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少女漫画と小説の感想ブログです

無自覚に男性たちに守ってもらうばかりの姫プレイを享受するヒロイン。最大の敵は同性⁉

蜜×蜜ドロップス(3) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
蜜×蜜ドロップス(みつ みつドロップス)
第03巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

柚留(ゆずる)を脅して可威(かい)から引き離そうとする千駿(ちはや)。まんまと暗証番号を手に入れて柚留の「HONEY」の証・ピアスを外すことに成功。このまま柚留は強制「DROP」!?事態を知った可威が「RIBORN」を使ってDROPを阻止しようと行動に出た!RIBORNとは!?そして柚留の運命は!?

簡潔完結感想文

  • MASTERは HONEYDROPから守るためRIBORNを発動するのがTOP PRIORITYである。
  • 勉強回に誕生回、どちらもヒロインは男の手を借りてばかり。結局、姫プレイ漫画。
  • 作者は意地が悪いからヒロインを有頂天にさせてから奈落に落とす。ライバル登場。

綺麗な者は男性に救われる、というルッキズムが爆発している 3巻。

本書を少女たちが読んで好ましく思う部分は2つある。

1つは白泉社漫画的な上流階級の学校制度。
庶民のヒロインが、特殊な学校の制度に振り回されながらも奮闘するという王道の楽しみ方。

また これに付随して乙女ゲーム的な逆ハーレム状態を楽しむこともできる。
現在、1クラス17人の中には女生徒も一定数いるのだが、本書の序盤ではその存在は ほぼ無視される。
クラス一のイケメン、成績優秀者、ムードメイカーなど様々なタイプの人に囲まれる学校生活を疑似体験できる。

もう1つが作者が得意としていて、本書の売りでもある過激な性描写だろう。

もしかしたら知識がないような年齢の子は、何が起きているのか分かってない人もいるだろう。
だが それでも これはイケないことをしているという警告音は頭になるだろう。
その背徳感や禁忌を覗き見る感覚が少女たちを本書に夢中にさせるのかもしれない。

でも だからこそ、性の知識・リテラシーが十分に育たないまま、
本書や前作のように、男性から一方的に性的行為を受ける内容を読んでしまうことが危険なのだ。

こういう内容を描くのなら、それに相応しい場がある。
以前も別の漫画の感想で書いたが、2000年代の少女漫画誌は、
男性向けを想定している雑誌の、少年誌と青年誌の両方の性格を取り込んでしまっているのが問題だ。


して最大の問題は、この どちらかを重視する者にとって、もう一方は邪魔な要素でしかないことである。

例えば私は前者を重視しているから、
性描写を全部抜いた状態の本書が読みたくて仕方ない。

ひょんなことから学校制度に巻き込まれ知り合った男女が、
惹かれ合いながらも、邪魔する者たちによって想いを告げられない、という内容の漫画なら是非 読みたい。

彼らを両想いから遠ざけるためのキャラ、そして特殊な学校制度ならば、
その成立までの道のりが困難であればあるほど作品は面白くなるのだから。


逆に 後者の性描写を楽しみにしている者にとっては本書は満足できないのではないか。
特に前作『レンアイ至上主義』のような内容や展開を期待していると、まとも過ぎて つまらないと思われる。
箍(たが)が外れて、どんどんクレイジーになっていった前作は間違いなく迷作だもの。

ネタとしても消費できず、かと言って本書の内容が好きでも そうとは胸を張って言えない性描写。
偶然の産物であった『レンアイ』に対して、
本書は狙ってヒットさせようとしたが中途半端な内容になってしまった。

様々なプロジェクトが動いているのを見る限り、
当時の読者がたくさん支持していたのだろうが、その人たちは どこを好きだと言っていたのだろうか。

そういえばプロジェクトの一環で本書はゲーム化もされていた。
もしかしたら性描写がほぼ ないであろうゲーム(乙女ゲーム仕様?)が私が望む理想形なのかもしれない。

本当に、性描写さえなければなぁ、と溜息をつくばかりである。

公共の場所で、常識よりも性欲に支配されるのが水波作品のヒーロー。どこを好きになれと??

