《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

初恋はヴァニラの匂いだったのに、あからさまな路線変更で イケメンと性の匂いが充満する。

制服でヴァニラ・キス(2) (フラワーコミックス)
夜神 里奈(やがみ りな)
制服でヴァニラ・キス(せいふくでヴァニラ・キス)
第02巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

誰も寄せ付けない、孤高のイケメン…それが万里。そんな万里の笑顔を見て恋をしてしまった心愛。心愛のまっすぐなキモチに万里も徐々に心を開き始めて…。そしてついに「僕とつきあってくれないか?」と告白される! でもそこには万里のあるヒミツが!? さらに万里の空手仲間・7人のイケメンも心愛のまわりに入り乱れ、心愛の恋は大混乱!

簡潔完結感想文

  • 義母に傾くヒーローの心をヒロインが自力でこちら側に倒していく物語のはずが…。
  • イケメンを大量投入し、愛するヒロインが愛されヒロインになって一気にチープ化。
  • 女2男1の三角関係が なぜか女1男2へとシフト。伏線は家族愛で片づける残念展開。

半と後半で、ヒーローの性格・設定が まるで違ってしまう 2巻。

『1巻』で繊細に描かれていた恋をする切なさが、イケメンの大量投入で一気に吹き飛んでしまった。ヒロインの心愛(ここあ)もヒーローの万里(ばんり)もどちらも届かない恋愛だったから良かったのに、『2巻』でテコ入れが始まり、ただ心愛がイケメンからチヤホヤされるだけの作品に成り下がった。作者や読者は この路線変更に大きな異議を唱えなかったのだろうか。

イケメンの数の暴力で読者をノックアウト。活躍した覚えがない人が半分いるが…。

心愛が逆境や障害の多い恋を成就させていく過程が見物だと思っていたのに、それは果たされない内容となってしまった。弱そうに見えて常に頑張る系のヒロインだからこそ心愛の良い部分が際立つはずが、彼女の魔性の魅力はイケメンが放っておけないという内容にシフトした。これは多くの読者にとって夢物語に思えるかもしれないが、作品から距離を置くと、人気獲得のために安易な手段を使ったと思ってしまう。
当初のように心愛が強ければ、多少 打算的な行動も彼女の面白さとして読めただろう。だが『2巻』後半から ただの「愛されヒロイン」になってしまった彼女が、万里と駆け引きをしてまで必死に偽装交際を継続させようとしているのは、自分のことしか考えない悪女に見えてしまった。これなら気持ちを隠さず、ずっと万里を好きだ好きだとキャンキャン吠えていた方が100倍良かった。

当初は、ヒロインが努力することによって万里が想いを寄せる、義母・アキから徐々に心愛へと気持ちをスライドさせていくという達成感が予想された。それなのに路線変更によって、万里のアキへの想いは「家族愛」という言葉に封じ込められてしまった。『1巻』だけでなく『2巻』でも万里のアキへの想いは家族以上のものだと仄めかされていたのに、その描写を一切 無視することで話を進めていく強引さは本書に そぐわないものだった。万里には嫉妬で引き出される感情ではなく、自分の中から自然に心愛を愛おしいと思う気持ちを芽生えさせてほしかった。

確かに毎回 展開は目が離せないように工夫がされている。10代前半を読者層にしているから、1回ごとの連載で、次回も読ませる仕掛けがある。毎回衝撃のラストを作るのも大変な労力だろう。だが連載が衝撃のラストまでの前振りになっているのも確かで、しかも衝撃のラストは次回の連載では大したことない、ということが繰り返えされる。

イケメンの投入で画面も展開も華やかになったが、そのせいで作風は変わった。こんなことになるぐらいなら、全3巻ぐらいで当初の構想通りに物語を終わらせて欲しかったと思ってしまう。


間学校の夜、心愛は万里に告白した。いつもは万里は女性からの告白に対し「好きな人がいる」といって断っているらしい。だが心愛の告白に返事をする前に、義母のアキの体調が悪くなったという報せが入り、彼はそちらを優先する。万里が心愛を好きなら、そんな所業をする訳もなく、この行動から アキ > 心愛が見て取れる。

同級生の月見里(やまなし)から心臓が悪いアキの発作の話と聞いた心愛は、1回しか会ったことのない彼女の お見舞いに行く。病室で見たのは、アキに対して柔らかい表情をする万里の姿。アキは かねてより万里の結婚まで死なないと言っており、アキが死なないなら万里は独身でいるという(これは万里が結婚したいと思う人とは結婚できないからでもあろう)。

更には、心愛の服についたヴァニラの香りを万里が「悪くない」と評したのは、アキが愛用している香水と同じだからということも判明し、心愛は万里の中のアキの存在の大きさに打ちのめされる(心愛は どの服にも お菓子作りの匂いがついている という謎設定が気になるが)。

