晴海 ひつじ(はるみ ひつじ)
斎王寺兄弟に困らされるのも悪くない(さいおうじきょうだいにこまらされるのもわるくない)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
何やら訳ありの似てない4兄弟の家で、正式な家政婦として一緒に住むことになった風香。だけど斎王寺家では次々トラブルが…。みんなで遊園地★台風の夜に2人きり!!付き合ってるフリ!?……やっぱり風香は、4兄弟に朝から夜まで翻弄されまくりで!?
簡潔完結感想文
- 長期連載になった途端にテンプレ展開が連発。胸キュン見本市 開催中…。
- 暴風雨の一夜もテンプレ。衣替えの前に台風が接近することだけが異常。
- クラスメイトに同居バレ⁉ カモフラージュの偽装交際も少女漫画的展開。
イケメン描写に特化しすぎて、女性たちの描き方が割と散々な 2巻。
少女漫画のヒロインは、健気だが空回りするのが宿命。
本書のヒロイン・風香(ふうか)も自分の仕事を全うしたいと考えているけれど、
自分から言い出せないことが多くて、より悪い方向に物事を進めている。
そうして自分から袋小路に入った所を、
ヒーローである浬(かいり)たち斎王寺(さいおうじ)家の4人が手助けするというのが、
お決まりのパターンなのは分かっているつもりだ。
でも中途半端に強気で そして優柔不断な風香は あまり好ましく思えない。
泣いた後はすぐに兄弟に気づかれて、彼女をフォローしてくれる優しい言葉やスキンシップが待っている。
現実世界に疲れ果てた読者の心に波風を立てないで、安らかに楽しめる作品なんだろうけど、
その分、作品としては何の取っ掛かりもなく、既視感に溢れている。
『1巻』の時点では もう少し個性的な漫画になるかと思いきや、
連載が長編化した この『2巻』からテンプレ的なイベントが連発されるだけになったのが残念。
そして冒頭の一文の通り、女性たちの描写が結構 酷くてゲンナリする。
短期連載の最終回、『1巻』のラストに出てきた風香の叔母は その代表格。
彼女は風香を自分の所有物としてしか見ておらず、身の回りの世話、
そして借金返済のための道具として彼女を利用しようとした。
叔母という血縁の近さがまた、気持ちを暗くさせる。
彼女の姉または兄の子に対して、非情な仕打ちが出来る彼女に嫌悪感しかなかった。
そして『2巻』では#7で、風香が斎王寺家のイケメン4兄弟の傘用に名札を作るのだが、
彼らの所有物だと分かった瞬間に、それを奪取する輩(やから)が各地で出没する始末。
好きな人の私物を手に入れて近づいた気分になりたい、という動機は理解できなくもないが、
そもそもの窃盗についての罪の意識がないことが気になる。
男女問わず、容姿の優れた人はこういう小さなことが積み重なって、
心を擦り減らしていくのだな、と こちら側の人間は同情を禁じえない。
そして#9からは、浬のことを好きなクラスメイトが、浬と風香の仲を疑い、
毎日 毎日、尾行する陰湿で粘着質な行為が描かれる。
彼女たちもまた自分を正当化して、される側の気持ちを全く考慮していない。
こんなに女性が浅はかな行動を取る存在として描かれていて、読者は気にならないのだろうか。
風香の善意が踏みにじられたり、彼女を窮地に追い込むために必要なのは分かるが、
女性の側だけに悪意が偏っていて、その時点で私は読んでいて楽しくない。
イケメンが出てくれば読者は細かいこと気にしないでしょ、というスタンスなのだろうか。
恋する乙女にとっては一大事でも、逆サイドからは迷惑行為なのです。


上で少し触れたが、風香が内気になっているのも気になる。
風香が どうやって男の人に助けられるか、に焦点が当たっており、彼女の個性が死んだ。
彼女はもう少し人の気持ちを先読みできる人だと思っていたが、
どんどん言葉を引っ込めて、事態を悪化させるだけの存在に成り果ててしまった。
『1巻』#2では浬の行動の裏にあるものをしっかりと理解していた彼女だったが、
どうにも長期連載になってからは読者の予想の1テンポ先を行くのではなく、物事の理解が反テンポ遅くなっている
風香もまた ヒーローの活躍をお膳立てするパーツに過ぎないのが残念である。
この『2巻』から風香は家政婦として正規採用、そして連載も正規連載となった。
そして ここから連載はイベントが乱発される。
最初は遊園地にお出掛け回。
ここでも意地悪な浬に自分の弱みを教えてはならないと思い黙っていたら、大変なことに、という お決まりの展開。
