ななじ 眺（ななじ ながむ）
コイバナ！―恋せよ花火―（ こいせよはなび）
第07巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★（6点）
「彼氏彼女、だけど（仮）」な花火と誓。本当に付き合うには、誓に「キスしたい」と思わせなければいけなくて…。花火はアレコレ頑張りますが、裏目に出て事件勃発!! そして、千鳥さんの登場でしのっちょとマサトが破局!?
簡潔完結感想文
- おバカなほど愛情を見せる誓は花火を飼い犬のように見ていたが、花火が内省モードに。
- 友人が奪略愛に傷つくのを見て、自分の罪を自覚する花火。この悩みも心の筋トレなのか⁉
- 後半戦は友人たちの背景が描かれ、影響しあうのが楽しいが、恋愛が足踏みで もどかしい。
人を好きになった恋の光が、誰かの心には陰を生んでしまう 7巻。
心が傷つき、それを修復しようとする時に成長が生まれる。本書では「恋は心の筋トレ」としているが、通常の筋トレのように一度 組織を傷つけないと一回り大きく発達しないのだろう。
だから本書ではヒロイン・花火（はなび）が傷つく場面が多いのではないか。誰かに傷つけられるだけでなく、自分が無自覚にしてきた事にも傷つく。かつてのライバル、そして友人とも立場の違いによって見える景色が違う。そこに衝突が生じて、物理的に殴られたり、精神的に責められたりと花火は傷つくことには事欠かない。
花火の周囲の友人たちが花火に対して否定的な見解を述べるのが とてもリアルだ。単なる仲良しグループではなく、『6巻』の美衣（みい）のように、自分の恋よりも優先したい関係であったり、傷つけてしまっても修復できる関係として描くことで、友情もまた鍛えられていく。序盤ではいるだけだった友人たちが どんどんと存在感を表し、恋ばかりではない花火の世界を形作る大切な要素になっているのが良い。花火が周囲の多様な価値観に触れることで、単純だった自分を恥じ、新しい自分というものを形成していく。そんな10代ならではの成長をしっかり描いている。
…のは、分かるのだが、恋愛漫画としての爽快感がまるでないのが気になる。髪型などビジュアル的に いかにも元気少女の花火が常に悩みを抱えていて、作品に影を落としているのだ。その悩みまでも描くことこそ作品の面白いところではあるが、いつまでもいつまでも三歩進んで二歩下がるような展開で花火の悩みに苛立ちを感じてしまうこともしばしば。そして仮交際をしている誓（ちかい）も冷淡で またイライラ。
ずっと書いているが、花火に幾つもの障害を用意して、成長させようというのは分かる。ただ その要素が作品の足を引っ張っているように思えてしまい楽しみ切れない。
上述のように後半戦は、友人たちにも焦点を当てて、それぞれが幸せのカタチを考えるという群像劇のような構成になっているが、その分、花火たちの描写は少なくなっているし、その上、よく分からない足踏みをしている。いわゆる「友人の恋」枠がヒロインに多大な影響を与えていて、単なるサブストーリーじゃないのは歓迎すべき事なのだが、それによりヒロインが自省モードに入って爽快感に欠けるのは勘弁してほしいところ。作品や作者の狙いは好きなのだが、心から お薦めできるか、というと悩んでしまう。
それぞれのバレンタインデー。
誓の中にある元カノ・雪音（ゆきね）の思い出を上書きしようと、誓と雪音が初デートで行った動物園を誓と共に歩く花火。これは花火には恋愛スキルはないから、正攻法の力技で自分でいっぱいにさせようという狙い。なぜなら 今は仮契約で、ホワイトデーまでに結果を出さなくてはならないから。ただし1か月でも結果が出ないものは、永遠に無理、というのが誓の持論。それまでに全力を尽くさなければならないのだが…。
だが元カノとの思い出の地を巡っても自分も彼も傷つくばかりであった。それでも失敗の中にも誓を笑顔にするのだから花火のやる事の方向性は間違っていないのではないか。
その証拠に誓は「ナシ」と断定した花火を「（アリ）……かも？」という所まで気持ちが動いていることが発表された。これは花火にとっては大きな前進。喜びも奮闘も全身で表現する花火。そういう彼女が誓は見たいのだろう。
