《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

JK17歳の望みのない恋愛に、24歳男性が容赦のない助言をすると なぜか彼らが両想い(2回目)⁉

世界でいちばん大嫌い完全版 2 (花とゆめCOMICSスペシャル)
日高 万里(ひだか ばんり)
世界でいちばん大嫌い(せかいでいちばんだいきらい)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

自分の本当の気持に気づいた万葉──。でも真紀には会えない日が続いている。悩みの相談相手は、真紀の親友・本庄徹!扇子も想いを抱えながら、万葉の心配も…。そんな中、弟・千鶴の荒れた行動が噂に。家族のことや、自分の将来を考える万葉は…!?
大ヒット★LOVEロマンス、雑誌掲載時のカラー扉絵を全点収録した完全版!「日高万里の日常天国。」、4コマ「せかキラ迷作劇場」、雑誌掲載時の空きスペースなど描き下ろしも充実★ 2012年2月刊。

簡潔完結感想文

  • あっという間の両想いを阻止するため、(解決しない)家族問題で読者の目を逸らそう。
  • 万葉は自分や家族のこと以外だと冷静に判断が下せるが、自分の事は先延ばしするばかり。
  • 嫌っていた相手は好きになるし、嫌われていると思った人も好きになってくれる優しい世界。

の前で色々起きているが、何も解決していない 2巻。

揉め事が起こる度に真紀(まき)のどこがいいのか分からなくなる。万葉(かずは)も延々と行動しないままなのが気になるが、真紀の逃げ腰は それ以上に目立つ。彼は万葉が友人・扇子(せんこ)と同じ人を好きになって、自分が選ばれることを知っているから悩んでいる。真紀は扇子の自分への好意を知っていて、万葉の苦しい立場も分かるはずなのに何のフォローもしない。時に万葉に上から目線で物を言っている真紀が、万葉に対してのフォローは皆無。真紀が全力で万葉を助けたら、話を引っ張る要素が簡単に失われてしまうのだろうけど、話を継続させることは真紀の魅力を損なっているように思う。

そんな中、なかなか進展しない2人を、周囲の人たちが陰ながら応援するのが良い。主人公カップルは周囲の支えがなければ生きていけないのではないか。この辺も、万葉はともかく、真紀が自立しきれていないように思う部分である。本当に真紀は、24歳の自分が初めて人を好きになり、付き合おうと考える17歳の女性の心を考えてくれているのだろうか。いや、いない。いくら真紀の外見が良くて、美容師としても腕が良くても、人間として未熟で決して大人とは思えない。こういう部分は、当時21歳の女性の作者が一生懸命 考える24歳の男性という感じが見え隠れする。とにかく真紀がダサい。そこが本書の大きな欠点に思える。


して早くも『2巻(完全版)』にして、恋愛漫画的には読まなくてOKという悲しい現実がある。『1巻』の次に『3巻』を読んでも何の問題もないだろう。万葉個人としては進路が決まったり、アルバイトを始めたり、家の事で悩んだりと色々あった時期なのだが、恋愛としては何も進まない。
17歳の女子高生と24歳が交際することに何の疑問も持たない本書だが、交際に発展することなく、保留状態が続く。交際しない理由は見当たらなくて、万葉の周辺に事件を起こすことで、それで連載を継続させ、結論を先送りにする。
ここで交際を始められない理由をしっかりと作っていたら本書の印象は大きく変わっただろう。でも本書には理由がない。信号が青に変わっても進まない先頭車両のように、動くはずのものが動かないとイライラする。

弟・千鶴(ちづる)の問題や、後半の扇子の恋愛など、本来 番外編となる部分を本編に入れて水増ししている。特に前者は、本書では宙ぶらりんのままで、この姉弟の秋吉(あきよし)家の問題は解決しない。これが非常にモヤモヤする。

中途半端に千鶴の問題を扱うのなら、彼を含めた5弟妹で話を作っても良かった。この時代の弟妹の話は、秋吉家ファンの読者にも受けるだろうから、彼らの個人回で連載の回数を稼いだ方が読みやすかったのではないか。同じ場所で留まって万葉も真紀も評判を落とすぐらいなら、5弟妹の話を日常回として利用して欲しかったなぁ。話に中身が無い回が多すぎる。

万葉が真紀を殴るのは2回目。どちらも八つ当たり・逆ギレなのが万葉の幼稚性を悪目立ちさせる。

えが欲しい真紀と、答えが出せない万葉に行き違いが生じる。素直に連絡が取れない中、万葉に2つの問題に直面させて、会えない時間を引き延ばす。
それにしても この問題に関しては真紀が大人げない。自分に優位な答えを万葉から聞けないかったから、彼女を追い詰めるようなことをするなんて24歳の男性とは思えない言動である。オネエ言葉で余裕のある振りをしながら人間が小さい。読者人気が上がりきらないのも納得である。

