《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

空に虹をかけるためには雨が必要。ヒロインの暗雲の次は ヒーローの暗雲が到来する。

僕と君とで虹になる(4) (フラワーコミックス)
藤沢 志月(ふじさわ しづき)
僕と君とで 虹になる(ぼくときみとで にじになる)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

努力型の優等生で、美人なのにまったく人生を楽しんでこなかった流衣。白か黒か。アリかナシかで全てを判断していたけれど、富士浪と出会って「あそ部」に誘われて友達ができて、流衣の世界は鮮やかになった! それなのに父親の職が決まって遠くに引っ越すことに・・・!?

簡潔完結感想文

  • 交際直後から遠距離恋愛の危機。それを乗り越えるためには将来の誓いが必要!?
  • お騒がせ騒動となり空に大きな虹がかかって大団円。かと思いきや またも暗雲が!
  • 空白の1年間は富士浪の黒歴史なのか。その黒を白にするためヒロインは立ち上がる。

『4巻』途中で終わらせるという手もあったが、終わってたら私は本書を手に取らなかった、の 4巻。

遠距離恋愛の危機という少女漫画らしいクライマックスが中盤にある珍しい構成の本書。その騒動が解決した後、何をするのかと思ったら、伏線は張られていたが、やや地味に思えるヒーロー・富士浪(ふじなみ)の空白の1年間だった。どうやら彼にとって黒歴史らしい その期間にヒロイン・流衣(るい)が足を踏み入れることによって、富士浪の過去の行いや苦しみから救うみたいだ。富士浪の黒歴史を白く塗り替えることによって、富士浪が見る世界を美しく輝かせようということか。最後にヒーロー側の過去が問題になるのは少女漫画らしい展開と言えよう。この話が長引くと退屈だろうが、本書は全てのエピソードがコンパクトであるし、全5巻と次巻で終わりだと知っているので安心である。

富士浪によって大きく高校生活が変わった流衣が、今度は彼の黒歴史を救済しようとするヒロインムーブ。

私個人の読書法としては、全5巻以上の少女漫画を じっくり読むことにしているので、漫画的には全4巻で終わっていても問題はなかったが、それでは私は読む機会はなかっただろう。最後のエピソードが私と本書を結ぶ虹になったと言える。

これまで流衣と富士浪の間には、お互いに 聞かれたことには正直に答えるという暗黙のルールがあるように思えた。特に富士浪は、聞かれたくないであろうサッカーでの挫折や、そこから派生する元カノとの別れ、流衣へのグレーな気持ちなど、その時々の流衣の疑問に対し全て正直に話してきた。だが 今回は滅茶苦茶な論理で嘘をついたり、流衣の質問自体を黙殺しようとした。全てを乗り越えたように見える富士浪が触れて欲しくない過去とは何か、とてもハードルが上がる。

そして これまでの話からすると、この空白の1年間を終わらせたのは富士浪の幼なじみでもある権俵(ごんだわら)の双子の功績が大きいみたいだ。富士浪の進む道を強引に、根気よく変えていった双子。彼らが2人でやったことを、今回は流衣が1人で立ち向かう事となりそう。過去を改変する訳ではないが、富士浪の認識を変える必要はあり、難しいミッションとなるだろう。富士浪によって高校生活がカラフルになった流衣が、今度は富士浪の過去に立ち向かうという序盤との対称性が美しいラストエピソードである。元カノ・夏紀(なつき)や、あそ部の新入部員・武井(たけい)など悪い人のいない世界だから、とても怖そうな新キャラ・楓(かえで)も実は良い人だったりするのだろうか。


個人的に富士浪が流衣とのスキンシップ一つで呆気なく仙人から ただの若者に戻るのが面白い。自分の中の恋心を探す際も、流衣と抱擁しただけであっという間に答えが出た。また今回の夏祭り回では、流衣を からかっていたはずの富士浪が流衣にギュッと抱きしめられることで簡単に理性を失いかけた。黒歴史に対する対応も含めて そういう不安定な所も富士浪の魅力だろう。高校1年生の彼らは まだまだ自分を これから大きく変えていく可能性を持っているのだから。


海道への転校危機。親から自立して弟たちの生活を守るために勉強してきた流衣だったが、その前に再び親に振り回される。選択肢はないと諦めかける流衣に、富士浪は出来ることをしようと提案する。そんな彼の前向きさに流衣はまた惹かれていく。

転校を前に母が流衣に初めてのスマホを渡す。これは流衣に友達が出来たら渡そうと随分前から買ってあげていたらしい。初めて出来た友達と距離が離れても連絡が取れるようにと このタイミングで渡したのだろう。そして母は流衣に これまで我慢させて、甘えたい時に甘えられない状況にしていたこと、今回も家庭の事情で初めての友達と引き裂くような真似をしてしまうことを詫びる。

流衣は「あそ部」のメンバーにも引っ越すことを伝え、皆で送別会をすることを約束する。
送別会には部員に加えて、流衣の引っ越した後に部員になるという武井を加えて、流衣の この学校での友達が集合する。最後に寄せ書きを貰い、そして初めてのスマホで連絡先を交換し、流衣は彼らの温かさに涙を流す。


