくばかりの中でも紀衣は自分の信念を強く持つことでヒロインとしての地位を獲得していく。ドMのように仕打ちに耐えることで可哀想なシンデレラポジションへと移行するのだ。

『2巻』は新鮮な展開が多く、作者が連載にあたって準備してきた話が上手く機能している。特に面白いと感じたのは、『1巻』でヒロインが挫折した帆月をクラスに馴染ませることを、別の女性キャラが成し得てしまうという展開だった。これによって今度はヒロインが帆月にとっての自分の存在の必要性の無さを痛感して身を引こうと考える。更には その考えを増幅させようという者を用意することで、紀衣は帆月から離れようとする。今回、紀衣の方が「ハリネズミのジレンマ」に陥るのが本当に考えられた展開だと舌を巻いた。

ハリネズミ役が本当は自分だったというミステリもビックリの どんでん返し。この後の展開も意外で…。

互いに互いを大事に思うからこそ、自分が身を引こうと考え、それが相手の心に傷をつけてしまう。些細な言葉で、少しの誤解で人は傷ついてしまう。それでも彼らが身を寄せ合う所に真実の愛が生まれる、はず。不器用で心の優しすぎる2人の想いが重なる場面を早く読んでみたい。


だ紀衣も我慢強すぎる面があって、最後まで自分の願いを口にしないのが、帆月との距離を広げる一因となっている。最後の最後で大逆転するところにシンデレラも本書もカタルシスがあるのかもしれないが、帆月の特性や思考を理解しないまま、彼の言動に振り回され勝手に不安になっている後半戦の紀衣には疑問も感じる。基本的にピンチ(とその逆転)の展開が同じなので、話が進むほど彼らの学習能力の無さが苛立ちへと転換されるのが本書の欠点だろう。

またキャラクタが全員同じ顔に見えるのも難点。髪色や状況で把握できるが、紀衣と萌華(もえか)、帆月と春樹(はるき)は髪色・髪型以外では判断できる自信がない。

あと春樹に関しては雪乃(ゆきの)の婚約者の血縁という関係性は無かった方が良かったように思われる。この血縁によって春樹が物語に深く関わるようになるのは分かるのだが、性格に難がある春樹と そっくりな婚約者と結婚する雪乃の未来が濁ってしまう気がした。子連れの再婚という なかなか一筋縄ではいかない選択をした婚約者の性格は純粋なものに見えなくては心配になる。間接的ではあるが春樹が邪魔をしているのが残念だ。

また春樹に関しては、どこで紀衣に惹かれたのかが全く分からない。もしかして春樹は帆月に恨みがあって そのために帆月のそばにいる紀衣を酷い目に合わせようとしているのではないかと深読みしてしまう(当たってたら どうしよう…)。意地悪な当て馬というポジションは目新しいが、もう少し彼の行動に説得力が欲しかったところ。


6月オリエンテーションが始まる。帆月と同じ班になれるはずが、山田(やまだ)の独断専行により紀衣とは別の班になってしまう。

更に一緒に歩く帆月と紀衣を発見したクラスメイトの萌華が2人の間に強引に割って入り、そのせいで帆月のケータイが崖下に落ちてしまう。帆月はケータイよりも怪我をしたという萌華を背負っていく。この現場を多くの生徒が目撃しているのだから、これだけで帆月の優しさが分かると思うが、本書はモブの頭が少々悪い。

紀衣は女子担当の夕飯の下準備(差別的!男子はマラソンだけど)を抜け出して帆月のケータイを奪還すべく崖下に向かう。だが滑ってしまった紀衣は怪我をするが彼女は自分よりケータイの無事を先に心配する。ここは帆月と紀衣が似ている利他的な部分だ。

そんな彼女を見つけるのはクラスメイトのイケメン・春樹。スマホの操作に不慣れな彼に何とかケータイの無事を確認してもらい任務は完了する。紀衣は春樹に帆月のケータイの返却を頼むが、その手柄を萌華が横取りする。

嘘の怪我で料理の下準備が出来ていない萌華を山田が責めるが、彼女は その言い訳に帆月のケータイを拾いに行ってたと申告する。嘘に嘘を重ねている訳だが、その怪我でどうやって!?、と誰かツッコんで欲しいところ。モブの思考能力よ…。

その後、帆月が料理上手な所を見せ、彼は周囲からの畏怖が解除され、クラスメイトに囲まれ始める。これはクラスの人気者・萌華の手腕によるところが大きい。


衣の胸中は複雑だった。帆月の良い所を皆に知ってほしいのは1年生の時からの彼女の願いだったが、自分では それが実現しなかった。なのに今日、萌華によって帆月はクラスメイトと打ち解けていた。自分が帆月にとって足を引っ張る存在だったのではと紀衣は反省する。紀衣が自分こそハリネズミだったと気づく立場の逆転が本当に面白い。ただ帆月もそうだが、紀衣も自分を無価値や過小評価していて自信がなく、変な論理に迷い込んでしまいがちだ。

そんな紀衣の悩みを聞いてくれるのは春樹なのだが、春樹は紀衣の話を聞いて彼女を元気づけようとするどころか、帆月には萌華が必要なのだ、と紀衣が望まない方向に結論を導いていく。春樹は人畜無害なイケメンに見えて、割と我の強いタイプだということが分かる。

