ふじもとゆうき
キラメキ☆銀河町商店街（キラメキ☆ぎんがちょうしょうてんがい）
第08巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★（6点）
ここは都会のはしっこ、銀河町商店街。恋と友情そろってます！ サトが今まで秘めていた自分に対しての想いに気付き悩み始めたクロ。その様子に気付いたミケは自分の胸にあった一つの想いを自覚して…!? 6人それぞれが様々な想いを抱える中、高2の夏はやってくる──！
簡潔完結感想文
- 唯一無二の親友にも譲れない この想い。正々堂々と戦えば、明日も きっと仲間だ。
- サトが泣いても立ち上がることを読者は既に知っている。この涙に君は負けない。
- 続きが読みたい所で番外編。だけど この6歳が人生を振り返る番外編は良かった。
涙は嬉しい時も悲しい時も身体の中から溢れてくるもの、の 8巻。
この巻で長らく両片想いにあったミケとクロが両想いになる。それは つまり ずっとクロに恋をしていたサトが失恋するということでもある。読者としては両想いは嬉しいことだが、それと同じぐらいサトの悲しみを痛切に感じる内容となっていた。
親友である女性2人に分かれた明暗。だがサトの失恋がミケの両想いを濁らせることにはならない。なぜなら本書は ちゃんとサトが失恋から立ち直れることを事前に示しているから。そういう交通整理がされているから読者も安心できる。
そして この交通整理がサトが ずっとミケとクロたちと仲間である大事な条件となる。少女漫画はヒロインの女性ライバルの扱いが非常に厳しい。男性の当て馬はフラれても いつまでも作品内に残留し、あわよくばヒロインを口説きにかかるのに、女性ライバルは かなりの高確率で追放されてしまう運命にある。ヒロインと明暗を分けた女性ライバルはヒロインと これまで通りの関係でいられない上に、ヒーローの周辺にいるとヒロイン＝読者の分身が いつまでも安心できなくなってしまい、ハッピーエンドに一抹の不安を残すことになる。だから女性ライバルは一度 敗退すると二度と挑戦権を得られないどころか、再登場すら許されない。
その運命が回避されるのは、ライバルがヒロインと正々堂々と戦った時だけである。ヒロインに嫌がらせなどをせず純粋にヒロインと同じぐらい切実な恋をした者だけが作品残留の権利を得る。
今回、私は敗色が濃厚でもクロにきちんと想いを告げたサトの勇気に胸を打たれた。そして上述の通り、サトは今回の失恋でも絶対に心が折れたりしないことが約束されている。告白を終えた別れ際にクロに言った通り「いつかクロちゃんが びっくりするくらい素敵な人になるからね！」という言葉は いつの日か実現される事だろう。
このことは『7巻』で漫画の投稿が全く評価されない時に分かっていたことである。あの時、勇気を持って一歩目を踏み出して、他者からの評価を貰い、そして そこにサトは自身の技術の向上を誓った。それは まるで失恋の予行演習であった。あの日、高架下で泣いていたサトが立ち上がったように、今回 失恋の涙を流しながら走るサトも きっと大丈夫なのだ。こういう作者による事前予告があるから読者の気持ちも濁ることなく、彼らの未来を純粋に信じられる。
作者の こういう優しい配慮は本当に好きだなぁ。
そして番外編が良かった。巻末に収録された番外編は、誰もが本編の この先を読みたい場面での番外編だったので批判の対象になりそうな危険があっただろう。けれどイバちゃん家族の胸が温かくなるストーリーで そんな不満は一掃された。6歳にして自分が周囲に愛され助けられて育ち、そして姉を頼られるようになろうという自立心を心に抱いた彼らは きっとクロのような大きな男になれるだろう。10年後の彼らは外見の良さだけでなく、その器の大きさで商店街の新たなアイドルに なっているのではないか。
少しでも自分がクロに可愛く映りたいという欲求が出てきたミケ。
一方、あの日のサトの表情から好意を感じ取ったクロだが、確信がなく モヤモヤしていた。そのモヤモヤをスポーツで晴らそうと熱中するが、無茶をして怪我をしてしまう。そんな彼を心配してミケは保健室で怪我の治療と、彼の悩みを聞こうとする。だが寝不足の彼は治療中にミケの肩を借りて寝てしまう。眠るクロに対してミケは「好き」だと想いを伝える。この辺りは一つ一つの場面が切なくて美しいですね。
この夏、銀河町には「夏の大三角関係」が生まれた。7月7日の銀河町商店街まつりが1か月と迫るが、今年は全員の足並みが揃わないまま。
