ななじ 眺（ななじ ながむ）
コイバナ！―恋せよ花火―（ こいせよはなび）
第06巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★（6点）
美衣も誓を好きだった!! 美衣は「もうなんとも思ってない」と言うけれど、本心はわからなくて…。そして七歩店がスタート!! 誓と美衣がペアでコスプレをする事になり、複雑な心境の花火の前で、誓が美衣を…!?
簡潔完結感想文
- 恋愛を簡単に割り切れてしまう美衣の心。そこに割り切れない気持ちを抱える花火。
- 謎の占い師に指摘される各自の問題点。恋を先導する正体は かつて恋を扇動した人!?
- 本当に恋愛を動かしているのは飼い犬・ナンパ。今回の脱走も計画的なのではないか。
思い通りにいかないのが世の中なんて割り切りたくないから、の 6巻。
この世界で一番のイケメン・誓（ちかい）に恋をしたことに加え、奪略愛ということもあってヒロイン・花火には戦う相手がいっぱいいる。
『5巻』までは誓の恋人だった雪音（ゆきね）が花火の排除すべき敵だった。だが誓が雪音と別れたことで目に見える敵はいなくなった。
これで花火の勝利が近くなったか、と言えば そうではない。別れても尚、誓の中には雪音がいる。これは誓が雪音を嫌いになって別れたからではないから発生する問題だ。多分、彼の中にあるのは後悔だ。別れるまで一言も誓への反対意見を述べなかった雪音。その割に反美に対しては対抗意識も反論もするので、雪音の中に自分を独占したいという気持ちがないわけではないことを誓は知っている。雪音が自分に本音を話さないこと、そして彼女の中に本音があるのに、それを引き出そうとしない格好つけてしまう自分に誓は自己嫌悪を感じているように思う。誓の当面の問題は、恋愛をして自分をさらけ出すこと。そして交際相手に不満を隠させないことではないか。どうしても読者は花火目線で物語を追ってしまうが、誓が花人の（仮）交際において、どんな変化を見せるのかが ここからの見所ではないか。
そして『6巻』では雪音の亡霊以外にも、もう一つ花火が戦うべきものがあった。それが友人・美衣（みい）の誓への恋心。美衣の現在の交際相手・尾山（おやま）によって暴露されてしまった美衣の恋。
美衣は生来の面倒くさがりのため、誓を巡って花火との友情が壊れるなら、誓への想いを断ち切った。彼女の性格を知っていれば、そういうことも さもありなんと思える。ただし自分が彼女持ちだった誓に対して諦めようとしても諦められなかったように、恋心は自分の意思では動かせない、というのが花火の経験則であるから、すんなりと納得が出来ない。
目の前に敵や、敵かもしれない人がいることで、相対的に花火が苦しい立場になり、そこから脱却しようと努力することで、彼女はいつも健気に映る。意地悪な見方をすれば奪略愛以外の何物でもない この恋だが、花火が常に（彼女なりに）頑張っていることで、応援したくなるように設計されている。
『6巻』は花火が美衣の気持ちを納得するまでが大半を占める。もう何とも思っていないという美衣だが、「悪魔の証明」が出来ないため花火は疑心暗鬼になり、その疑いが美衣を不機嫌にするという悪循環に陥る。それを解決するのは占い師の言葉たった。
男嫌いという思春期特有の悩みに振り回されている花火は、まだまだ成長途上で、精神的にも成熟していない。それは周囲の友達たちも同じだろう。だから彼女たちには「恋は心の筋トレ」という恋愛トレーナーの助言が必要で、今回の占いもその助言の一つだと思われる。
更に、未熟で間違えやすい花火を助けるのが、飼い犬のナンパ。彼は誓との接点を生むのに大変役立っており、今回もナンパが引き起こす騒動によって2人の関係に大きな変化がもたらされる。
占い師も、そしてナンパも人間年齢的に言えば大人で、思春期の少女たちを先に導く存在。時にそれが、外圧のように思え、恋を急かしたり、不自然な話の流れのように思うが、状況的にも心理的にも身動きが取れない花火にとっての狂言回しだと思えば納得も出来る。物語も後半戦に入り、刻々と恋愛の様相が変化している。
花火が次に戦うべき相手も見つかり、彼女の奮闘はまだまだ続く。
雪音というライバルが去ったと思いきや、美衣がライバルに⁉ どんだけモテんだ、誓。
