酒井 まゆ（さかい まゆ）
永田町ストロベリィ（ながたちょう ）
第02巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
親が総理大臣で苦労してきた妃芽だけど、今は楽しい学校生活を送る日々。ステキな彼氏ができたけど、この彼氏、過去に悪い噂が…。支持率上昇中のスクールライフ。
簡潔完結感想文
- 妃芽は やはりカリスマ性のある女王様なので、彼女の言葉に男性たちは従うだけ。
- 全体的に人と人との距離が急に近づき過ぎていて、作者の脳内世界に追いつけない。
- 『2巻』ラストは重大な局面だけど、そう感じられないのは演出力が足りないから。
ヒロインの鶴の一声で、イケメンたちの悪行は封じられる 2巻。
全体的に人と人との距離感が変である。
ヒロイン・妃芽（ひめ）がヒーロー・夏野（なつの）に唐突にキスされるのは少女漫画の儀式として まだ容認できるが、そんな夏野よりも先に出会って数日 優しくされただけでヒロインが他の男と交際してしまう展開などは到底 受け入れられない気持の流れである。
低年齢向け少女漫画誌（「りぼん」）の宿命として、とにかくドラマチックな場面が必要なのは分かるが、総理の娘という特殊環境で嫌な思いをしてきた妃芽が あっという間に人を信用して、そして あっという間に別れるという説得力が皆無な展開には唖然とするばかりである。
唯一 驚いたのは、この交際相手、生徒会長である滝川（たきがわ）が あっという間に退場させられたこと。これだけの格の人物を用意したのだから、てっきり三角関係が長期化すると思っていたのに、滝川は目論見が露見した途端、物語から存在を消された。『1巻』の表紙が妃芽・夏野・滝川だったために そう思いこんだ部分も大きい。どうやら作者は、表紙の絵は3人という縛りを設けており、『1巻』では主役たちの他に登場するキャラが滝川しかいなかったから選出されただけらしい。
ちなみに表紙で言えば、どうして どの巻も こんなに暗い色を背景にしているのかが疑問である。絵としては可愛いが、表紙としてはボンヤリし過ぎかな。あと色と言えば、作者は各話の扉絵について語っているのですが、カラーではなく白黒で、印刷も不鮮明、しかもサイズも1/6程に小さくなって掲載された絵を語っても単行本読者には残念ながら伝わらない。扉絵は非常に時間がかかるらしく作者的に思い入れがあるのだろうが、読者の事情を客観的に見ないまま、自分語りしてるなーと思ってしまう。まだ若い作者は全体的に自分の周囲の世界＝読者が興味があると思っている節がある。扉絵について語りたいのなら画集を出せたらやってくれ、と思ってしまった。
話を戻して、人の距離についてだが、滝川も変だが、妃芽の友人という設定となった衣理（えり）にも突然 距離を詰めてきた人である。彼女の場合は、作品中に語られない空白の2か月で仲良くなったという弁明が出来るが、読者としては何のエピソードもないまま、妃芽と仲良くなったという結果だけを示されている状態で、作者の脳内設定に追いつけない。更には『3巻』では衣理との友情と恋の難しさをテーマとした回まで用意されている。これも滝川と同じように、読者から見れば瞬間移動でもしたかのように恋人・親友という立場に いつの間にかに収まっていて違和感ばかりが残る。頭の柔らかいリアル少女読者なら脳内補完も出来るかもしれないが、私には無理である。
そして最大の問題は『2巻』のラスト。どうやら ここが本書の大きな分岐点なのだが、私が それに気づいたのは随分と話を読み進めてからだった。
訳ありヒーローの夏野の改心という重要な局面にもかかわらず、それが全くそうだとは伝わらない演出である。しかも女性から金を巻き上げるホストみたいな生き方をしていた夏野は、妃芽の1回きりの やめてくれ という言葉に簡単に従う。
