《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ずっとゴールで待ってるから、一番に君が僕のもとに駆け寄ってくれたら嬉しい

さくらと先生(2) (別冊フレンドコミックス)
蒼井 まもる(あおい まもる)
さくらと先生(さくらとせんせい)
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

入学式の日に桜舞う坂道で藤春先生に出会ってから、先生のことを好きになったさくら。夏休みに入り、先生に会えなくて寂しい…と思っていると、偶然先生に遭遇します。休日の先生はいつもと違ってドキドキするさくら。それから先生への想いがさらに大きくなって…!? 桜舞う坂道で恋をした。先生に片想いラブストーリー、第2巻!

簡潔完結感想文

  • 夏休みに遭遇した先生は先生じゃなくて男の人。飼い主が心から笑えば犬も笑う。
  • 彼女の出場競技を確認してから、職員室でゴールテープ係に立候補する藤春先生!?
  • 先生の服や所持品から漂う匂いを堪能するヒロイン。ポケットって股間の匂い??

『1巻』ラストで自転車で坂を下った先生は『2巻』では自動車で走り去る、の 2巻。

大雑把に捉えると『1巻』と『2巻』は対になっているような気がした。『1巻』はヒロイン・さくら が先生への気持ちを好意だと自覚するまでを描いていていたけれど、『2巻』は藤春(ふじはる)先生が どうしても さくら に惹かれてしまう様子が多く見られた。
もちろん主人公は さくら だから彼女側の心情が よく描かれているのだけど、今回は藤春先生の感情が溢れ出している箇所が幾つもあった。そして再読時には藤春先生の視点から色々考えてみると、彼の我慢しきれない部分が よく分かる。それが面白い。少ない台詞の中に、何気ない場面の中に各人の心の動きが描かれているから本書は味わい深い。こじらせている訳ではなく教師という立場から素直に物が言えない。その様子は こじらせてしまった男子を描いた咲坂伊緒さん『アオハライド』の男ヒロインに似ていると感じた。直接的に手を出せないけれど、いつでもヒロインの味方でいるヒーロー、そんな慎み深さを持つ人が私は好きなのだと思う。

年齢差や立場で困難の多い「教師モノ」だけれど、実は より地獄なのは女子生徒にガチ恋してしまった男性教師の方なのではないか、と強く感じた。『1巻』の感想文で書いたように教師モノは、クラス内で支配的立場にいる先生に恋をすることで特別感が発生するのだけど、アラサーの藤春先生からすれば、自分は彼女の恋の相手として異質で異端。彼女の周りには同級生や先輩という何百人もの同年代の男子生徒がいて、そこから恋の相手を選ぶのが一般的。それに対して おじさん の純情など普通はキモくて、簡単に告白できない。
実は教師モノの恋愛において心が休まらないのは先生の方だろう。自分にとってのライバルになる可能性があるは男子生徒全員なのだから。


春先生は おそらく さくら の自分への気持ちを認識している。でも職業倫理的に手は出せない。そこに先生側の葛藤が見え隠れする。

だから藤春先生は『1巻』のテストでの秘密の暴露以降、さくら の前にニンジンをチラつかせて、恋心の燃料を与え続けて彼女を走らせ続ける。そこに狡猾さが見える。でも それが藤春先生の精一杯なのだろう。藤春先生はクラスメイトの男子生徒・瀬戸(せと)と違って一緒に帰る約束も出来ないし、教室内でスキンシップも出来ない。瀬戸に比べて圧倒的に接触も少ない中で さくら の印象に残り続けるために藤春先生は「いけないこと」のラインを超えない範囲で さくら との接点を持つ。

藤春先生は さくら の出場競技を把握済みという匂わせ。嬉しくて、少しキモい

『2巻』中盤の体育祭での さくら のリレー参加も その一つで、さくら は文字通りゴールテープを持つ藤春先生に向かって走る。そして藤春先生がゴール地点で動けないことが彼の現状を よく表していると思った。例え さくら がリレー中に転んでしまっても、途中で棄権してしまっても藤春先生は直接 助けられない。教師として1位の生徒のゴールを待たなければならないし、他の生徒と同様に接しなければいけない。身動きが取れないから、君の方から来てよ、というのが藤春先生の精一杯なのだ。ラストでは「卒業後」という条件を ほのめかすことで さくら の好意を我がものにしようとしている。藤春先生じゃなければ ただのロマンス詐欺でしかないかもしれない。

