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少女漫画と小説の感想ブログです

最強の兄達を遠ざけるためだけの 現実離れした10日間の修学旅行。しかも国内⁉

そんなんじゃねえよ(3) (フラワーコミックス)
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
そんなんじゃねえよ
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

美形の母、同じく美形の哲&烈という双子の兄に囲まれて、最近ちょっと元気のない静。とてもフツーの兄妹とは思えないくらいの甘々な愛で周りの目もちょっと気になるところ。何が起きても不思議じゃない真宮家の養子騒ぎが落ち着いたかと思ったら、クセ者&美形の仁村倫(にむらひとし)が静に興味津々で…!?

簡潔完結感想文

  • 兄達は10日間の国内修学旅行中(おそらく公立高校で)。妹は鬼の居ぬ間に自分を選択。
  • 兄が不在の時にだけ近づける第3の男・仁村。彼の企みも利用して静は兄離れを特訓する。
  • 静が誰を好きなのか、養子は兄のどちらなのか、早くも答えがついてますけど、まだ1/3。

のある新キャラも打ち止めで、ますます世界が狭くなる 3巻。

『2巻』の感想でも書きましたが、恋愛の行く末や結末に興味が持てない。
ここまでルックス重視の世界観を打ち出されると、自分事だと思えないから、共感も親近感もない。

平凡なヒロイン=読者が、誰もが羨むイケメンと恋に落ちる、というのは夢のような展開だが、
兄であってもなくても、その人のことが好き、という近親相姦も厭わない恋愛観は私の身に余る。

しかも平凡なヒロインといっても、やがて白鳥になることが約束されたヒナなのである。
特別な家庭環境の、選ばれし人たちの、特殊な恋愛。

恋愛における「困ったちゃん」の とんでも行動で挿んで、笑いを取りながらも、
結局、この恋愛は同じ血縁を持つ、もしくは同じ家庭環境で育った人たちにしか立ち入れない。

新キャラを追加しても世界は一向に広がらない。
そして最初から両想いの恋愛に、胸キュンが入り込む余地は少ない。
それは少女漫画としては致命的なのではないだろうか。


だ本書が優れているのは、物語が動き続けている、と思わせる点である。

『3巻』で早くも恋愛的な答えが出る。
ヒロインの静(しずか)が、烈(れつ)と哲(てつ)どちらが好きなのか。
そして、そのどちらが養子なのか、という静の知った答えがラストで明かされる。

その答えを踏まえて、ここ2巻分の静の行動を見ると、実は結構 切ない。
『3巻』は、兄離れ巻なのだが、
彼女がなぜ、人の力まで借りて兄から離れようとするのか、という答えがラストに繋がる。

他者からのトラブルや暴力に関しては兄に守られてばかりの印象だが、
自分の問題となると静は1人で抱え込み、ずっと耐えるタイプの女性。
この2巻の間で、彼女がどれだけの悲しみや涙を(読者にも知られずに)こらえてきたか、と想像すると胸が痛む。

まさか静の好きな人が あっという間に変わる訳ではないだろう。
『3巻』ラストにおいて静が、好きになってはいけない人を好きになってしまったことが初めて分かる。

逆風・逆境・障害が好きな少女漫画は、ここから始まると言っても過言ではない。

自称「平凡」な静だが、結構な人数の人からモテている。自称「天然」ぐらい当てにならん!

