《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

友情・努力・勝利、の努力の部分が抜けているから、結果だけ見せられても ポカーン。

GET LOVE!!(7) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
GET LOVE!! ~フィールドの王子さま~
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

新キャプテンになった相楽(さがら)。お祝いの宴会の翌日、相楽が目覚めると隣にハダカの美樹が!まさか酔った勢いで××しちゃった!?超男前な相楽のプロポーズにドキドキ。ラブ&感動いっぱいのクライマックス!●収録作品/「GETLOVE!!~フィ―ルドの王子さま」~/GAME.26~28番外編/「CHRISTMAS!!」/「VALENTINE!!」/「GETWEDDING!!」

簡潔完結感想文

  • エースの遅刻は相手校へのハンデ。小中学生向け漫画に敗北の2文字はない。
  • マドンナの美樹 動揺に、相楽も部員から愛されている。でも、これでいいの…?
  • 1年後、5年後、時間跳躍がいっぱい。経歴だけは華やかになっていくけど…。

放送が意図的なのか、アイデアの枯渇なのかで評価が違う 最終7巻。

本書は徹底的にヒロインの美樹(みき)が、サッカー部のマドンナとして、
イケメン部員から ちやほやされる物語であった。
それが読者の承認欲求を満たすシステムである。

そして最終巻で実はヒーローの相楽(さがら)も男マドンナだということが判明する(私がようやく理解した)。
部員たちは、彼らカップル2人の行動や決断に絶対に文句を言わない。

それが本書に良い雰囲気を醸し出しているのは分かるが、
最終巻の展開は、疑問を持たざるを得ない。

相楽の行動は確かに格好良い。
彼が迷いなく告げる自分の中の結論は、美樹にとって この上なく嬉しいものだろう。

だが その際の相楽の独断や暴走の何もかもを部員たちが許す雰囲気は違和感が残る。
個人競技でなら責任の取り方があるのは分かるが、
チーム競技であるサッカーで、こんなことをしたら他の部員たちの将来や夢を潰すことになるだろう。

これまではバカップルの行動も生温かく見れていたが、
カップルが絶対に否定されない、異論を一切許さない雰囲気は気持ち悪く感じた。

作者の中で、相楽には まだ1年あって、2年生時にこういう結末を迎えても、
まだ作者が描く幸せなゴールには差し支えないという相楽中心主義があるような気がしてならない。

また、この相楽の行動や話の結末が『2巻』の1話目と同じなのも気になるところ。
私は作者を信頼しているので(短期)連載の始まった話と、
ラストの展開をダブらせるという手法を採ったとは思うが、
同じことを全然 意味合いの違う試合(練習試合と地区大会決勝)でやってしまうのは短慮ではないか。
しかも乱闘シーンは『2巻』の時の方が勢いがあったのも残念だった。


た本編最終回の展開も、作者の構成に疑問を感じた。
本書は決してスポーツ漫画ではないのに、スポーツ漫画のテンプレ展開を強引にやろうとする力技だけが目立った。

ご自身で仰っている通り、作者は少年漫画のヒーロー(と作風)が好きなのだろう。
そんな少年漫画のテンプレ展開を、最終回では駆け足でやっているから説得力に欠ける。

この『7巻』では相楽が2年生と3年生の時の2つの大会が描かれている。
ネタバレになるが作者としては3年生のラストチャンスで相楽とチームが栄光を掴む、
という少年誌風の大団円がやりたかったのだろう。

だが、スポーツ漫画に特化している訳ではない本書では その過程がまるでない。
特に相楽が3年生の新チームは その布陣や戦力、チームが強くなる描写がないままで、
「1年後」というモノローグだけで「全国大会」の決勝戦まで進んでしまっている。

愛読者には見逃せない場面ばかりが続く「1年後」。作者は相楽がゴールすれば それでいいのだろう。

2年生の時に地区大会で優勝しているから、重複を避けるためにも、
3年生はその先の全国大会を描く、という考え方なのかもしれないが、
レギュラーメンバーが変わった1年後に、何の苦労も描かれずに決勝戦までスキップし、
そこで優勝しました、と言われても何の感動もない。