ここが おかしい。滝川もそうだったが、まさか夏野にまで信念がないとは思わなかった。2回続けて、イケメンが悪いことをする → 妃芽がそれを制止 → イケメン「ハイ、分かりました」という単純すぎる展開に唖然とした。せめて夏野には深い懊悩があり、止められない事情を話して妃芽が彼の事情に介入していくという展開になれば良かったが、それも無しに怒られたから止めます、では歯ごたえがない。
展開に歯ごたえがなかったからこそ、この『2巻』のラストが重要だとは思えなかったのである。ヒロインが無敵で、そして圧倒的に正しいとし過ぎてしまい、彼女が対決しなくてはいけない悪事が弱く小さなものとなってしまった。まさか3人目のイケメンの、今度も悪事に手を染める新キャラも こうやって退場していくのかと戦々恐々とする思いである。今回も彼らがなぜ そうしたのか、という背景がないまま事件は解決しそうである。
出会って数日で交際した滝川が、妃芽の父親や政治家周辺事情を根掘り葉掘り聞いてくることに不信感を覚え、妃芽は滝川を知る第一歩として、かつて妃芽に因縁をつけてきた衣理の その兄から話を聞く。
滝川と同学年で、同じ中学時代の兄は滝川と夏野を巡る逸話を語る。中学3年の滝川が中学1年の夏野に彼女を奪われた形になり、その報復として夏野は集団暴行により全治3週間の怪我を負う。そして その彼女というのが県会議員の娘だったいう。
どうやら滝川は衣理が推測するように「権力フェチ」らしい。それが彼の悪事の動機。自分が その権力側に立てるように、滝川は努力と縁故作りを惜しまない。妃芽に対して寛大で優しいのも、彼女を怒らせては首相へのコネという最大の恩恵を失ってしまうからだろう。
自分でも疑っていたこともあり、その話を聞いた妃芽の対応は早い。彼女は自分から別れを切り出す。
この展開の早さが「りぼん」の良さだろうが、言われたことを即、信じて、彼に直接確かめる前から別れを切り出す急展開が「りぼん」っぽい悪い点である。妃芽自身が最初に彼を裏切ってしまう展開ではなく、滝川が馬脚を現してから責めるべきではないか。
滝川の豹変も お約束の展開。そして今回は権力フェチに加えて、彼は今度は自分が夏野から大事な人を奪おうとした面もあるのかな。
豹変する滝川から妃芽を守るのが本物のヒーロー・夏野。かつてと同じような報復を予告する滝川を妃芽が鶴の一声で制すのが謎展開。妃芽のカリスマ性ってことなのか？ 夏野をヒーローのまま幕引きを図ろうと、妃芽が便利に使われただけか。全体的に主人公が強すぎて盛り上がらないバトル漫画と同じ雰囲気なんだよなぁ…。
短いとはいえ、この交際で妃芽が滝川と最後までキスをしないのは、ヒーローが誰かということを示すためなのだろうか。
早くも会長と別れて2か月する。
衣理とは仲良くなったものの、夏野とは進展なし。間もなく夏野の誕生日だと知った妃芽による誕生回となる。
夏野は学校で誕生日プレゼントを貰いまくるが、争いの火種になるため誕生日当日は特定の人とは一緒にいない方針。だが当日、妃芽は街中で夏野と出会って、彼の誕生日を一緒に過ごす。少女漫画らしい わざとらしさで、街中で「かっこいー」「かわいー」と言われたり、カップルのデートっぽい1日を過ごす2人。
最後に誕生日プレゼントとしてキスをするのだった…。このキスを新キャラが目撃していたことが、次の話に繋がる。妃芽は2回のキスで、自分が特別なのかと浮かれている。確かに、金銭の遣り取りなしで夏野にキスをされたのは彼女ぐらいのものだろう。
