《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

母親の愛情の欠落は彼の性格を歪ませ、作者という生みの親の偏愛は物語を歪ませる。

悪魔で候 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
高梨 みつば(たかなし みつば)
悪魔で候(あくまでそうろう)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

リカからの異常な敵意と策略にはまり、想いがすれ違ってしまった茅乃と猛。猛への強い想い故に歪むリカの愛情…。しかし、そんなリカにまっすぐな恋心を抱く陽平は、リカの願いを叶えてあげると茅乃の下へ向かい…!

簡潔完結感想文

  • これまで均衡を保っていた幼なじみの男女3人が仲違い。じゃあ破壊神はヒロイン!?
  • 自分に悪意を持った相手も許すことでシン・ヒロインになり、両想いルート突入。
  • 満たされたら そこで連載終了ですよ、という修羅の世界なので、不幸を捏造する。

幸はヒロインを輝かせるアクセサリー、の 文庫版2巻。

やはり作品全体が「私(作者)の考えた最強のヒーロー」のためにあるというのも紛れもない事実だろう。強いカリスマ性を発揮しながらも不器用で繊細、そんな猛(たける)を読者または作者の代理人であるヒロインが抱きしめ癒やしてあげるというのが本書の基本構造だ。そして作者の偏愛を受けているから猛は絶対に間違えない。恋のライバルとなる同性たちも彼に魅了され、彼を評価する神輿をライバルたちも担ぎ出して お祭り騒ぎとなる。

母親の愛を受けなかったから性格的に歪んでしまっている、というのが猛が「悪魔」になった要因であるが、本書においては作者という もう一人の生みの親による過剰な愛情が猛を、というよりも この世界全体を歪めているように思う。猛の強さや格好良さを際立たせるために この世界がある。そういう偏重が作品内にあるから、彼の信奉者にはなれない私は冷ややかに作品を眺めてしまう。

ヒロインは聖女であり、ヒーローは聖人。そういう世界。そこに世界最強の愛がある。

た両想いになって、新しい家族として始動する準備が整った10話で終わっても全く問題ない作品だと思う。明らかに11話からは後付けの話になっており、基本的に それまでと同じようにヒロインに迷惑系キャラを ぶつけることで話を展開させていくだけ。

恋愛そのもの というよりも、彼らを取り巻く環境が描かれているだけで私が読みたい少女漫画の内容とは乖離している。恋をする喜びよりも、この恋愛をしたことで振り回される状況に力点が置かれている。

それは義理の姉弟という機能しているんだか していなんだか微妙な設定によって、両想いになってもヒロインの茅乃(かやの)は無理をしなきゃいけない という部分に表れている。それに加えて新しいキャラによって不幸が作品を覆っていく。両想いになっても幸福な時間が短いのは古めの少女漫画に多い特徴ではないか。ヒロインに没入できている読者はよいが、それ以外の人からすると不幸の連続で読んでいて疲れる。2020年前後から溺愛系が流行したのは、甘々であれば途中で離脱する読者が少ないからなのだろうか。そういう両極端じゃなく、せめて両想い後は もう少し幸福な気分を味わいたかった。

そして本書における不幸は、キャラを輝かせるためにしか使われていないのも気になる。茅乃は窮地になればなるほど力を発揮するし、1対1の戦いにおいて無敗を誇る。その彼女の真価を発揮させるために不幸はある。

茅乃は悲劇のヒロインである自分に陶酔しているし、猛は他者の事情に巻き込まれる無辜の人間として聖人扱いされる。平和に生きたい彼らなのに、実際に起こるのは それと真逆の事件。作者的に猛という特別な人に普通の日常を送って欲しくない、送る姿が想像できないから このような内容になるのだろうか。この辺が2000年前後の作品だが、その10年前の作品のように思える箇所である。具体的には上田美和さん『Oh!myダーリン』を連想して、その力量でグイグイと読ませるけれども よくよく考えてみると他者に巻き込まれているだけ というツッコミを入れたくなる感じだ。殺人事件に遭遇し過ぎる少年探偵と同様だろうか。どうにもカップルの当事者の物語ではないのだ。


