雪丸 もえ（ゆきまる もえ）
ひよ恋（ひよこい）
第10巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
大切な友達だと思っていたコウくんから告白されて、戸惑うひより。結心の気持ちも穏やかではなくて…。自分でちゃんとしたいと言い、コウくんの家へ向かうひよりだけど…!? 【同時収録】ひよ恋 番外編「みよ恋」／おまけまんが みったんの放課後日誌
簡潔完結感想文
- それぞれに初恋が叶った この恋だけど、叶わないことがある事を身をもって知る。
- 恋人として迎える初のクリスマス。相手のために動いて働くのも人間的成長になる。
- サプライズのために内緒でバイトして、それが原因で一時 疎遠になるのもお約束。
傍から見て どれだけお似合いでも、心が伴わなければ恋は生まれない 10巻。
『9巻』での感想文でも書いたが、
私が本書を好きな大きな理由は その構成にある。
今回のクラスメイト・コウによる ヒロイン・ひより への片想い編では、
長期連載ならではの、前半の内容との相似や比較などが詰め込まれている気がする。
例えば、前半の大きな問題であった幼なじみの結心（ゆうしん）と妃（きさき）の関係と、
今回の ひより とコウの関係は同じ結論となっている。
それが冒頭の一文で、この2組は、たとえ心の距離が一番近くても そこに愛が絶対に生まれる訳ではないという実例となっている。
自分にとって、自分を想ってくれる その人は大切な相手だから、
その気持ちに応えられたら どんなに楽かと思う事もあるが、
相手への気持ちが恋ではない事が、恋を知った彼らには分かってしまう。
そんな恋愛の残酷な一面を炙り出すのが 今回のコウの片想いとなる。
といっても「りぼん」ワールドなので、
気持ちに応えられなくても、コウと疎遠になったりはしない。
海外に飛んでいった妃と違い、コウには もう「つがい」となる相手がいる事も大きいだろう。
細かい点で言えば、今回、コウが熱を出す経緯も過去と似せている点（だと思う）。
叶わぬ恋愛をしている自分にとってショックな事が起きて、そのまま雨に打たれ、そのせいで風邪を引くという展開は、
『2巻』で ひより が風邪を引いたのと全く同じ状況ですね。
その後に自分にとって不都合な話をされる事を恐れて逃げ回るのも同じ。
やっぱり どこまでも似ている2人なんです。
コウ は ひより に告白をした後、熱で倒れる。
その後、コウは すぐに告白を冗談で済まそうとするが、それを結心が阻止する。
これは結心のライバル心が、ひより とコウの関係を清算させようとしている。
結心にしては意地悪で、ちょっと利己的な言動だが、
ここで荒療治をしなければ、誰の心も晴れない事が分かっているのだろう。
誰にとっても この告白は無かったことにしてはいけない事なのだ。
コウの告白によって、いよいよ律花（りつか）とコウをくっつけようとした自分の お節介が、
全て悪い方向に出た事が確定し、ひより は その事を律花に謝罪する。
だが律花は そこに悪意や他意がないことを知っているから ひより の謝罪は不要だとする。
律花は大人だねぇ…。
こう言えるのは、やはり修学旅行前後に2人の友情を再確認させているからだろう（『8巻』）
倒れてから4日。
コウは学校に姿を現さない。
もしかして告白を後悔し、ひより や学校から逃げ回っているのかと思ったが実際に熱を出していた。
それが分かるのは ひより がコウを見舞いに行ったから。
結心も同行を申し出るが、単独で乗り込む事が、ひより の決着の付け方なのだろう。
けど男性宅に女性が1人で乗り込む事は あんまりよろしくないのではないか。
コウのようなプライドの高い男性は、自分が惨めになるのなら全てを破壊しかねない…（苦笑）
作中で男女を2人きりにさせないためか、コウの お姉さんが在宅していた。
ちなみに文化祭のコウの女装に よく似ている。
こうして2人きりの会話が始まるが、もう友達には戻れないという事が露呈する。
それは ひより にとって最大級に避けたい事。
結心と付き合っていなかったら、コウと友達でいられた…？
考えてはいけない事を考えた自分を ひより は嫌悪する。
これは ひより の二股なんかでは決してなくて、
それだけ彼女にとって、コウは心の中で大きなウェイトを占めているという意味の発言だろう。
