《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

切なる願いを聞き入れるのに9年も かけた神様は、自分の悪口には秒で反応して天罰を下す。

True Love(5) (フラワーコミックス)
杉山 美和子(すぎやま みわこ)
True Love
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

9年ぶりに再会し、兄妹でありながら惹かれ合ってしまった愛衣と弓弦。ふたりは想いを打ち明けあい、恋人同士に。ところが、秘密にしていたふたりの関係に、周囲の人々が気づきはじめてしまう。そして、愛衣に想いをよせる弓弦の親友・朝比奈が、愛衣にアプローチを開始。たとえ何があっても、この恋を選ぶと誓う愛衣だけれど――・・・? 甘く苦しい禁断の恋、緊迫の第5巻!

簡潔完結感想文

  • 一度 生じた疑心暗鬼の根は心の奥底で枯れることなく育ち続ける。再びの不倫モノ。
  • 写真もSNSも封じられた2人は昭和のようにアナログな手段で逢瀬の場所を指定する。
  • 私が乗るべき電車は明るい未来方面? それとも地獄行き? 所持金で指輪の予算を推測。

2巻連続で巻末の衝撃展開に目が離せない 5巻。

妹ちゃん 強くなったなぁ、と作中の恋愛見届け人・修二(しゅうじ)のような感想が出てくる。

今回の話は ずっと辛い。辛い日々を どれだけ乗り越えても、辛い日々は どこまでも追っかけてくる。愛衣(あい)と弓弦(ゆずる)、2人の兄妹が本当に幸せでいられたのは夏休みの間だけだったのかもしれない。それでも自分たちの関係が露見しないように、人目を気にしていたし、写真を残さなかった。普通の幸せを目にする度に静かに傷ついていく心に気づかないように生きていたが、彼らは更に不自由になる。

それが親バレである。タレコミ情報によって自分たちの関係を疑った母親を、弓弦の機転によって誤魔化せたと思ったが、一度 芽を出した疑いの感情は簡単には無くならない。この騒動によって、母親の愛衣への束縛は酷くなる。

かつて自分たちが守りたかった家庭を いよいよ自分たちが壊す。家庭も学校も もう居場所はない。

この様子は またもや不倫モノみたいである。前回は妻役のナナヨを中心として夫が弓弦、不倫相手が愛衣という配役だったが、今回は母親が妻役、愛衣が夫になり、母親が愛衣が外で弓弦と逢瀬しているのではないかと疑う、という構図である。
これによって愛衣はスマホを監視され、通話やSNSを自由に使えなくなった。母が購入してくれたスマホだが、愛衣は母親によって広がりかけた世界を狭められてしまった。

そして愛衣は孤独を深めていく。これまで自由に行動できた放課後は母親の監視があり、デートすらも ままならない。更には学校内でも自分が傷つけたナナヨの存在によって心が休まらない。愛衣は独りで お昼ご飯を食べるようになり、ナナヨの眼が届く範囲では自分の願望を叶えることも出来ない。

こうして連絡手段も、会う時間も奪われた彼らの様子が描かれるのが『5巻』である。ただし、会えなくて苦しいからこそ会えた時の喜びは何倍にもなる。制限のある中で会う時間を捻出し、2人だけの世界に作り上げることが不倫の醍醐味とも言える。


して冒頭の一文の通り、今回は愛衣が強くなったことが見て取れた。ナナヨが愛衣に距離を取っても、愛衣は それが自分に対しての当然の報いだと判断し、彼女の方が教室から退出することで、ナナヨに不利益が無いように取り計らっている。

逆にナナヨも手酷い裏切りにあったのだから、少女漫画のライバルなら、愛衣を徹底的にイジメ抜くかと思ったが、そうしないのが偉いと思った。愛衣と同じ空間にはいたくないという嫌悪感はあるものの、自分が被害者であるという立場を利用せず、適切な距離を保って、愛衣に対する害意はない。少女漫画では、ヒロインに危害を加えると作品から追放されるのが絶対的なルールであるが、ここでナナヨが愛衣に対して冷戦状態のみだったのが、最終盤でのナナヨの復活に繋がっているのかもしれない。