の幼なじみのリカの奸計にハマり、彼との距離が出来てしまったと感じる茅乃(半分は自業自得)。その どん底を上条(かみじょう)が慰めるが、これは飽くまで友達として。上条もまた猛の良さに気づいており、元・好きな人が現・好きな人を称賛することで、作品内の格付けを確定させる。冷めた視点で本書を読むと、こういう描写ばかりで辟易とする。

一方で猛はリカの気持ちには応える気はなく、茅乃だけが特別だった。その事実を突きつけられたリカは猛が母親の幻想を追っていると精神分析する。序盤から猛の性格の歪みは母親との別離、愛情の欠乏が原因だと断定されている。俺様ヒーローとは ほぼほぼ一種のマザコンであると言って間違いはないだろう。
この一言でリカは猛の逆鱗に触れる。彼女の精神的動揺を知った、もう一人の幼なじみ・陽平(ようへい)はリカのために行動しようとする。この世界には狂信者しかいないのか。


人 曰く「逆境をプラスに できるコ」らしい茅乃は改めて猛と向き合おうとするが、猛は茅乃と上条の接触を見ており不機嫌で話を聞いてくれない。その上、茅乃の前に陽平が立ちはだかり、暴力を振ろうとする。彼の暗い決意を感じていたリカは土壇場で猛に泣きつき、陽平を止めてくれと懇願する。

茅乃は、陽平の様子を見て「臆病」で「器用に人を愛せない」ことを見抜き、ヒロインモードを発動し、聖女として説教をした後、どんな暴力も受け入れる覚悟を持つ。そんなヒロイン様を猛が助ける。
今度は陽平の怒りはリカの気持ちを受け入れない猛に向かい、これまで陽平が抱え込んでいた猛への鬱屈が爆発してしまう。親友だった2人が傷つけあう現実に聖女は戦き、喧嘩する猫に水を撒くように、ペットボトルの水を彼らにかけて、憎しみが残る争いを止める(まさに聖女)。

こうして猛は我に返り、陽平との友情が破綻する前に彼の蛮行を許し、猛のカリスマ性が発揮される。猛は11月に水をかけられたことを茅乃に怒りながら、彼女の仲裁がなければ陽平との友情が終わっていたことに感謝する。茅乃がヒロイン様を爆発させるのなら、猛は俺様ヒーローの裏側に隠された誰よりも不器用で繊細な素顔を覗かせる。やっぱり一度 気になると、ヒーローのセンシティブ演出に鼻白んでしまう。ハイハイ、貴方の考えた最強のヒーローは素敵ですよ、と作者に言いたくなる。

この一件で猛は茅乃の自分への気持ちを気づいたようで余裕を取り戻し、彼女から告白を引き出す。茅乃も初めて人に告白する勇気を持ち、彼らは不器用に想いを重ねる。もう ここで最終回でいいんじゃないか。

そしてリカは自分に対して陰口ではなくストレートに物を言う茅乃を認める。そして それを認めると自分の醜悪さに気づかされるから、自己防衛で茅乃への悪意がエスカレートしてしまった。その強さに猛は惹かれるのだと、第三者から彼らの愛が補強される。


書はヒロインである茅乃が振り回され続けていれば話が続く手法なので、猛と両想いと思いきや、冷たくされることで話が続く。
また恋愛の勝者と敗者がハッキリしたことで、これまでのことを水に流す回でもある。髪を切ったリカは茅乃を呼び出し、喫茶店で2人きりで話をする。リカは まだ猛を好きだと言いながら、自分のために涙を流す茅乃を認めていることを不器用に伝える。陽平も2日学校を休んだ後に猛と対面し、どうしても猛を嫌いになれないことを伝える。