…が、上述の通り万里の こういうアキへの想いは、一切なかったことになる。ここまでが楽しかったのに…。


里が人を信用しないのは、両親を亡くした際に周囲の大人が、彼を押しつけ合っているのを見たから。その中で遠縁のアキたち夫婦だけが彼を引き取ることに手を挙げ、そしてアキは万里との距離を縮める努力を重ねた。だから万里はアキだけに優しく見えるのだ。

この日、病院内で万里は心愛の告白の返事をしようとした。だが、明らかに義母への思慕が強い万里の答えは明白で、聞きたくない心愛は、人間としてのスキだと弁解してしまう。

だがアキは万里が鈍感だから自分の気持ちに気づいてないだけ、と推察していた。これは後々 万里が心変わりした時の言い訳にも使える。アキへの思いは家族として、だが本当に恋しているのは最初から君だけだ…的な(本当に そうなったが)。

心愛が万里の彼女だったらいいという期待が裏切られ、それがストレスになってアキは体調を悪化させる。彼女の病気は物語を邪魔したり推進したりと便利に使われる。

そんな彼女に健やかな日常を送らせるために、万里は心愛と交際することを決意し、心愛にその旨を伝えた…。

少女漫画の偽装交際が本物になる確率は90%。少しずつ変化する万里の心が読みたかったのだが…。

日、いつもの電車で会っても、万里は交際について何も言わないが、学校で第三者に好きな人は誰かと問われ、心愛と交際していることを話した。万里は心愛には何も言わずに、事実だけを広めたようだ。これによって心愛はいかにも少女漫画ヒロインのように彼に振り回される役目となるが、万里の思考能力のヤバさが際立つ。万里は心愛が何も言わないから了承したと思っていたらしい(どうなってんだ、頭の構造)。「アイツと俺 付き合ってるから」なんて自分から言い出すのは、嫌いな人や生理的に無理な人がやったらダメなやつの典型だ。

その真意を問い質す心愛に、万里はアキの手術を年内中にしなければならないために採った手段だと素直に言う。感情の壊れた万里は、アキの望む現実のために心愛を利用した。その代わり、万里は君の望むことは何でも叶えよう、と交換条件で心愛を従わせようとする。

そんな彼の壊れた価値観や道徳心を心愛は叱る。これは自分が間違っていると考えられない特有の思考を持つ万里には新鮮な、聖母のお叱りになったのではないか。

心愛は嘘のスキではなく、本当のスキしかいらない。だから彼との偽装交際を一度は断るのだが…。


日から、万里に顔を合わせないように心愛は電車を遅らせた。するとラッシュと重なる上、痴漢に遭い心愛はピンチとなる。それを助けるのは、どこからともなく現れる万里であった。

なぜ乗っているのかと問う心愛を、万里は なぜか彼女を遊園地に連れていく。言葉足らずや説明不足は万里のデフォルト設定で、彼の突拍子もない行動が心愛のドキドキを加速させる役目を担っている、のか?

万里は心愛と正式に(偽装)交際することを話すために、自分の思い出の地である遊園地に連れて来たという。
彼は月見里に一連の勝手な言動を怒られていた。だが万里としては、好きになると決めた人は、アキの手術後もずっと好きだと決めていた。つきあったら一生大事にする覚悟があるらしい。うん、なんか、あれだね、完璧王子の考えは独特だね。思い込みが激しいというか、端的に言って何らかの障害を抱えてるような気がする。こういう人と一緒に暮らしていくと、こちらが摩耗していくような気がする。予想外の行動は、恋愛初期には胸キュンになるが、ずっと一緒にいるとストレスになりそう。

遊園地は万里にとって幸せな場所だから。ここで万里はアキにも話していない話を心愛に伝える。それは彼が恋愛感情を理解できないのは、過去のトラウマともいうべき話であった…。


里の両親は電撃結婚した天才若手カメラマンと人気モデル。だが一児(万里)を儲けた彼らの幸せな結婚生活は長く続かず、父の浮気により、家族は崩壊。父は妻だけでなく、子供も簡単に捨てる人でなしだった。そして母は父に捨てられた苦しみと悲しみから酒量が増え、父に似た万里も嫌うようになった。

そして母が選んだのは元夫との無理心中。自分のことを顧みずに生きた両親の不幸な結婚生活の顛末を見て、万里は感情を失くした。万里は感情を顔に出すと両親どちらかに似ているような気がして、無表情になった。それと同時に、心も動かなくなり、恋愛感情すら分からない。
こうして両親を亡くした8歳の万里を、遠縁のアキが20歳ぐらいで引き取ったという。と言うことはアキは今は27,8歳ということか。

その話を聞いた心愛は憐憫の涙を流し、子供の頃の万里がしたかったことを全て叶えさせてあげようとする。万里の過去で号泣する心愛を見て、万里の心も動く。笑顔だけじゃなく、心愛がストレートに感情を表現すると、万里にも心が戻ってくるらしい。

そんな心愛に対し万里は、これがアキのための偽装交際であっても、誰でも良かったのではなく、心愛が良かったと、しっかりと心愛を選んだことを伝える。こうして好きじゃない振りをし続ける心愛と、好きがまだ分からない万里の偽装交際は始まった。

ちなみに この場面、心愛が手を放した風船は1つだけなのに、空には何個も風船が浮かんでいるのが謎。イメージ映像でお送りしてます、ってことか??


