《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼に もう一度キスをして欲しいと願った時には、彼は もう二度とキスをしないと誓っていた。

True Love(2) (フラワーコミックス)
杉山 美和子(すぎやま みわこ)
True Love
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

幼少時の両親の離婚をきっかけに、9年間離ればなれで育った愛衣と弓弦。両親の復縁で、ふたりは、また家族になる。弓弦の通う高校に入学した愛衣は、弓弦の中学の後輩で、彼にずっと片思いしている少女・ナナヨと友達に。けれど、素直に弓弦への思いを語るナナヨと共にいるうちに、愛衣は、自分も弓弦に恋しているという事実に気づいてしまう。叶うはずのない恋に、愛衣は深く悩む。一方の弓弦も、愛衣のことを密かに思っていた。互いに惹かれあいながらも、許されない恋に悩むふたりは、思いを胸に秘めたまま、すれ違っていく。そして、苦悩する弓弦は――…!?

簡潔完結感想文

  • 許されない恋心を終わらせるためのキスが、許されない恋心を目覚めさせてしまう。
  • 誰もが その人の隣に立てる自分になろうと必死に努力する。実は修二が天才肌??
  • 少女漫画の偽装交際から本物の恋が始まるのは、相手が運命の人である場合のみ。

子様のキスでプリンセスの恋心は目覚めるが、それで王子の恋心は封印される 2巻。

まるで性的マイノリティの話である。多くの人が当たり前に出来る人を愛することが、自分にとっては困難なものであると分かるからマイノリティには苦悩が生じる。それと同様に、近親者しか愛せないという自分の恋愛の特殊性が、彼らの苦悩を深くしている。『2巻』は「恋愛マイノリティ」といえる彼らの どうしようもない苦しみを鮮明に描いている。

なるほど、私には なぜ兄妹モノが少女漫画界で ずっと支持されているか謎でしたが、きっとBLの流行と理由は同じであろう。相手に受け入れられないどころか、社会にも受け入れられがたい関係性であるからこそ、両想いまでのハードルは高く、そして それを突破しようという瞬間に恋愛には一般的な形式とは違う特別感や価値が生じるのか。どんなに自分を偽ろうとしても、特定の領域の人たちしか愛せない。それは切なく、それにより彼らの恋心が特別なもののように見えてくる、ということなのだろう(もちろん他にも これらのジャンルが愛される理由はあるだろうが)。

ということは、昨今のLGBTに対する社会的な認識の変化、制度の拡充が、本当に普遍化したらBLブームも終焉するのだろうか。そんな日が来て、特殊性を失ったら、今BLに群がる(言葉が不適切か?)人々は、次の切ない恋愛の形を求めて、新たな鉱脈を発掘するのだろうか。もしかしたら近頃 よく目にする異種族間の恋愛がそれに近いのか。それだけ人々が、性別や外見、種族が関係のない本物の愛、精神的な繋がりを求めている、という好意的な解釈も出来よう。

しかし近親の恋愛の場合は この先も どこまでも許されるものではないから、こちらは これからも少女漫画界では支持されるのかな。


『2巻』では すれ違いの描写が非常に上手く表現されていた。

主人公兄妹は、ただ妹/兄の隣に立てる自分でいられるために信じられないほどの努力を重ねてきた。だが幼い彼らが抱いた願望が、一つ一つ叶っても、彼らの心の隙間は埋まらない。兄と同じ学校に通いたいという保育園児の愛衣(あい)が抱いた願いが叶っても、高校生になった愛衣が隣にいたいと思う願望は、家族としての感情ではなかった。兄に近づくためにした努力が、かえって兄との距離を鮮明にしたのは皮肉である。

そして流れ星にも神様にも願った家族が平和に暮らすという2人の願望も叶ったが、兄・弓弦にとって、もう一度 家族と暮らすことは地獄でしかない。だから彼は家族との同居を選ばない。9年前の願いとは違い、離れていた間に彼が妹に対する欲望が生まれてしまった。
妹と暮らすことは弓弦としても叶えたい願いだが、同時に それは自分を「家族」という制限に押し止めることだと感じられたのだろう。だから弓弦は家族と距離を置き、一人の男性として愛衣の側にいられるようにしたのではないか。
家族4人で暮らしていれば、きっといつか両親が不審に思うような行動をしてしまう。愛衣を見つめる視線に、交わされる会話の温度に、自然に溢れる慈しみの中に、きっと妹への恋心が滲み出てしまう。それを家族に気取られないように、弓弦は距離を置いた。自制できるほど愛衣への気持ちが弱いものではないと本人には分かっているのだろう。