その もどかしいの距離感が藤春先生の焦燥を生み、『1巻』のラストで藤春先生が瀬戸に嫉妬を変換した教育的指導をしたように今回は さくら に八つ当たりのような指導をしてしまう。彼女を好きすぎるから余裕がないのだろうが、なかなか小さい男にも見える。

『2巻』ラストでも表面的に見れば2人の関係性は何も変わっていない。むしろ自転車でも追いつけない自動車に乗られ、告白は拒絶されている。でも その裏では着実に2人は「いけないこと」に足を踏み入れている。先生に届きそうな嬉しさも、届かない悲しみも どちらも切なさになっていて胸が痛い。


雨に入り、自転車通学が少なくなり登校時に先生に会えない日々が続く。会えるのは週3回の簿記の授業だけ。そして先生への好意を瀬戸に見抜かれたことが恥ずかしくて さくら は彼を避けてしまう。一気に男性との接点をなくすヒロイン。終業式の日、部活終わりの夕方に下校する先生の背中に声を掛け、手を振ってもらい さくら の1学期は終わる。

さくら の夏休みは主に部活で費やされる。先生に会えない絶望の日々の中、『1巻』ラストで拾った犬を散歩中に藤春先生と遭遇する。この犬は引き取り手が見つからず さくら の家の飼い犬となり、春に拾ったからハルと名付けられた。でも本当は藤春先生のハルである。

挨拶だけして立ち去るはずがハルが藤春先生から離れなかったので会話が始まる。学校周辺以外で会う藤春先生は、先生でなく ただの26歳の男性。私服だし寝ぐせはついてるし、お酒を買っている。
この時、ハルが初めて笑顔を見せたことで さくら はハルを抱っこした藤春先生の写真の撮影に成功する。人間もよく笑い、2人の距離は急速に縮まったように見える。この日のことは2人だけの秘密。1枚の写真と奇跡のような1日、そこに高校1年生の夏休みが凝縮される。


2学期は体育祭から幕を開ける。もう瀬戸を避けることもなく日常が戻る。それは さくら が先生のことを どうしても好きな自分から目を背けなくなったからかもしれない。だから瀬戸にだけは自分の先生への想いを認める。それが瀬戸にとって認めて欲しくないことにもかかわらず、という気持ちに蓋をして瀬戸は さくら の恋を応援する。

そして学校が始まれば先生に会える。体育祭は藤春先生も参加し、頑張り過ぎて熱中症気味になる。それを知った さくら が応急処置をし藤春先生は さくら のタオルを借りて首を冷やす。藤春先生は さくら の出場する競技を知っており、自分がゴールテープを持つ係であることを伝える。そこで さくら は1位になることを誓う。そこでの宣誓の言葉は さくら の恋愛の姿勢を表明しているようにしか聞こえない。『1巻』のテストの時と同様に、藤春先生は さくら に やや高めの目標を設定して彼女の頑張りを引き出しているように見える。というか藤春先生は さくら の出場競技を知って、そこに関わろうとしてるのではないか。もしそうなら、ここに さくら からの好意が無ければ本当にキモいとしか言いようがない(笑)

しかしリレー出場直前にメンバーの怪我が発覚。代走も見つけられないため さくら は2人分の区間を走る。陸上部に所属する さくら は中距離が専門。しかも今の さくら には頑張る理由がある。1位でゴールに近づけば藤春先生は絶対に自分を見てくれる。そしてゴールに近づくと藤春先生は さくら を応援してくれた。藤春先生の胸に飛び込むかのように先生が持つゴールテープを切る さくら。背の小さい さくら の力走に藤春先生は興奮し、2人はハイタッチを交わす。


のハイタッチを瀬戸は撮影しており、さくら に画像の存在を教える。さくら が その画像を欲することは瀬戸にとって胸に痛みを覚えるものだろう。だから瀬戸は、さくら への意地悪ではなく藤春先生への せめてもの抵抗として彼の見ている前で さくら とイチャイチャする。間違いなく さくら が一番 仲のいい男子生徒は瀬戸だろう。

そんなクラスメイト2人は検定に向けた勉強会をファミレスで開く。瀬戸は さくら の恋心を唯一知っている人。さくら は友達のルナにもバレるまで この感情を秘しているつもりらしい。本当はルナも この勉強会に参加するはずだったのだが彼氏との約束を優先したため2人きりになった。
その勉強会後、さくら の自転車が盗まれていることが発覚する。こうして さくら は自転車通学が出来なくなる。

自転車は後日、繁華街で放置されているところを発見され、防犯登録と学校のシールから さくら の物だと特定される。繁華街で発見されたことで教師に嫌味を言われる さくら を その場にいた藤春先生が庇う。本書初の典型的なヒーロー行動と言えよう。こうして教師の嫌味は藤春先生に向かい さくら は事なきを得る。

