水波 風南（みなみ かなん）
蜜×蜜ドロップス（みつ みつドロップス）
第06巻評価：★★（4点）
総合評価：★★（4点）
ムリヤリ千駿（ちはや）のHONEYにされたうえ、可威（かい）にもらった大切な指輪を奪われてしまった柚留（ゆずる）。指輪を取り戻すために可威に内緒で千駿の家へ…。千駿は柚留を自分のものにすることで、可威との仲を裂こうとしていた！それでも可威の柚留への信頼は揺るがない。そんな可威に茅架（かやか）は媚薬香（びやくこう）を使い…！？
簡潔完結感想文
- 『2巻』辺りの内容の繰り返し。同じ人に性暴力を受けても千駿とは ズッ友だよ☆
- 唐突な恋愛フラグは悪役になった挙句、海外に送り返される新キャラへの お詫びか。
- 可威に何度殴られても 千駿は居座り続ける。コイツが追放されれば良かったのに…。
こんな内容の漫画でもヒロインは作品から大事にされていることが判明する 6巻。
千駿（ちはや）の、茅架（かやか）を利用した反乱も これにて終了。
そして そのピリオドで見え隠れするのは、作者による男女差別。
作者のお気に入りの男性は お咎めがないが、
ヒロインに敵対行動を取った茅架への処遇は冷たいものだった。
この処遇の違いで、口の中に苦いものが広がった気分である。
新キャラで、ヒロインのライバルでもあり お友達になりそうだった茅架は今回で作品から追放された。
ヒーローの可威（かい）やクラスメイト達と幼なじみで、竹を割ったような性格の設定だった茅架。
だが、あまりにも情けないヒーローとヒロインのせいで、
茅架の価値を落とすことで、2人の価値を上げるという噛ませ犬として彼女は望まぬ活躍をさせられる。
本来の性格のままなら、ヒロイン・柚留（ゆずる）の友人として納まったかもしれなかったが、
無能なカップルのせいで彼女の性格は改悪され続け、悪役に転じてしまった。
そうして悪役は仕立て上げられ、その悪の心を正義のヒロインが正す、という構図に利用された。
更に酷いのが、騒動終息後の茅架の処遇である。
『6巻』以前には気配を感じさせなかったフラグが幾つも雑に用意され、
海外から来たばかりの彼女は、もっともらしい理由をつけて海外に左遷される。
なんという熾烈なポジション争い。
本書で最初の、そして唯一のヒロインの同性の友達ポジションになるはずだったが、
ヒロインの特別性を確保するために茅架は用済みとなった。
例え友情であってもヒロイン以外の女性は大事にされては いけないみたいだ。
前作でもヒロインには同性の友達が皆無だったが、今回も結局、同性の友達との友情は破綻した。
もしかして作者は同性の友達が描けないのかもしれない。
基本的に姫ポジションのヒロインしか描けないから、同性は邪魔でしかないのだろう。
茅架の将来のことなんて1ミリも語られてなかったのに即席の夢が出来上がり、
彼女を想う素振りなんて1コマも描かれてなかったのに即席で男性と恋仲にしてしまう。
彼女の10年来の恋心を無視して、
女性は想ってくれる男がいればそれでいいでしょ？と言わんばかりに新しい男が あてがわれた。
どうも作者は男性ライバルキャラ以外に冷たい。
ヒロインやヒーローのことも そんなに好きではないことが作中で見え隠れしているし、
それに加えて今回の茅架の一件で、キャラクタへの愛がないことが露見した。
一方で本書の千駿（ちはや）、前作の鷹来（たからい）は作者から愛されて、三角関係の一角にずっといる。
千駿など何度も同じことを繰り返し、何度も可威に殴られているのに懲りない。
茅架はあんなに簡単に追放したのに、お気に入りキャラは絶対に手放さない。
それが作品の内容を変容させ、そして読者に退屈を与えている。
こういう部分で もっとプロ意識を持ってほしいなぁ。
可威は柚留のために愛を貫き、茅架との婚約を白紙に戻した。
だが可威がバイトしてまで柚留を守ろうとする行動が上流階級社会で噂になり、
彼の家の格は地に堕ちてしまった。
可威を心から信奉している千駿は その事実が許せない。
だから その原因である柚留を千駿は再び凌辱する。
水波作品の男性キャラの得意技 ブラジャー片手外しを披露し、柚留に性暴力を加える。
