《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインが高校生ならロケ地の学校で、保育士なら お迎えに来る保護者として、芸能人と出会う。

お迎え渋谷くん 1 (マーガレットコミックス)
蜜野 まこと(みつの まこと)
お迎え渋谷くん(おむかえしぶやくん)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

保育園にお迎えにくる若手芸能人!? 愛花(28)・保育士の日常がドキドキの連続に!
青田愛花(28)は6年目の保育士。子どもは好きだけど、最近はちょっとお疲れ気味。彼氏を作ってる暇もない。園児のお迎えにやってきた、妹大好きお兄さんの渋谷大海(21)はなんと今をときめく人気俳優で…。

簡潔完結感想文

  • 再読すると自然と涙が出そうになるぐらい平和な雰囲気と、これからの期待が高まった序盤。
  • お仕事漫画の一面があるかと思いきや職場での成長はなく、恋愛以外の世界観はバッサリ割愛。
  • 不器用でウブな恋愛には相談役が必要。おひとりさま のアラサーの話し相手は地縛霊でも可?

れてしまった物の欠片を一つずつ拾い上げていく作業の 1巻。

本書には2つの予言がある。1つは作者が伏線として張った予言。そしてもう1つは作者が意図しなかった作品に降りかかった予言である。

1つ目の予言は、とあるキャラが初登場した時の何気ない言葉が後々の その人の運命を暗示していた、というもの。これは作者が意図的に配置した予言であろう。再読した時に、おぉ と感心する伏線であった。

ただ、もう一つの予言は、作者が物語をコントロールし切れなかったが故に意味を持った言葉である。それが「あなた いつか壊れますよ」という作中の言葉だ。本書は二度読むのが辛い。予言の通り、本書は後半 壊れてしまったからだ。作画は確実に乱れたし、内容も序盤で私が期待したような物語ではなくなってしまった。前半の展開や雰囲気が好きなら好きなほど辛さが増す。アラサー女性が年下の芸能人と交際する夢物語を読んでいたはずが、なぜか現実の理不尽さを味わうことになる。
思うに性格が「ぼんやり」としたヒーローの背景を「ぼんやり」としか決めてないことが破綻を生んだのではないか。本書は確固たる世界観がなく、描きたい漠然とした設定しか用意していない。それが作者の予想を超えて長くなったのだと思われる連載の中で露呈していき、奥行きの全くない、場当たり的な展開になっていった。構想・想像力不足が原因で、物語は自壊していった。

壊れかけた働く女性を助けてくれるヒーローの渋谷だが、壊れるゆく物語を助けてはくれない。

本書のヒーローは掴み所がない人なのだが、作者が理解し始めた彼の本質は、私が思っているのとは大分 違っていて、ヒーローのダークな部分だけ引き出し始めてしまった。そして残念ながら「掴み所がない」は作品自体にも当てはまる比喩である。作者が一体 どういう構想をもって物語を進めたかったのか、本書の結末は最初から考えていたのかなど、作者の考えは少しも読者には分からない。
保育士のヒロインの お仕事の紹介と成長を深掘りする訳でもないし、ヒーローは大切にしているものを説明もなく あっさり放棄したと思ったら、よく分からないタイミングで もう一度 その話を蒸し返す。全体的に話がブツ切りで構成されていて、世界観が安定しない。そして最後に「いつか壊れますよ」という予言通り、作品自体が壊れ始め、誰も望まないルートを作者は選び、その上 話は まとまらず瓦解していく。
作品的にはハッピーエンドのはずが、満たされないまま終わり、読み返してみると前半が かつて幸せだった日々のように思えてしまう。具体的に言えば、今後 本書を読み返す時が来たとしても、私は『5巻』辺りで引き返してしまうだろう。何度も何かが壊れる音を聞きたくはないから…。


にとって初の「Cocohanaココハナ)」掲載の作品。これまで読者のターゲット年齢が高くなると展開や描写が生々しくなるかと忌避していたが本書に関しては、いわゆる少女漫画と変わらない純粋さを感じることが出来た(中盤まで)。
アラサー女性の願望を詰め込み過ぎている部分も見られ、仕事に疲れた女性が何もしなくても愛されるという ご都合主義を感じる所もあったが、本書のヒロインで保育士の青田 愛花(あおた あいか・28歳)と、若手俳優・渋谷 大海(しぶや たいかい・21歳)の不器用すぎて可愛い恋愛模様は非常に楽しめた。

