《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

手掛かりが まだ全部 揃ってないので今回の真相は ここまで。まるで長編ミステリ。

そんなんじゃねえよ(5) (フラワーコミックス)
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
そんなんじゃねえよ
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

養子の烈(レツ)を引きとりたいと申し出たおばあさんが現れた!!全てを知る母涼子、そして次から次へと難題山積みの真宮(まみや)家で、声にならない想いに揺れる静、哲…。ちょっぴりスパイシーな思春期を堪能中の彼女たちにさらなる受難が満載?絶好調ハイテンションLOVE2兄妹ストーリー衝撃の第5巻!!

簡潔完結感想文

  • 一方の兄がいなければ、もう一方の兄が優しく慰める。ヒロインはお姫様扱い。
  • 大きな話が終わって通常回。「コピー商品」という発想は面白いがテンプレ展開。
  • 自分の感情よりも その人の幸せを願う健気ヒロインは お節介ヒロインでもある。

型的なヒロインの方が少女漫画は作りやすい、の 5巻。

本書は女性作家が女の園を辛辣に語っているようで、実はヒロインに甘い。
「困ったちゃん」を何人も登場させ、ヒロイン・静(しずか)を嫌な目に遭わせてはいるが、
彼女にはヒーローたる兄達(烈・れつ&哲・てつ)がいるし、
彼女自身も強いので、結局、ライバルにもならない。

それに血が繋がっていようがいまいが、
兄達に溺愛されている基本設定によって、どうやって描いても彼女は恵まれている。

そして作品をハイテンションでデコレイトしているけれど、
静は、典型的な少女漫画のヒロインなんですよね。

自分の幸せより他者の本当の幸せを祈る、という聖母的な側面を持っているし、
『5巻』のラストでは、クラスメイト・仁村(にむら)の母子関係が冷え切っていると知って、
お節介にも彼の家庭の内情に入り込もうとする。
これが後の展開に必要なのは分かるが、少女漫画にありがちな お節介ヒロインでしかない。

目的(イイ男ゲット)のためなら手段を選ばない、という女性同士のシビアな戦いを描きながら、
結局、ヒロインは計算のない人間であって、その彼女は誰もが羨む男性に求愛されている。

ヒロインの周囲に「困ったちゃん」と、そして「困った血縁関係」を配置しているから分かりにくいが、
静は よく見る巻き込まれ型ヒロインでしかない。

まぁ 結局、長い少女漫画の歴史の中で生み出された最適解が、この手のヒロインなのかな。

少女漫画における平凡なようで平凡じゃない主人公は、
少年漫画における、実は強大な力を秘めていた主人公ぐらい読者の夢みる存在。
巻き込まれ型&お節介によって、どんどんと新しい話に参加できるのも長期連載向きなのだろう。


それにしても妹の静自身が兄達を修飾する、
「特Aレベルの容姿の持ち主」とか
「フツーにしてれば いい男世界選手権 日本代表になれる2人」とかの言葉が気持ち悪い。

彼女が一緒に暮らしてきた兄を好きな気持ちは共感できる点もあるが、
この手の身内の持ち上げは全く理解が出来ない。

徹頭徹尾、兄達の美点として これを強調するのが浅はかだと思う。


して何度も言うけど、謎が魅力的ではない。
恋愛的決着はついているし、残るは血縁関係の謎だけ。

今回、烈に関して新たな事実が発覚するが、それはまだ謎の一部らしい。
いつまでも引っ張るような話じゃないのだが、
唯一 真実を知る兄妹の母親は 今はまだ その時じゃない、と秘密を保持し続ける。

そして母の手の上で踊らされている感じ、真実に手が届かない隔靴掻痒の感じだけが残る。

何より、もう当人同士の話じゃないのだ。
静の母や、その世代の人達が どういう関係で、誰が誰の子を生んだのか、だけが残された謎。

しかも その真相が二転三転していく最中で、
静は血の繋がってない兄なら簡単に好きになってしまうような軽薄さを見せている。

自分の心を早く見極め、辛くても その人のために選択をしたのが静の良い所だったのに、それがブレ始めている。
しかも、この『5巻』後半からは第3の男に接近し始める。
話が長くなって、旧来型のヒロインのように、男の間をフラフラしているのが残念。
(この巻で出た結末で、静には兄を選べなくなった事情があるにしろ)

良くも悪くも、ヒロインの造形も展開も 本書は正統派の少女漫画なのである。

関係者の中で唯一の生存者は母。まさか事故に見せかけて殺した人の子供を育ててる⁉(嘘)