そういえば、ギャグの中におけるツッコミの、ものの例えに作者の知性が光っている。
ちゃんと勉強をしてきた人なんだろうな、と思う(特に世界史とか)。

巻末の若き日の作者の漫画、全部 読みたかったなぁ。
作者が今後、より活躍されて、和泉かねよし全集とか出るようになったら収録してくれるだろうか。


10日間の修学旅行で、兄達が不在。
海外に行くわけでもなく10日間も国内旅行をする公立高校(推定)とは一体…。

不自然な状況で兄を不在にさせるのは、新キャラ・仁村(にむら)を暗躍させるため。
兄がいないことで、初めて静に近づくことが出来るのだ。

何らかの病気で入院し、現在も定期的に通院している設定の、
本当に病気設定だけの、仁村が静のクラスメイトとして復学してきた。

仁村は静の中で、唯一と言っていいほど兄達に対抗できる素質を持つ者。
そして仁村は静の中の、真に強い部分に興味がある。

だが「何をするわけでもなく 人に嫌われない程度に なんとなく生きてる」状態の静には魅力を感じない。
これは兄に対するコンプレックスを持ったままの静、と言っていいだろう。
兄から独立して、自分の強さや意思を示すこと、それが仁村が静に求めることらしい。
そして その考えは静の理想とも一致した。


村は まず静の外見を俺色に染める。

初対面の時も高そうなレストランに連れて行っていたが、
今回は服装や外見を整え、静を変身させる。

自分で稼いでいる能力や立場のある人がすると、女性への興味や愛の証になりますが、
高校生がやっても、親の金を使ってるとしか思えなくて格好がつかない。

ヒロインの変わりように、シンデレラ願望が満たされるよりも、
男性側の経済的な観念の無さや甘えを先に考えてしまう。

作者の作風からいって、もう一つ高い年齢層の商業誌で勝負すればいいのに。
結局は外見、というのは残念ながら真理だと思うが、少女漫画誌で それを言って欲しくはない。


だが良い服だけでは静は変わらない。
そして それは仁村が一方的に望む姿だという事を静は知ってしまう。
彼の目標とする人は静の母で、仁村は母に近づかせるために静を利用しているだけ。
どこまでも彼女は、自分の血統・家族に悩まされる。
そこに疎外感を覚える静。

だが彼女は真に自立するために、仁村をも利用して、蝶へと至る一歩を踏み出すのだった…。

兄がいないこと、そして自分が本当に必要とされていなくても立ち上がることで静の強さが表現されている。
その内面の変化があって初めて彼女は輝き出す、という流れも良い。

最初から完璧な人間などいない。経験と場数を踏んで、静は あの母のようになっていくのだろう。

んな変わりゆく静に仁村はキスをする。
10日ぶりに帰ってきた兄達は、いきなり それを目撃して唖然とするのだった…。

気まずい中、男女6人で花火大会に行くことに。
メンバーは間宮(まみや)家の兄妹3人+仁村+女子2人と仕組まれた6人組。

哲の彼女気取りの可菜子(かなこ)は個人回があって目立っているが、
いつも烈の隣にいる先輩女性は、説明もなく居座っているのが気になるなぁ。
静を牽制してきてはいるが、どういう立ち位置なのか謎。
もうちょっと目立った活躍を描いてほしいが、描いても敵にならないから無駄か…?

帰りしなに2人組になって行われる 肝だめし。

烈は仁村と組む。
ここで烈の妹への想いが、生まれて以降の十何年みたいに誇張されているけど、
彼らが本当に静を特別視視したのは、9,10歳の頃からでしょ?
いたずらに大袈裟にしているのは、仁村への牽制なのだろうか。

静はペアとして現れた哲を振り払おうと必死になる。
彼女はどうして急に兄から離れようとしたのか。

それは静が誰がスキなのか、そして彼がどういう立場なのかが問題なのであった。


達は、自分たちのどちらかが養子なのか、戸籍から類推していた。
長男は烈、次男が哲。
哲は類推する、「同じ頃 生まれた実の子と養子実の子を押し退けてまで養子のほうを『長男』にする親がいるか?」と。

だが、静が知った事実は逆。
静は、どちらかが実の兄か知ってしまったからこそ苦しかったのだ。
なぜなら「兄」のほうを男性として見ているから。

ようやく、兄妹間の恋愛における禁忌の感じが出てきました。
肉親との恋愛においては、ここからが本番だろう。