大人向け雑誌として保育士の お仕事小説の一面もあるのかと思ったが、どんどんと職場の場面は減っていくばかり。もしかしたら これは「愛花の世界」の移行を表しているのかもしれないが、その人の世界をザックリと変化させてしまい、これまでの世界観や生活感、連続性が一気に失われるのは本書の残念なところである。特にヒロインについては もっともっと描き込める背景はあったはずなのに、ヒロインよりも変な所にページを割いてしまっている。戸惑っていれば自体が良い方向に進むばかりで、ヒロインの努力が不足している。これはアラサー女性のための雑誌だから女性は これ以上 頑張らなくていいというメッセージなのか…。

あと気になるのは愛花の胸の大きさ。これも「ココハナ」だからだろうか。他の連載作品も読んでみないと。『1巻』での愛花は保育園での仕事着が多いから気にならないが、巻を追うごとに胸は強調されていく。
これは高校生のヒロインでは見られない胸の大きさである。高校生ヒロインにとって色気たっぷりの大人のライバル女性の表現として描かれるような胸の大きさ。これは高校生ヒロインの漫画だと、リアルな高校生読者がヒロインの胸が大きいと自分と比較してしまい、それだけで共感できないとか劣等感を持つとか そういう理由があるのだろうか。


花は渋谷が妹・音夢(リズム)の送迎を始めた日から彼と遭遇する。何日か気づかないとかでなく、彼らは最短で会い、お互いを認識している。音夢を怪我から愛花が守り、そんな愛花の怪我から渋谷が守る。ヒロインを助けた時点で渋谷はヒーローの資格を持つ。出会った時から彼はヒーローなのだ。

「たかいたかい」をするように助ける体力と筋力がある渋谷。アラサー保育士が年少者に守ってもらう。

渋谷が音夢を送迎するキッカケは、彼らの父が音夢を迎えに来た時、音夢が怪我をしたから。親には任せられないと渋谷は俳優業で多忙の中、自分が送迎することにしたという。
読み返すと、もう この時点で最終巻との整合性が取れていないような気がする。後半の彼らの父は人でなしで、送迎などするような人ではないのだが、前半は割と子煩悩な人間に描かれている。そして渋谷が そんな父親から送迎の役目を代わっているのは、彼が父に向かって意見をしなければ有り得ないことである。そこも矛盾となる。そして これだけ音夢に執着している渋谷が後半で自分の生き方を あっさりと変えるとも思えない。保育士が芸能人に会うという展開に説得力を出すために渋谷にキャラ付けをしたが、その設定と一貫性のない物語が やがて展開されていく。

渋谷は まとう空気が独特。21歳という設定はあるものの、若いと感じることはなく、むしろ老成している。なので愛花は彼との年の差に悩むことは ほぼない。そして渋谷は枯れた老人のようでいて、その中にはウブで傷つきやすい恋愛観を隠しているギャップが読者には胸キュン、または萌えるのである。


事以外は、おひとりさま の愛花の会話の相手は ポンちゃん という近所の中学生。彼は世間や色恋に疎い愛花に助言をするために存在する。当初は地縛霊という設定だったらしいポンちゃん(笑) 血縁のないイケメン(しかも賢い)中学生と会話をするなど愛花と同じ年頃の読者には、これだけで夢のようなシチュエーションだろう。彼女に女友達がいないのは、アラサーともなると友達と人生の歩みが差異が出始め、話が合わないという現実的な側面があるから。だが彼女に厳しいことを言うような人が一人もいない世界は、ヒロインから努力をする義務を奪い、イケメンだらけに囲まれる乙女ゲームのような世界観を構築してしまった。

