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少女漫画と小説の感想ブログです

最終巻は、育ててくれた保護者から最愛の人へと彼女の手が渡されるバージンロード。

ハニー 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
目黒 あむ(めぐろ あむ)
ハニー
第08巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

雅騒動もやっと一段落…と思ったら、宗ちゃんの元カノが現れた!? 奈緒が大人になるまで恋愛はしないという宗ちゃん。そんな宗ちゃんの言葉に、何かを感じた鬼瀬くんがついに!! 甘くてキュートな完結巻をお見逃しなく!! そして「ハニー」の原型になったショート読切も収録です。 【同時収録】シュガー

簡潔完結感想文

  • 「友人の恋」完結編。いつでもキスが出来るように背は伸びなくて良かったのに…。
  • 宗介の止まっていた時間が動き出すことで、奈緒と大雅2人の人生が始まろうとしている。
  • 積み重ねた月日が形となる花束。その花束が ある意味を持つ時、最高の幸せが待つ。

終巻全体が結婚式である、の 最終8巻。

いきなりネタバレだが、ラストは大雅(たいが)からプロポーズをされ それを奈緒(なお)は了承するシーンで終わる。どうせなら結婚式の場面も欲しい所だが、実は『8巻』それ自体が結婚式を表現しているのではないか、と思うようになった。

というのも、最終回直前に奈緒は亡き両親の代わりに10年間 自分を育ててくれた叔父の宗介(そうすけ)が自分と暮らすために、当時の恋人と別れ、私生活を全て投げうって奈緒を育ててくれたことを知る。奈緒はそのことに感謝しつつも、宗介が現在・未来においても恋=自分の生活を持たない決意を固めていることが気にかかる。奈緒と暮らすこと、彼女に自分の全ての時間を注ぐことを決め、そこで止まってしまった時間を奈緒と大雅は進めたいという気持ちになる。

登場人物 全員 不器用でお馴染みの本書だが、宗介もまた不器用な人なのだろう。自分にはプライベートと奈緒の育児の両立が出来ないことが分かっているから前者を未練なく切り捨てたのだろう。そして高校生たちが人との交流の中で変わっていったように、宗介も今 変化の時を迎えようとしている。最後に孤独から解放されるのは宗介なのかもしれない。

何でも完璧に見える宗ちゃんだが、それは彼が抱えられる荷物だけを背負っているからでもある。

宗介の時間が再び進むのは、彼が奈緒のために費やしてきた時間と愛情を、大雅が引き受ける覚悟を示すことによって成される。その覚悟が、大雅が奈緒を お嫁にもらうこと である。その大雅の太陽のような真っ直ぐすぎる気持ちに、宗介の心が融解し、大雅を「未来の花婿」と呼び、奈緒の人生を彼に託すことが出来た。

この一連の会話が、結婚式におけるバージンロードの役割のように思えた。バージンロードは奈緒の人生を表し、両親の事故死があり、叔父の宗介が奈緒の養育を担当した。そこから9年が経ち、高校生となった奈緒は ある1人の男性と出会う。それが大雅だ。そして彼との交際も9年となり、宗介との生活も18年が過ぎた頃、奈緒は いよいよ お嫁に行くことになる。これまで宗介に守られて生きてきた奈緒は、宗介と一緒に大雅の前まで歩き、ここからは人生を共に歩む人は大雅となっていく。

現実としては結婚式は交際から9年以上が経過してから挙げられるのだろうが、きっと彼らの中で結婚を意識したのは高校2年生の あの日だったのではないか。

そう考えると奈緒は、両親を亡くした日から、9年ちょっとの高校1年生までは宗介に、そして大雅と出会った高校1年生から9年間は大雅と共に歩いた人生と言える。大雅にとって結婚までの月日が交際から9年経過することに大きな意味があるのだが、両親と死別後の奈緒の人生において ほぼ半分ずつを宗介・大雅が担っているというのも運命的ではないか。

『8巻』全体が結婚へと繋がるエピソードになっているため、少女漫画に散見される唐突な結婚 = ハッピーエンドとは一線を画しているのが良かった。大雅が毎月 奈緒に贈る花まで結婚と繋げるとは思わなかったから感動した。


の反面、残念だったのは今回の宗介の子離れの話は、『5巻』でのクリスマスお泊り回と重複する部分があり、再放送に感じられたのも事実。連載しながら話を組み立てているから仕方ないが、ラストにこのエピソードを描くのなら『5巻』は無かった方が良かった。

そして清く正しい本書は、問題の解決法が ド正論なのも全てのエピソードが似たり寄ったりの感じを増幅させてしまう。自分の気持ち、相手への愛の大きさを訴えれば、問題は良い方向に動く、という道徳の教科書のような話ばかりで やや鼻白む。そこが複雑な人間関係や、人生の深みみたいなものを排除してしまっている。

