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少女漫画と小説の感想ブログです

親の七光りのせいで思い通りにならない高校生活と、少女漫画だから思い通りになる恋愛。

永田町ストロベリィ 1 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
酒井 まゆ(さかい まゆ)
永田町ストロベリィ(ながたちょう )
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

妃芽の父親は総理大臣。そのため中学はイヤな思いをしてきたので、高校はその事実を隠して入学。新しい友達や彼氏を作って、楽しい毎日が待っていたはずだったが…。

簡潔完結感想文

  • 時事少女漫画。現実の総理は息子が注目されたが、本書では総理の娘がヒロイン。
  • 10代~50代(推定)まで同じ顔をした男性キャラが続々と登場するイケメン博物館。
  • 影のあるヒーロー、1話ギリギリでのキス、謎のマスコットなど「りぼん」節 全開。

校生活は入学4日で破綻するけど、入学数日で男女交際を開始する急転直下の 1巻。

本書の目まぐるしい展開や、イケメンを続々と投入していく手法は「りぼん」漫画としては正解なのだろうけど、私は あまり楽しめなかった。
作者の次々作『ロッキン★ヘブン』が予想以上に考えられた作品だったので、作者初の長期連載となった本書にも作品作りの上手さが垣間見られたら良いなと期待したが、本書はそれほど考えられて作られた作品ではなかった。
そうなってしまった理由の1つは序盤での読者から好評価が連載を継続させたと思われる点だろう。明らかに全5巻の中盤、3巻あたりで、描くことがなくなったのに、どうにか連載を続けさせようとする延命措置の努力が見える。
イケメンの投入は方法としては間違っていないだろうが、画力の問題もあって同じような顔の、同じような心の闇をヒロインが照らす、という展開が似すぎてしまったか。

この訳ありの男性側の心の闇の解決は『ロッキン★ヘブン』でも見られ、当時の「りぼん」での流行だったのだろう。
また、Wikipediaで作者が小花美穂さん のアシスタントをしていたという情報を見たこともあって、本書に小花さんの『こどものおもちゃ』の影響を強く感じた。1998年まで連載された大ヒット作の影響は、本書の連載が始まった2003年以降にも色濃く残っているようだ。
ヒーローの闇の他にも、特殊な設定のヒロイン、そして彼女の後見人のような年上の男性というのも『こどものおもちゃ』との共通点だろう。

そして時期的なものでいえば小泉純一郎氏が総理大臣を務めていた時期の連載でもある。比較的若い(若々しく見えた)総理の在任中だったからこそ生まれた作品だろう。

中学3年生の夏、総理の娘となったヒロイン・一ノ瀬 妃芽(いちのせ ひめ)が、自分と父との関係を知らない新天地を目指し、片道2時間弱かかる高校に入学するところから物語は始まる。遠い高校への入学は、妃芽自身が一から人間関係を構築するということでもあった…。


芽が目指すは普通の青春。
自分を からかったり、遠巻きに見たりしない友達を作り、普通の高校生活を送ることが妃芽の目標。そこには普通の高校生がするような恋への憧れも含まれていた。

そんな妃芽が最初に出会うのは、後に同じクラスであることが判明する桐原 夏野(きりはら なつの)。一目見ただけで目を奪われるような外見をしている彼だが、彼が女性と金銭的なやりとりをしている場面を目撃してしまう。彼は守銭奴でお金に汚い。ホストのように料金体系があって、その金額を払えば女性に対してサービスをするという人間だった。

学校No.1ホストとの出会い。彼に足を洗わせる、身分の違い、過去の償い、話はいくらでも生まれる。

そして妃芽をVIP待遇する教師のせいで、夏野との最初の出会いの直後、この学校で教師以外に初めて彼に総理の娘だということが知れてしまった。当然のように彼は口止め料を要求し、平穏な高校生活を送るという目標がある妃芽も それを払う理由はあるが、彼女は それを拒否する。
これが妃芽の芯の強さの表れでしょう。お金で親の存在を握りつぶすぐらいなら、自分で他者に立ち向かうと決心した。
そして この拒絶は妃芽が他の女性とは違うという特性となり、夏野の目に留まったのだろう。No.1ホスト的な彼の立場からすれば、自分を拒絶する女性を どう落とそうかという思考となり彼の興味を引いたか。

口の軽い教師陣のせいで、妃芽が隠したかった秘密は2日目にして公然となり、女生徒たちに夏野との関係を疑われた際に、彼女たちの攻撃(口撃)材料となってしまう。ちなみに妃芽を呼び出した生徒たちのリーダー格が後に主要人物の1人になる衣理(えり)ちゃんである。

総理の娘だから何でも手に入るという大きな誤解で妃芽はキレ、口汚い言葉の応酬から暴力沙汰になりそうなところを止めるのはヒーロー夏野。ホスト的な解決法で女生徒たちを退散させる。

