宮城 理子(みやぎ りこ)
花になれっ!(はなになれっ!)
第07巻評価:★☆(3点)
総合評価:★☆(3点)
南の島にやってきたもも達。蘭丸との初めての旅行にドキドキのももだったが、二人で乗った飛行機が墜落! ももは一人、海に流されてしまう…。無人島に打ち上げられたももは、一匹のサルと、金髪の美少年に出会って…!?
簡潔完結感想文
- 長期連載の弊害「するする詐欺」横行中。彼らを阻むのは連載終了を避けたい作者。
- 飛行機墜落(2回目)動物の毒(2回目)と既視感しかない『7巻』唯一の新キャラの話。
- 15人以上いる既出のイケメンから上位の者だけが再登場できる、イケメン戦国時代。
もはやヒーローは浮気した嫁を回収する係でしかない 7巻(文庫版)。
再放送と再登場が多かったように思う『7巻』。
相変わらずエロラブコメは続くが、もう物語に核となるものが何もないのが辛い。以前も書いたが、こういう停滞の中に「花人(はなびと)」に関する謎や伏線を忍ばせていけたら、物語の結末に向かって もう ひと盛り上がり見所を用意できたであろう。だが本書は既に花ざかりを過ぎている。よい香りが漂う時期は終わり、花は下を向き、水は濁り始めている。
ただし ここまで連載が長期化すると人気のキャラだけで話が作れることが強みとなる。特にイケメン博覧会ともいえる本書では連載中に人気投票をしたりして、読者に誰が人気なのか分かりやすいのだろう。今回は読者に特に人気の高いであろう初期の登場人物、花音(かのん)と花神(かがみ)が再登場して、一方は ヒロイン・もも にフラれることが決定的になり、もう一方はセクハラをしないことで彼女からの好感度が高まるという訳の分からない展開を見せていた。
冒頭にも書いた通り、本来のヒーロー・蘭丸(らんまる)は尻軽ヒロイン・もも を物語の最後に回収するという立場でしかなく、そんな蘭丸よりも強く継続的に もも を想って毎日 努力している花音や花神の方が よく見えてしまうのも仕方ないか。メインのカップルが学校にも行かず ただ毎日 享楽的に過ごしているように見えてしまうのが本書の悪い所だろう。もはや何も考えずに読めるのは本書の良い所かもしれないが、何も考えないということは読者の心に何も残らないということでもあろう。
そしてヒロイン・もも が イケメンたちから愛されるのではなく、セクハラを受けるだけになっているのも問題だ。ページ数を抑制するため、イケメンと知り合い彼らが もも を好きになるエピソードを飛ばすから、ヒロインが彼らとキスをしまくるだけの作品に成り果てた。ヒロインのピンチを新キャラ(既存キャラ)が助けると、ヒロインは心を許し、イケメンたちは彼女への肉体的接触に必死になるだけ。こうなるとヒロイン救出がセクハラの権利を生むかのようである。まるで男性側の「助けたんだから このぐらい いいだろ」という獣の声が聞こえてくるようで不快である。どうして少女漫画が女性たちを傷つけるような描写を売りにするのかが本当に謎である。また逆に、イケメンになら なにをされてもいいという女性の心の声にも聞こえ、それもまた不快である。
『7巻』終了時点。
イケメン枠:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ・アラジン・蜂巣・藤宮・若葉(過去編)・店長・タクロー・白羽・黒羽・晴山・花形・ターザン(計18人 前巻比+1)
キス:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ・アラジン・藤宮・タクロー・黒羽・花形・ターザン(計13人 前巻比+1)
裸を見られる:矢野・花音・花神・藤宮・花形・ターザン(計6人 前巻比+2)
男性からの愛撫:梅吉・花神・蘭丸・春日部・プラチナ・アラブの偉い王様・藤宮・タクロー・蜂巣・黒羽・晴山・ターザン・花音(計13人 前巻比+2)
医師・花形(はながた)からセクハラをされ、危うく貞操の危機の直前に蘭丸に助けられ、蘭丸と一線を越えようとする直前に邪魔が入る、という いつものパターンで夜の病院編は アッサリと終わる。
ある日、商店街の福引で南の島ツアーが当たった もも。招待券は1人分だが蘭丸が実費を出すことで2人で旅行に行こうと計画するのだが…。そういえば、このような商店街の福引で旅行を当てる展開は、よく見られたパターンだが、商店街の衰退とともに少女漫画の中からも姿を消しましたね。金銭的余裕がない高校生たちが旅行に行くには良い理由になるんでしょうが。
ちなみに学校の出席日数がギリギリで留年 瀬戸際の もも は学校を休む訳にはいかないのだが、いつもとは逆でイトコの花音が もも の代役になることで留年を回避している。男と遊ぶために代役を立てる。何かもうヒロインとして間違っている。そして こうやって男に借りを作ると、色々と面倒になるのが本書の通例である。