き続き、千駿(ちはや)によるヒロイン・柚留(ゆずる)の「強制DROP」編。

暗証番号が分かってしまい、HONEYのピアスを外されてしまった柚留
この時の柚留の胸に去来するのは、可威(かい)のこと。
好きって言えないまま、もう二度と会えない身分さが出来てしまうことを憂慮する。

ここで学費の心配が浮かばないのが柚留の心の変化ですね。
もしくは恋愛脳で 男のことしか考えられなくなっているのか。

そして千駿に猶予をもらう時にも、結果的に男性にねだるしかない、のが柚留の残念なところ。
可威にHONEYに選ばれたのも、気に入られたのも、
結局、柚留は その外見(と淫乱さ)で得をしている、ということがメインに描かれているだけ。
男にすがって生きる、という前時代的な行動しか柚留はしていない。

そして男に操られるままに生きるから、
千駿に装着してもらった可威のピアスが、千駿のHONEYのピアスとなっていることに遅れて気づく。
やはり常に男に隷属的に生きるのが、柚留の生き方なのだ。


留のピンチを予感する可威が発動させようとしている「RIBORN(リボン)」とは、
九華科の「HONEY」9人のうち 半数以上のピアスが24時間以内に外されれば
非常事態ってことで 全ピアスがリセットされる。
そして その間の「DROP」は すべて無効。
暗証番号は「RIBORN」、再設定される、というもの。

完全な説明台詞によって「RIBORN」の全容が明かされる。

この制度が作られた原因は可威にあった。
初等部5年生の時にの頃に可威が、ムシャクシャしていたから片っ端から無理矢理 ピアスを奪ったため、制度が出来た。
この頃から変わらない可威のジャイアン体質に納得してしまう。

可威はこの制度を利用して、千駿による柚留の強制DROPを無効にしようとする。

この24時間以内という発動期限は誰が監視しているのか疑問です。
九華科(くげか)という道楽息子・娘たちの集まりに多大な労力が浪費されている。
この生意気なクソガキたちに付き合わされる大人は大変だ。

この制度の発動は高慢な可威が柚留を守るためにした、最初の努力として描かれる。


の騒動の結末は、千駿の自爆という面も大きい。

千駿は「RIBORN」制度を知らなかったため、
柚留が身に着けていた可威のピアスを理事に送ってDROPを狙っていた。
だが、それが可威が回収したピアスの1つになり、
しかも柚留に黙って装着した千駿のピアスも合わせて、可威はピアスを過半数を入手し「RIBORN」が成立する。

こうして可威が一枚上手となって騒動は終結する。
千駿は改めて可威の有能さを知り、彼に改めて心酔し、初めて友達になろうと面と向かって言えた。
彼には可威と正々堂々と知恵比べをして負けを認めた、という爽快感があるのかもしれない。

そして これは柚留の可威への告白よりも先に千駿が告白した形とも言えよう。
千駿もドキドキして この日を迎えたのかもしれない。

…が、可威は激昂。
「てめぇの自己満足のせいで つけられた傷跡を俺は一生 許さねぇ!!」

えっと、性暴力の加害者の自分を棚に上げて言いますか…???

こうして騒動中に空回りばかりする柚留とは反対に、男性たちが奮闘し、彼女の身分は守られた。
ここでも性暴力は忘却され、可威が自分を手放さなかったという美談だけが柚留の中に残る。
恋愛脳には男性が自分に興味を失わないか、が心配事の全てなのである。

自分が性玩具として扱われる現状は変わらないのに、
いつの間にかピアスは柚留の中で足枷から絆へと変化していく。
どんなマイナス要素があっても結果的に美談にしていく問題のすり替えが酷い。

結局、良い様に「調教」されているのだが、柚留はそこに幸福を見出してしまうのだ。

可威もまた、柚留が寝ている間だけ、柚留への愛おしい本音を言う。
面倒臭いカップルですね。
そして こんな可威の姿にキュンとしてしまう読者もいることが恐ろしい。


動の決着として、理事長から「RIBORN」発動の厳格化案が発表され、
今後はHONEYDROPは そうそう起きないことになった。

主人に顔向けできないような行為をした絃青(げんじょう)の禊ぎも終わり、全ては元通り。

この場面、千駿も絃青の現職復帰に助け舟を出している。
彼は本当に可威の友達を傷つけるつもりはなく、全ては可威を思っての行動であった。
それが妄執となってしまったのは問題だが、千駿が可威の熱心な信奉者であることは可威にも伝わったのではないか。