だが誓がバランスを崩した際に、彼を守ろうと捻挫をしてしまう。花火にとってはそれは勲章に等しいもの。だが怪我をしたら花火の運気が下がるようなことばかり起きて…。
仲間内4人グループで唯一問題がなかった しのっちょ とマサトにも問題が発生する。マサトがクリスマスに将来的にプロポーズをしてから2人の価値観が違うことが明白になった。そのことを なかったかのように交際を続け、2人とも ぎこちなくなってしまった。
その隙間に入り込もうとするのがマサトのバイト先の千鳥（ちどり）。彼女はマサトに対して積極的にアプローチ。時々、マサトの見えない所で真顔になる千鳥が怖い。
不意を突かれ千鳥にキスをされ、マサトは しのっちょ を正面から見れなくて、横顔ばかり見せる。ちなみに しのっちょ は全10巻ずっと横顔しか描かれていないという裏設定がある。ここまでの展開で そんなに彼女に注目してなかったですが、再読したら初登場時から横顔だけだったのには驚いた。『7巻』で作者が発表するまで気づかなかったし、気づいても不自然さがそれほどないのだから凄いものだ。
キスをし、千鳥の家に行き（何もなかったが）、不義を重ねるマサトに しのっちょ は別れを告げる。最初から交際して唯一、問題のないカップルだったのに。別れる際に、伊達メガネを外すマサトに笑える。実はマサトのメガネは実用ではなく、彼女と「おそろ」にするアイテムだったのだ。『7巻』は作者が温めていた小ネタが続々と発表されて、読者は裏設定に驚くばかりである。
メガネを取ったマサトはイケメン。誓は勿論、佐々（ささ）・尾山（おやま）も格好良いし、マサトまでイケメンとなると、花火たち友人4人は、学校中のイケメンを掻っ攫っているのか…⁉
学校を休んだ しのっちょ を気にかけ、放課後、お見舞いに行く花火たち。だが、彼氏と別れたばかりで余裕のない しのっちょ は花火に言ってはいけないことを言う。
「盗られた側の気持ちなんて 花火には わかんないでしょう？」
そう、立場を変えれば、雪音にとっての花火は、しのっちょ に対する千鳥なのである。花火が露骨に狡猾さを見せないだけで、やったことは同じ。やっと花火が自分の罪に気づいた、という感じでしょうか。友人（美衣）と同じ人を好きになり、友人を苦しめる人と同じ立場という二重苦が花火を襲う。花火は世界で一番好きになってはいけない人を好きになったのでは、と思うほどだ。
ただ、そんな心身にダメージを負った花火に誓は優しい。怪我の責任を取って登校時に迎えに来る。しかし花火は落ち込んでおり、しかも自分の悩みを吐露しない。本来は夢のような一緒の登校だが、いつものような会話も出来ず、黙って登校するばかりになる。
怪我した花火はバイトを休むことを店長に告げに行く。その際、誓も同伴し、同じモールでバイトしている厚実（あつみ）も同行した。そこに店長を好きな佐々も集まるが、そこで発覚するのは店長が既婚者だということ。それに加えて その相手は、なんとAMI姫先生！ これもまた裏設定である（というか後付け設定らしいが）。
先に事実を知っていた厚実は、佐々の恋に展望がないことを知り、彼を陰ながら励ましていたのだった。こういう順序の入れ替えた話の作り方は好きですね。先回りして少しでも佐々の痛みが軽減するようにした厚実は偉い。
こうして色々な立場の色々な恋を知る花火。それが花火の想いに迷いを生じさせる。自分では純粋な想いだったはずだが、相手にとっては不快なものでしかないのかもしれない。
だが誓は飼い犬のように、愛情を身体いっぱいで表現する花火が好きだった。そこに邪魔な思考が入ることを好まない。「ややこしい お前 うざ」という言葉は とても冷たい。ただし雪音と違って、彼女への不満も言えていることが誓の成長のような気がする、とフォローすることも出来る。この誓は俺様というより子供っぽすぎる気がするが。自分で関係を修復する術を持たないから、突き放すしかないのではないか。
彼女と別れたマサトに千鳥は更に攻勢を仕掛けるが、マサトは しのっちょ を忘れられない。だから彼女に会いに一直線。
だが その彼を追いかけてきた千鳥が…。まさか しのっちょ ＆マサト カップルの話が巻跨ぎになる。序盤では大層 地味なカップルだったのに、急成長である。