凌辱といっても、水波作品の男性はヒーロー以外は「手クニック」の使用しか許されていないのだが。
ヒーロー以外とは本番行為をしないのが少女漫画の最終防衛ラインなのだろうか…。
千駿の動機も行動も『2巻』以降の再放送。
この回は千駿の役目を別のキャラクタに託して欲しかった。
作者の千駿への あからさまな贔屓が見えて快く読めない。
柚留が恥辱に耐えるのは、千駿が柚留の指輪を持っているから。
それは柚留が可威から初めて貰った贈り物なのである。
そして少女漫画における、男性から貰ったアクセサリは2人の愛の結晶でもある。
それを無くしたり、失うという事は彼の愛を失うと同義なのだ。
だから柚留は それを必死に取り戻そうとするし、そのためには犠牲も問わない。
一方で、可威は ちまちまとパスワード探し。
以前も書いたが、ヒーローが必死になって探すのが暗証番号だったりパスワードだったりスケールが小さい。
その探索の中で、自分の両親がMASTERとHONEYの関係だったことを知り、
父に資金援助を頼めば断らないという光明が見えた。
これは資金の問題だけでなく、2人の将来にとっても朗報かもしれない。
ここにきて急に教育係の冬唯（とうい）が、茅架を想っているというフラグが立つ。
ここまで一切その描写は無かったが、これは今後この話を畳む時に必要だからという理由だけで立てられたフラグである。
気づいてないだけで再読したら伏線があるだろうと思ったが、再読しても やはり唐突だった。
千駿は柚留が自分によって辱められることを可威に ほのめかすが、
可威は柚留を信じ続ける。
もう2人の関係は千駿の行為によって揺るぐような やわなものじゃないのだ。
可威は、柚留が千駿の家に向かった理由も、そこで行われた行為も推測しながらも、
それでも柚留の身を案じてくれた。
これは少し前の、人に対して「好き」と言えなかった可威なら取れなかった態度かもしれません。
2人の関係も ちょっとずつ深化していっているんですよね。
ただ、可威の柚留への優しい言葉、
「無理矢理 傷つけられた自分の女を なんで嫌いになんだよ」は、
可威の大きな愛を示すものだが、以前 その女を無理矢理 傷つけたのも お前なんだけどな…、と冷める。
やっぱり私の中では、可威も千駿と性暴力を加えたという意味で大差ありません。
2人は互いに意思疎通をすることを約束し、
これからも同じ道を歩いていくことを確認する。
なんだか2人が普通のカップルのようである（笑）
だが魔の手は忍び寄り、可威は茅架によって秘伝の媚薬のお香を嗅がされ、理性崩壊寸前。
柚留の次は、今度は男性の可威の貞操が危うい、という内容となる。
茅架は可威との子供を身ごもることを2人の関係の決定打としようとしていた。
発想の飛躍が凄い。
そして16歳の高校生に こんな事 言わせないでよ…。
それに心臓病を患い、手術を通して恐怖と希望の合間にあった茅架が、こんな手段に出るとは思えない。
生きる喜びを知る人は もっと真っ当に生きると思うんだけどなぁ…。
媚薬の効果がどういうものか分からないが、
ここで茅架が自分から動かずに、可威の理性が壊れ、襲われることを待っているのが意地らしくもある。
密室の外では、冬唯が柚留を千駿の元に返そうと彼女を連れ去っていた。
この時に冬唯は茅架の計画を全部知っているが、どこで その情報を入手したのかが謎。
そして これまで予兆すら見せなかった冬唯の茅架への想いを、なぜか柚留が知っている。
なんだか前置きが全てすっ飛ばされて、役者をその場に揃えるためだけに話が進んでいく。
作者は この頃、メンタル面で不調だったみたいだが、いつにも増して話が雑である。
この時、柚留が冬唯を説得をする際、
「好きな人と身体だけ結ばれたって… むなしいだけだから…っ！」と彼女の実体験が話される。
なんと『5巻』で私が最大の不満として挙げていた 気持ちが揃わないままの性行為にも意味があったのだ。
可威との初めての時、柚留は 可威の中のHONEYの意味を理解しないまま身体を重ねてしまい虚しさを覚えた という。
それにしても少女漫画の初体験が「虚しい」だなんて斬新な設定だ。
