宮城 理子(みやぎ りこ)
花になれっ!(はなになれっ!)
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★☆(3点)
アラブのサルビアに、砂漠のハーレムへ連れ去られてしまったもも。危険がいっぱいのハーレムでももを守ってくれるのは、アラジンというナゾ多き男――彼の正体は一体!? 一方、ももを追うために乗った飛行機がハイジャックされてしまった蘭丸は…!?
簡潔完結感想文
- 三大名花編終了。彼らが一堂に会する豪華な話も読んでみたかったけど叶わないまま。
- 新キャラ イケメン枠が落ち着き、女性枠が続く。プロポーズも終わって、本編終了。
- 花人が「花ざかり」な男装して芸能界で「とりかえばや」。真のイケメンは男装もも⁉
遠くの三大名花より、近くの花人と一般市民、の 3巻(文庫版)。
『3巻』ではイケメン枠の新キャラが ガクンと減る。下記の通り、たった2人である。
『3巻』終了時点。
イケメン枠:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ・アラジン・蜂巣(計9人 前巻比+2)
キス:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ・アラジン(計8人 前巻比+1)
裸を見られる:矢野・花音・花神(計3人 前巻比+1)
男性からの愛撫:梅吉・花神・蘭丸・春日部・プラチナ・アラブの偉い王様(計6人 前巻比+1)
ただし『3巻』では女性の新キャラが2人連続で加わり、その後 ヒロイン・もも の友人枠に収まる。イケメンの登場ばかりを繰り返してきた本書においては新展開である。
このように登場人物が増えていくのは本書は白泉社系の漫画の展開に似ている。『3巻』の世界を飛び回る感じや 夏休み回は、一般人と違う「花人(はなびと)」という特殊な身分の者たちの一風変わった青春と言えなくもない。
そして『3巻』からは登場回数が複数用意される者と されない者の格差を感じた。使い勝手のいいイケメンが選別されていく感じである。特に芸能人である花音(かのん)は重宝されている気がする。逆に登場回数が少なく、もはや花人とも思えない一般人のような扱いが、花音の父・春日部(かすかべ)である。血縁が近すぎて もも と結婚できないこともあり保護者扱い。以外にも梅吉(うめきち・一般人だよね?)はヒーロー・蘭丸(らんまる)の幼なじみで お調子者ということから登場する回数が多い。
作中では「三大名花(さんだいめいか)」と特別扱いされる3人のイケメンの内2人は、海外在住ということもあり、その地位の割に作品には優遇されない。というか三大名花という制度の役目が ほぼ1回きりなのが残念。巨大悪が出現して、三大名花が もも を守るために その花を散らしていく、というような大仰な展開など、三大名花ならではの展開も読んでみたかった。
そして『3巻』で本編は終わりと言えよう。
蘭丸が もも にプロポーズし、彼女も それを受諾。結婚後、彼らが身体を重ねれば、世界が注目する もも の困った特殊能力も消失する。交際の障害を乗り越え、婚約まで果たした2人には これ以上のゴールは見当たらない。これ以降は早くもウィニングラン、いや厳しい言葉で言えば蛇足なのである。そして本書は蛇の足が長い。まだ本書の1/3。作品の蜜に読者が群がる限り、編集部は作品を続けさせるのだろう。
あと気になるのは薬物や毒の多用。睡眠薬に媚薬、サソリの毒、記憶を消すに毒など毎回といっていいほどヒロインに盛られている。こんなに薬を盛られたら、耐性が出来て効かなくなるか、体調に影響が出そうだ。ましてやヒロインは世にも珍しい「純系花人」。農薬にまみれて育った植物のようになってしまわないか心配である。
そして読者は早くも似たような展開に耐性が付き、面白さを感じにくくなっている。
舞台はイギリスからアラブの砂漠へ。
アラブの三大名花に拉致された もも は脱出を試みて砂漠を歩く。やがて限界を迎えた彼女のピンチを救うのが新イケメンのアラジン。助けられたが もも はハーレム送りとなり、現国王に媚薬を飲まされ身体を まさぐられる。
そんなピンチを助けるのは またもアラジン。けれど貞操の危機は乗り越えたが、ハーレムに送り返されただけ。翌朝も女性たちからの嫌がらせと、国王のセクハラを受ける。またもアラジンの機転によって危機を回避したが、もも は蘭丸の乗った飛行機が墜落したことを知る。
落ち込む もも に対し、アラジンは その男は運命に負けた。自分なら生きのびると宣言し、全身から花の香りを放つ。このアラジンこそ、三大名花の最後の一人だったのだ!!
