ヒナチ なお
恋するハリネズミ（こいするはりねずみ）
第03巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★☆（5点）
勢いで帆月に気持ちを伝えた紀衣。だけど、あえなく玉砕・・・そんな中、春樹から告白されちゃって、恋は大混戦模様・・・帆月と一緒にいたい・・・そう願う紀衣に恋の奇跡が―？
簡潔完結感想文
- 結婚式場で誓いのキスをする もう1組のカップルの誕生を誰も知らない。
- 両想いになった途端、彼女ヅラして彼の事情にグイグイ踏み込むヒロイン。
- デート回からの元カノ問題。ヒロインの悩みは尽きないが初期設定とは…？？
幸福は短く、不安は限りない、の 3巻。
んーーー、どうして少女漫画は両想い後の展開が難しいのだろうか。本書は『3巻』途中から両想い・交際編へとシフトするのだが、その展開は既視感が否めない。特に本書は、言葉足らずのヒーロー・帆月（ほづき）にヒロイン・紀衣（きい）が無駄に傷つき、その どん底の心理状態を帆月が救うというマッチポンプ方式が多く、両想い後も そうなることは簡単に予想される。だからこそ この後の展開が楽しみだとは思えない。新しいキャラ、新しい障害を用意しても結局 同じような結論に落ち着くのは目に見えているのだから。
それにしても本書はキャラクタの数が多い。しかも無駄に。『2巻』で帆月が今の高校の生徒たちと仲良くならなくていい、と割り切ってしまったため新キャラたちの存在意義は失われ、世界は広がらない。
現在の世界を断ち切ってしまったため、残るは過去を捏造するしかないと、中学時代の友人たちとのエピソードを作り、そして根本的に矛盾する「元カノ」という存在まで作り上げてしまった。
以前、藤沢志月さん『キミのとなりで青春中。』の感想文のタイトルに「学校内の刺客 アメリカからの刺客。長編化した少女漫画って ほぼ少年漫画だよね説」と書いたが、本書もまさに そんな感じ。両想いという目的を果たしても物語を続けるために新たな刺客が続々と投入される。そういえば本書も『キミのとなりで～』も同じ「ベツコミ」作品である。編集部が そういうバトル漫画的な延命措置を施しているのだろうか。だが やることないなら やらなきゃいいのに、と痛感する後半の失速になってしまっている。
両想いまでのディスコミュニケーションは2人のすれ違いと相互理解のために役に立っているが、今後は少しも成長していないことの証拠になってしまう。段々と帆月だけじゃなく、紀衣の性格にも問題があることが発覚していくのも残念なところ。これまでは巻き込まれ型のヒロインだったが、交際後は自分から首を突っ込んだり、空回ったりと これまでのシンデレラポジションから 若干ウザいヒロインへと変貌している。
そして このディスコミュニケーションがライバルの付け入る隙になってしまうと予想される。『2巻』のような面白い立場の逆転などが見られればいいが、アドリブで話を作っているような状態であろう後半戦には何も期待できない。
両想いになって幸福のピークを迎えたところが作品のピークになって、どんどん尻すぼみになっていくという少女漫画で散見されるの残念な王道パターンへと進んでいってしまうのが残念である。
帆月は再び紀衣を遠ざけることで守ろうとする。それは紀衣が告白しても変わらない彼の決意だった。
そしてショックで発熱し、帆月とは連絡が取れないままでフラれた理由も分からない。そんなどん底の状況で共通の友人・雪乃（ゆきの）の結婚式に出席する。当然、帆月も参列していたが無視されてしまう。
同じく参列していた新郎側の親戚でもある春樹（はるき）と式場中を見て回るが、体調が万全でない紀衣は倒れ込みそうになる。それを助けるのは帆月。彼だけが紀衣の足元が覚束ないことを察知していた。体調不良を見抜くのは両想いになる人たちだけなのは、少女漫画あるあるですね。
紀衣は帆月にお姫さまだっこをされて会場の一室に運ばれ、横になって休む。そこで2人は久しぶりに会話をするが、帆月の言葉は足りなくて、紀衣はまた悲しみに暮れる。
紀衣が目を覚ますと式が始まっていた。だが直前まで心配そうに帆月が付き添ってくれていたことを式場の職員から聞かされ、紀衣は また期待を抱いてしまう。
遅れて入った式場で紀衣は帆月の隣に座るが、そこで新郎側の出席者が少ないことに気づく。それはバツイチのシングルマザーとの結婚を快く思わない人たちが多いことを示していた。それでも結婚する茨の道を選ぶ雪乃に対し帆月は新郎も雪乃も「バカだ」と評する。それは今の帆月の心境と重なる。「側にいる奴のせいで巻き込まれて傷つくなんて辛い」、それは帆月が加害者になって紀衣を巻き込んでしまうという彼の罪の意識であった。
そんな帆月の思考を知って、紀衣は彼に怒りをぶつける。一緒に いられる大きい喜びを放棄するような考えを自分はしない。帆月と一緒に居たいと紀衣は述べる。そんな紀衣の覚悟を感じ取り、帆月は紀衣にキスをする。
混乱のあまり式場を飛び出す紀衣。そして その日は再度 帆月に会うことは無かった…。