あの時の経験が柚留の後悔になったとしても、やっぱり初体験は気持ちを通わせてからにして欲しかった。
あの中途半端な場面で その時を迎えたのは大失敗だという気持ちは変わらない。
そして茅架の愚行によって、いつの間にか柚留が良い人になっていく。
友達として茅架を止めたいというなんて、なんと清らかな心だろうか。
そのヒロインの美しい心が冬唯の心を動かす。
可威も壊れゆく理性の中でも頭を働かせて、冬唯からパスワードを聞き出すことに成功する。
にしても媚薬を使い、妊娠を望むような展開の結末が、パスワードの入手って…。
ここでの可威のヒーロー的行動の目的も、
親の住所を知って、資金援助を頼むという情けない目的だし。
ただでさえ性犯罪をしている上に、作品内で金銭の問題を題材にしてしまって、
もう可威を根本的に格好良くすることは不可能なのではないか。
こうして茅架は作品にとって用済みとなり、物語の外、アメリカへと左遷される。
一応、医学の勉強のための留学という理由はある。
可威のそばにいると色々な意味で心臓が痛むから、早めに行動したのだろう。
茅架も もっともらしい理由を周囲には告げているが、
その直前まで妊娠して明るい家族計画を立てていたんだから滑稽である。
上記の通り、女性の扱いが酷い。
そうしてポイ捨てされる茅架への作者からのせめてもの償いが、冬唯なのだろう。
可威の家から茅架の家の執事へと転職して、茅架に同行する。
作者側からは、茅架に男をあてがうから、無礼をお許しください、といったところか。
あとパスワードって、可威の父親が設定したんじゃなくて、冬唯の設定なの⁉
そんな話も1回も出てなかったと思うんだけど…。
この後の全体の まとめ方も雑すぎる。
少女漫画では愛の結晶であるアクセサリも、柚留はもう必要ないと固執しない。
自分の身を危険に晒してまで奪還しようとしていたのは何だったのか。
2人に新しい絆が生まれた、という理由は分かるが、柚留の手元に戻らない結末はどうかと思う。
あの指輪も思い出の品なのだから、もっと丁寧に扱って欲しかった。
そして千駿も あっさり手を引く。
可威がバイトするような身分じゃ無くなれば、それでいいという。
性犯罪の動機が自己中心的すぎて理解不能です。
柚留も千駿が黒くなければ普通に会話してるし、全員 頭がおかしい。
でも この話によって、可威にとってHONEYとは
好きな女性を親に養ってもらう制度であることが決定づけられてしまった。
可威はバイトをしなくなったかもしれないが、結局 金持ちのボンボンに堕とされたままなのだ…。
大きな話が終わって日常回。
ここでは可威の誕生回で、柚留はプレゼントに悩むという話。
日常回なので、千駿とも自然に話をしていて、性暴力の被害者のトラウマは全く無い。
図太いと言うか、ご都合主義と言うか、リアリティの欠片もありません。
プレゼントのためにバイトをしようとするも、毎日 可威とイチャイチャしてしまう バカ女・柚留。
柚留が成長しないのは、彼女に性的快楽を可威が与え続けてしまうからではないだろうか。
誕生日資金がない柚留に千駿が手を貸す。
柚留は千駿が持ちかけたバイトの話に乗っかるが、何と警戒心のない女だろうか。
千駿はバイト代をネタに再び柚留を思うがままに操る。
可威の一番 近くにいる柚留は、千駿にとって永遠に許せない存在なのだ。
このところ ずっと暗躍する千駿だから、彼が出てこない話が読みたいよ…。
でも作者としては そんな話を描きたくないんだろう。
ピンチに駆け付けるのはヒーロー。
何度目かに千駿は可威に殴られて、話は終わる。
短編、長編の違いはあれど同じ人物による同じ話ばかり。
当日は誕生日なのは可威のはずなのに、柚留は新しい指輪をもらう。
今度は露店での品ではなく、ちゃんとした物。
だけど、あんまりデザインが好きじゃないなぁ…。
それに気持ちとしては露店の品の方がこもっていて 特別だった。
とことん作者が何を考えているのか分からない。
人が発想できないような過激で特殊な物語を描くのは作者の強みだと思うが、
その内、読者と価値観のズレが顕著になっていくのではないか。
そこが心配。
