《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

長期連載となり、新キャラのネタ被りを回避した結果、設定 盛り過ぎモンスターが誕生す。

ひよ恋 12 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
雪丸 もえ(ゆきまる もえ)
ひよ恋(ひよこい)
第12巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

高3になったひより。自分から友だちをつくろうと勇気を出して話しかけた相手は、一見クールな美少女・秋穂。だけど彼女には、ある秘密が──!? 【同時収録】ひよんコマ/ひよ恋 番外編─さむい日。─

簡潔完結感想文

  • 3年生進級。周囲の人から ひより への関心を薄くする完璧な事前準備を感じる。
  • 悪意があるからヒロインが輝くのも少女漫画あるある。独力で解決するのも大事。
  • 交際から半年以上が過ぎて反対勢力が出るのが新鮮。ミスリーディングも秀逸。

護者たちの目が「ひな鳥」に注がれなくなったから事件が起きる 12巻。

『12巻』の内容は、あまり気持ちの良いものではない。
ヒロインが あるキャラクターに雁字搦めにされていく様子は別の作品で見たような展開でもある。

それでも やっぱり本書は好きだなぁ と、その構成力に感心してしまう。
今回は本書で初めての「悪意」が どうしてヒロイン・ひより に接近できたのかが問題となる。
そして それは ひより が巣立ちの時を迎えようとしているからでも あった。

ひより に悪意が近づいた理由は大きく2つ。
1つは今回から高校3年生になって、そのクラス替えの際に、
1、2年生ずっと ひより を見てきてくれたヒーロー・結心(ゆうしん)と別のクラスになったこと。
とても背の高い結心でも さすがに別クラスの事情までは見通せないのだ。

いつもクラスの中心人物である結心が いつも隣にいてくれた事で ひより の世界は広がった。
そんな世界の入り口でもあった結心と離れる事で、ひより は自分で世界に羽ばたく必要が出てきた。

これまでは幼なじみ・律花(りつか)に二人三脚で学校に足を運び、
結心がいる事で学校が楽しくなった ひより だが、今回、自分から人に接近する。
これは これまでの ひより にはなかった大きな進歩である。

まぁ その人が大変な事情を抱えた人だったから問題が起きてしまうのだが…。


して悪意接近の2つ目の理由が、もう一人の保護者・律花の子離れ。

過保護すぎて ひより が自分の手から離れていくことに対して暗い感情すら持ち、
危うく毒親になりかけた彼女ですが、今はプライベートを大事にしている。

元々、律花は部活をしていたり、交友関係が広かったですが、
今は初めての好きな人との交流に、うつつ を抜かしている。
こうしてネグレクトとまではいかないまでも、ひより への適切な無関心があって、そして油断も生じる。

今回は悪意の接近よりも、どうして悪意の接近を許したか、という背景がしっかり考えられている事に感心する。
そして今回の展開のために、ちゃんと事前準備がされている事にも感心するばかり。
ひより を唐突に孤独にしている訳じゃないから展開に納得がいくのだ。
(先の先を考えられない作者だと、流れをぶった切って状況だけを生もうとする)


最も顕著な事前準備が、律花とコウのことである。

彼らが良い感じになる事で、3年生で律花が ひより と同じクラスになっても、
もう律花が ひより に依存しないようになっている。
律花の関心がコウに向けられることによって、
ひより に対する監視が緩くなり、その隙に悪意が入り込む余地がある。

これまでは、ちょっとコウの、ひより から律花へと変わる心変わりが早いな、と思っていたのですが、
新学期に入る前に、ここに決着をつける事が、次の物語には必要な要素だったと分かり納得する。

実はコウにとっても、律花との恋は良い意味で視野が狭くなっているという事なのだろう。

彼の ひより への関心や揚げ足取りが以前よりも緩くなったから、
これまで物事を第三者的な視点で見透かしていたコウにも悪意を察知できなかった。
そして それだけコウの関心が律花に寄せられていると思うと嬉しいなぁ。


て最終学年の高校3年生に進級した ひより たち。
クラス割は、ほぼ成績順らしく ひより、律花、コウは同じ2組だが、結心は6組になってしまった。
他の友だち、夏輝(なつき)や礼奈(れいな)も別のクラスになり、ひより の周囲の友だち率がガクンと下がる。

このクラス割は作品的には良いアクセントですね。
結心と一緒にいるパターンは散々やったので、少し距離を取るのも良い。

これからは結心とは学校で会える事も貴重となり、
2人は一緒に帰る日を設けて、校内での待ち合わせ や お弁当を一緒に食べるとかカレカノっぽい行動をする。
どんな状況でも楽しいのが幸せカップルです。