万葉が抱える問題の1つは すぐ下の実弟・千鶴の不良化疑惑。そして もう1つが、1つ年上の男性・新(あらた)の登場である。本書における恋愛のルールは、まず相手を「世界でいちばん大嫌い」と思うこと。新の場合は、万葉に全く非がなく、自分で作り上げたイメージが違うという八つ当たりを新がしているだけだが、嫌いから始まった感情は やがて好きへと到着する。新と交流することで真紀がいなくても万葉は男性から愛されることになり、読者の承認欲求も常に満たされる。

万葉は新が高校卒業してすぐに美容師として働くことを知る。その話から万葉は自分も真紀に近づくために美容師を目指す。この日、新と一緒の時間を過ごしても、万葉が思い出すのは真紀のことばかり。それほど万葉にとって彼は大きな存在なのである。


一方 扇子は、新の兄でもある本庄 徹(ほんじょう とおる)と接点を持つ。この世界には年の差なんて存在しないらしく、17歳の女性は24歳の男性に何でも言えるし、暴力で圧倒できる世界らしい(恋心以外)。扇子の徹への第一印象は「世界でいちばん大嫌い」。これはフラグです。
そして真紀が万葉の初恋に引導を渡すような真似をしたように、徹が扇子の叶わぬ恋を一刀両断する。憎まれ役を買いながら、それが女性の中に強い印象を残す、ということか。この2組の相似形は良い。まぁ出来れば、失恋と恋愛成就を先に経験した万葉が扇子にアドバイスをして悩む時期を最短にして欲しかったが。扇子は嫌いじゃないけど、番外編が作者と読者の興味の中心になるような、作品の迷子は止めて欲しかった。

本書では人を好きになるには、まず嫌いにならなければならない。そのルールを駆使する20代男性たち。

鶴の不良化の話は、長い割に一定の解決すら見られない。ヒーローの解決するトラウマならまだしも、解決の道筋すら見せてくれない弟妹の問題と恋愛を絡めないでほしい。両親たちも問題が起きてから怒る、心配するばかりで、親としての務めを果たしていない。万葉の秋吉家も、真紀の家もそうだが、中途半端に親が顔を出す印象ばかり残る。
万葉は長女として妙に達観している所を見せたり、簡単に動揺したり性格が安定しない。万葉が悩んでいれば それだけで話が成立するのだろうが、問題解決をしようとしない彼女には苛立つ場面が多かった。

そして家族問題がこじれにこじれた頃 = 万葉が一番弱っている時に、ようやく真紀が姿を現す。万葉は真紀に相談に乗ってもらい、関係性は進展しないが、次の約束を真紀とする。


が万葉は、千鶴の耳にピアスの穴があけられ、それを真紀が進めたことを知り、立腹する。ここの万葉は子供っぽ過ぎる。自分の理解できる範囲では千鶴を分かってあげようとして、理解不能なピアスをすると いきなり血相を変えた。これは親と同じことをしてはいないか。その怒りを真紀へと移行するのも幼稚すぎる。私が思っている以上に万葉は頭が悪く、ヒロインを演じている感じが好きになれない。私が外見から万葉に 一種の偏見を持っているのかもしれないが…。

また万葉は真紀に自分の進路が美容師になりたいことを言っていない。進路決定から単行本にして1巻分(200ページ)ぐらいかけた後、ようやく真紀に伝える。この2人には意思疎通というものがないらしい。いつも肝心なことを言わない。

真紀は仕事の過酷さが分かっているからこそ、万葉に勧めはしない。だが万葉の決意を見て納得する。そして万葉が学校経由ではなく、就職して美容師資格を得ようとしていることを知った真紀は、徹のいる店を紹介する。これは作品全体に言えることだが、万葉の人生に真紀が大きく関わり過ぎだ。万葉は自分で美容師になる道を選び、自力で真紀に近づく努力をするべきなのに、全て真紀の言う通りに人生の駒を進めている感じが、真紀の支配のように感じられてしまう。10代の読者からすれば真紀の愛だと感じるかもしれないが、真紀の差配が万葉の人生を狭めやしないか。真紀には そういう意見を持って欲しかった(持ったが結局、ハッピーエンドのために真紀から離れなかった、というのが結末か)。


うして万葉は夢の第一歩として美容室でバイトを始める。
店長である徹の母には気に入られるが、万葉を指導する森高(もりたか)という女性美容師とは良い関係を築けない。ここにも1つの「嫌い」がある。といっても万葉からではなく、相手が万葉を「嫌い」かもしれない という話。

これは学校関係や家族、自分を好いてくれている真紀を含めた周囲の人々とは違う、「社会」の中の人間関係でもあろう。自分を好いていない人との関係性を構築するという難しい課題を万葉は抱える。

だが基本的に優しい世界なので、万葉が頑張れば、森高との関係性も良好になる。この森高の抱える問題は万葉が解決に一役買う。自分のこと以外だと大人なんだよなぁ、万葉は。この視野の広さを自分の事にも用いてくれれば好きになれるのだが。作中では人間関係が良好な万葉だが、私との関係は いつまで経っても改善しない。