きな話の後の日常回となるのが、テスト勉強回。
HONEYの仕事も出来なければ、勉学も怠っている顔だけヒロイン・柚留。

可威は勉強を見てあげる振りをして、千駿がいる教室内でセクハラをする。
本当に水波作品の男性は、50歳の中年男性のような思考回路だ。

これは可威なりの威嚇行為であるのだろう。
恋愛戦線に参加しそうな千駿の精神を徹底的に破壊するために、最も見聞きしたくない場面を見せる。
性格のねじ曲がった 破廉恥な人間です。

一方、千駿は どこまで本気か分からない。
柚留に惚れそうだけれど、もっと大好きな可威に嫌われるようなことをしたくない、といったジレンマがあるのか。
口だけは可威のライバルキャラとして振る舞って、話す口実を作っている気がする。


勉強回の次は誕生回。
柚留の誕生日のために、男性たちが奉仕するという夢みたいな一日が始まる…。

クラスメイトが考えたアトラクションも まともにクリアできない柚留は、千駿をはじめとした男性たちの手を借りる。
こうやって姫のために男性たちが手を貸す「姫プレイ」状態が続くから、いつまで経っても柚留が成長しないのだ。

読者も こんなに容姿だけで もてはやされるヒロインを見続けて楽しいのだろうか。
男女ともども、美しくなければ人権がないような世界なのに。


うして作中の姫として柚留を君臨させてから、地に落とすのが、
自称・可威の許嫁(いいなずけ)の司竜 茅架(しりゅう かやか)の存在。

茅架は、可威や那由太(なゆた)たちの幼なじみという時系列的には古参キャラでありながら、
心臓病の手術を受けるために海外に渡航しており、その手術が無地に終わったことで参戦する新規キャラでもある。

余談だが、私が持っている初版では、
147ページの「俺と那由・紘(げん)の幼なじみで…」という台詞に誤植がある。
「紘」ではなくて、正しくは「絃」であろう。

茅架は「華」の名前が名字にないから「九華科」に入れなかった令嬢。
九華科という名前に縛られて、生徒の質を問わないから このクラスは堕落するのではないだろうか…。

というか、この時点で 茅架は作品にとってイレギュラー・ゲストキャラが決定している。
女性のライバルを登場させて、柚留を苦しめる展開が待っていながらも、
茅架は作品世界にそぐわない存在として用意されていて、柚留の姫ポジションは奪われないと予言されているようなものだ。

作者の性格からして女性が守られるだけの作品って嫌いそうで、
こうやって作品世界でヒロインだけが唯一性を持っているという作風がマッチしていないように思う。

名前に華はなく 心臓に病気を抱える。作品的には柚留より よっぽど虐げられている茅架。性格も一変し…。

架の、可威のことを自分よりもずっと知っている、しかも許嫁という立場を知り柚留は動揺する。
しかも自分は片想い状態で、可威との間に何の約束もないのだ。

茅架は親同士が決めた「許嫁」という関係ではなく、本当に可威のことを想っていた。
そして茅架も可威と柚留の間に単なるMASTERとHONEYという関係上のものを感じ取る。

ビリヤード対決を前に、皆の前で「お仕置き」を予告し、
練習と称して身体を密着させる2人の姿を見て、茅架の胸は痛む。
この時に、柚留も「お仕置き」を期待して、発情しているのが本書の気持ち悪いところ。
片想いの男、いや それ以前から可威には嫌悪感を一切 感じていない。

女性同士のマウント合戦が始まり、
茅架は可威と柚留の「お仕置き」を阻止すべく、柚留に接待プレイをする。
男女関係なく、お膳立てされた道を歩くだけの無能ヒロインなのでした…。

そして茅架の登場で、九華科に残る たった1つの空席が埋まる…。