最初は親切にされて もも が心を許すと つけこまれる。いつものパターンです。
もも は、アラジンもまた、蘭丸とは違い女を力ずくで自由にする最低な男、という結論を出す。その強い決心にアラジンも本気を出し、今度は毒をもって もも の自由を奪う。世の中には便利な毒があるものだ。
蘭丸の乗った飛行機は砂漠に軟着陸。蘭丸は一早く飛行機を降り、砂漠を歩き もも がいると思っているロンドンを目指す。その道行きで出会った商人の一行の車で、蘭丸はアラブの王子が「もも」という日本人と結婚する話を聞き、目的地を変更する。
薬物で正常な判断能力を奪われた もも はアラジンとの結婚式に出席する。式の最中、キスの直前で蘭丸が登場。ピンチを救ってくれたヒーロー風の新キャラは やがて悪役になり、真のヒーロー・蘭丸が助けてくれるという通常運転。
薬で記憶を消されても、真の愛は消えなかった、という話である。その後、蘭丸と脱出を試みても、やがて捕まるのは『2巻』の花神(かがみ)の話と同じ展開。ただ違うのは、蘭丸を徹底的に排除して、どんな手を使っても もも を我がものにしようとする強欲さ。日本人は情け深くて、外国人は冷酷、というのは日本人びいきを感じてしまう。
もも は身も心もアラジンに許すふりをして隙を見て彼の短刀を抜く。アラジンに対しては1回も流されず、最後まで心を許していないのが これまでの違いで もも の強さを感じる。三大名花の中では彼が一番 最低で最弱か。
もも たちを助けに来たのは三大名花であるプラチナ。花神も もも と蘭丸の無事を確かめ、これにて三大名花編は終了。いつか一堂に会して、もう一度 求婚するという母の代と同じ展開も見てみたかった。三大名花が一気に登場すると場面が華やぐと思うのに。
もも の母親への執着も和らぎ、物語から母親の話題はしばらく遠ざかる。
日本に戻り夏休み回。
もも は学校の図書室で、山田(やまだ)すみれ に出会う。眼鏡をかけ、開花するまえの もも によく似た彼女が返却しようとしていた本は、自分の先祖で純系花人のフローラの物語だった。
同じ図書委員の咲間(さくま)先輩に誘われ、彼女の別荘へ行くと、近くに別荘を持つ すみれ と再会した。
すみれ の別荘からの帰り道、蘭丸は海辺で もも にプロポーズする。もも も それに涙で答え、うん、良い最終回だった。蘭丸は身体の関係は結婚後にという考えらしいが、もも が結婚を承諾したなら、その日も近い。そして純系花人は男を知ると その特殊な蜜だか何だかは失われる。つまり三大名花をはじめ、もも を利用する者はいなくなる。花音など もも を純粋に好きな人たちも結婚となれば退却するだろう。これにて全ての問題解決。もう少女漫画として やることはない。
その後、蘭丸が婚約指輪を もも にあげようとするが、もも はピアスにしてと変更を要請。蘭丸がピアスを買った場面はあった気がするが、それを渡した場面ってあったっけ!? 話に一区切りがついてからは、もう何もかもが中途半端である。
こうして良い最終回を迎えたので、ここからは地獄のような蛇足の始まりです!!
プロポーズを受け 幸せの絶頂にいる もも だったが、翌日 すみれ に会いに行くと、彼女は もも そっくりの髪型・服装をして待ち構えていた。一度 心を開いた相手に手のひらを返されるのは、新キャラが男女であっても同じのようです。
更に、またもや飲み物に薬物を仕込まれ、彼女は倒れる。そして すみれ は もも特有の「香り」を調合した香水を使い、もも に成り代わる。暗がりで梅吉を誘惑し、彼に もも のカラダを好きにさせようと、夜に もも の部屋に来るように誘導する。
そして すみれ は もも に蘭丸と咲間先輩が抱き合ってキスしていたと嘘をついて動揺させる。蘭丸がプロポーズの翌日で そんなことをすると信じる間抜けなヒロインである。少女漫画では全ては悪役の計画通りに事は進む。この嘘は、その夜に もも が部屋にいなかったり、蘭丸といることを阻止するための すみれ の嘘なのだろう。
蘭丸を信じられず一人で落ち込む もも の部屋を訪れるのは、鼻息の荒い梅吉だった…。
このピンチは蘭丸の飼い犬・パンジーによって事なきを得るが、屋敷内の互いへの疑心暗鬼が広がっていく。やがて殺人事件が起きても不思議ではない。プロポーズ翌日から仲違いの始まり。もう そういうの いいんで…。
だが この謎の探偵役になる もも は、梅吉の誘ってきた「もも」の胸の大きさが違うというヒントから、犯人を導き出した!