これまで愛読してきた少年漫画の展開を少女漫画に上手く融合させている部分の方が多かったが、
ラストの展開は、その融合が裏目に出たような気がしてならない。

これなら2年生時の地区大会優勝から駒を進めて、全国大会でも優勝する方が何倍も良かった。
せっかくレギュラーメンバーをたくさん出してきたのに、
優勝を誰がいるのか分からない顔ぶれで叶えてしまうのは落胆しかない。

確かに主人公が最終学年の3年生で優勝するのは少年漫画ではよくあるが、
それなら1年間 チームの結束力が増すエピソードを用意しなければならない。

作者の望むゴールのために、ドタバタと駆け足で駆け抜けた印象ばかりが残る。
描きたいことを描けて作者は本望だろうが、自己満足という言葉が脳裏を横切ってしまった…。


2年生の地区大会決勝戦当日、子どもを助けるために身を挺した相楽は気を失う。
目覚めたのは病院だが、テレビ中継で試合が始まっている。
会場に急ぐ相楽を意外な人が手助けするのだが…。
ここも相楽は男も惚れる男という場面だろう。

ここ、意外な人すぎて誰だか判別がつかなかったので 何の感慨も湧かなかった。
再読している今回は、あぁ前半で出てきた あの人かと分かるが、
似たようなキャラばかりの本書では、ポカンとするばかりの再登場だった。


会場に現れない相楽を、前半終了時に美樹が探しに出てしまうが、
ハーフタイムこそマネージャーの仕事がいっぱいあるのでは、と思ってしまう。
少女漫画とはいえ、こういう責任放棄の身勝手な行動が好きになれない。


場に到着した相楽は後半から出場。
相楽が遅刻するのは名門校・城南(じょうなん)へのハンデでしょうね。
最強の相楽ー穂高ラインが完成してしまった この学校に隙はない。
その証拠に後半開始15秒で得点している。

焦りから城南は汚い手段に出る。
作者お得意の悪役のラフプレー。
穂高の古傷 右脚を狙うが、それを相楽が身を挺して守る。
今日の相楽は満身創痍である。
誰が本物のヒーローであるかを再確認して、試合は終了する。

この場面、縁起でもないことを言えば、精密な検査をしなかった相楽が、
試合後に頭痛に悩まされ、そのまま…という展開も可能だっただろう。
読者から非難轟々だろうけど。


かし城南の生徒たちは負けた腹いせに美樹を拉致監禁してしまう。
集団で美樹を囲い、彼女に乱暴を働こうとする。
本書の2作後の『うわさの翠くん!!』でも競技場ではハレンチな行為が続出したが、それは第1長編からの慣例らしい。
こういう描写がサッカー競技の誇りを汚すということになると思うのだが…。

この拉致は勿論、ピンチの演出。
サッカーの活躍ではない、彼女を助けに来るヒーローの活躍を描きたいのだろう。

だが相楽が先に相手校選手に暴力を振るったため、
それを城南は、全国大会への道が閉ざされる脅迫材料にする。

しかし相楽はその言動に反抗しない。
それで美樹を守れないのなら、進んで権利を放棄するという。
相楽はサッカーが大好きだが、美樹以上に大切なものはない。

やがて双方の部員が入り交じっての大乱闘となり、この件は警察沙汰になってしまう。
だが どこまでも優しいチームメイトは相楽の全ての行動を許す。

この騒動は、結果的にサッカー部に停部が下されることになった。
それにより決まっていたはずの全国大会にも出場できなかったようだ。

ここまでの騒動が、上記の通り、相楽中心主義に思えて疑問に思う部分。
全体主義というか批判は一切ないこと自体が気持ち悪い。

良い話すぎて得体のしれない気持ち悪さが生まれてしまった。行きたかったな、このチームで全国大会…。

かし暴力事件で停部となっても、飲酒は止めない部員たち。
ここも大いに疑問。
作者の、高校生たちの飲酒に対する変な こだわりはなんなんでしょうね。
酒で動かした話が結構あるから、純情な2人を動かす便利な道具なのでしょうね。
でも暴力事件の後でも飲酒するのは反省がないという感じを受ける。