だが事情を説明する際に さくら が瀬戸と夜まで一緒に居たことを聞き、藤春先生の心は穏やかではない。瀬戸は藤春先生にとっての当て馬なのだ。瀬戸のお陰で藤春先生の嫉妬が炎上する。
さくら は先生が自分を庇ってくれたことが泣けるほど嬉しい。だが瀬戸は その涙を藤春先生のせいだと勘違いして『1巻』ラストの夜の下校とは逆に瀬戸が藤春先生を責め立てる。ここで藤春先生が珍しくムッとして男性同士の火花が一瞬散っているのが良い。


活後、暗くなってから向かう初めての繁華街に さくら は不安を覚える。そんな時に藤春先生が現れ、一緒に自転車を取りに行ってくれる。電車に乗り並んで立ち、互いに横にいる相手を意識する2人。

意識しているからこそ藤春先生は さくら と瀬戸の関係が気になり、自転車盗難の発端となった日に彼らが夜まで一緒にいたことが気になり、その苛立ちを さくら の防犯意識の低さに変換して ぶつけてしまう。これも『1巻』ラストの藤春先生の瀬戸への八つ当たりと同じ。
昼は味方だった藤春先生に叱責される形となって さくら は涙する。その予想外の涙に藤春先生は動揺し、自分の言葉に必要以上の棘があったことを自覚しているから素直に謝罪する。そして体育祭の日から ずっと借りっぱなしになっていた さくら のタオルをズボンのポケットから取り出し、涙を拭くために彼女に渡す。これは藤春先生側が さくら との接点になると ずっと持っていた物。会話のきっかけになるものを大切に持っているのは『1巻』の さくら のコーヒー菓子の状況に似ている。さくら は このタオルに藤春先生の匂いを感じ取るらしいが、ズボンのポケットって なかなか危ない場所に近いような気がする…(笑)しかも1か月近く藤春先生のポケットに入っていて匂いは熟成されている…。

恋しない世界線「ひぃ~ ホクロ(藤春先生の蔑称)がポケットから私のタオル出した。速攻 洗濯しよ!」

わぬ形で先生の匂いのするタオルを受け取り さくら は涙から一転 笑顔になる。その表情を見た藤春先生の口から思わず「可愛い」と言葉がこぼれる。

自転車を受け取り、人が多いので前後に列になる2人。『1巻』ラストと同様に藤春先生は さくら が心配で堪らないから彼女が安全に暮らせるよう知恵と注意を行う。藤春先生への愛おしさで さくら が彼の服を掴むと、藤春先生は さくら の その手を握る。『1巻』ラストでも手を引かれたが あの時は すぐに離してしまった。けれど今回は目的地に到着し藤春先生が離すまで2人は手を繋いで黙って歩き続けた。

さくら は勿論、藤春先生側も これまで設けていた一線を越えた夜だった。でも さくら は その行動の意味を聞かない。聞いたら藤春先生は先生として行動してしまう。そんな予感がした。


から2人は何事も無かったかのように学校生活を続ける。その中で唯一の変化は藤春先生が車を買って自動車通勤になったこと。これで さくら は藤春先生の背中も小さなお尻も見られなくなってしまった。さくら がショックを受けるのは藤春先生から一線を引かれたと感じたからだろう。現に藤春先生は目があっても逸らそうとする。それは自分に生まれた やましい気持ちを我慢できなくなりつつあるという自覚症状があるからか。

だから さくら は藤春先生の車の影に隠れて彼と直接 話せる機会を作る。さくら は自分を避けて自転車通勤を止めたのではと問い質すが、一瞬の間を置いて、藤春先生は否定する。
でも藤春先生は教室内での さくら のことを よく見ている。だから繁華街での夜のことを聞くが、やはり藤春先生は一線を引いた。さくら は藤春先生と「いけないこと」がしたいから彼の首の ほくろ を触ろうとする。拒否されてしまうが、手を伸ばしたまま先生に告白する。果たして この時、さくら は ほくろ に触れたのか、それとも手を空中で止めたままなのか、どちらとも取れる描写になっている。

藤春先生は卒業したら、と またも さくら に目標を設定する。しかし卒業は さくら にとって100年後にも感じられるだろう。どちらかと言えば拒否された形になった告白だが、藤春先生にとって さくら を悲しませることは心苦しく、繁華街で手を繋いだのは可愛かったからだと言って車を発進させる。さくら の気持ちは藤春先生に釘付けのままとなる。