また大雅がヒーロー兼ヒロインをしているから、奈緒の影が薄いのも気になる所。それにより大雅に寄り掛かって生きているように見えてしまい、彼の働きで難局を乗り越えているように見える。そして結局、奈緒は周囲の人に対して お節介を焼くけど、介入されたくないという壁の高さを克服した感じも無かったし。奈緒は周囲にはイケメンばかりを揃え、彼らに助けられているし、折角の同性の友人・矢代(やしろ)には最後まで心を許している場面が無かった(上述の通り お節介は焼く)。奈緒に関しては、もう少し強さを見せて欲しかった。

そんな奈緒が前回 大雅に近づくな、と警告した雅(みやび)は、結局『8巻』に一度も再登場しなかった。これでは女性ライバルが作中から追放される状態と変わらない。そして その兄・亮太郎(りょうたろう)も出番はなく、一体 彼は何のために存在したのだろうか、と登場させる意味を考えてしまう。初登場から亮太郎が大雅を尊敬し懐いているのに、大雅は亮太郎に関心が薄いのも気になる。基本的に このカップル、自分たち以外に関心がないのではないか。奈緒が矢代と2人きりで出掛けたりしないし、大雅も三咲(みさき)や二見(ふたみ)と遊ぶ様子も描かれない。カップル2人か5人全員かしか選択肢がなく、個々の繋がりを深めるエピソードが足りない。

そして『4巻』の番外編で出てきた元ヤン女子高生・蘭子(らんこ)も再登場の機会はなかった。亮太郎など その存在が無かったかのような扱いで、脇役に冷たすぎる。この辺は作風と合わない。

蘭子の登場は無いのに最終巻で急に宗介の元カノをこしらえて、そちらにシフトしていった。これは宗介が 過去に放棄した自分の幸せを もう一度考える、という展開なのだろう。しかし この元カノ・葵(あおい)に関しても20代の女性が8年間も何の行動もせず、相手を密かに想い、8年後に偶然 彼の過去と現在を知るという、受け身の人生は、美しい献身というよりも狂気を感じる。

そして8年前に別れたと言うことは、宗介は奈緒と暮らすようになって1~2年は葵と交際し続けたということか。会社勤めをしながら、交際し、家で幼女を育てるという1人3役だったみたいだが、交際に関しては回想シーンもなく、いかにも後付けの設定である。こういう流れにするのなら、前の巻から宗介が自分の家具の引き出しから葵の写真を眺めるようになる、などの伏線を張っても良かったのではないか。唐突過ぎて、宗介と葵の幸せを祈る気に なれない。

甘い雰囲気は出ているものの、世界観の設定まで甘いのが気になる。もっともっと登場人物たちに均等に愛情を注ぐことが出来たのではないか、と思ってしまう。


休み前、矢代と三咲の想いが重なる。
矢代は三咲の表情に思わずキスをしてしまった。双方が混乱する中、矢代から話を聞いた奈緒は、思わずキスをしてしまった自分のプライドを守ろうとする矢代を説得して、三咲に説明と告白をさせようとする。思い返してみれば、奈緒って人のことを説得できたことあったっけ? この『8巻』だけでも矢代にも宗介にも説得を拒否されている。

矢代が渋る中、そこへ三咲が姿を現す。自分の行動やきもちを上手く説明できない矢代は、再度キスをすることで三咲への気持ちを表現した。この時、矢代の耳が赤くなっているのが可愛い。本書の中で一番印象的な色は やはり赤だろう。


緒たちは交際開始から1年を迎えた ある日の学校帰り、宗介の高校の同級生・南野 葵(みなみの あおい)と出会う。
葵は奈緒たちと共に宗介の営む喫茶店へ向かう。彼女のことを一瞥した宗介は ただならぬ雰囲気を醸し出す。2人きりにしてくれ、という宗介の言葉に従い奈緒は退場するが、宗介の異様さを見た奈緒は盗み聞きをする。

8年ぶりに会った2人は、元恋人で葵は今も宗介のことが好きだという。葵は8年が経過して人を通して宗介の事情を知り、自分との別れの経緯を知った。一方的に別れを切り出し説明しない宗介も宗介だし、8年放置する葵の精神構造もよく分からない。交際の回想などあれば分かりやすいのだろうが、それを描かないから宗介の過去の恋愛談という設定としか感じられない。

ここで初めて奈緒は、宗介が自分との暮らしを選ぶために、選ばなかったことがあることを知る。だから店を出た葵を追いかけて、また宗介に会いに来てという奈緒だったが、葵は それは出来ないという。またも説得失敗だ(笑) 宗介が本心で自分に会いたかったとしても、その気持ちを言わないと決めた宗介を無視して会いに行くことは出来ない、と葵は言う。未練があるんだかないんだか、大人すぎる割り切り方である。


