ふじもとゆうき
キラメキ☆銀河町商店街（キラメキ☆ぎんがちょうしょうてんがい）
第09巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★（6点）
ここは都会のはしっこ、銀河町商店街。夢に希望に溢れています！ ついにお互いの気持ちを確かめあったミケとクロ。晴れて恋人同士になった二人に周りの反応は…? 一方、他の4人も恋に進路にとそれぞれの想いは加速していく。6人の高2の冬は足早に過ぎ去り──!?
簡潔完結感想文
- 両想い編開始のはずなんだけど、デートも喧嘩もなく将来を見据えた話が続く。
- 5年間 飛鳥の片想いを見続けたキュー。そして彼の片想いを見続けたイバちゃん。
- 流星群の思い出が一つの未来を形作る。だがそれは一つの別れを意味していた。
キューの失恋に心がキュッとなる 9巻。
恋愛要素は両想いまでだったのか⁉ と思うぐらい通常営業に戻る。もっともっとミケとクロの交際の様子が見たいと思う人には そこが物足りなく思う点であろう。私としても見たいシーンと見たくないシーンがあるから複雑な気持ちであった。見たかったのは やっぱりデートシーンとか特別感のある2人を見たかった。けれど見たくないのは あからさまに「女の子」になって弱くなってしまうミケの姿なので、こうして いつもと変わらず2人で学校に登下校して、以前と同じように会話をしてくれている中で両想いになれた喜びが見え隠れするぐらいの塩梅が丁度 良いのかもしれない。
その代わりに幼なじみ6人組の将来についてのことが丁寧に描かれている。私は6人それぞれの進路を作者が考えてくれたことに愛を感じた。進路指導の先生のように、親御さんのように きっと6人のそれぞれの適性や動機を考えて、彼らの道を作ってくれたんだなぁ、と思った。悪い言い方をすれば、モラトリアムをどこまで延長させるかが焦点となりがちな白泉社作品の中で、6人をそれぞれちゃんと成長させてくれた作者に感謝するばかりである。
おとぎ話のように いつまでも一緒に幸せに暮らしたとさ、ではなく、6人がそれぞれ やりたいことを見据え、一緒に この銀河町にいるだけではない人生を選び取った英断が本当に素晴らしい。大人になることや変わっていくことへの恐怖や不安だけではなく、その先にある自分で選んだ自分だけの未来が待っているという展望や期待を描いていて、そんな境地になったミケたちの姿に頼もしさすら覚える。
恋愛描写はこれ以上 描かなくても大丈夫なことが読者には分かっているし、そして彼らの未来も絶対に20年後も30年後も同じ気持ちで仲間たちを大事に思ってくれることは明々白々である。中学2年生で一度は疎遠になった彼らは、高校2年生で恋愛によって友情の崩壊の危機が訪れた。今回 それを乗り越え、一緒にいる喜びを感じた彼ら。
そして その少し先には それぞれの人生が待っている。たとえ彼らの居る現在地が銀河町の内外であっても、あの日 流星群を見たこと、初日の出を見たこと、そして この銀河の中で同じ時間を生きていることは変わらない。
確定的だったサトの失恋も、その前に彼女が立ち直れる伏線が張られていたように、今回、皆で一緒に初日の出を見たことは、彼らが将来的にも一緒にいることへの伏線のように思う。
今回、そんな銀河と同じぐらいの壮大な愛を感じた。銀河町の日は暮れて、そろそろ閉店の準備となってしまうのが本当に残念だ。雑誌掲載が始まった2005年の20年後にでも続編、というか作中でも20年が経過した大人になったミケたちの描いてくれないかなぁ…。流星群の約束を果たす彼らの様子を1冊にまとめて、是非！！
少し残念だったのが、ミケの夢が姉の飛鳥（あすか）と同じこと。姉妹で同じ夢を持つことは悪いことでは絶対にないが、漫画としてはミケの夢はミケだけが描くものであって欲しかったかな。まさか被るとは思わなかった。
そしてクロやキュー、お店を継ぐと決めた組のことも気になる。蕎麦屋のキューは修業期間があるだろうけど、クロは父親が現役バリバリで働いているから すぐに このお店を継ぐ必要がなさそうに思う。外に修行に出るとか、ミケの兄・大悟（だいご）のように大学で学んでからとかでも良かったのではないか（というか大悟がなぜ大学に進学したのかも謎だが）。
せっかく商店街を舞台にしているのだから、もう少し商店街の後継者がどうやって／いつ店を継ぐのかを詳細に描いて欲しかった。ミケが小学校の先生になる倍率が高いという現実を描きながら（2020年代は過去最低の倍率みたいだが）、商店街の未来については何も展望がない。6人全員に動機を作るのは難しいだろうが、クロやキューも家の仕事を実感するようなエピソードが欲しかった。
商店街のど真ん中で告白したため、2人の交際は商店街中の噂の的になる。けれど2人は冷やかしに照れはするがラブラブでもなく いつも通りの様子。