しかし既に蘭丸は すみれ に薬物で眠らされ、その身体を奪われようとしていた。このように女性側が積極的に男性を求めるシーンは本書では初ですね(咲間もキスをせがんだりしていたが)。
探偵・もも に全てを見破られた すみれ は崖へと走る。いよいよ2時間サスペンスである。
そこで告白するのは自分の生い立ちと正体。結論から言うと、すみれ の本当の名前は花神 菫(かがみ すみれ)。あの花神家の者だった。花神の先代当主は、いつまでも もも の母が忘れられず、そのことに絶望した妻が浮気をしまくった末に生まれたのが菫だという。「浮気をしまくった」という文章で同情の余地が失われる気がするが…。
生い立ちを告白している内に感情が高ぶった菫は、もも を崖下に落とす。そのピンチを救うのは やはりヒーロー・蘭丸。崖下で2人の すれ違いは、あっという間に解消。本当に読者には展開への耐性が付き、すれ違い も仲直りにも何とも思わなくなってきている。
自分を庇い蘭丸は怪我をしてしまったが もも は すみれ に対して寛容さを見せ、ヒロインらしさを発揮する。女性同士は戦わないのです。そうして友情を育んだ すみれ は花の香りを発する。さすが花神家の者。そして彼女の動機こそ、異父兄にあたる兄・百合矢(ゆりや)が もも にばかり熱中するからという嫉妬からだった。
同性ライバルと言うこともあり、もも が自分で問題を解決するのが、イケメン枠の流されるばかりの展開が続いた後には新鮮に映る。自分の姉に本気で恋心を抱いていた春日部といい すみれ といい、本書における姉弟・兄妹間に流れる情は非常に濃いものがある。
続いても新キャラに女性が登場する。
映画初出演を果たす従兄弟の花音の制作発表を見に来た もも。そこで出会うのが森(もり)あげは。有名歌舞伎俳優の娘で、高慢な態度を取る女性であった。
だが花音が倒れてしまう。盲腸だと診断されるが、1か月の入院で、撮影に支障が出るという。そこで もも が花音の代役になることから今回の騒動は始まる。もも の身の安全を心配する蘭丸はマネージャーとして同伴するのだが…。
男装して、芸能界に入るという「花ざかりな」別の漫画が始まりそうな展開ですね。
あげは の他に登場するのが久々の男性新キャラはイケメン俳優・蜂巣 五郎(はちす ごろう)。この映画の主役で抱かれたい男3年連続No.1という設定。
彼の名前が「蜂」なのは、非・花人でありながら、もも の蜜を求めるからだろうか。そういえば本書の あやふやな設定では花人と非・花人が結ばれたり子供を設けることは出来るのだろうか。そういうパターンも読んでみたかったし、そこを描けば世界が広がった気がする。
花音(もも)のホテルの部屋は蜂巣と同室。が、やがて彼は もも の香りに惑わされ、花音が男であろうと女であろうと近づく。ただでさえ男装がバレないようにしなければならない上に、セクハラに耐えなければならなくなった。
蜂巣と同様に、森「あげは」もまた蜜を求める者だろう。
最初は花音(もも)にキツイ態度を取っていたが、もも が彼女の怪我を直し、香りを漂わせたことで花音への距離を一気に縮めた。男装の もも は男前で、それに女性たちがキュンとなるのも分かる。この話ではカツラやお酒、もも の人格を変える道具が出てくる。
だが あげは に蘭丸とキスをしてる場面を見られ、花音(もも)たちはピンチに。
そして蜂巣もまた花音の禁断の関係をキス現場を見たマネージャーから知らされ花音の痴態を妄想する。この場面から、どうやら掲載誌では女性の乳首はNGらしいが、少年の乳首はOKということが分かる。
あげは には告白され、演技中にキスをされ、そして酔った蜂巣にお酒を飲まさせられ、花音は自ら服を脱いでいくのだが…。