《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

そろそろヒロインに最後の一花を咲かせる準備なのか、エロや浮気描写が封印され 見所なし。

花になれっ! 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
宮城 理子(みやぎ りこ)
花になれっ!(はなになれっ!)
第08巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★☆(3点)
 

世間で注目を浴びる話題のイケメンサッカー選手・鈴白紅葉はももの幼なじみだった! 再会をした二人の親密な雰囲気に、心中フクザツな蘭丸。そしてついに、それが原因でももと蘭丸はケンカになってしまい…!?

簡潔完結感想文

  • 少女漫画の定番、幼なじみとの恋愛成就も振り切って、蘭丸との愛はフォーエヴァー。
  • 交換留学という手段を使いイギリスに転校。心機一転、作風もミステリ風になるが…。
  • 作者に魅力的な謎、周到な伏線など用意できる訳もなく、全てが中途半端に終わる留学。

引にキスをされるような展開がなければ それはそれで物足りない 8巻(文庫版)。

まずは この集計を見て頂きたい。

『8巻』終了時点。
イケメン枠:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ・アラジン・蜂巣・藤宮・若葉(過去編)・店長・タクロー・白羽・黒羽・晴山・花形・ターザン・紅葉・ジンジャー・ロビン・ルードヴィッヒ(計22人 前巻比+4)
キス:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ・アラジン・藤宮・タクロー・黒羽・花形・ターザン・ルードヴィッヒ(計14人 前巻比+1)
裸を見られる:矢野・花音・花神・藤宮・花形・ターザン(計6人 前巻比+0)
男性からの愛撫:梅吉・花神・蘭丸・春日部・プラチナ・アラブの偉い王様・藤宮・タクロー・蜂巣・黒羽・晴山・ターザン・花音(計13人 前巻比+0)

この『8巻』でイケメン枠は4人も増えたのに、キスをしたのは1人だけ、それも外国人による挨拶程度のキス1回のみ。エロシーンは「触手」によるものがあったが、男性から身体を触られることは無かった(まさか少女漫画で触手を目にするとは…、とは思ったけど)。これまで出会ってすぐキス、間もなく豹変して性的暴行を行ってきた本書に異変が起きている。

何といってもエロ、そして浮気封印である。男性が草食化したのだろうか。これは編集部側が世間の苦情に屈して作風をマイルドにしたのかもしれない。その内情は私には分からないが、作品的には物語を畳む準備を始めているのだろうか、と考える。つまり これまで通り、いつまでもヒロイン・もも が出会ったばかりのイケメンに心を奪われていては、蘭丸(らんまる)との恋愛が輝かない。だから この辺りから、もも が蘭丸一筋になるように 彼女が貞操観念と揺るぎない心を持つように設計し始めたのでは、と予想する(完全に遅きに失しているし、この次の話でも過激なセクハラは続くのだが…)。

何度も言う通り、少女漫画のエロ描写は少年誌・男性誌のそれと酷似。どちらも女性が受け身だからか?

語を畳む準備だと思われるのが『7巻』に続いて古参キャラの再登場。どうやら『3巻』ぐらいまでに登場したキャラは再活用するらしい。今回は地位だけは高いが作品的には不遇の「三大名花(さんだいめいか)」が揃って登場。彼らが再登場することは私も望んでいたが、私が望んだような活躍はしてくれなかった。本当に再登場させただけで、彼らが これ以上 作品内で活躍することは無いということがハッキリと分かる扱いだった。かつて三大名花の1人・花神(かがみ)と蘭丸が対決したように、総勢4人での最後のバトルを期待したのに、その役目は別のキャラが担うことになってしまう。

長かった、長すぎたかもしれない本書も いよいよ文庫版『9巻』でラスト。もはや作品としての瑞々しさを失い、香りを発さないドライフラワーのような本書の結末を見届ける人は、人気ピーク時の1/10ぐらいか。その人たちは相当 根気強い人だと思われる。


涛の1年が終わり、蘭丸たちと年を越す もも。
年明けと言えば高校サッカーの季節で、今回の大会では高校1年生にして全日本メンバー入りも視野に入れる鈴白 紅葉(すずしろ もみじ)に注目が集まる。
彼が もも の幼なじみで、紅葉は もも を長年想っていたことが発覚し、マスコミの取材対象になることから2人の交流が始まる。憧れの幼なじみとの恋愛に加えて、メディアの話題になるという特別感が読者の自己承認欲求を満たしていく。