緒は、宗介の恋が終わったのが自分のせいだと悲観はしていない。それこそ宗介の決断に対して、そう思うのは失礼だと思うのだろう。だが過去ではなく、未来に対しても恋愛を放棄するような宗介の態度が気になる。

そのことを奈緒から聞いた大雅は、それを宗介に話すように促す。いつだって本書の解決法は直接の対話がベストなのだ。だが、宗介は 奈緒の話を ため息まじりに聞いて、奈緒が大人になるまで恋愛をする気はないという。そんな宗介に、奈緒は宗介に頼らない努力をすると誓う。

宗介に話が通じなかったことに奈緒も大雅も落ち込む。だが、これを機に奈緒は自分の出来ることをし始める。これまで頼りきりだった家事を始める。自分が早く大人になることが宗介への恩返しだと思ったのだろう。

だが奈緒は慣れないことをしようと寝不足気味で、その状態で体育の授業を受け怪我をしてしまう。それを助けるのは大雅。彼女を抱え上げ、保健室に連れて行く。これは『3巻』で二見が連れて行ってしまった過去のリベンジでもあるだろう。

足を怪我するが、大人になると大見得を切った直後に宗介に迎えに来てもらうことを躊躇する奈緒。そんな奈緒の心情を考え、大雅は彼女を おんぶ して帰る。寝不足もあり、おんぶ されて帰る途中で奈緒は寝てしまう。


雅は2人きりになった宗介に、改めて心境を聞く。そこで語られるのは宗介の親心。奈緒は自分が思ってる事を人に伝えるのが苦手で、いつだって目が離せなかった。だが大雅たちと出会って大きく変わって、その変化が嬉しい反面、寂しい。宗介は子離れができないし、したくない。宗介の10年間注いできた愛の結晶が、今の奈緒なのだ。

ある日 突然、奈緒との父と母になった宗介。だからこそ2倍の愛情を奈緒に抱く。その奈緒を奪う大雅の罪は重い!?

それを知った大雅は大粒の涙を流す。大雅は宗介の気持ちを受けとめるが、でも宗介を悲しませても、大雅は奈緒をお嫁に貰うと決めていると宣言する。そんな大雅の真っ直ぐな気持ちを、宗介と、扉の向こうで話を聞いていた奈緒は受け止める。それにしても例え極論であっても、真剣さが伝われば万事解決。朝ドラみたいな大雑把さである。

そして上述の通り、良い話なんだけど、この辺はクリスマス回でも触れた内容で重複する部分が多い。奈緒にとって宗介が大きな存在なのは分かるが、話に幅がない。大雅の宣言も、交際をすると決めた時に宗介に話した内容と余り変わらない。甘い理想論で押し切る感じが やや苦手だなぁ。

こうして奈緒のことを精神的に嫁に出した宗介は、自分から葵に連絡し、コーヒーを飲みに来ないか、と誘う。それは交流復活の合図である。ただし、彼らが具体的に交際を再開したとか、結婚したとかの情報は無い。まぁ20代後半の女性に期待を持たせて、これ以上待たせるのは大人の交際のマナー違反だろうから、何かしら責任は取るのだろう。

宗介の件が終わった後、大雅は、奈緒の両親に挨拶に行きたいと申し出る。これもまた結婚への布石の一つだろう。


ストは奈緒たちが高校を卒業して6年後。彼らが交際して9年が経過していた。

大雅に呼び出されたのは、通っていた高校の校庭。そこは彼から はじめて告白された場所。
この日は交際9年目の記念日、毎月送っていたバラの花の数が108本になり、大雅はプロポーズをし、奈緒は承諾する。この場面で本編は終わる。結婚式の場面は無いけれど、結婚に至る過程は高校生の あの日に終わっていると言えよう。

薔薇の花は本当に巧くまとめたなぁ。
それにしても、大雅は交際2か月目から毎月 花を贈り続けたのか…。しかも この1年は毎月 奈緒に100本前後のバラを贈っていることになる。出費も気になるし、貰う方も100本飾るのと処分するので手間が多いだろう。もはや大雅の自己満足しか感じられない、などと思う私は少女漫画を読む資格なんてないのだろう…。

そして おまけ漫画では三咲の背が伸びていてショック。背の高さが男の価値だとでもいうのか…。背の高さがあまり変わらないから矢代が不意打ちでキスが出来るのに、そんな彼らの関係性を壊すようで三咲の背に関しては不満しかない。


「シュガー」…
パラレルワールドのような「菜緒」と大雅の まだキスをしていない交際中の高校生たちの話。

この世界の彼らはピュアであるけれど不器用ではなさそう。ただ周囲にいる仲間たちは男2女1で、それぞれ三咲・二見・矢代に対応しているような外見をしている(美形という特徴は無いが)。

キスシーンは本編と似たような状況か。それにしても読切短編から短期連載、そして長期連載へとなった過程は本当に白泉社作品のようである。