だが南の島には話を聞いた友人たちが先回りしていて、2人で過ごす事は出来ない。最終日に2人で抜け出して無人島ツアーに参加するが小型飛行機が墜落。もも は1人で島に流される。蘭丸が乗る飛行機が墜落するのは2度目である。
もも が目を覚ましたのは、男性が1人で住む島だった。彼から逃げようと崖から落ちる所を助けられる。男性が もも を助けると、その男性はセクハラの権利を得るのが本書。
これまでと違って、イケメンと言語が通じないのが今回の特徴か。心の中で もも は彼をターザンと呼称する。
互いに警戒心もあって つかず離れずの距離を保つ2人だが、もも が蛇に咬まれ毒が身体に回るところをターザンが助ける。久々の もも への毒物ですね。ただ『3巻』のサソリの毒と内容が同じ。
蘭丸は独力で もも のいる島へ泳ぎ着く。読者的にはヒーローが一途にヒロインを助けてくれれば、ヒロインの軽率すぎる行動はどうでも いいのだろうか。
やがて もも を見つけ出した蘭丸だが、もも の身体に毒が回り、永遠の別れの場面になる…。その寸前で事態は急転直下。ターザンの意外な正体など予想外の展開で この話は幕を閉じる。
自分の代わりに学校に行ってもらった花音に借りを作ったことで、花音のターンになる。
花音が提案するのは2人きりでのデート。もも を留年の危機から救った花音にはセクハラの権利が生まれたらしく、ジェットコースターで「あんなこと」をして楽しむ。花音には こういうサディスティックな行動は似合わないなぁ…。
やがて花音は このデートのために芸能界の仕事を無理をしてきたために過労で眠ってしまう。もも は花音が明日の仕事のために予約していたホテルに彼を連れて行き介抱する。
芸能界にいるのは父親を見つけるため、という花音は既に父・春日部と一緒に暮らしている。それでも今も芸能界の仕事を精力的にこなすのは、もも に振り向いてもらうためだった。蘭丸に負けない自分になるために自分の出来ることをこなす、それが花音の もも への愛の証明だった。
今回も男と一緒にいる尻軽婚約者を蘭丸が救出して騒動は収まる。もも が最後に蘭丸くんが一番といえば、嘘をついてもセクハラされてもキスされても ちょっと心が動いても許されるという女性に甘い展開が読者に喜ばれるのだろうか…。
そうして一騒動終わって「するする詐欺」が始まる。単行本が10巻以上 続くような作品においては、こういう匂わせは90%以上の確率で空振りに終わる。
古参キャラの花音の個人回の次は、同じく古参の花神(かがみ)が再登場し、彼のターンとなる。
勝手に自分の代わりに100万円を肩代わりした花神への借りが許せず、もも は花神に お金を返そうとする。そこで花神の異父妹・すみれ が提案するのは、この屋敷でのメイドとして雇用することだった。メイドの二重バイト。女性は男性に仕えるという時代錯誤を感じる。
1週間100万円という破格のバイト料だが、それは花神に近づくと言うことでもあった。内緒で花音と出掛けた前回の反省を踏まえ、今回は、もも は事前に蘭丸にも話を通している。もも の窮状を知った彼もまた金策へ走る。蘭丸がするのは女性とのデートで、それが2人の間に亀裂を生むのは火を見るより明らかなのだが…。
もも は花神邸の図書室で花の香りがする本を見つける。その本を取り出そうとした際に地震が起こり、傍にいた花神ともども本の雪崩に巻き込まれる。だが花神は もも を庇ったせいで怪我をする。図書室の隠し部屋での事故のため、彼らを誰かが見つける可能性は低い。そこで彼女は「純系花人(もはや忘れられた設定)」の力を使って彼の怪我を癒していく…。
ヒロインのピンチを察知するのはヒーローの蘭丸、そして鼻の利く飼い犬・パンジー。蘭丸に救出されたが、もも は花神の様子が気になり、この屋敷に留まる。
もも を助けたことで、花神はセクハラの権利を得たが、体調も万全じゃないからか、彼はその権利を行使しない。それがかえって もも に好印象を与え、彼女の花神への好感度が上がる。ライバルの中では1位だろうか(花音はセクハラしちゃったし)。
迫りくる12月24日を前に もも と蘭丸は それぞれ焦っていた。もも は お金がない中で蘭丸に編む手編みのマフラーが完成するかどうかに、そして蘭丸は24日までに耳を揃えて100万円用意しないと もも が花神の毒牙に引っ掛かると思っているから。だが花神の怪我でパーティーは中止になり、もも は仕事を全うすることで借金と借りを全て返済する。
そうして迎えた2人でのクリスマスも案の定「するする詐欺」に終わったのであった…。