だが相変わらず彼は妃芽に金銭を要求してきた。それを再び妃芽が拒否したら、今度はキスされちゃって!? というのが1話の展開である。
いかにも少女漫画的な唐突な展開だが、読者の心掴む要素はたくさんある。変なマスコットや、突然のキス(性的暴行)。金銭交渉が決裂しても夏野がキスをしたり、妃芽の財布を取り上げても一銭も取らずに背を向けるのは非常にレアな事なのだろう。少なからず お金を取れたのに取らないのは、このキスが決してホスト業の仕事ではないことを意味している。

既に1話の時点で、妃芽の目論見は完全に外れ、この学校に通う理由は無くなった。妃芽にしても1話にして既に自分で噂や嫌がらせに立ち向かう勇気を持っていて、これなら最初から家から近い高校に通えたのではないかと思うが…。

金でしか動かない夏野に、金以上の価値観を提示する妃芽。早くも男性を救う聖母の素質十分。

キスを奪った夏野を強く恨む妃芽だったが、その後も何かと彼に助けられる。
総理の娘である妃芽を追う新聞部から助けたり、その際に転んだ妃芽の怪我の治療を進めたりと彼の優しさにも触れる。
妃芽も夏野に対し嫌悪感があっても、おんな彼にしっかり礼を言える心根の正しさを持っていた。

だが、総理の娘だと知った途端、妃芽に話し掛けてくれたクラスメイトたちは遠ざかり、近づくのは報道の自由の名のもとにプライバシーを蹂躙する新聞部ぐらいだった。
こうして翌日、妃芽を悪く書くためだけの新聞記事が貼り出され、妃芽の高校生活は4日目で全てが破綻する。

この状況に妃芽自身は転校を決めるが、夏野が学校に通う理由をつくってくれる。
「オレ毎日 妃芽に会いに学校に来るよ」
そして彼は飴と鞭を使い分け、ここで転校したら彼女を誹謗する「自己中な お嬢様」そのものになると忠告する。さすがホスト。女性の心理状態を逐一見抜いて、その女性の行動を自分の思い通りに誘導している。


の新聞部の一件では2人の男性が妃芽を守る。
新聞を破ったのが夏野、そして新聞部の暴走を止めるのは生徒会長の滝川(たきがわ)であった。

彼は3年で一番頭が良いという設定で、当然、この学校で一番の権力者である。

滝川と急接近する妃芽だが、夏野は「あいつは やめとけよ」と忠告する。2人の男性は同じ中学の先輩後輩で、1年だけ関わりがあったらしい。だが幸せな気分を満喫していた妃芽は必要以上に夏野を非難する。ここまで妃芽は夏野の言う事を否定してばかりである。

その2人の男性たちは会話を交わす。滝川が妃芽にかまうのは、夏野のようなハデな奴から守るため。そして夏野が妃芽にかまうのは、一ノ瀬首相に借りがあるからだという…。


川からのアプローチもあり、妃芽は、あっという間に滝川と交際を開始する。これは滝川と知り合って何日目なのかな…?? 総理のお嬢さんは随分 尻が軽いようでいらっしゃる…。

2人の交際を知った夏野は妃芽に再度 忠告する。だが、夏野の滝川への警戒心は上手く妃芽に伝わらず、またも妃芽は強い拒絶をする。
その後、妃芽も人づてに滝川の噂を耳にするが、相変わらず彼は温和で その疑惑を打ち消す。

そんな中、妃芽が首相と久々に面会する予定が入り、滝川はそれに同行を申し出る。
滝川は総理周辺の人間の役職まで熟知していて…⁉というところで『1巻』は終了。

妃芽が強いのか弱いのか、アホの子なのか熟慮が出来る人なのか、というのが本書の中で便利に使われているのが気になる。物語上、仕方がないが、中学時代に恋愛面でも嫌な目をみた妃芽が滝川の接近に対して無警戒なのが気になる。普通の女子高生でもしないような軽率な交際を妃芽がするとは思えない。

妃芽に特殊な背景を用意して、それが本書の特徴として前面に出しているのだが、結局、庶民ヒロインと変わらない元気・負けん気一辺倒の人物像なのがチグハグに思える。こういう境遇なら妃芽は もっと深い思考の持ち主であるべきなのに。それが描かれてないから本書は軽い。

この中学の経験で妃芽は恋に憶病にならざるを得ないのに、滝川にはあっという間に近づくから矛盾を感じる。

「12月のアリア」…
この学校のバイオリン科首席の生徒・鈴木(すずき)先輩とともに音楽コンクールに出場することになった有愛(ありあ)。
自分が選ばれた理由が分からない有愛は、先輩と共に練習を重ねるが…。

恋愛は飽くまでオマケ程度で、バイオリンの演奏を描きたかった作者が、眠っていた才能を男性たちに見い出され輝き出すシンデレラストーリーを作ったという感じです。