装交際が始まったと同時に投入されるのが一~七までの数字を名字に持つ7人のイケメンたち(二が双子のため三は欠番)。彼らは万里が中学まで通っていた学校の空手部の生徒たちで、幼稚舎からの幼なじみでもある。そして彼らと万里、そして心愛の距離が一気に縮まる、万里(というかアキ)の実家・東雲(しののめ)道場の合宿が始まる!

7人のイケメン新キャラだが、大事なのは四谷(よつや)のみ。四谷は万里に複雑な感情を抱いているため心愛に厳しい。四谷こそ万里を完璧男子と思っており、心を開かないところに万里の存在意義があったと考えている。だから彼女がいるとか感情を出すとか、認めたくない現実なのだ。

だから四谷は心愛にキツイ態度を取ってしまう。そして そんな彼の態度を叱咤した万里と四谷は道場で試合をすることになる。万里が四谷に対して腹を立てたことで、もはや万里と心愛は本当のカップルであり、万里が心愛に感情を見せまくっている証拠となる。この万里の豹変には心底ガッカリした。心愛は、偽装交際だと思っているから、彼女としての自信も愛されている実感もないが、結果的にもう交際している。そして万里の方も、心愛の告白がカウントされていないから、自分の都合に巻き込んでいると思っている。

こうして両片想い状態が成立しているから恋愛的に見所があるとしているのだろうが、万里の徐々に変化する心の様子を読みたかっただけに、結論が先に出てしまうのが残念でならない。しかも万里の嫉妬を掻き立てる形で彼の恋心の輪郭を際立たせているのが また残念。もうちょっと無感情の万里の中から生まれ来る感情が知りたかった。


んな万里の変化を見て落胆した四谷は またも心愛にちょっかいを出し、彼女の唇を舐める(キモい)。この前に『1巻』で事故とはいえキスをしているから、ファーストキスではないことが心愛のせめてもの救いか。そして合宿中に心愛を落とすと宣言し、万里を恋から遠ざけようとする。
この時点では四谷にとって心愛は飽くまで道具である。それなのに本気で好きになっちゃう、魔性の魅力が心愛にはある。

四谷の唇ペロペロを見た万里は口では強がってなんでもない振りをする。その表向きの平常心が心愛を傷つけることになるのだが、その裏で彼は手を強く握って流血するほど動揺していたのであった。

ただ四谷に言い寄られても、心愛の心は少しも動かない。それどころか、なぜ四谷が自分にちょっかいを出すのか、その動機を全て見抜いてしまう。「四谷君は ホントはずっと 万里君と友達になりたかったんですよね」。ちょっとバカみたいな台詞だが、四谷の心情を端的に表している。

そうして四谷が白旗を上げ、彼が自分と向き合えるまで肩を貸していた心愛だったが、その場面を万里に見られ、万里は「…君は誰にでも優しくするんだな」「もういい 君は彼女失格だ」と不興を買い、落ち込む。しかも心愛の説教で四谷はあっという間に彼女のことを好きになってしまったようだ…。


分が心愛に怒っている=嫉妬していることに気づき始める万里。彼は家の物を破壊し、そして外に出ていく。

そんな万里を追いかけた心愛。彼女には万里の行き先に見当がついていた。それは彼が通学途中に立ち寄る神社であった。ん、でも この神社って、万里の家から離れて学校に近い場所にあるはずだよね。毎朝 電車で行くような距離にある神社まで彼らは歩いて辿り着いたのか??(しかも この後、その神社を知らない四谷が急に現れる謎展開。近所じゃないんだぞ、ここは)

心愛は万里に謝るが、万里は話を聞こうとしない。だが心愛は万里に許されるまで帰らないと震える。そしてアキの名前を出して仮の彼女を続けようと情に訴える。心愛は自分でも この偽装交際で下心があるとは言っていたが、この駆け引きは かなり打算的である。表情も男に縋ることにかけては天才的で、強さよりも強(したた)かさが見えて、心愛の評価が下がる。

『2巻』後半からは、いよいよ万里のアキへの恋心が家族への思いへとシフトしていく。万里はアキに捨てられるのが怖いから、イイ息子に見えるように ふるまっていただけ、と自己分析をする。じゃあ『1巻』の合宿で持っていたAkiの名前が入った猫のキーホルダーやら浮かべる表情やら、説明がつかない部分も多いが、無かった事にする。

そして作品は これまでの初恋の甘い匂いから、性の匂いを漂わせることで読者を釣ろうとする。はぁ…、なぜこうなってしまったのか。