いつものように些細なことで喧嘩をして蘭丸との距離が出来、もも は紅葉に近づく。今回は蘭丸が咲間(さくま)先輩(女性)を優先しようとしたことに もも が怒るのだが、自分も紅葉と行動しようと蘭丸の意思を無視することに もも は気づいていない。

紅葉は もも の香りに惑わされることなく、純粋に幼い頃の想いを持ち続けているということが これまでのイケメンたちと違う点だろう。彼は しっかりと もも に告白するし、性欲に支配されたりしない。だから強引なキスも もも が快感を覚える愛撫もしない。

2人のイケメン(蘭丸と紅葉)が自分を巡って口論をする夢の展開だが、今回は女子マネージャー・斉藤(さいとう)さんがいることで話が こんがらがる前に収束する。彼女は同性として もも の欠点も指摘してくれる ありがたい存在。こういう人が もも の周囲に居れば もも の幼稚な行動も見なくて済むのに…。すみれ や あげは に その役割を期待した時期もありましたが、彼女たちも もも を溺愛する側の人間で、厳しくなくなってしまった。

斉藤さんのお陰もあって もも は蘭丸に謝罪し、蘭丸の方も歩み寄りをすることで もも の紅葉への想いは再燃することなく終わる。
そこからマネージャー・斉藤さんのアメリカ行きが急遽 発表され、いつの間にか もも が紅葉と斉藤さんの恋のキューピッドとなる話へと移行する。紅葉編は純愛で始まり、純愛で終わった。いつもの展開に辟易していたが、これはこれで作品の牙を抜かれたようで味気ない。


いては もも が すみれ とイギリスに交換留学する話。遠距離は すれ違いを生む格好の装置である。

このイギリス留学編では作風が これまでと少し違いミステリ風味になる。謎は、学校に現れる自殺した女生徒の霊にまつわるもの。湖に入水したという彼女たちの死体は上がらない。校内には3人の猟奇的な雰囲気がする男性がいて、誰が この騒動に関わっているかを探し当てるイギリスミステリとなる。「セキュリティーが完ぺき」なクローズドサークルの中での事件となるが、これと真相の一部(女生徒の失踪理由)が矛盾していることが気になって仕方ない。

留学は成長の良い機会のはずだが、探偵ごっこに興じるだけ。ホント 成長しないヒロインだ。

留学編では一気にイケメンが3人増えるが、全員に既視感があり、誰かに似ているように見える。が、誰に似てようが物語の進行には関係がなく、もはやイケメンという記号でしかない。
主任神父のルードヴィッヒは蘭丸にそっくり。コック長のジンジャーは花神とかイケメンの平均的な顔で特徴がない。庭師・ロビンは耽美な少年・花音(かのん)を萩尾望都先生風(?)にした印象を受ける。
そして この3人が、それぞれイギリスJKの肉体を素材として欲している雰囲気を持っていて、もも もまた危ない目に遭う。

主任神父のルードヴィッヒは、幽霊騒ぎで昏倒した もも を介抱し、彼女の良き相談役になっている。コック長・ジンジャーに意識を奪うキノコを食べさせられて、もも は「女体盛り イギリスVer.」をしてくるし、庭師・ロビンが管理する温室の中では触手に身体を まさぐられるなどピンチだけは続くが、これまでに比べれば被害は大したことない。イギリス人はジェントルマンなのか。いや、誰もが自分の特殊な性癖の方を優先して、あまり もも という個体に興味がないと言えよう。

順に生徒の失踪と無関係なことが分かり、容疑者が絞られてきたところで、あっけなく種明かし。まぁ本書で論理的な推理や意外な真相が明らかになるとは思ってませんが…。これまでとは違うことをしようという意気込みと雰囲気だけは感じられたので その変化があるだけ いつもよりは楽しめる。

そして すみれ の気まぐれで始まった留学は、気まぐれで終わる。蘭丸が もも を迎えに来るのも いつものパターン。ルードヴィッヒと蘭丸が瓜二つなことの説明や、渡しそびれたピアスの件を放置したままイギリス留学編は終了。そういえば蘭丸が購入済みの もも のピアスも どうなるやら。


ストは三大名花が揃って再登場。天才のプラチナが ホレ薬を開発することから騒動が始まるのだが、BLネタ感が強くて、彼らの地位に見合わない。三大名花には、こういう小ネタじゃなくて、もう一度 真剣に もも への最後のアプローチをして欲しかったなぁ。
プラチナは変人枠だし、アラジンは登場回数にも恵まれないまま終わった。まさにイケメンの無駄遣いである。