コウの高熱は、告白した ひより と顔を合わせたくないという彼の恥ずかしさが もたらしたものだったのか。
それが済んだら、あれだけ体調が悪そうだったのに、見舞いの翌日には学校に登校している。
だが それで顔を合わせるのが平気かといえば別問題で、ひより が話しかけようとする度、コウは逃げ回る。
やっぱり この2人は似た者同士で逃避癖がある。
これで ひより も追いかける側の苦労が分かったというところか。
双方に律花の助言があって、2人は ようやく向き合う事となった。
そこで ひより は これが最後の会話でもいいように、コウへの感謝の気持ちを述べる。
いつも隣にいてくれて、自分なんかを好きになってくれたコウに、ひより は心の底から言葉を紡ぐ。
そんな彼女の真摯な態度が、コウの心にも届くのであった。
こうして ひより と結心は、お互いの大事な人を傷つけなければならなかった。
応えられなかった想いの上に、この交際はあると、2人は交際の意味を改めて考える。
誰かを選んだという事は、その他の人を選ばなかった事でもある。
2人の、交際を大事にしようという気持ちは一層 高まる。
今回は ひより にとって失敗も多いけれど、同じ失敗をしなければいいだけの話。
こうして昨年12月から始まった ひより の高校生活は丸1年が過ぎていく。
色々な事があった1年だったなぁ。
そして高校生活も実質1年ちょっとしかない。
高校生活の どこまで描くのかが気になる所。
そして残り時間を考えると、ひより の12月からの登校が悔やまれる。
もっと日常回を読んでいたい。
そして12月といえばクリスマス回。
今年は恋人として迎える初のクリスマスとなる。
ひより は恋人なのに彼の誕生日もスルーしてしまったから、
このクリスマスが、ちゃんと準備をして迎える初の恋人たちのイベントとなる。
2人は各自サプライズでプレゼントを上げることを画策する。
相手に悟られないように、相手の欲しいものを探り当てようとする。
結心は ひより の視線から靴を選ぶ。
が、それ相応の値段がする。
ひより も結心が好きなもののヒントを、
街で会った彼の中学時代の同級生から情報を貰って一歩前進。
ひより が得た情報は嘘の情報なのだが、
プレゼントの方向性が決まったからこそ動ける場合もある。
それが資金を稼ぐためのバイトである。
定期テスト前の恒例の勉強回も終わり、2人は それぞれにバイトを始める。
だがプレゼントのためにも、ひより はバイトの事は秘密。
自分の思いついた計画を秘密裏に行おうとするのは ひより の悪い癖かもしれません。
（『9巻』における、律花とコウへのお節介）
結心はバイトの事を ちゃんと彼女に伝えようとするが、タイミングを逸して そのまま。
これは少女漫画あるある ですね。
サプライズプレゼントのために一時的に すれ違って険悪になるのがお約束。
そして この展開は勝手にキャラの気持ちが下がって上がるから重宝される。
寂しさや怒りが喜びに反転してドラマも生まれるのです。
本書の場合は険悪にまではならないが、お互い自由な時間と体力を奪われて すれ違いが生じる。
ひより のバイト先はスーパーで、担当は試食販売となる。
仕事の大変さを身に染みながら ひより は奮闘する。
彼のために動くことが、人としても成長していくからバイトは良い経験だろう。
結心のバイト先は、中学の同級生の家が経営しているレストラン。
長身イケメン店員として瞬く間に話題になる。
って、結心ってイケメン設定でしたっけ!?
何か2人の価値を上げるために、いらない装飾が増えた気がする。
身長以外、容姿に関する描写がなく、どこにでもいそうな2人が結ばれるから共感を得た気がするので、これは残念。
デートと決めていたクリスマスイヴ当日も2人ともバイトが入り、
そして ひより はバイト先に携帯電話を落としたまま気づかない。
着飾って、プレゼントを用意しても、届ける相手と会えなければ意味はないのだが…。
「ひよ恋 番外編 みよ恋」…
ひより の担任教師・美代子が高校時代に進路を決めた頃の お話。
どんなに過去を遡っても 彼女の恋が上手くいった実例があがってこないなぁ…。
あと高校時代の王子も、現在の同僚も、結心に似ているとしか思えなかったのが残念。
もうちょっとイケメンはイケメン、結心は結心と描き分けてほしい。