両親の離婚により、絶望の9年間を過ごし、海を隔てていた距離は限りなく近づいた。だが近づけば近づくほど、彼らには兄妹という9年間 見えていなかった絶対的な障壁の高さに絶望することになる。

この恋は、叶えられない/叶えてはいけない、という気持ちが彼ら双方に自分の気持ちに蓋をして、相手との線引きをさせる。互いの気持ちを知らない2人は、その言葉に大いに傷つき、そして打開策を探る。

本来なら受け入れがたい恋愛の形でも しっかりと切ないし、人を利用する眉を顰める手段にも納得してしまう。そう思わせるだけの説得力が作品に備わっているのが凄い。2人の恋心がそれだけ切実に描かれ、何より彼らは努力をしていた。兄妹揃って偏差値75の学校に入学というエリートなのだが、それは彼らが相手のために自分を磨き上げた結果である。

そして その原動力となる9年前のエピソードが効いている。幼い彼らは、家族の平和を、ずっと一緒に暮らせることを心から願った。だが それは彼らが恋を知る前の純粋な願い。過去の自分たちの願いが、現在の自分たちの願いとは一致しない、という願いの すれ違いもまた見所である。今の彼らは、自分たちが家族であることを、誰よりも望んではいない。


然の弓弦からのキスを語る前に、4年前の弓弦のアメリカ生活が回想が語られる。

この頃の弓弦は性に目覚めた頃で、友人からエロ本をもらい、興味と罪悪感に悶々とする。しかし頭をピンク色にしながらも、思い出すのは愛衣のこと。そこから想像は広がり、愛衣も自分同様に性に目覚め、誰か知らない男と そういうことをしているんじゃないか。そう考えるだけで弓弦は 居ても立っても居られなくなる。

だから少しでも愛衣の近くに、妹に近づく男を阻止するために、彼は日本への帰国、そして日本の高校への進学を父に懇願する。誰かに取られたくない、その気持ちが弓弦の恋の輪郭を鮮明に浮き上がらせた。

これを読むと『1巻』で再会した その日の弓弦が色気づいたように見えた愛衣に毒を吐くのは、まず弓弦が一番 聞きたくない可能性を潰そうという彼の焦りだったことが分かる。自分にとって最悪の愛衣の現状を考えて、自分のダメージを少なくした。その言葉で愛衣が傷つくことを想定していない辺り、弓弦も子供だということだろう。

ここで、弓弦が この9年間、愛衣との再会を願い、そして その時に少しでも愛衣から見て素敵な自分でいるために弛まぬ努力をしてきたことが語られる。外見はともかく、彼の内面は彼が獲得した、間違いなく彼の努力によるものだ。そして弓弦は、その原動力が愛衣であり、彼女への気持ちが「愛」であることに気づいてしまう。それは普通の人とは違う感情。異性を愛しながらもマイノリティになった彼の苦悩はいかほどか。このエピソードで弓弦が単純な少女漫画的な記号としてのエリートではないことが分かり、彼の背景が広がった。

そして この兄妹の似ている部分が分かる。弓弦は愛衣と再会した時のために、そして愛衣は兄と初めて同じ学校に通うために努力をした、ということ。傍から見れば、エリート兄妹に見えるかもしれないが、彼らには目的があり、エリート校在籍は それを叶える手段に過ぎない。


れから4年、引っ越し作業中の事故チューに続いて、弓弦は何かを決意したように、もう一度 愛衣にキスをする。

だが、それは想いを告げるキスではなかった。自分の抱えている気持ちを終わりにするための、さよならのキスだった。だから困惑する愛衣に向かって、弓弦は そのキスが海外生活の習慣からくる癖だと処理をした。