そんな頃、以前から名前だけは出ていたミケの兄・大悟（21歳・大学生）が帰省する。大悟は卒業後には店を継ぐつもりである。彼は経営学でも学んでいたのだろうか。そしてクロも実家の魚屋を継ぐという。それはサトがマンガ家になりたいと仲間内で初めて将来を発表して以降ずっと考えてきたことであった。
そんなサトは父親にマンガ家になることを「ちょっと反対」されてしまい、少しでも結果を出すために投稿に燃えていた。その手伝いをミケもすることになり、その作業を通して少しだけ気まずい2人の関係が解消されていく。
そしてミケも進路について真剣に考え始める。
商店街の草野球に参加したミケたちだったが、突然の豪雨に打たれ、銭湯に緊急避難する。雨に打たれながら銭湯に向かう道でも彼らは楽しい。泣きそうなぐらいに。それはきっと、近い将来に いつでも こんな風に並んで歩くことも本当に少なくなってしまうことが分かり始めたからだろう。秋という季節もあって 何だか少し物悲しさがある。
湯船の中では男女3人ずつで恋バナが始まる。ここで初めてイバちゃんの恋の相手がミケたちに発表される。
そんなイバちゃんの恋の相手・キューは いつもミケの姉・飛鳥にアタックしているように見える。だが、実は彼は飛鳥のことを気遣いながら距離を測っていた。
キューが飛鳥を追い続けた5年間は、飛鳥が中学時代の先生に苦しい恋をしている期間とも重なる。その教師が結婚することになり、飛鳥は傷心していた。結婚式があると知りながら、それを無視する飛鳥をキューは会場に連れていく。それはキューが飛鳥の気持ちをつぶさに見てきて、ここで けじめをつけないと、しっかりと恋を終わらせられないと直感したからであった。
後日、その飛鳥をキューが遊園地に誘うと初めて断られなかった。だが それが終わりを予感させることをキューは悟る。少女漫画で一番大切な遊園地の遊具、観覧車にも2人で乗るが、2人は一言も発さない。きっと相手の口から出る言葉は、一番聞きたくない言葉だから黙るしかなかったのだろう。
帰り道、キューは告白する。多分、これまでで一番真剣に。最悪の心理状態であっても飛鳥はキューを受け入れない。失恋に乗ずれば、という あわよくばを狙った結果も惨敗。
5年間の片想いが終わったキューは河原にいた。それを発見するのはイバちゃん。キューの片想いの期間は、イバちゃんの5年以上の片想いでもある。サト・キュー・イバちゃんは毎日のように失恋の痛みを抱えながら、ずっとその人の横で笑っていたのか。失恋は辛いけれど、その痛みからの解放でもある。イバちゃんも いつか告げる日がくるのだろうか。
そしてキューには格好悪いところを見せられる仲間がいる。自分の気持ちを理解して、明るく、その勇気を讃えてくれる人がいる。きっとそれは苦しいばかりの恋をしている飛鳥にキューの存在が助かったように、キューもまた周囲に助けられる。決して幸福な状況ではないけれど、周囲に人がいてくれることは次の一歩への大いなる助けになるはずだ。
失恋を機に、という訳ではないがキューもクロと同じように実家の蕎麦屋を継ぐ決心した。
そしてミケは先生になる夢が出来た。学力的な問題はあるが、それは楽しそうな未来。町内の小学生の子の逆上がりの特訓を手伝うことで、先生の楽しさの一端を知ったミケは その夢をクロに語る。クロに肯定され、背中を押されて、ミケは自分の手で将来を選んで進む喜びを感じる。こうやって その実現が楽しみな未来を、人は夢と呼ぶのだろう。
そして最近 集まりに顔を出さないマモルは天文学を志していた。だが、彼の希望する大学は北海道にあるという。ミケの姉の世代のように次の進路に進んでも、まだ6人で銀河町にいられると思っていたミケには青天の霹靂となる。
それぞれがマモルの決断にショックを受ける。だがマモルが夢を追って頑張るのなら、それを応援するし、それを刺激にして生きる。道が分かれても、きっと繋がっている。
それにマモルが天文学を志すのは、小学校の頃、皆でみた あの流星群の影響があったという。あの日が夢の入り口に立った日という展開は胸が熱くなる。でも そういえば第2子ではあるが長男のマモルは酒屋を継がないのだろうか。焼き鳥屋のサトは弟がいるから店の後継者はいるかもしれないが、マモルのきょうだいは姉だけで、姉は小説家になる夢を抱いている。この辺のエピソードも ちょっとは挿んで欲しかった。何だか商店街が本当に ただの舞台装置になってしまっている。
大晦日の夜、マスターに運転してもらって、海岸で並んで初日の出を見る6人。新しい1年が始まるが、この1年は一緒に居られる最後の1年となりそうだ。
だけど、流星群と同じように同じものを見て同じ気持ちを抱いた6人は、いつでも どこでも繋がっていけるはず。例えバラバラになっても大丈夫という作品からの安心材料の提供だと思う。