の回想や、烈の祖母の手紙によって、
親世代のキーパーソンの名前が続々と登場する。
烈の父親と見られる享一(きょういち)と七瀬(ななせ)、
そして静の父である俊二(しゅんじ)は同じ事故で死亡したという事実と共に。

烈が本当の血縁者に会える・暮らせるかもしれない機会が訪れたが、
静は それを快く思えない。
それは妹としての感情に加え、烈を好ましく思っている人のワガママだった。

だが、烈は祖母の元に行ってしまった。
二重の意味で烈に裏切られたとショックを受ける静。

通常の二股(というか男性2人からの求愛)とは違うけれど、静の やっていることはそれに近い。
自分の近くにいてほしいという独占欲が彼女の根本にある。
家族としても恋愛に似た感情でも兄離れが出来ないという自分に静は気づかされる。

遠くに行ってしまった烈のことで傷心の静を密かに励ますのは哲。
彼女が安心して眠れるように、傍にいてやる。

これは『4巻』のラブホでの烈の静への思い遣りと似ている。
こうやって、交互に優しくされるのは、やはりヒロインの特権だろう。

そうして静は安心するが、哲は心を乱していた。
なぜなら、養子の烈と違い、兄である自分にはもう身動きは出来ないのだから。


れぞれの親は同じ日に亡くなったので命日も同じ。
だから墓参りに祖母と烈が来るだろうと踏んで、静は哲と待ち伏せをする。

そこで烈を見つけた静だが、
彼女が発した言葉は、彼を引き留める言葉ではなかった。
彼の本来の幸せを優先して欲しいという静は願う。

これも静の哲への対応と似ている。
自分の恋愛感情よりも、彼自身の長期的な幸せを見据えたように、
烈も、自分の兄として縛るのではなく、祖母という血縁者との暮らしを優先し、
その家でしか果たせない事をしてもらおうとする。

さすがヒロイン。聖母である。

だが、遅れて墓地に現れた唯一 真相を知る母から発せられたのは、まさかの事実。
烈は夫婦であった享一と七瀬の子ではなく、同じ時に事故死した俊二と七瀬の子だったのだ。
これは、静と烈は、母が違う異母兄弟ということを意味していた…。

こうして烈と哲は再び「同じ立場」になる。
血の繋がった妹を愛してしまったのも、妹と想いを遂げられないのも2人とも同じ。

結婚を目標とする彼らの恋愛は「リセット」されてしまった。

…だが、母はまだ真相を隠していることが ほのめかされる。
だから、物語はまだ続く。

にしても静は烈を「異性として好きになるトコだった」のか。
血が繋がっていても変わらぬ兄達の溺愛も危ういが、静の恋心も フラフラとしていて信用ならない。


きな話が終わったら、困ったちゃん図鑑の再開。
今回は静のファンだという1学年上の別の学校の女性が問題児となる。

彼女は静に近寄ってきたと思ったら、持ち物や髪型、何もかもを静と同じにし始めた。
静は困惑するものの、なかなか事態を打開できない。
これは何度も見たテンプレ展開。

「コピー商品」に兄達を奪われる危機感。

そんな事態の本質を見抜くのが、第3の男・仁村(にむら)の役割。
兄妹間のシリアスな話には参加できなかったが、今回から復活。
仁村は今回も わざと静を傷つけるような発言を繰り返すが、返り討ちに遭うのもテンプレ展開。

仁村の存在で、その女性の狙いがハッキリした。
それは、彼女が血の繋がらない静のそっくりさんになること。
それこそが兄達の最も望むものだと抜群の嗅覚を持って嗅ぎ付け、
そして静を利用して間接的に兄に近づくことに成功した。

解決法もテンプレ展開。
聡明な兄達は、その女性の狙いが分かっていて、彼らは その人の狙いや自尊心を粉砕する。
そして最後に静が強いのも、いつも通り。

テンプレ展開の連続だが、「コピー商品」という発想は面白かった。


達に血縁関係があると分かり手詰まりになったので、もう1人の男、仁村に話を広げる。

静は仁村に誘われた家で、彼の実家が広大で、親が医者だという事を知る。
そこまでの金持ちではないらしいが、これまで豪遊できるぐらいには お金があるだろう。

そこで仁村の母親と遭遇。
だが挨拶で静が「間宮」の名を口にした途端、彼女は凍り付いた。

新しい登場人物だが、どうやら過去の真相を知る者? 仁村まで この狭い世界の住人になってしまうのか。

また、仁村と母親との間に冷え切った空気を感じた静は お節介を発動させる。

息子を冷遇する彼女に向かって、仁村に価値があることを証明するため静は彼との(偽装)交際宣言をする。
そこから本当に交際が始まって…、という既視感たっぷりの話が始まる予感がするなぁ…。