《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

キャラたちは何かと賭け事を提案し、作品は内輪のカップリングに命を懸ける。

S・A(スペシャル・エー) 7 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第07巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

体育祭も後半に突入し、SA残留のため絶対に負けられない光。そんな光に彗が取った行動は…? その後寝込んだ光のお見舞いに行った彗と明だが、甘えん坊光の登場に彗が大暴走!! そしてついにSA初のカップルが誕生——!?

簡潔完結感想文

  • 公開告白しても本人が気を失っていれば、なかったことになるリセット機能。
  • SA初カップル誕生。後半の話もカップルへの布石か。内輪感 半端ないって。
  • 作者が描く光と、私の中の光が一致しない場面が多い。顔も安定感が無さすぎ。

ロインの顔の作画の不安定さと、各キャラの性格の不安定さが気になる 7巻。

『7巻』は らしくない行動ばかりが目についた。
私が本書に対して批判的な目でばかり見ているからなのだろうが、
どうしてもキャラの行動一つ取っても納得できない場面が出てくる。

それを一番 強く思ったのは、
今回のラストの主人公・光(ひかり)が お嬢様だと勘違いして その虚像に憧れる他校の女子生徒に思い出を作る話。

その女子生徒・みちり は「親の都合で今週末 海外に転校する」という最初から排除が決まっている女性。
光の「夢を壊さず思い出 作ってやりたい」というのはもっともな意見だが、精神年齢6歳児の彼女にしては常識的すぎる。

f:id:best_lilium222:20220327210737p:plainf:id:best_lilium222:20220327210734p:plain
なぜ光が真実を話せないか、という理由がまるでない。キャラ設定も脚本も頼りない。

そして嘘のない人間関係をモットーにしている光が こんな虚飾を許すとは私には思えない。
いつもの光なら「すまん みちり、本当は私は大工の家で育って…」と言いそうなのに、最後まで種明かしがない。

光がフェアに戦い続ける姿に読者は憧れている訳で、
こんな風に嘘を通してまで その人の幻想を守る姿は見たくなかった。

本書では、こういう作者の中のキャラの線引きが明確ではない点が散見するのが気になる。

そして この回における みちり の本当の役割が、光が嫉妬を覚える対象なのも気になる。
要するに お嬢様設定などSAを全員登場させる方便でしかないし、
週末にはいなくなるゲストキャラで後腐れのない嫉妬を引き出せれば それで良かったのだ。

光に嘘をつかせて、次のデートを決めるためだけに みちり が必要だっただけなのだ。

光が滝島(たきしま)への気持ちを自覚して初めて登場する滝島を見初める女性キャラが みちりだ。
だが彼女が長期的なライバルにならないように、最初から追放宣言をしておく。
こうすれば光が みちり に遠慮などしないでデートの約束が出来る。

「好きになった方が負け」という訳の分からない土俵で勝負している2人を、
どうにか動かすための外圧なのだろうが、
それを成立させるために光の性格まで捻じ曲げていることが気になる。

作者は次の話に繋げる手法ばかりが上達しているなぁ…。


して もう一つ不自然な行動が目立ったのが、芽(めぐみ)の個人回。

明(あきら)と宙(ただし)が付き合っていることを公表し、
長年、明に想いを寄せていた八尋(やひろ)の横槍を懸念した芽が動く。
これは芽とSAの絆の証明で、芽が滝島のようなヒーロー的先回りをしている回となる。

が、その行動原理や内容の意味が不明。
芽は自分が八尋の彼女になれば、八尋に攻撃理由が無くなり、明の平穏を保てると考えた。

そうして八尋に形ばかりの告白したが、今日のデートを楽しいといえばOKと、またもやゲーム形式の提案をされる。
勝負をしないと生きていけないのか、この人たちとこの作品は…。

この辺、滝島と八尋は本当に似てますね。
人に勝つことで優越感を覚えるのか、それとも何でも出来てしまう自分の人生をスリリングにしているのか。

だが、芽と明の間に深い友情のエピソードは一つもない。
冒頭の「私は この7人が とても好き」という言葉だけでは根拠薄弱である。

そして八尋とも一番、接点がないだろう芽で話を進める強引さが否めない。
作者なりにカップリングを考えた結果なのだろうが、
こうするなら布石の一つや二つ作っておいて欲しいけど。

f:id:best_lilium222:20220327210821p:plainf:id:best_lilium222:20220327210818p:plain
見ようによっては、失恋が確定したキャラに 新しい「つがい」をあてがっているように見えてしまうが…。

芽の心配をよそに八尋は自分の中で消化していた。
というか彼は優しいから、自分にとって どんな辛い現実であっても明本人を悲しませたりしないだろう。
芽は八尋をよく知らないからこそ、いらぬ心配でお節介を焼いたと言える。

本来なら、こういう他人の心配やお節介はヒロインの専売特許だが、
後々の接点のために、芽という一番動かなそうな人を動かしたのだろう。
違和感ばかりが残る。


頭は『6巻』から続く体育祭。

光は滝島に勝てなければSA陥落。

しかし作品は光が滝島に勝つことはさせない。
なぜなら勝った瞬間に、光の生きる目標が失われるから。

光の人生の良きライバルで、その背中を追っていたはずの滝島が、
実は自分のことを常に気にかけていてくれるというのが、本書のミソだろう。

ということで光は絶対に滝島に勝てない。
けれどSA陥落も阻止したい作品がひねり出した苦肉の策が 滝島の試合放棄。
これも本来の光なら怒髪天を衝くほど怒るところだが、恋の病に侵されている光は反論の手段を失う。

見所は何といってもラストの滝島の告白だろう。
でも、光はその前に気を失っていて その言葉は耳に届いていないというオチ。
こうして何としても恋愛の進行を遅らせるのが中盤の命題なのだろう。

光の大嫌いな滝島からの救済も、作品の都合で光を倒れさせることで有耶無耶にしている。
今回は告白という豪勢なオマケをつけて、読者にも不満を持たれないようにしているのが巧妙というか狡猾ですね。

そして光はスポーツ行事に関することで いつも倒れているなぁ。


島に抱えられて知恵熱を出した光。
知恵熱を出したからお姫さま抱っこをされるんじゃなくて、
お姫さま抱っこをされたから知恵熱が出たという順序が面白い。

熱を出した光は本当に6歳児のように人に甘えることが判明。
そんな6歳児に対して邪な気持ちが湧き上がらないように葛藤する滝島の姿で1話 作られる。


この回のラストで、光を抱えて彼女の家を出て安息の地を求めた滝島が戻って来たのが謎すぎる。
てっきり滝島の家に連れて行くとばかり思っていたら、巡り巡って桜(さくら)の家に連れていかれた光。

恋愛が上手くいかない女性たちによって、謎の合コンパーティーが開催される。
この回の話の流れがよく分からない。
自暴自棄になって出会いを求めたが、結局 好きな人は1人だけということなのだろうか。

そして ここから話は唐突に明の話へとシフトする。
明に関しては、これまでにフラグは立ってたけど、話の流れが謎すぎる。

キスや告白を劇的にしないのは、作者の照れや慎みがあるからなのだろうか。


他1話は、光が滝島の名前を下の名前で呼べない問題。
光の葛藤を滝島は見抜いている、といういつものパターン。

こういう態度を見ても滝島は勝機があると踏んでもおかしくないのだが、
滝島は滝島で自分のことになると鈍感なんだろうか。
お互い自分が好かれているとは思わないから、相手からの告白を待つのか。

光様(滝島様)は告らせたい!!