水を掛けられたことで猛は高熱を出したという風邪回でもあって、仲直り後 陽平の前で猛は倒れ、その情報を聞いた茅乃が猛を看病する。弱っている時に出るのが本音で、茅乃は猛から必要とされていることを実感して安心し、2人は両想い後 初のキスを交わす。


乃は義理の弟となる猛との恋心に対し罪悪感を持っているものの、同居も再婚もしていないのだから それほど問題にはならないだろう。
「普通の男女交際」がしたいのならば まず親に事情を説明すればいいのに、と思うが、それをしないまま障害が多い恋愛として扱われる。

普通のデートは出来ないが互いの親の同伴で家族で遊園地に行くことは出来る。けれど猛は協力的でなく、単独行動を取る。それが猛の幼少期の愛情の欠乏に原因があると理事長から聞かされて気づいた茅乃は彼を探し出し、強引に引っ張りこんで、遅まきながらの父子の時間を作らせる。さすがヒロイン様である。でも結局、母親の愛情を求めるのだから息子とは困ったものである。

そして猛は、普通の男女交際など目先の自分の利益を追う茅乃に対して、もっと根源的な幸せがあることを教えて器の違いを見せつける。こうして2人、いや4人が家族となる前準備が整えられる。


うして両想い後の人間関係が整理されて、新章開幕。茅乃が振り回されるのは幸福を邪魔するものがいればいい。

新章に必要なのは新キャラ。それも猛とは方向性の違う美少年キャラが登場すれば、娯楽に飢えた少女漫画読者は喜ぶ。いきなり茅乃に告白してきた彼は1年3組の「ゆずりん」。彼の告白を お断りした茅乃は、好きな人を義理の弟の猛ではなく架空の人物に設定する。それでも ゆず は諦めず、茅乃に執着する。

天使・上条、悪魔・猛に続いて、中世的な魅力の ゆず の接近。逆ハーレム物語なのか!?

その茅乃は、猛に一番 近い存在として義姉の立場を利用され、彼へのラブレターを多く預かる。自分の彼女という地位を守るためにも それを返却する茅乃に女子生徒たちは不満を述べ、彼女でもないくせにと八つ当たりをする。その精神的窮地を守ってくれるのは猛なのだが、茅乃は自分の立場を公表できないことに思い悩む。たった1話前で好きな人がそばにいる幸せを教えられたのに強欲な女だ。

そんな茅乃の心の隙を狙うように ゆず が登場し、どうしてか事情を知っている彼から誰も幸せになれない恋愛をしていると言われ、2人の恋愛で猛の将来に傷がつくと言われたことが棘となって深く心に刺さる。


みや迷いを持ったまま茅乃は猛の祖母に、親同士の再婚の挨拶に行くことになる。厳しく、そして自分の意思がハッキリしている祖母が猛の将来像を描くことで、茅乃は苦しくなり、場を中座する。自分の事情より親や この場のために我慢が出来ないことが茅乃の精神的な弱さだ。悲劇のヒロインも いい加減にして欲しい。その身勝手な振る舞いをした不安定な心も猛の大きな愛に包まれて安定するのだが、その場面を ゆず が目撃しており、後々の火種となる。

ある日、猛の名前を使って呼び出された茅乃は ゆず に祖母宅から出た後に義理の姉弟で抱擁している場面を撮られて脅迫材料に使われる。冷静に考えると2000年前後のカメラで夜に写真撮影をして、フラッシュの光もなく鮮明に写るとは思えない。大体、2人の顔は隠れていて脅迫する材料としては弱すぎる。

1対1の対決には滅法強い茅乃は脅迫されながらも ゆず を拒絶し続ける。こうして敵対関係が明確になったことで、今度は猛が不幸になるという。そして実際、猛は盗難騒ぎに巻き込まれてしまい、その背景には ゆず がいることが茅乃にだけは見えた。だが その ゆず は実在しておらず…。
話の流れは面白いが、結局リカが ゆず になっただけで他者に巻き込まれているだけ。