こうして自分が帆月にとって一番の理解者で一番近い所にいると思っていた紀衣は、二重の疎外感を覚える。

そんな紀衣の精神的苦境を帆月が助け出すという展開が王道だが、萌華による呪いが帆月を動けなくしていた。その呪いとは帆月のケータイ救出のために怪我が悪化したという罪悪感を植えることであった。更には春樹がさりげなく紀衣と帆月の接近を阻止する。萌華と春樹による心理的束縛による行動制限はミステリでも使えそうな手段だ。


が その夜、帆月はケータイを巡る一つの真相を知る。

紀衣は帆月が萌華を探していることを知り、キャンプファイアーの輪から離れ、1人落ち込んでいた。
そこに登場するのが帆月。彼は春樹の滅茶苦茶な操作によって撮影された1枚の写真によって、自分のケータイを誰が拾ったのか、そして紀衣の怪我の真相を推理する。

なぜ黙っていたのか問われた紀衣は自分が出しゃばらないことが帆月とクラスメイトの交流になるという考えを告げる。その答えに帆月は、彼女の望むままに もう一度 クラスの輪に戻ろうとする。

だが その背中に紀衣は本当は たまには自分と一緒にいて欲しい、という本音を伝える。すると帆月はクラスメイトと仲良くしないことを宣言する。というのも真相を知り、萌華が嘘をついていると知った帆月は彼女を故意に傷つけ、それがクラスメイトの不評を買ったからであった。こうして帆月のクラスでの位置は元通りになり、そして紀衣の願いは聞き入れられる。

「たくさんの誰か」より「大切な人」といたい。まるで童話のように正直者が幸福になるエンディングである。クラスメイトに溶け込むことが目標かと思ったら、それが放棄されたことには驚いた。

ただ繰り返しになるが、紀衣も最後の最後まで我慢しないで帆月に本音を話せばいいのに、という面倒くさい性格を感じる。今回は まだまだ交際前で、勝手な独占欲だが、これが交際後にも起こるのかと心配になる(多分、杞憂じゃなく きっと起こる)。


る日の放課後に帆月に雪乃の家に誘われた紀衣だったが、雪乃の婚約者と一緒に現れたのは春樹だった。何と2人はイトコ同士。帆月にとって紀衣と春樹の接近はあまり快くないこと。それが恋愛感情によるものなのかは まだ分からないが。巻末収録の読切短編を読むと、帆月は雪乃の婚約者に複雑な思いがあり、その血縁者ということで春樹に一層の苦手意識を覚えたと思われる。

一方、春樹も帆月には敵対心を隠さない。そして帆月は紀衣のナイトのように春樹の接近を許さない。3人で下校中に帆月の中学時代の同級生と思われる輩に絡まれ、その仲裁に入った紀衣が怪我をしてしまう(よく怪我するなぁ)。

そのことに帆月はキレて彼らを撃退。だが春樹は怪我もトラブルも帆月のせいだと考え、帆月に罪悪感を植えつける。春樹は基本的に萌華と同じような利己的な人なのだろう。

そして帆月は春樹の口車に乗る形で紀衣を守るために、自分から身を引こうと考えてしまう。

絵本の内容に自分たちを重ね合わせてしまう純粋な高校生たち。お陰で洗脳しやすいですわ(by.春樹)

月から身を引くことは1年生の時もあったが、距離が近づいた分だけ紀衣にとってはショックが大きい。だから涙を流して帆月が好きという気持ちが溢れてしまった、それでも帆月の決意は変わらない。全ては帆月のためなのだが…。

そんなボロボロのメンタルを春樹に話すと、当然 彼は紀衣の周囲に帆月がいない状態を歓迎する。だが、彼との会話中に、帆月の思考が少しわかった気がした紀衣。しかし春樹が紀衣を呼び止め、そして告白して…。

春樹の告白は本気なのか、それとも紀衣と帆月が接近するのを阻止するため、紀衣を混乱させる手段なのか分からない。だって春樹が紀衣のどこが好きなのかまるで伝わらないのだもの。


ハリネズミのハリーのお話」…
本編連載前に描かれた読切で、帆月が中学生の頃、雪乃に出会う話。

治安の悪い中学に通っていたため人生に目標が出来ず、降りかかる火の粉を払うように暴力漬けの毎日を送っていた帆月。
だが街中で赤ちゃんに遭遇し、その母親の雪乃と知り合うことで彼の日常は変わっていく。

それにしても雪乃は この時はどこに収入減があったのだろうか(というか今も)。この話で雪乃の元夫が登場するが ろくでもない男で、赤ちゃんの父親はこの人なのか、と悲しくなる。

そして この話を読むとますます帆月は雪乃に恋心を抱いているように見える。そして雪乃の婚約者には尊敬とライバル心がない交ぜになっている。でも雪乃(と婚約者)が人生を変えてくれたのは確かで、このお陰で進路が定まり、紀衣とも出会えた。後々に この出会いに深く感謝することだろう。

今度こそ帆月を幸せにするために、彼を理解してくれる存在=紀衣を用意して連載は企画されたのだろうか。

結果的に連載の元ネタとなった読切だが、考えてみればヒーローしか登場せず、ヒロインがいない。そして恋愛が成就しないという なかなか見ない結末になっている。連載化しなければ本当に この読切は単独の存在だったのだろうか。その経緯を詳しく知りたいなぁ。