愛衣は修二と会えない時間が長くなり、そして家庭内も学校内でも孤独を深めた。そこに修二という自分に好意的で優しくしてくれる男性が救いの手を差し伸べる。早くも生き地獄のような毎日を送っている愛衣からすれば、その優しさは地獄に仏に思えただろう。
だが、彼女は修二に寄り掛からない。それは もちろん彼よりも弓弦だけを想っているからではあるのだが、こんな状況でもブレずに弓弦を信じられるのも また強さだと思う。禁断愛で辛いことも多いが、愛衣も弓弦も自分の気持ちを貫いている所が清々しい。勿論、それを貫こうとして周囲を傷つけてしまう自分の罪も自覚している。

そして愛衣は最後には、幼少の頃から自分と周囲の幸せを願い続けた神様とも別れを告げる。それは誰かに頼らず、自分と自分の愛する人だけを信じて生きていこうと決めたから。しかし神様のいない世界は愛衣に背を向ける、というのが本書の皮肉な部分である。

序盤に比べて愛衣が強くなったことが分かって初めて、初期の彼女が幼かった理由が見えてきた。


ナヨ経由で自分たちの関係が母親に発覚してしまった2人。
だが母親が半信半疑なことを見抜いた弓弦は、自分たちの交際を認めた後、母が逆上して、兄妹でそんなこと あるわけがない、と現実を否定したのを利用して、母の信じたい方に意見を誘導する。恐ろしく冷徹に母をも騙して、自分たちを危険に晒す脅威を退ける弓弦。

その弓弦の説明を信じた母は、離婚により子供たちに与えたダメージが間違った方向に影響しているのかと心配だったと気持ちを吐露する。こうして一難去って、この日 2人は家庭内で仲の良い兄妹を演じる。

主要な関係者の中では最後に修二が ナナヨを通じて、友人兄妹の関係を知る。と言っても修二は2人の関係を薄々勘付いているところがあったので、弓弦に事実を確認したぐらいだが。だが、弓弦がハッキリと認めたことに修二は怒りを拳に込める。

修二にとって2人の関係が許せないのは、愛衣が不幸になる道を選んでいるからだろう。だから修二は愛衣を守るために自分が彼女を幸せになることを決意する。いよいよ当て馬として覚醒した、というところか。

その日、修二に殴られた帰り道、弓弦は父親に遭遇し、男2人で語り合う。父は昔、アメリカに留学しており、弓弦と暮らしていた家も通った大学の近くだという。この話がラストの展開の伏線になる。
泥酔した父親を弓弦は家まで送り、父が寝ていることを確認し、家にいた愛衣と兄妹ではなく恋人として振る舞う。だが弓弦は修二に言われた言葉が胸に刺さっていた。自分の欲望に愛衣を巻き込んだのではないかと悩む弓弦。これは どこまでいっても互いに苛まれる悩みだろう。特に弓弦からのキスで愛衣の恋心を目覚めさせてしまった部分があるから弓弦が主犯と言えなくもない。


が、母親が自分たちの関係を疑って以降、家庭内にも不穏な空気が流れる。文化祭の準備で忙しい愛衣の帰りが遅いことを、母は弓弦と会っていたのではないか、と鎌をかけてきた。そして娘のスマホも監視して、彼女の行動を縛り始める。

これまでも2人は交際を写真を残さない様にしていたが、これからはメールすらも危険。2人の恋愛から映像も文字記録も消えていく。あるのは目の前にいる人への愛しい想いだけとなる。

文化祭当日も、2人は他人の振りをしながら渡したメモで逢瀬を約束する。だが愛衣は、クラスの人に助っ人を頼まれ、ナナヨの存在もあって、自分の都合を優先できない。こうして2人は学校内で会うことすら ままならない状況になる。

ようやく文化祭の終盤で弓弦は愛衣を連れ出し、空き教室で再会を喜び、口づけを交わす。こうして外で会うことも その時間もなくなるが、学校での逢瀬はリスクが高い。徐々に2人は追い込まれていると言えよう。