だが愛衣は初めてのキスで、そして初めて もたらされる自分の中の複雑な気持ちを処理できずにいた。その困惑を断ち切ったのは、弓弦が同居しない、という事実。

アパートの方が学校が近く便利なため、昔のように家族4人では住まないという。愛衣は何も言わないが、母は説得に走る。だが弓弦の決意は固い。なぜなら一緒に暮らせば、「家族」である自分が妹に抱く感情が間違っていることが強調されてしまうのだろう。今度こそ仲良し家族になれるのに、自分は邪な欲望を妹に抱いている。不純物を家族に入れたくない。そんな自己嫌悪が弓弦には あるのではないか。もう9年前のように純粋に妹を思う お兄ちゃんではいられない。


して愛衣の学校生活が始まる。

愛衣は兄とのキスが「全然 嫌じゃなかった」ことに戸惑っている。しかし、兄妹なのに おかしい、と弓弦が線引きをするため露悪的に放った その言葉が愛衣を苛む。

そんな愛衣に話し掛けてきたのがクラスメイトの竹内(たけうち)ナナヨ。彼女は中学時代の弓弦の後輩で、彼を慕って難関校に挑んだ。彼女も愛衣と一緒で、弓弦との学園生活を夢見て、勉強に励んだ人であった。そして合格の お祝いとして弓弦の連絡先を教えてもらった。この時点では2人は同士で、同じ位置にいる。

高校から弓弦の好みのショートヘアにし、ナナヨは告白することを決意していた。その言葉の数々に愛衣の心は濁る。これは、4年前の弓弦が愛衣の隣に誰かいることを想像したことで自分の恋心を明確にしたのと同じことであろう。ナナヨは ある意味で愛衣の恐怖が実体化した存在と言える。そして きっと その恐怖が愛衣に自分の恋心の在り処を教える。ちなみに弓弦の髪型の好みはショートではないだろう。愛衣とは まるで かけ離れた好みを伝えることで、自分が好きな女性を隠そうとする意図があったのではないか。その情報を鵜呑みにし、弓弦に近づけたと思っているナナヨは哀しい。

愛衣にとってナナヨは正真正銘のライバル。だが正々堂々と戦うことも許されず、彼女に嘘をつき続ける。

校にして初めて見る学校での兄は大スターだった。だが愛衣にとっては、兄と同じ学校に通う夢が、かえって兄との距離の遠さを感じてしまう。その胸の痛みが、愛衣に家族愛以上の気持ちに気づかせる。

それと同時に、純粋に弓弦に恋焦がれることが出来るナナヨと自分との明確な違いを思い知らされる。好きと分かった瞬間に失恋を予感させ、ライバルの行動を阻止する権利も持たない自分。悲しく歯がゆい恋が始まってしまった。
愛衣を誰かに取られたくないから弓弦は日本に帰ってきたが、既に兄に最接近している愛衣には自分が取れる手段はない。

母から兄への弁当を持たされた愛衣が親衛隊の お姉さま方にイジメられている声を聞き、弓弦は動く。彼はピンチに駆け付けるナイトになり、こうして愛衣が弓弦の妹だと周知の事実になる。更に弓弦の鶴の一声で今後の愛衣の学園生活の安全も保障される。これにより周囲の雑音が随分 低減することになる。

その後の兄妹の会話に顔を出すのは、弓弦のクラスメイト・朝比奈 修二(あさひな しゅうじ)。ちなみに弓弦が成績学年1位、そして修二が2位だという。この世界に君臨する2人の男から好意を持たれるヒロインという設定に読者の心は満たされていく。おそらく顔面偏差値も1位と2位だろう…。弓弦の成績は愛衣のためと言っていい。愛の力が彼に熱意と結果を もたらす。だが修二は恋愛ドーピングを使わずに2位の成績を収めている。実はポテンシャルは修二の方が高いのではないか。

愛衣の恋心は、早くもナナヨにも修二にも早くも見抜かれそうになる。
ナナヨの場合は、それだけ真剣な恋をしているからだろう。自分以外の誰かが弓弦の心を射止めてしまうかもしれない焦燥感があり、それが弓弦にとって特別な関係である愛衣にも適用されてしまった。そして修二は その観察眼で、愛衣と弓弦の中の兄妹以上の感情を見つける。修二は弓弦とは友情で、そして愛衣とは恋情で結ばれた ちょうど兄妹と正三角形になる位置にいる人で、彼らの行く末を見守る観察者の役割と言える。愛衣の気持ちの受け皿のような存在だが、そこまで深く愛衣を追求しない。つかず離れず適切な距離を保てる賢い人物である。