相楽の飲酒シーンは初めてでしょうか。
頭からビールを被った相楽は、おもむろに服を脱ぎ、美樹を抱きしめて離さない。

目が覚めた時は「朝チュン」状態で、昨夜の記憶が全くない。
酔って一線を越えてしまったと思った相楽は、美樹の家に赴き、
「守山(もりやま・美樹の名字)をオレにくださいっ」と彼女の家族に結婚の許可を求めていった。

この騒動はサッカー部の伝説級の笑い話となるが、相楽の気持ちは本気であった。
酔って美樹を傷物にしたことで、彼は自分の人生を美樹に捧げる覚悟が生まれた。
暴力事件といい、極端だが、相楽の結論は明快で良いですね。

そして時間跳躍で1年後、3年生となった相楽は全国大会決勝を迎えていた。
この時は相楽の2歳年下の弟・ヒカリが入部している。
そして相楽はこの1年で背が伸びて美樹よりも大きくなっていることにも注目。

3年生の描写はちょっと駆け足だが、その辺のフォローは番外編でされている。

「CHRISTMAS!!」…
美樹とのクリスマスのためにケーキ屋でバイトしていた相楽。
そこで美樹もバイトを始めると…。
美樹がマドンナだってだけの話です。
見ようによっては部員から巻き上げた金で、2人だけのクリスマスを楽しんでいるようにも見える。

「VALENTINE!!」…
バレンタインに部員たちにチョコを渡す美樹はセクハラを受ける、という話?

「GET WEDDING!!」…
相楽が美樹よりも背が大きくなった高校3年生以降のお話。
ここは読者が読みたかった部分であり、痒い所に手が届いている。

メインは3年生での3回目最後の文化祭の話である。
美樹と相楽が出場するカップル選手権の模様を描く。
いつぞやの体育祭の競技と同じように相楽は出たがらないが(『2巻』)、
サッカー部員の誘導にまんまと引っ掛かり出場することになった。

だが美樹は優勝を意気込むばかりで空回りして、競技で散々 失敗してしまう。
背が伸びるに比例して、学校でも有数の有名人となった相楽の彼女として恥ずかしく思う。

そんな彼女をフォローする相楽の言動は3年間の集大成といった感じ。
背が小さくても大きくても、相楽の精神的な格好良さは変わらない。

そして文化祭での擬似結婚式から5年後、2人は本当に結婚式を挙げる。
夫婦となって、同姓になったため相楽は美樹を名前で呼ぶ。
恥ずかしくて名前を呼べなかった相楽が、いよいよ美樹の名前を呼ぶ場面をここで持ってくるとは。
じっくり練っただけあって、とても良いシーンである。

大人になった相楽は、いつぞやの美樹の夢(『3巻』短期連載最終回)
までは大きくないが美樹より身長が高い(高校3年生バージョンと変わらない?)。

男性の方が背が小さい少女漫画でも最後は逆転するのは よくある話。
特に小中学生向けの作品ではヒーローの最後の覚醒や時間経過の表現として描かれることが多い。
以前 読んだ同じ掲載誌「少女コミックSho-Comi」の とある作品もラストでグッと背が伸びていたなぁ。

5年後の相楽は「穂高とコンビでJリーグのスター選手」。
美樹の究極の青田買いに成功した、といったところか。
彼女自身は看護師になり、一男一女に恵まれる1コマで物語は終わる。
もしや数度にわたるナースのコスプレもこのための伏線だったのか⁉
まぁ 美樹はずっと聖母として描かれているので看護師も納得の進路かな。

2人の間に生まれた息子は2作後の長編『うわさの翠くん!!』で登場する。
読者サービスのようなキャラなので そこまで目立った活躍はなかったような(記憶にない)。