らに母親の束縛は日に日に強くなるばかり。愛衣が自制し、我慢し続ける日々でも彼女の中の疑いは絶対に消えない。苦しいばかりの日々を脱する光明が見つからない。

そんな母からの命令的な電話を横で聞いていた修二は、彼らの危機を察して、自分こそが愛衣の彼氏であると名乗り出る。そして母親が疑う根拠である花火大会の写真も、修二は初めて見て、内心では驚いているはずなのに、完璧な演技で、そのシルエットが自分であると申し出る。

勿論、修二の全てが親切心ではない。この恋愛危機を利用して、愛衣と自分が本当に交際することを願ってのこと。愛衣のピンチに つけ込んでいることを彼は隠さない。そして彼女の状況を利用して、父母を悲しませないためにも、他人に公に出来る恋愛をするべきだと忠告する。だから愛衣が まだ弓弦を好きでも、例え形式的なものであっても自分との交際を望む。

ナナヨが弓弦を こちらに振り向いてもらうために一生懸命だったように、修二は愛衣が悲しむ未来が見たくない。そこから彼女を救い出すために修二は自分が利用されても愛衣を この地獄から救い出したい。それが修二の愛の形なのだろう。
かつての偽装交際でナナヨは弓弦に無自覚に利用されていたが、今回、修二の提案は自覚的に偽装交際をして、彼女に利用されることを望んでいた。この恋愛の批判者と理解者でもあるナナヨと修二は、どこまでも対照的な関係と言えよう。


二は2人の交際の証拠としてデートを提案する。

この交際は母も ご満悦で、束縛していた これまでとは一変して愛衣を解放する。待ち合わせ場所まで愛衣を車で送り、そして この日は帰宅が門限を過ぎることも許す。きっと年頃になった娘と こういう関係を望んでいたのだろう。本来の母は こんなにも優しいはずだったのだ。

だが待ち合わせのホームで、愛衣は、逆方向の電車に弓弦が乗っていることを発見し、その電車に飛び乗る。

これは絵としても象徴的な場面だ。きっと修二がいるホームの先、そして修二と乗るはずだった電車の進行方向が正しい未来を表しているのだろう。それは周囲を幸せにする光に向かう幸せな電車。

修二の居る方向に進み、予定通りの電車に乗れば きっと「普通」の幸せを手に入れられるのだが…。

だが、愛衣は それとは逆方向に向かう、弓弦のいる電車を選ぶ。どちらの電車に乗るかが、彼らの運命を決めた、とも言える重要な場面だろう。

同じ電車に乗った2人に、修二から電話がかかってくる。そして修二は愛衣への通話に弓弦が出ることに驚き、そして電車の走行音がすることから、彼らの状況を察する。

それにしても これ、兄妹にとっては完全な(出来過ぎなぐらいの)偶然なのだが、修二からすれば2人にからかわれた と思っても不思議ではない。2人が悪意を持って修二の恋心をフルボッコにするために仕組んだ寸劇のようにも見える。


うして修二を傷つけた2人だが、この絶好の機会に乗じてデートをすることにした。愛衣は早くも修二のことを忘れて、自分の喜びで満たされている。愛衣の こういう所は悪女である。哀れ修二。

そして2人は軽井沢の教会を目指す。そこで行われる結婚式に目を奪われる2人だったが、母娘が嬉し泣きをするような光景を見て、自分たちは結婚も、周囲を幸せにすることも出来ないことを痛感してしまう。

この教会の中で、弓弦は来年から飛び級アメリカの大学に留学することを愛衣に告げる。いきなり遠距離恋愛の危機、いや、自分が捨てられるかもしれない恐怖に涙する愛衣だったが、弓弦は愛衣の卒業後に2人で暮らすことを提案する。

弓弦は この決意を固めていて、愛衣に指輪を買うために この日は出掛けようと思っていた。なるほど弓弦が高校生にしては大金を持ち歩いているのには、そういう理由があったのか。指輪の予算は2万円程度で、今回、それが交通費に変わった。

だから弓弦は急遽、家の鍵についていたリングを指輪代わりにして、この教会で擬似的な結婚式を挙げた。こうして愛衣は神様に別れを告げ、弓弦と地獄に堕ちる決意をした。だが直後、2人は本当に地獄に堕ちていく…。