別会の後、流衣は富士浪と2人だけで話し、自分と学校生活、つまりは この世界の全てを一変させた富士浪からの あそ部への勧誘に感謝する。富士浪は流衣に悪い虫がつかないように、お守りを渡す。その お守りはリングの形をしており、富士浪は それを流衣の左手の薬指に はめる。流衣は その意味を知らないが、富士浪にとっては それぐらい流衣の事が大事で将来的にも一緒に居たいという覚悟の表れである。

頭の回転の速さの違いによる良い意地悪 ≒ 胸キュン時限爆弾は「ベツコミ」では よく見られる。

やがて引っ越しを明日に控えるが、富士浪は流衣が悲しまないように、なるべく寂しさを見せない様にしていた。相手のために、自分の気持ちを隠すことが出来るのは この2人の素敵な所だ。

一方で流衣は、富士浪に 貰った指輪が婚約指輪を意味することを、6歳の弟・悟(さとる)からの情報で初めて知る。だから自分も富士浪に何か誓いを立てたいと考える流衣だった。


して、別れの日。引っ越し作業も終わり、あとは空港に向かうだけ。何もなくなった自分の部屋に富士浪と2人で入る流衣。そこで富士浪から婚約指輪に対し、自分も「誓い」を返すために、流衣はビーズで作った指輪を彼に渡す。誓いの内容は、離れていても富士浪だけを想う、ということ。その流衣の誓いに、富士浪は1回だけ「行かないで」と本音を伝える。ここも仙人から 普通の若者に富士浪が変わる瞬間である。ニコニコとした笑顔をいつも浮かべているが、その奥にある富士浪の本当の顔も見え隠れする場面である。

別れが近づき流衣は涙し、初めての女友達である六花(ろっか)も泣いて別れを惜しむ。

それを見た父は、北海道には自分1人で行くと言い出す。どこまでも傍迷惑な父親だが、子供が秘めていた願いを分からないほど、鈍感ではないらしい。父親が流衣のことを見ていた場面がちゃんと伏線としてあるので、これは良い唐突な心変わりだと思える。この家が持ち家で維持費ぐらいしかお金がかからなくて良かった。賃貸物件なら経済的に厳しかったかもしれない、なんて現実的な事を考えてしまう。

そして雨の中の涙の別れだったはずが、晴れ渡り、空には大きな虹がかかり、皆は笑顔で1日を終える。
うん、良い最終回だったと思える内容である。ここから何を描くというのか。


長戦とも言える お話は、夏休み中の夏祭り回から始まる。危機を2人で乗り越えた このカップルの関係性は安定し、もはや晩年の老夫婦のような会話を繰り広げる。そんな2人の仲を進展させたい あそ部メンバーは、夏祭りに繰り出すことを計画する。

夏祭りといえば浴衣という、ベタな流れになり、メンバーの策略によって2人きりで露店を回る。だが楽しい時間は過ぎるのが早く、帰りを切り出す富士浪に対し、流衣は まだまだ富士浪と一緒に居たいと感じていた。それを言えず黙っていると、空気を呼んだ富士浪は座ることを提案する。

2人で語り合い、富士浪に先ほどの沈黙を問われる。流衣は正直に自分の気持ちの一から十までを話す。相手の質問には誠実に答える、これが2人の暗黙のルールなのかもしれない。
富士浪は他のメンバーの気遣いも、流衣の心の動きも分かっていた。それぐらい彼は頭が回る。だが敢えて意地悪をすることで聞き出した流衣の本音は想定内だったが、流衣と抱擁することでの心の高鳴りは彼にも予想外であった。

キスをするムードが漂うが、その前に1人の男性が彼らの前に現れる。この回から登場する黒瀬 楓(くろせ かえで)である。富士浪は楓と旧知の仲っぽいが、富士浪はそれを否定する。


して始まる新学期。夏祭りでの目撃談もあり、2人の交際が学校中の噂として駆け巡る。

楓は流衣たちの学校にも現れた。楓は富士浪に話し掛けるが、富士浪は昔の知り合いだが、今はもう違うから知らない人という彼にしては滅茶苦茶な論理を展開し、彼を無視する。楓との関係を知りたい流衣の質問にも富士浪は向き合わない。更に これ以上聞くなというオーラで流衣を圧倒した。これがもう異常事態なのである。

どうやら楓と関わった時期の事は富士浪の黒歴史らしい。流衣は、サッカーでの挫折よりも富士浪が語りたくないことがあり、それを共有できないことに割り切れないものを感じていた。

富士浪と少し距離が出来たため、1人で下校する流衣を、見ず知らずの男性3人が取り囲む。流衣は抵抗するが、窮地に陥る。それをオーラだけで助けたのは楓だった。流衣は楓が富士浪の過去を知っていると踏んで、彼との関係を問い質す。

楓の答えは知りたければ、ついて来いというもの。危険な提案だと分かっていても、流衣は富士浪のためになると信じて彼に同行するが…。