ただし美衣が自分語る自分の気持ちは「あたし宇野（うの）誓が好きだった」という過去形になる。「そいつの事なんて もう全然何とも思ってないし」。それが本心か、それとも面倒くさがり屋の美衣の咄嗟の言葉なのか花火には判断がつかない。
ただし誓と花火が2人でいるのを見た美衣は、尾山に「忘れさせてよ」と言っている。これは少なからず美衣の中に誓が存在するということだ。
そして そのことを美衣は しつこく真相を知りたがる花火に正直に話した。自分の中には確かに誓の存在もあるが、花火との仲がこじれるのを恐れて回避した。そのレベルで忘れられるぐらいの存在だったという。
これだけ聞くと まだまだ安心できないが、その後、尾山のことが誓よりも ほんのすこしだけ大きいと知ると安心できる。
ここの表現が良いですよね。今は尾山でいっぱいと大袈裟に嘘をつくのじゃなくて、微妙な表現でそれを表している。その差は ちゃんと見ればわかるし、そこに美衣らしさが出ている。
一方、誓が、美衣に対して全身全霊で玉砕する尾山に「かっこわるくなれんの かっこいーじゃん」と言っているが、こういう態度をしていれば雪音とも違う関係になれたと思っているのだろう。あの自信家の誓を反省させるほど、雪音の存在は大きく、そして悔いもあるのだろう。
物事を単純にしか割り切れない花火。それを当事者の美衣も含めて周囲がスッキリさせようとしてくれる。ただ美衣の言葉には嘘が混じっているかもしれないと簡単に疑える。花火の気持ちも分かるが、ちょっとウザい。
そんな花火の心の動きを察したのか、誓は美衣を一方的に断る。ここ、美衣からしたら自意識過剰な反応で無駄に傷つけられる行動だが、誓は『1巻』から花火に「ナシ」だと言ってくるような人間だから、仕方がない。誓が花火の疑念を無くそうと動いてくれたヒーローシーンである。
だが それは誰も彼も自分に対して詮索をする、ある意味で美衣のピンチでもある。そこに駆けつけるのは、尾山。その行動に感謝し、美衣は尾山の頬にキスをする。美衣は本当に花火との摩擦を避けたかっただけ。
美衣が言えなかった本音を花火に話し、この件は終了する。常々、似ていると感じていた美衣と雪音ですが、ここで少し違いが出ましたね。もしかしたら誓が美衣を断ったのは、本音を言わない点が似ているから、自分が同じ失敗を繰り返すと思って、美衣との交際に展望が見えなかったのかもしれない。そういう交際は自分も相手も傷つく、というのが誓の経験則なのだろう。
学校に出現した謎の占い師の正体であったAMI姫先生は、初登場の『2巻』も花火の本当の心を引き出していたが、今回は美衣の本音を引き出した。
そう考えると本書は、女性たちが本音を言えるようになるまでを描いている。花火や美衣、そして友人たちや雪音、誰にも胸に秘めてしまう言葉があって、それを言うことで一歩踏み出す、女性たちが勇気を持つ物語なのかもしれない。
子供である彼らに大人たちが手を引く。その大人には既に成犬になっている飼い犬・ナンパも含まれるのである。
ナンパの脱走騒動があり、誓が花火の家に来てナンパを引き渡す。そしてナンパ捜索の際に汚れた服を綺麗にするために花火の家に お呼ばれする。
男嫌いの花火が男性を連れて来たことに対し舞い上がる家族たち。少女漫画において、親との対面は婚約に等しい、が私の自説で、花火の場合、両親を紹介しているから結婚も夢じゃない。
だが2人が交際すらしてないことを知った母親は、花火との交際を頭を下げて誓に お願いする。これまで何度も誓に好意を拒絶されている花火は頭を抱えるが、誓の答えは承諾、だった。花火は その場の嘘だと思うが、誓は がっつり嘘をつかないように、仮交際を始めることを提案する。
本契約の条件は誓に「キスしたい」と思わせること。期限はホワイトデーまで。こうして1か月強の花火の奮闘が始まる。
これは交際が初めての花火にとっては、段階を踏むことで、誓に近づく実感となる。また期限があることで彼女が奮闘しやすい。そして逆の立場の誓からすればリハビリのようにも感じられる。自分が女性に対して本音を出せるのか、同じ轍を踏まないか、彼にとっては自分を試す期間なのではないか。
そして仮契約にすることで破棄がしやすく、お互いに傷つかない手段を選んだ、と言える。割と酷い制度だとは思うが、誓の心情や、彼の性格を考えると それが彼らしいと思ってしまうのが誓という人間の幅の大きさなのかもしれない。