いつものたまり場のバーで男子3人だけが集まった際、クロはサトの気持ちについて2人に問う。マモルは サトが泣いたことを知り、クロの頬を叩き、そしてサトがクロを好きなことを告げて去る。このマモルの行動は後に無意識であることが判明する。ミケに負けないぐらい鈍感な人が ここにいる。
サトは仮病を使って皆と顔を合わせないようにするが、その嘘を知ったイバちゃんがサトの相談役になる。だが その相談をミケは聞いてしまい、サトもクロのことが好きだという事実を初めて知る。
ミケにとって初耳で、それを知らずに呑気に暮らしていたこと、そしてサトとクロが上手くいってしまったらという焦燥と、親友であるサトを心から応援できない自分の汚さに気づかされる。そうして動けなくなったミケ。銀河町商店街まつりが開催されても幼なじみたちが共演する演目はなかった。
おまつり の日、クロはサトの家に向かっていた。これまでニアミスを繰り返し会えてなかったサトと きちんと話をするために。道中、マモルに会い、「また泣かせたら怒る」というマモルにクロは「サトのこと 好きだったんだな」と告げる。この指摘に初めてマモルは自分がサトを好きなこと、好きだから怒りが湧くことに赤面しながら気づく。銀河町の良い子たちは自分の事となると鈍感になってしまう性質があるらしい。
その自覚と共にサトを泣かしたクロへの怒りが再燃し、2人はケンカになる。変わり者のマモルだが、キューともクロとも ちゃんとケンカしているんですよね。この辺 男の子だなぁと思う。
サトはミケを探して走っていた。またミケもサトと話す必要性を感じていた。どんな結果になっても まっすぐ向き合った、親友への誠意を示すために。
対面した2人は自分の気持ちを正直に話す。ここではミケの「サトにだって渡したくない」という台詞が強烈。彼女から こんな言葉が聞く日が来るとは…。
だが恋をするミケは弱気になっていた。クロがサトみたいな清楚な子が好きなんじゃないかと。そのミケの鈍感さにサトは怒る。現実が分かっている自分の方が何倍も惨めだから。ただ、ここでサトがクロの気持ちを代弁しないのが良いですね。やっぱり少女漫画は不安の中、告白しないと。
そしてサトはクロに告白することを宣言する。そんなサトにミケは、クロのことは譲れないが、サトも好きだと正直な気持ちを伝える。それはサトも同じだろう。クロの好きな人がミケだからサトは納得できる部分が大いにあるだろう。
翌朝、サトはクロを川辺に呼び出す。震えながら告白するサトの手を握り「ありがとう」と告げるクロだったが、その気持ちには応えられない。
それはサトにも想定内の答え。続いてサトは どうしてミケが好きかを問う。クロが口にしたのは真っ直ぐな言葉たち。そして それはサトがミケを好きな理由と重なる部分が大いにあるだろう。
変わらずに自分を仲間だと言ってくれるクロに笑顔で背を向けるサト。だが走り去る彼女の目には涙が浮かんでいる。でもサトは大丈夫。
そして その日、ミケもまたクロへの告白を決心していた。だが以心伝心。久しぶりに会ったクロから話があると告げられる。緊張と不安と期待のない交ぜになった気持ちを抱え、その日を過ごすミケ。
クロの姿を探して商店街を駆けるミケは その途中で髪をバッサリ切ったサトに会い、サトが告白したことを知り その結果を推測する。
そして見つけたクロの背中に声を掛け、振り向いた彼に好きだと伝える。商店街の真ん中での告白。クロも迷うことなくミケに「俺も お前が好きだ！」と伝える。通行人たちが湧き上がる中、2人は手を取り合って河原へ走る。この告白は、全員が2人を知っているような場所であっても、その羞恥を超えても「今」伝えたい気持ちがあるという溢れ出す想いの量の多さを感じられて良い。商店街育ちの2人には これ以上ない告白の場所だしね。
走り疲れて座る川辺で、嬉しさで涙を浮かべるミケにクロは笑えと命じる。いつだってクロはミケに笑っていて欲しい。それは『4巻』の、自分を好きだと言ってくれた男性の気持ちに応えられずに落ち込んでいたミケを見ていた時から、いや それ以前から変わらないクロの願いだろう。そして一生 変わらない願いとなるはずだ。
笑顔になったミケを見て、クロはその口にキスをする…。
「キラメキ☆銀河町商店街 番外編」…
イバちゃんの双子の弟・月（つき）と星（せい）。6歳の小学1年生の彼らは授業で自分の歴史を作ることになり、自分を知る家族や周囲の人にインタビューをすることにする。しかし10歳の1/2成人式などなら いざ知らず、6歳で自分の歴史と言われましても…。
ただ内容は素晴らしい。10年後の銀河町も新しい高校生たちが活気を与え続けてくれるだろう。姉に頼られるだけでなく、自分たちを支えてくれた商店街に彼らは恩返しをしたいと当然のように考えるはずだから…（感涙）