愛花は、空気を読み過ぎる性格もあり職場の雑用を一手に引き受けてしまう。その無理を渋谷は見抜いて、彼女を気遣う言葉をくれる。無理がたたった愛花は倒れ、渋谷に お姫さまだっこをしてもらう(本人は自覚なし)のもココハナ読者の心を射抜くシーンだろう。
そうして単なる園児の保護者として渋谷と交流をし、彼と心が通じてから、愛花は渋谷が若手の人気俳優だということを知る。人気俳優だから近づいたりトキめいたのではなく、渋谷という人の人格に触れて、心の重荷が軽くなってから、彼の職業を知っただけ。そこにミーハーな心は一切ない。


2話の渋谷の事務所の先輩・神田(かんだ)の初登場シーンは、渋谷とのドラマの撮影場面となる。この時の渋谷の台詞は、完読すると考えさせられるものがある。初登場の時から この後の神田の役割は決まっていたのだろう。
そして この回で渋谷のマネージャーの品川(しながわ)も登場し、ほぼ主要キャラは揃う。渋谷の所属事務所、池田(いけだ)プロの所属タレントや社員は山手線縛りなのだろうか。

初登場は完全に嫌がらせをするキャラの神田。ここからの彼の壊れっぷりは面白いのだけど…。

愛花が風邪から回復し、職場に復帰した その日は保護者が集まる保育参観の日であった。人形劇を任された愛花だが、風邪なのか保護者の前という緊張からか渋谷からの無言のプレッシャーなのか突然 声が出なくなり、それを渋谷が助けてくれる。またも愛花は渋谷に助けられ、彼の言葉が感情に訴えかけることに気づく。そうして愛花の心は動き出すのだが、渋谷が保育園に通う子の保護者だからという理由だけで自分の気持ちを考えない。


谷のメルヘンな母(21歳の長男を持つ39歳)は、夫のことが大好きだが、当の夫は会社の若いオンナと浮気を繰り返すばかり。そのせいで母はメンヘラへと成り果てる。母は働いている様子も子育てをしている様子も一切ない。人の妻にはなれるが、人の親にはなれないタイプの人間かもしれない。この時点で母を好きになれない。

そんな母から重大な情報が発せられる。それは渋谷は一度も彼女が出来たことがないということ。初恋もまだの人間だが、演技の中なら何でも出来るらしい。
母は そんな渋谷に青春をまっとうしてほしいと思っている。音夢の送迎も助かってはいるが、渋谷がやるべきことではないという思いもある。その一方で送迎は自分の責務だ、と言わないところが彼女のズルい所である。

大きな仕事を断り、そこに何の執着もない渋谷の境遇に嫉妬する先輩俳優・神田は、彼が仕事を縫ってまで送迎する保育園に彼の弱みがあると考え、同行する。そうして分かりやすい反応をする渋谷の大事な人が愛花だと直感するのであった。
ただ この直前に、渋谷が愛花に胸キュンしているとはいえ、渋谷が送迎するのは妹を何よりも大事にしているからである。間違った推理に間違った結論、そして間違いを正さないまま進む物語に あれっ と不信感を持つ。序盤から話の整合性や進め方が少し壊れているのだ。


田が愛花にちょっかいを出すことに無意識に身体が動いた渋谷は、マネージャーとの会話でそれが恋だということを知る。
その日以降、彼はキャラを作って送迎をする。そうやって他人を演じてないと自我を保っていられないから。そんな自分の不自然な行動に悩む渋谷は、マネージャーに恋がバレてしまう。こうして なし崩し的に本来タレントを恋愛から遠ざけるマネージャーは渋谷の良き相談相手になる。同時期に愛花も渋谷に胸を撃ち抜かれる。それは愛花の相談役のポンちゃんに筒抜け。身持ちが固く、不器用な2人は、それぞれ恋のアドバイザーがいないと次に何をするべきかも分からないからであろう。

そこから愛を知らなかった渋谷は周囲の人間を観察し、愛を知ろうとする。そして保育園児の妹から好きな人への行動を学び、愛花に花をプレゼントするのであった(住んでる実家に咲いてたヤツ)。
早くも両片想い状態の2人。保護者と先生という関係も それほどの障害とは思えない。障害があるとすれば、自分たちでは何も動けない2人の性格だろう。