雪乃は帆月にとって人生の先を行く先輩なのだろうか。荒れていた自分を大らかに包み、帆月は少なからず雪乃に恋をしていた。そんな彼女が敢えて苦しい道を選んでも、その人との幸せを手にしようとする姿を見ることによって帆月も生き方を再考する。今の高校に進学したのも雪乃のお陰だし、それによって紀衣に出会い、そして紀衣と同じ道を歩こうという決意も雪乃の結婚式を見て固まった。帆月にとって雪乃は忘れられない大恩人だろう。
結婚式の後、学校で帆月と会うのは なかなか勇気が出なかったが、彼に会いに行くと、彼は春樹と一緒にいた。そんな三角関係に動き出したのは帆月。紀衣を抱え、春樹に対し紀衣は「やらねー」と立ち去る。
だが紀衣に対して説明がないことが彼女を混乱させる。それは帆月の中に紀衣に対しての言葉が見つからなかったでもあった。彼は自分の抱えるジレンマに答えが見つけられていない。だけど紀衣の側にいると身体と心が奪われる。それはきっと紀衣を「好き」ってことなのだと帆月は推測する。こうして帆月は恋を学び、『恋するハリネズミ』になった。
めでたしめでたし。
ここからは蛇足というか、帆月のトラウマや悔恨の解消編みたいな感じに移行していく。まぁ そのトラウマや悔恨が後付けされたものではあるが…。ここからの話は荒れていた、人としての感情が無かった帆月の中学時代の思い出の清算と言えよう。
『2巻』の読切短編にあった通り、中学時代は帆月を信頼し、周囲を賑やかにしてくれた友人たちが存在しただが、帆月がレベルの高い高校に進学して以降は没交渉になってしまった。
紀衣は、帆月が その状況を喜んでいないことを感じ取り、彼女としてヒロインとして お節介を焼き始める。だが怖そうな元友人たちに紀衣が委縮する頃、帆月が介入し、話は決裂する。
そして どうやら帆月は自分のパーソナルな問題に紀衣が足を突っ込むことを好ましく思っていない。こうして仲直りを画策したら2人の距離に隙間風が吹いてしまった。
だが翌日、紀衣が1人で登下校する際、中学の同級生たちが紀衣の家の周囲に たむろしていた。そこで紀衣は彼らが帆月と仲直りしたいことを察する。彼らは帆月が勝手に志望校を変更し、勉強をし出したことにおいていかれた気がした。その事情を知った紀衣は、自分の両想いパワーで帆月を召喚することにした。ただし保険を掛けて紀衣が拉致され脅迫されたような画像を添付したため、帆月は激おこで登場する。
この話でも帆月が紀衣に事情に踏み込むな、と言っていたのは、紀衣がケガするリスクを低減するためだった。帆月はいつでも紀衣ファ―ストということを忘れてはならない。
そんな2人のラブラブ劇場を見せつけられて元同級生たちはへそを曲げて立ち去る。紀衣は帆月に放っておけと言われても帆月の真意を汲み取りヒロインパワーを再爆発。追いかけた彼女が見たのは、元同級生と帆月がしていた友情の儀式だった。彼らの心がまだ繋がっていると感じた紀衣は、帆月も同じ気持ちであることを説明する。そうして彼らは遅れて来た帆月に抱きつき、友情が復活。
この元同級生たちの友情は復活したのに、同じく中学での帆月のカリスマ性に惹かれ同じ高校に進学した照橋（てるはし）は帆月に嫌われたまんま。帆月は この高校に進学して何か良かった事はあるのだろうか（紀衣との出会い以外）。この辺も新しい世界が広がらないで、過去や狭い範囲で世界を構築していく原因になっているように思う。
この一件で紀衣は名実ともに「彼女」になる。そこから始まるのがデート回。
帆月の方から誘われて初デートが始まる。だが帆月は待ち合わせに遅刻するし、言動が少し変で、紀衣も帆月も心の底から楽しくない時間だけが流れる。
それを修正できないまま、2人を帆月の元同級生たちが尾行していることを知り、紀衣は自分がからかわれているように感じる。
帆月から離れ、1人で落ち込む紀衣だったが、そこに帆月が弁解に来る。デートの方法が分からない帆月は、元同級生たちの指導でデートを研究し、そのノルマの達成に頭がいっぱいだったという。こうして紀衣が勝手に不安になって落ち込んで、帆月が弁明して仲直りするパターンは本書の王道ですね。うん、もう飽きた☆
デートを終え、幸福の絶頂にいる紀衣にライバルが登場する。それがデート中にハンカチを貸してくれ縁が出来たスミレ。彼女は元カレの「ヨウくん」との復縁を望んでいるが、彼は連絡をほとんど無視するらしい。
スミレが かなり「ヨウくん」情報に詳しいことに触発された紀衣は、帆月の何も知らないという焦りで帆月情報を収集し始める。だが他の男性にまで自分の情報を聞いて回る紀衣を見て、帆月は気分を害す。以前も雪乃情報を聞きまくって失敗していたが、紀衣は かなり重たいタイプの女性に見える。
帆月を喜ばせる準備として帆月のことを知りたかったが、それが彼を嫌な気持ちにしてしまった。まだまだ近づくほどに傷つくハリネズミたちである。
だが2人での会話で紀衣の本音を知り、帆月もなぜ自分が嫌な気持ちになるのか、そして何を望んでいるかをハッキリと述べる。こうして2人が気持ちを再び通わせたところに、スミレが現れ、彼女の元カレ・ヨウくん＝帆月だということが判明する。
こうして元カノ問題へと発展していく。だが恋を知らないハリネズミに元カノが存在していたという大きな矛盾は どう説明するのだろうか…。