担任も2学年一緒だった美代子先生から変更。
これも心機一転の象徴か。

こうして、ひより は独力で友達を作る機会を得た。

秋穂からすれば「飛んで火にいる夏の虫」だろう。鴨が葱を背負って来て 焼き鳥の準備は万端。

級といえば新キャラ登場の絶好の機会となり、3年生から乃坂 秋穂(のさか あきほ)が登場する。

彼女こそが、ひより が初めて自分から友達を作ろうと努力をする相手となる。
性格的に似ている部分もあり、急接近する2人。

だが秋穂には ひより を束縛しようという性格が見え隠れする。
この手のタイプは、ヒロインの全てを搾取・破壊しようと目論むのが定石。

「友情」を盾にとって、ひより を結心から遠ざけようとする秋穂。
ひより も自分から声を掛けたから、という理由で彼女との距離感を、誰よりも優先してしまう。

新しい友達との2人の微妙な距離感の描写は、必要な点だけを押さえていくという感じで進み、
何よりも この先が読めてしまうのが残念。
…と思っていたら、それがミスリーディングだった事に驚いた。


の話では段々と正体を見せていく秋穂が怖い。

律花との友情の証であるシャーペンを捨て、
自分との証である新しいのを ひより が使う事を強要する。

そんな秋穂の行動を最初に見咎めるのは、やはりヒーローの結心。
シャーペンの実害はあるものの、ひより が直接的な危険に晒されていない段階で彼女に注意している。
さすがヒーローで事件を未然に防いだ、と言える。

結心と秋穂の接近で明らかになるのは、2人が同じ中学校で、
秋穂が、結心の幼なじみの妃(きさき)の友達であったことを結心は思い出す。

ひより は秋穂が結心の手を取って
「私は ずっと ずーっと見てた 憧れてたのに」という場面を見てしまう。

その場を立ち去った秋穂に代わり、結心が現時点で判明している事を話そうとするが、
ひより は、秋穂の「後で ちゃんと話す」という言葉を優先する。

ここは良い場面ですね。
嫉妬に駆られる訳でもなく、冷静に本人の口から事情を聞きたいと思う知性や落ち着きが ひより から感じられる。
逆境にこそ真価を発揮するのがヒロインです。

平和な本書において一番の修羅場だろうか。交際後の略奪危機はコウの時の逆パターンでもある。

日、ひより は秋穂から彼女の中学時代の話を聞く。
地味で、学校内の誰にも気に留められない存在だった秋穂に、
他の人と分け隔てなく接してくれたのが、結心と妃だった。
彼らを通して、秋穂は外界との接点が持てた。
それは高校における ひより とよく似ている。

でも秋穂は、2人に憧れていたからこそ2人が交際せず、結心が選んだのが ひより だという事に納得できない部分があった。
「はじめて好きになった人だから」

交際半年を経て、交際への反対勢力が作中で初めて出てくる構成とは思わなかった。
「これからも友だち でいてね?」
と差し出される秋穂の手が左手である事が、意図的なものに思えてしまう。

ひより は、結心を好きだった秋穂の前での態度に思い悩む。
自分の中で決着がつくまで、結心にも話さないでおく。

そんな ひより の態度を知り、結心は再び秋穂と話し、彼女に釘を刺す。

この結心の態度も良いですね。
ひより の性格を知っているから適度な距離を保ちつつ、それでも彼女の不幸の芽は摘んでおく。
シャーペンの件を言わなかったり、結心は出来るだけ ひよりを悲しませたくない。
そこに確かな愛情を感じる。
それこそが秋穂にとって見たくない現実なんだろうけど…。


らの間にある信頼感を見せつけられた形となった秋穂は、いよいよ直接的に ひより を傷つける。
またもや「友だち」という言葉で ひより を縛り、彼女の持っているものを奪おうとする。

だが ひより は彼女が思うよりも ずっと強く、自分の意志で彼女の支配には屈しなかった。
思い通りにならないと極端な行動に走るのが、こういう支配系の人物。

秋穂は一人 屋上に出る。
電話で思わせぶりな言葉を聞いた ひより も屋上に駆けつけ、2人は最後の会話を交わす。

そこで知る、秋穂の本当の気持ち。
彼女が本当に望んでいたものが以外だった。

そして絶対に手が届かないなら次善策として彼女が望んだ未来があった。
その未来のためには ひより が邪魔でしかない。
だから排除しようとしたのだ。


しても秋穂には色々なものが乗っかってるなぁ…。

というか顔を変えてまで生き直したのに、
地域外の学校や私立校を選ぶのではなく、地元の高校に進学しているのは神経が図太い。

これは作品として秋穂に取らせる選択肢が他になかった、という面もあるだろう。
学校外の人間だと世界の狭い ひより と接点を持つのは難しいのだろう。
転校生ネタも2年生進級時に礼奈でやってるし(『3巻』)。

しかも妃で転校による退場も使っているので、秋穂は役割を終えたら転校する訳にもいかない。
(そのためか最初に秋穂に もう転校はないと言わせているし)。

以前に出た展開を回避し続けたら、色々と設定が盛られた秋穂が誕生してしまったのだろう。


色々と盛り過ぎた挙句、ラストも過激な行動に走る秋穂。

どう考えても ひより の体重で彼女を支えられるとは思わないが、
作品としては どんな状況でも ひより が秋穂の手を離さない、という構図が欲しいのだろう。
それは秋穂の この愚行や暗い心を ひより が受け止めるという意味なのだろう。