胸キュン場面は苦手な観覧車の中で過呼吸になった風香を落ち着かせるために自分の存在を確かめさせる浬の姿でしょう。
その体勢と、風香の乱れる呼吸が狙っているとしか思えませんが…。
ベッドに押し倒したり、裸のシーンが多かったり、スキンシップしたり、
微エロ描写があるのが本書の特徴なのでしょうか。
ちなみに私の提唱する少女漫画あるある では
「観覧車という密室には好意を持っている人としか乗らない説」があります。
苦手と分かっていながらも同乗した時点で彼らの運命は決定づけられたのかもしれない。
続いては台風回。
まず気になるのが、作品内の季節。
『1巻』#4で、5月20日の浬の誕生日回があって、
その後に、夏が到来する前で、まだ制服が長袖の時期が作中の季節。
恐らく6月の初旬も初旬だと推察されるが、この時期に台風が来るのか、という疑問が湧き上がる。
気象庁のサイトで見る限り、6月の台風接近はなくはないし、上陸も10年に1度はあるらしい。
でも なんで、ここ台風にしたんだろう。
暴風雨じゃダメだったのかなぁ。
天候の悪化=台風という思考回路だったのか。
こういう小さな部分で作者への信頼感は失われていくのです。
台風回は、家に2人きりの時に停電が起きて…、というのが王道ですが、
本書では、台風回だけで連載を2回分使っている。
まず風香と浬、どちらも鍵を持っていない状況で家の外に締め出されるのが台風回の1回目。
そこで まるで雪山や山荘での遭難シーンみたいなことが行われる。
胸キュンシーンではあるが、玄関先で何をやってんだ、と冷静に考えてしまう。
そして この頃から、浬は風香が自分のことを好きだと自信満々に接してくる。
浬によると、肉体的接触で真っ赤になってドキドキしていたのがその証拠らしい。
なんか、性暴力を振るう人の開き直った言い分に聞こえなくもない…。
事実、ようやく家の中に入り、2人きりという状況が確定した途端、風香は緊張する。
そこへ雨の中、燈が無理して帰ってきてくれたので、風香は安心感から涙が出る。
やっぱり精神的な抑圧を受けているのか。
謎の論理を持ち出す浬だが、彼が勘違いするような行動を風香が取ったとは読めない。
もはや思い込みの激しい人がハラスメントを正当化するための論理でしかない。
(恋のために傘を盗んだり、尾行したいする女性と変わらない)。
結局、この浬の謎の論理は最終回まで種明かしがない。
ただ浬(かいり)流の照れ隠しだったのでしょうか。
もしくは彼の幼い頃の体験から、自分では言えない言葉を相手に反射しているのだろうか。
彼の場合、恋愛偏差値は低く、性欲のある小学生ぐらいに考えた方が良いかもしれない。
早くも日常回に飽きてきたところで大事件。
クラスメイトの星(ほし)さんに、風香が斎王寺家から出てくるのを見られてしまう。
この辺の緩急の付け方は好きです。
この星さんは、浬のことが好きで、風香が浬と交際していると勘違いして傷ついてしまった。
更に星さんは、風香に交際の事実がないことを証明するために尾行をしてくる。
そこで風香は『1巻』1話で登場した老けメイクと変装で、彼女らの尾行を巻く。
ここら辺は漫画的ですね。
尾行側の洞察力の無さをツッコんではいけません。
なんたって星さんは おバカさんなのだから(後半に判明)。
だが、またまた風香が頑張り過ぎて無理をする。そして倒れて、浬に介抱される。
風香の物事の解決能力がゼロになります。
全てはヒーローを際立たせるために仕方のないことなのです。


変装の次に考案されたのが、偽装交際。
浬ではなく別の男性(次兄・燈(あかり))との交際をカモフラージュすることで誤解を解こうとする。
ここら辺もいかにも少女漫画的ですね。
『2巻』で描かれた胸キュン場面やイベントは、
全部どこかの少女漫画で見た記憶があるのではないか、というぐらい少女漫画的には直球。
絵は可愛いし読みやすいのだが、毒にも薬にもならない内容が多い。
偽装交際回は、燈の個人回ともなる。
これまで冗談めかされていた彼の本心に触れられる。
燈に再び斎王寺家での居場所をくれたのは風香で、
彼女への感謝が、彼の好意の一端となっていることが分かる。
ただでさえ険悪な浬と燈の関係に、もう一つライバル要素が生まれてしまった。
私のために争わないで、という悲劇的ヒロインの図式の完成である。
「斎王寺兄弟に困らされるのも悪くない 特別編」…
『1巻』発売時に描かれた紹介漫画。
4兄弟それぞれの良い所が描かれた作品。
そして浬だけが欠点も描かれている。
他の3兄弟と結ばれる未来も見てみたいなぁ…。