夏野が学年一位となった期末考査も終わり、学校帰りにカラオケに行く妃芽たち。放課後のカラオケは妃芽の学校入学時の夢であった。
そのカラオケ店で出会うのが杉坂 水貴（すぎさか みずき・高2）。新たなるイケメン刺客である。ちなみに夏野も含めて男性キャラは全員同じ顔である。夏野が際立ってイケメンなのだろうが、その違いは絵からは見受けられない。あっ、だから夏野を成績トップにしたりして装飾しているのか…？
水貴はナンパのように妃芽に近づき、学校が近い事もあり妃芽の学校の校門で待ち伏せする。彼は単純に妃芽のことを気に入った風で近づいてくるが、彼もまた妃芽が総理の娘だと知って近づいた。彼もまた妃芽に優しいが、滝川のように自分を好きにさせようとはしない。彼が狙うのは、清廉潔白の一ノ瀬首相の周囲からの初スキャンダル。総理の娘の妃芽と、ホストのように金で動く夏野の関係をネタにしてマスコミに売ろうとしていたのだった…。
そういう狙いがあり水貴は妃芽と夏野の金銭授受の写真を撮影しようと躍起。彼は妃芽たちの学校に潜入し、一万円札を見つけ、夏野が落としたと断定する妃芽が夏野に渡す場面を写真に撮ることに成功する。
その記事は見事、記事になり、夏野は秘書山こと広山（ひろやま）に呼び出される。夏野が妃芽から金銭を受け取ったことはないが、記事になった通り、他の女子学生からは金銭を受け取ったことを認めると、秘書山は彼を殴打する。
秘書山は「君がしたのは男として最低のことだよ」と怒り、本書で初めて夏野の行為を叱責する人となる。これまで妃芽は夏野の金銭要求を拒絶はしていたけれど、行為そのものを否定してはいない。
総理の娘のスキャンダルはマスコミを騒がす。その報道を妃芽と夏野は秘書山の家族の別荘で見ていた。
別荘に連れてこられた夏野は自暴自棄になり、食事に手を付けない。
ここからの場面、妃芽が説教して更生する流れだけが重視され、ここの夏野の心理描写がいまいち薄い。彼はなぜ自暴自棄になったのだろうか。金づるを失い、彼の背景にある目標や目的が達成できないと思ったからなのか、それとも大事な人と離れてしまったからか（まだ この時点では彼の背景は語られていない）。夏休みに外泊は出来ないと言っていた割に、彼は この別荘から出ようとする気配がないのも気になる。展開ばかりに気を取られ、この前後で夏野が何を思っているのか、ということを作者が深く考えられていない気がする。
妃芽は この別荘での態度を見て、初めて夏野に怒る。反省を促し、そして同じことをしないように嘆願する。叱責は秘書山が最初だったが、「もう しないで」という言葉を用いたのは妃芽が初めてということか。その言葉は夏野に刺さり、「誰か止めてくれるかなって ずっと思ってた…」と自分の責任を放棄するような甘えた言葉を吐いて、倒れる。ここは夏野が簡単に受け入れないで、説得と拒絶を通して2人が想いを重ねていく場面にして欲しかったなぁ。やはり妃芽が無敵すぎるんだもの。夏野の更生において大事な場面なんだけど、演出が弱い。
この別荘地にも なぜか水貴が現れる（どういう手段で この地を知ったとか説明は一切ない。憎まれっ子世に憚る、である）。
妃芽は写真を撮ろうとする水貴を見つけ、訂正記事の掲載を求める。水貴もまた ただ金のためだけに動いているらしい。ある意味では夏野と同族。滝川・水貴、そして夏野と、政治家（の娘）周辺に集まるのは権力欲と金銭欲、という深い話、なのか…？
妃芽は、この水貴との会話を録音しており、水貴が記事をでっち上げたことを脅迫の材料として、訂正記事を書くことを約束させる。妃芽の無敗記録は続く。少女漫画読者にとっては、無敵な妃芽の「俺TUEEE」が爽快感に繋がっているのかなあ。でも私はイケメンたちのペラッペラな行動原理が気になって仕方がない。