愛衣にとって修二は比較対象。弓弦に負けず劣らずハイスペックで、そして血が繋がらない安全な人。

の日、修二の発案で弓弦と修二、そして愛衣が一緒にご飯を食べることになるが、愛衣は そこにナナヨも誘う。ナナヨは弓弦に、そして修二は愛衣に、そして兄妹は 妹兄に恋をするという複雑な四角関係が完成しつつある。学校の主要人物は これで全員。追加キャラ、新キャラがいないのも物語をスマートに見せる。

次のイベントは林間学校。なんと1・2年合同で、2泊3日の日程で行われる。といっても進学校だから講習やマラソンという過酷なスケジュールが続く。

だが お堅い学校にもジンクスは存在していて、キャンプファイヤーの中に好きな人の名前を書いた石を投げ入れ、その石がキレイなまま燃え残ってたら恋が叶うというジンクスが広がっていた。

出発前、ナナヨは林間学校で告白するという。愛衣は それを止める権利を持たない。そして自分は告白することすら出来ない。その悲しみに暮れている時、弓弦が姿を現し、そして雨の中、相合傘で実家に帰る。

前作『花にけだもの』では汗にまみれたり、水に濡れたり、毎回のように身体に水が滴(したた)っていたが、本書では ここが初ですかね。

そして この日、2人は初めて引っ越しの日のキスのことを話題にする。更にじゃれ合っている内に、2人で愛衣のベッドに倒れ込み、微妙な雰囲気になってしまう。色っぽい愛衣と、彼女の性への興味を知ってしまった弓弦は赤面しながらも何とか踏みとどまる。そして愛衣を振り切るように、彼女が絶望するように「彼女くらい つくってもいい」と告げる。


衣は絶望に暮れながら林間学校に参加する。ナナヨに一緒にジンクスに誘われるが、愛衣が書いたのは修二の名前でなく弓弦だった。…にしても愛衣はナナヨに石を見せてと言われたら万事休すだったんじゃないか⁉ それだけ周囲のことや後先を考えられなかったということか。

だが石を探しに無断外出したことで、ペナルティを受け、石を投げ入れるまでナナヨと行動を共に出来なかった。それで石を見せずに済んだけれど、愛衣の危うさでは いつ恋心が発覚するか時間の問題だ。その緊張感が楽しいのだけど。

愛衣はナナヨだけでなく、彼女が自分の名前を書いてくれる勘違いしている修二にも石に書いた名前を秘匿し、彼らを欺く。この辺は愛衣の苦しいところである。ただでさえ言い出しにくい、後出しの恋心に加え、彼女には兄妹という関係があるから絶対に人には言えない。少女漫画では、正々堂々と恋愛バトルをすることによってヒロインの持つ正直な性格を表現するが、愛衣にはそれが絶対に出来ない。

愛衣は何度も自分の気持ちに嘘をつき、誰かを傷つけていく。それは この愛が根本的に有罪であることとリンクしている。愛衣は絶対に清純なヒロインでは いられない。


キャンプファイアーの後もナナヨの石はキレイなまま残った一方で、愛衣の石は黒く焦げ、汚くなっていた。愛衣には それが神様のジャッジのように感じられた。幸せになるよう祝福されているのはナナヨで、自分は見放されている。それが神の意志で社会の常識だと言わんばかりに結果が分かれた。

愛衣が落ち込んでいれば姿を見せるのが弓弦。だが どれだけ彼に優しくしてもらっても、身体が近づいても もう彼はキスをしてくれない。彼にとってあれは ただの習慣で、その後に自分が恋心に気づいても、もう2度目は無い。

だから今度は愛衣の方から線引きをする。弓弦は兄であることを再確認して、彼女は自分の未練を断ち切る。愛衣は その言葉が今度は自分が兄を傷つけていることは知らない。


キャンプファイヤーの夜、弓弦はナナヨから呼び出される。それが告白であることは弓弦には分かっていた。

愛衣が自分に兄であることを望むなら、弓弦は それを叶えるだけ。そして自分の気持ちが愛衣に傾かないよう、その重しとしてナナヨとの交際を始める。これは たった1人の愛する妹のための、自分勝手な偽装交際である。彼らの恋は誰かを傷つけずには いられない。